地域連携で発展する大学[5]入試改革、探究学習、キャリア教育… 京都の産官学が一体となって高大連携を実現/公益財団法人 大学コンソーシアム京都 高大連携推進室

 “大学のまち・学生のまち”京都。この京都の大学の連携を推進してきた「大学コンソーシアム京都」は1994年に「京都・大学センター」から発足。日本の大学間連携コンソーシアムのパイオニア的存在であり、産官学連携でも多くの取り組みを実践している。その中のひとつが「京都高大連携研究協議会」だ。

大学コンソーシアム京都 高大連携推進室 室長 長谷川氏

 1990年代は、高等学校の教育内容の多様化が進む一方、学力や学習意欲の低下、多彩な入試制度による多様な入学者への対応等、高大を取り巻く環境が大きく厳しく変化してきた。こういった状況下において、生徒・学生一人ひとりの力を育むために高校と大学の連携を推進する機関として、2003年度に高大連携の組織である「京都高大連携研究協議会」を立ち上げた。大学コンソーシアム京都も一構成員の立場で参加し、京都府・京都市の教育委員会や京都府私立中学高等学校連合会も参加し、京都のほぼ全ての大学・高校の教育関係組織を巻き込むその取り組みは全国に先駆けた大規模なものである。

 「これまで個別の大学と高校が点と点で連携する事例はありましたが、京都高大連携研究協議会は京都ならではの面と面の連携を通じて、人材育成を図っていきたい。産官と高校・大学を巻き込み、学校間競争や個別の利害関係を乗り越えた取り組みを目指しています」(京都高大連携研究協議会運営委員・大学コンソーシアム京都高大連携推進室長 長谷川 豊氏)

高大連携を面で支える3つの取り組み

 長谷川氏が室長を務める「高大連携推進室」は、京都高大連携研究協議会の方針を具体的に実現する役割を担う。

 京都高大連携研究協議会では20年前の発足から2010年代半ばまでは、主に

  • 大学生を高校に派遣する試行から展開した高大の教員によって開発された教育プログラム(実践研究共同教育プログラム)
  • 大学の模擬授業や個別相談等、高校生が大学を知り、興味ある学問を発見するイベント(京都の大学「学び」フォーラム)
の2つの活動が行われていた。

 その後、民間ベースでも大学の模擬授業が盛んに行われ充実してきた。こういった変化を受けて2010年代半ばから方針を変更し、現在は高大連携推進室が中心となって以下の3つの取り組みを推進している。

  • 高大連携教育フォーラム
    全国の高校・大学教職員が対象
  • 高大社連携フューチャーセッション
    京都の高校生・大学生が対象
  • 京都高校教員交流会
    京都の高校教員が対象。今後は大学教職員も参加予定

高大連携の多様なテーマを深掘り
高大連携教育フォーラム

 京都高大連携研究協議会の発足以来続いてきた年1回のイベントで、今年20周年を迎える。当初より、京都の高大連携の実践事例や接続教育をもとに、高校・大学教職員が交流・意見交換できる場として、現在でも会場参加型のフォーラムとして開催されている。

 「フォーラムでは高大接続改革、新しい入試のあり方(大学入学共通テストの導入等大学入試の動向)、高校の総合的な探究の時間(探究学習)といった、大きなテーマを設定し、議論する場としています。テーマに対しひとつの答えを提示するのではなく、学校で実際にどのように取り組んでいくのかを考えていきます。参加者との交流の中で答えを探るきっかけを見つけ、さらに自己研鑽の場となることを目的としています」

 このフォーラムの参加者は京都府内にとどまらず、全国の高校・大学教職員も集まるほどの注目を集めている。


京都高大連携研究協議会の体制


高校生と大学生が作る
高大社連携フューチャーセッション

 高大社連携フューチャーセッションは2016年度から開始。当初は高大連携フューチャーセッションという名称だったが、2018年度から「高校から大学、大学から社会へ」というつながりを意識した「高大社連携フューチャーセッション」となっている。

 「2009年に高校でキャリア教育が盛り込まれたことを受けて作られたのがこのセッションです。高校、大学を通じて、将来どのような社会的自立を目指すかを、高校生・大学生が世代・学校間を超えた対話・交流を通して、社会と結び付けていく取り組みです。高校生・大学生が、社会人と交流する中で、自身の将来を考えるきっかけの場となっています」

 発足当時は社会人や社会との接点となるセッションプログラムに高校生と大学生が参加する、という形だったが、2020年度から、高校生と大学生が企画段階から参画できるよう実行委員会を立ち上げ、半年かけて企画・運営する形へと発展した。

 「高校生、大学生が当事者として主体的な関わりを持ってもらうため、テーマや講師の選定まで半年かけて企画していきます」

 そこには高校生・大学生の連携を意識し続けてきた背景がある。

 「フューチャーセッションの企画に関わった高校生は進路選択や学び方に大きな変化が見られたと学校でも評価されています。主体性・企画力、実行力、責任感、タイムマネジメント力が養われ、社会的課題をより深く考えるようになっているという効果も現れています。大学生の中には、コンソーシアムの取り組みである京都学生祭典、京都学生広報部というほかの事業にも参加する中で、高校生と同様の力を見取ることができ、様々な企画が相乗的に効果を出すという一面も。生徒・学生が参加できる場を作り、活躍する場を提供することが必要であり、そういった場があれば生徒・学生はしっかりと力をつけていく。実績もできているので、今後も継続していきたいと考えています」

 実行委員会に参加した生徒・学生の中には「社会人になっても関わり続けたい」という声も。

 「今後は高校生が大学生、大学生が社会人になっても関わり続けていくという新しい形もできるかもしれません」

府立、市立、私立を越えた情報交換を目指す京都高校教員交流会

 京都高校教員交流会は、2018年度から始まった取り組みで、高校教員が参加し、京都府内にとどまらず学校や設置者の別を超えて意見交換ができる場となっている。

 「この交流会は学校の枠を越えた先生の交流の場。他校の取り組みや工夫、悩みを気軽に情報交換できる機会となっています」

 今年度はテーマとして総合的な探究の時間の授業の実践が焦点になっている。

 「探究の授業に取り組まれる高校の先生方は、ほかの先生になかなか理解されないという悩みを持っています。校内で孤軍奮闘し、全校的な取り組みになりにくいという悩みもあるようです。探究学習への取り組み方によって学校は変わる。そのためにはまず先生自身が自分の今までの教育観や授業観を変えて、生徒主体の教育に変えていく必要があります。昨年のフォーラム、交流会でも事例報告がありました。そういった情報の中で啓発され、自分の学び、考え直しの機会になっていくことが必要だと考えています」

 2020年からのパンデミック下で交流会もオンラインとなっていたが、対面での実施の要望は大きい。

 「府立、市立、私立の高校の先生が一度に交流できる機会のニーズは確実にあります。ほかの高校の取り組みを知りたいということです。そのネットワークはもっと広げていき、面と面の変化の広がりに期待したい」

 今後この交流会には大学教職員の参加も促し、「京都高校・大学教職員交流会」に名称変更する予定だ。

大学と高校教員が連携できる組織を目指す

 こういった3つの取り組みをはじめ、教育委員会、産業界も巻き込み、大学コンソーシアム京都とともに意見交換を促進することで、大学からの視点だけではなく様々な観点を持ちながら高大連携の議論を進める。これが京都高大連携研究協議会の大きな特徴だ。

 「文部科学省の政策的な動向も見据えながら、京都ならではの高大連携をどのように実現するか。そのために京都のそれぞれの組織が持っている強みを生かし、枠を越えたつながりを推進していきたい」

 組織そのものもより良い形を目指して進化し続ける。

 「高大連携推進室は大学教員で構成されているため、高校のニーズを受け止めるためのすり合わせの場が必要です。推進室に高校の先生の参加も促したいのですが、今、教員の働き方改革や業務量の問題もあり、難しいのが現実です。教育委員会や私立中学高等学校連合会事務局を含めた拡大推進室会議は実施していますが、20周年を機に京都高大連携研究協議会内での連携がより緊密となるよう再構築していこうと考えています」

教育委員会、産業界との連携は
事務局間の丁寧なやりとりの積み重ね

 20年という歴史を持つ京都高大連携研究協議会。確かな実績を積み上げてきた組織はどのようにできたのか。長谷川氏は「最初から全てうまくいっているわけではありません」と語る。

 「教育委員会もコンソーシアム側も担当者が変わると状況の捉え方が違ってきますので、何ごとも問題なく引き継がれてスムーズに運ぶというわけではありません。それがうまくいっているのは、高大連携の事業についての理解や、年度ごとの事業の進め方について、丁寧なやりとりを積み重ねてきていることに尽きると思います。そういう意味では各事務局が汗をかいて努力をしている部分が大きいですね。大学側のコンソーシアムと高校側の教育委員会等が1回の会議で決定に至らず、継続的な議論が必要になることもままありますが、事務局間で細かなすり合わせを重ねています。表には出ない部分も含めて丁寧なやりとりで信頼関係を作りあげていくことが様々な施策の実現につながっていくのだと思います」


京都高大連携研究協議会の3つのイベント




(文/木原昌子)


【印刷用記事】
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