高校生への調査から見えてきた、今後の進路選択

「自分のやりたいこと」起点の進路決定が主流に
学びの内容を重視して選択できるよう早期からの情報発信を


リクルート進学総研 研究員 池内摩耶



 本調査の対象となる高校生は、2003~2004年生まれ。好景気を知らず、リーマン・ショックや東日本大震災、そしてコロナウイルス大流行と社会環境の変化を目の当たりにしてきた世代だ。まさしくVUCAの時代を生きている。コロナ禍前ではあるが、彼らが高1の時に実施した「高校生価値意識調査2019」では、偏差値一辺倒ではなく“自分のやりたい”を大切にして進学先を見極める進路選択意向が見られていた(小誌221号)。このような価値観を持った彼ら彼女らがコロナ禍においてどのような気持ちで進路検討し、行動したのかを改めて考察してみたい。

【Point1】年内入試、特に「総合型選抜」での入学者が増加

 今回の調査では、年内入試と年明け入試での入学者はほぼ同率となり、特に「総合型選抜」が増加した。この傾向は進学校・多様校問わず見られた。これは複数の要因が影響していると考えられる。まずは、18歳人口減少を見据えて大学側が入学者を早期から確保しようとする動きだ。2021年には私立大学でも46.4%が定員割れ、定員充足率は99.8%で初めて100%を切り、定員充足が難化していることの影響は大きい(日本私立学校振興・共済事業団調べ)。次に、国立大学の年内入試の入学定員増加だ。国立大学協会は多様な入学者を受け入れる方針の下、総合型選抜や学校推薦型選抜等の年内入試の入学定員を30%まで拡大する目標を掲げており、2021年度は19%であった (文部科学省調べ)。国立大学での年内入試の実施大学・入学定員増加は、進学校中心に「総合型選抜」受験を検討する高校生増加に繋がり、今後もこの流れは続くだろう。最後に、高校の変化だ。探究学習が推進され、特色あるカリキュラムで“自分のやりたい”をサポートする高校や、学校内外問わず主体性や個性を生かせる場が増えている。このような経験を生かせる入試として「総合型選抜」が注目されているようだ。実際、本特集内でインタビューした総合型選抜で入学した学生からは「自ら取り組んだことをアピールできる総合型選抜はまるで就活のようだったが、この大学で自分のやりたいことが学べるのか熟慮したので入学後も非常に満足している」という声が聞かれた。年内入試での入学者うち、第1 志望の学校に入学した比率が87%という高さからも、年内入試で進学する高校生はより「自分のやりたいこと」や「学校の理念への共感」を基に進学先を見極める傾向が見られる。また「アドミッション・ポリシー(AP)」の認知と活用を問うたところ、年内入試での入学者の76%が個別大学のAPについて調べ、そのうち90%が役立ったと回答し、年明け入試での入学者と比べるとそれぞれ10% 以上も高かった。

 年内入試志望者がさらに増加すると予想されるなか、今後は多くの大学が年内入試をオプションとして位置付けるのではなく、むしろ総合型選抜・学校推薦型選抜を重要視し、「量」の確保でなく、「多様な人材」の確保の場としていくのではないだろうか。この動きに伴い、年内入試ならではの評価方法についての見直しは加速していくだろう。今年度からは新課程が始まり高校教育はますます探究的な学びにシフトしていく。新課程に対応した2025年度入試が徐々に公表されているが、多様な人材の確保に向けて入試を通した社会へのメッセージに注目したい。

【Point2】志望校絞り込み「早期化」進路検討期間は「長期化」

 学校を探し始めた時期を経年で見ると、高1・高2で増加、高3で減少しており、進路検討開始時期は早期化していることが分かる。年内入試での入学者が増えており、受験時期が早まっているため、全体的に志望校を絞り込む動きも早まっている。では、志望校はいつ絞り込んでいるのだろうか。進学先校のオープンキャンパス(OC)参加時の志望度は第1志望だったという回答が60% と「進学センサス」の調査開始以来最も高い数値となっており、志望度が既に高い状態でOC参加する割合が増加している。OC参加や情報収集が十分にできない環境下においても、進学先校のOC参加率は過去最高に高く、第1志望校への進学率も7割と増加していることから、進路選択への不満が増大している様子は窺えない。むしろ、OCは「志願することを確認する場」になっているのではないだろうか。コロナの落ち着きとともにOC参加校数が高校での進路指導方針も受けてどのように変化するのかは注視しつつも、OCは「検討する場」から「志願を確認する場」になってきている兆しを踏まえてコンテンツ設計を見直す必要がありそうだ。

 年内入試での入学者は増加しているが、実際に受験する方式の検討状況を見てみると、2022年3月時点の高校2年生で28%と約3人に1人が年内入試と年明け入試両方の受験を検討しており、徐々に増加してきている。進路検討開始時期は早まり、志望校絞り込みは早期化していることに加え、年内入試と年明け入試の併願増加の兆しから進路検討期間は「長期化」していく可能性がある。

 高校では普通科改革も受け、学力別コースや教科コース、留学コースといった特色あるコース設置をする高校が増えてくると予想される。今後、高校入学前の段階で中長期的な視点で高校卒業後の自分のキャリアを考える機会が増えることで、進路については受験直前の偏差値で決めるのではなく、“自分のやりたい” を軸に長い目で進路選択について考えることで、より高校生の進学先を見極める目は厳しくなっていくだろう。


 コロナ禍での進路選択に不安を抱きつつも、第1志望校への進学を目指す高校生の姿は逞しい。「教育方針やカリキュラムが魅力的であること」等、学びの内容を重視して進学先を検討したいというポイントが軒並み増加している調査結果からも、高等教育機関においては3つのポリシーを明確にし、低学年からタイムリーで丁寧な情報提供(特に新課程に対応した入試内容は注目度も高い)が求められている。


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