ブランドの変遷を左右してきた4つのドライバー(3)学ぶ場の価値の創造

コロナ禍で進んだオンライン化。
だからこそ改めて期待される集う場としての価値の創造

 「キャンパスがきれい」「自宅から通える」「交通の便がよい」「勉強するのに良い環境である」「学修設備や環境が整っている」等、学ぶ場に関する項目は多く、重視する高校生も多いが、下の図に示している通り、大学のキャンパスについては、時代によってその価値が大きく変化してきている。1960年代の高度成長期には工場等制限法によって、大都市部におけるキャンパス設置や学部増が禁止され、郊外キャンパスが増加した。2002年には小泉改革の一環として、工場等制限法が廃止され、その後、キャンパスの都市部回帰が積極的に進められるようになった。2015年には小誌195号で「都市部を目指すキャンパス」という特集を組んだ。この特集で、都市部と周辺部の収容定員の変化を算出したところ、関東・東海・関西いずれの地域においても、キャンパス再配置によって都市部の収容定員が増加したことが明らかになった。一方、キャンパス移転によって高校生の支持が高まると、志願倍率が高まるが、その効果は一時的であり、キャンパス移転のみでは高校生の支持を集め続けることは難しいことも明らかになっている。

 2010年代になると、アクティブ・ラーニングが積極的に導入され、主体的・能動的な学びの実現を考慮したキャンパス設計が進められている。ラーニング・コモンズやグローバル・コモンズのような、学生が集い、学び、発表し、交流する新たな場作りに注目が集まるようになった。毎年弊社が実施していたトレンド発表会では、2015年、進学領域のトレンドを「LIVEラリー」とし、図書館が主体的・能動的な学びの場に変化していることを社会に発信した。


図 年代ごとの学ぶ場の価値の変遷


高校での「主体的・対話的な学び」が接続されるキャンパスに

 そして、2020年には新型コロナウイルス感染拡大という、これまでに経験したことのない事態に直面することになる。まさに“三密”を回避するために、通学が禁止され、正課外活動も制限されるようになる。授業は試行錯誤を経ながら、強制的にデジタル化、オンライン化が進められた。コロナ禍3年目となった現在では、ストリーム配信型、オンデマンド型、ハイフレックス型とオンライン授業も多様化し、その功罪も整理され、知見も蓄積されてきた。学生支援システムもデジタル化が進み、LMS等によるサポートも定着しつつある。学生にとってみれば、オンライン上で授業に出席でき、レポート提出や教職員からのフィードバックもできるという点では利便性が高まったといえる。

 では、キャンパスはいらなくなってしまったのだろうか。それは否であろう。2022年の学校選択重視項目では、「キャンパスがきれい」の順位がアップした。これは、単にきれいなキャンパスを求めているということだけではなく、オンラインが浸透し、その価値を実感しているからこそ、敢えてリアルに集まる学びの場としての新たな価値を学生達が渇望しているという表れだと考えられる。2010年代に進められた主体的・能動的な学びは、高校の新学習指導要領では「探究」という自ら問いを見つけ、解決しようとする授業として推進されている。2025年にはその世代が大学に入学してくる。彼らが大学入学後にがっかりしない教育をすることが重要だ。さらに、これからはメタバースの時代が到来するともいわれている。そうした時代だからこそ、デジタル化・オンライン化をうまく活用しながら、10代後半から20代前半という多感な時期を過ごすキャンパスという場の価値をどう作っていくのか。どの大学においても、新たなチャレンジとなるだろう。


図 コロナ禍における大学の授業や研究活動、課外活動における学生の考え方




(文/小林 浩)





神奈川大学
明確なコンセプトに基づき設計された新キャンパスが女子志願者増の要因に

神奈川大学 国際日本学部教授入試センター所長 駒走氏、事務局次長 福元氏

2021年、みなとみらいキャンパス開設

 神奈川大学は2021年4月、横浜市のみなとみらい地区に地上21階、地下1階の都市型キャンパス「みなとみらいキャンパス」を開設した。ビジネス、商業、観光の中心地であるみなとみらいの特性を活かし、「この街すべてがキャンパスだ」を標榜するこの新拠点は学生募集にどのような影響をもたらしたのだろうか。

 同大学が長年課題としていたのは女子学生の獲得。事務局次長の福元摩湖氏は同大学の取り組みをこう振り返る。「かつては、本学はどちらかというと男子が進学する大学というイメージがありました。そこで、女子が学びたい内容の学部・学科を作ろうということで、2006年に人間科学部を開設。さらに外国語学部に国際文化交流学科(2020年から国際日本学部)を開設しました。その後も継続的に女子学生比率を高めるための施策を進めています。みなとみらいキャンパス開設もその一環です」

 その結果、女子学生の比率は年々着実に増加(図)。2013年度と2022年度を比較すると、女子学生比率は27.0%から32.0%へと5ポイント上昇した。入試センター所長の駒走昭二教授はその要因を以下の4つに整理する。

  • 建築学部の開設(2022年4月、学科から学部に昇格)
  • 人間科学部で国家資格・公認心理師対応カリキュラムがスタート(2020年度)
  • 地元高校生へのアピール
  • みなとみらいキャンパスの開設(2021年4月開設)
「建築は一般的に男性的なイメージがありますが、暮らしに関わる分野ですから、当然ながら女性の視点も求められます。学部化したことで、学びの多様性を女子にも訴求しやすくなったと思います。また、公認心理師も女性に人気の高い資格。さらに、一般的に女子生徒のほうが地元志向が強いこともあり、地元高校生へのアピールも女子の志願者増につながっています。加えて、新キャンパスですね。女子生徒は、やはり『きれいなキャンパスで学びたい』『おしゃれな街で学生生活を送りたい』という志向が強い。2020年度の志願者増には、翌年の新キャンパス開設が大きく影響したと分析しています」


図 神奈川大学の志願者数と女子志願者割合の推移(2013~2022年度)


多様な人が交流する「知の拠点」を目指す

 みなとみらいキャンパスには、経営学部、外国語学部、国際日本学部というグローバル系の3学部が置かれている。2020年に新設した国際日本学部の検討とあわせて、「グローバル教育にふさわしいキャンパスを」という狙いでみなとみらいというエリアを選択したと福元氏。近隣にはグローバルに事業を展開する企業に加えてJICA横浜、横浜美術館、横浜能楽堂等、国際活動や国内外の文化・芸術に触れることができる施設が多数あり、学外でも体験的な学びを広げていける環境が整っている。授業でも学生を近隣施設に引率し、見学すること等が行われているという。

 また、同キャンパスは、「未来『創造・交流』キャンパス」として、あらゆる「人」が集い、「知」が交流する、グローバル、ダイバーシティを象徴する拠点となることを目指し、ハード、ソフト両面で多様な工夫が凝らされている。

人の交流を促進するオープンな空間設計

 1~3階は「ソーシャルコモンズ」として一般の人々にも開放(取材時はコロナ禍のため一時的に1階のみの開放に限定)。このエリアに企業・自治体との連携の窓口となる社会連携センター、外国人教員と学生が英語で会話できるグローバルラウンジ、「観光をフィールドとする教育と研究の体現の場」である観光ラウンジ等を設置。

 4階より上層の階でも、学生と教員、学生同士の交流が活性化されるようオープンな空間設計がされている。「1学部が3フロアを使っているのですが、この3フロアは吹き抜けの階段空間でつながっています。このスペースにオープンな環境で発表や授業ができるプレゼンフィールドを設置。通りがかった学生が発表や授業を覗いていくことも少なくありません」(駒走氏)

 また、各階にラーニングコモンズを設置。さらに2~3階の図書館以外にも各階に書架を設け、1階には経営学部の学生等が3Dプリンタを使ってプロトタイプ作りに取り組めるファブラボも設けられている等、学生が自主的かつ自由に学べる環境が整備されている。

 このように明確なコンセプトに基づき、ハードとソフトが噛み合った空間設計は、在学生の学びへのモチベーションを高めると同時に、高校生への訴求につながった。

 現在も学生はこの環境をうまく活用しているというが、「外国人観光客や外国人留学生が増え、ソーシャルコモンズも一般に全面開放されるコロナ禍明けこそ、みなとみらいキャンパスの本領が発揮されると考えています」と駒走、福元両氏は今後を展望する。


画像 神奈川大学 プレゼンフィールド
吹き抜けの階段空間に設けられたプレゼンフィールド。
授業や発表に参加していない教員・学生も気軽にその様子を見ることができる



(文/伊藤敬太郎)


【印刷用記事】
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ブランドの変遷を左右してきた4つのドライバー(3)学ぶ場の価値の創造 CASE 神奈川大学