BRANDをつくる 10代に向けたブランディングについて企業に聞く/ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

「友人との絆を深める場」という価値を明確化
中長期的視点でUSJ ファンを増やす施策を打った

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

コロナ禍で自らの提供価値を再確認

 日本を代表するテーマパークの「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(以下「USJ」)。若者からも人気のスポットだが、ここ数年は中高生の来場者数が減少傾向だったと、同社マーケティング本部で10代向け施策を担当する「TEENチーム」の佐藤里南氏は語る。

 「ネットの普及で友人とリアルな場で遊ぶ機会が減ったことや、USJの情報発信の内容や方法が若い世代にとって『自分ごと』になっていなかったことが、中高生来場客の減少をもたらしていました。そうした事情で若い世代向けの施策が求められていたところに、新型コロナウィルスの感染拡大が起きたのです」

 2020年2月、USJは緊急事態宣言を受けて営業休止期間に入った。マーケティング本部ではその間、USJの存在意義や、自らが社会に提供できる価値を再確認するための会議を何度も行ったという。そこで導かれたのが、「USJは友人との絆を深める場」という結論だ。

 「若い世代の幸せとは何か。そして、それを実現するために何ができるのかを徹底的に議論しました。そして、オンライン授業が増える一方、学校行事が軒並み中止となり、思い出を作れないまま卒業し友達と別れることになる中高生に対し、『一生モノの思い出を作れる場』という役割を果たそうと決めたのです」

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ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
マーケティング本部 TEENチーム
佐藤里南氏


情報発信の手法を変えて来場者増を実現

 「友人との絆を深める場」という価値を伝えるため、USJでは情報発信のやり方を大きく変えた。

 「大人はテーマパークを、乗り物に乗って楽しむ場だと考えがちです。しかし中高生は、何でもない芝生の上で『映(ば)える写真』を撮る等、お仕着せではない楽しみ方を各自で見つけています。彼らが重視しているのは、『自分なりの楽しみ方』が味わえるかどうかなのです。そこでCMを作る際にも、新アトラクション等に焦点を当てるより、中高生が自然に楽しむ場面を多く取り込むよう心がけました。また、TikTokやTwitter等SNSでの出稿も増やしています」

 こうした取り組みにより、「中高生が数あるプレイスポットのなかで、USJを選ぶ率」は大きく伸びたそうだ。また、2021年と2022年の春には、学生応援キャンペーンの「ユニ春(ユニバル)」を開催。その一環として企画された学生限定価格の「ユニバーサル年間パス」は、予想を大きく上回る販売数に達したという。

 「年間パスの売れ行きにも驚きましたが、それよりうれしかったのが、『ユニ春』の認知度が高くなっていることでした。SNSには『ユニバろうよ』『今ユニバっているところ』等のメッセージがたくさん書き込まれていて、取り組みが浸透してきたと実感しています。

 春、友達と年間パスを買えば、今後1年間の一緒に遊ぶ理由と絆が途切れない確証を得られ、USJで遊ぶことでさらに絆を深めることができます。実際、来場者のなかには定期的にUSJを訪れ、同じ場所で同じポーズをとって写真を撮る人も少なくありません。年間パスの売れ行きは、『友人との絆を深める場』という私たちの価値を証明するデータになっているのです」


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写真や動画を撮影する等、若い来場者はめいめいのやり方でUSJを楽しんでいる。
最近、SNSで投稿することを考慮した「顔を隠すポーズ」が流行しているため、
左の写真では、顔の前でハートを作るポーズで撮影している。
このスポットは映える上に自由度が高いため、何の変哲もない芝生はUSJ 内で人気の撮影スポットである。
画一的なやり方を押しつけるのではなく、高校生の自然な発想に委ねることが、ブランド確立には重要なのかもしれない


高校生ファンの増加が中長期の来場者増につながる

 USJにおける中高生の来場者は、ファミリー層や働き盛りの女性層ほど多くはない。しかしUSJでは、中高生を非常に重視している。

 「学生時代にUSJを好きになった人達は、学校を卒業後、長きにわたって来園が期待できます。また、彼らは学生ならではの視点で新たな遊び方を教えてくれる、貴重な存在でもありますね。特に頼もしいのはSNS上での拡散力です。若い世代が発信した楽しみ方が口コミで広がり、USJの人気向上に寄与するケースは、今後さらに増えるだろうと考えています」

 高校生の市場には、流行の移り変わりが激しく従来のセオリーがすぐ通用しなくなる等、特有の難しさもあると佐藤氏。そこでTEENチームの担当者は、10代の市場分析と、リアルな最新情報をキャッチする努力を重ねている。

 今後は、「USJは友人との絆を深められる場」という訴求をさらに続けるだけでなく、来場しなくてもUSJを身近に感じられるような施策も考えている。

 「若い世代のなかでのマインドシェア、即ち、消費者の心のなかでUSJがどのくらいの割合を占めているかという観点が大事だと思っています。短期的な来場者を増やすだけでなく、『友達と一生モノの絆を作れる場』と認識して頂ける人を全国的に増やしたい。そうすれば、中長期的な来場者数も増えるはずです」

 コロナ禍で「リアルな場」としての存在意義が揺らぐなか、10代の人々のインサイトをつかみ、自らの提供価値を明確にし、いち早く具現化したUSJ。そのブランディングがもたらす示唆は大きいのではないか。


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USJは大阪公立大学と共同で、通年講座「ユー・エス・ジェイ式 観光マーケティング学」を開講中。
観光業の担い手を育てるため、現役のマーケティング担当者が実践的なノウハウを教えるもので、
広く注目を集めている試みだ



(文/白谷輝英)


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