志願度ランキング(関東/東海/関西)

【関東編】総合大学でも女子の支持が重要に

関東全体
11位~に新たな顔ぶれ

図表 志願度ランキング関東全体


 調査開始時の2008年と15年後の直近2022年の上位20位以内の志願度ランキングから、その変化を考察する。まず、関東を見てみたい。上位10位程度までは、大きな変化はなく、ある意味安定したブランドを築いていると言えるだろう。11位~20位を見ると、イエローの地色を敷いたが、新たな顔ぶれが入ってきている。

 2022年ランキング14位の神奈川大学は、2021年にみなとみらいキャンパスを開設して国際日本学部、外国語学部、経営学部を移転、2022年には建築学部を開設、2023年にも新たな学部の開設を予定している。16位の東京都立大学は、2008年当時は首都大学東京であったが、2020年に以前の名称に戻している。このことは高校生にも好意的に受け止められていると考えられる。17位北里大学、19位の帝京大学は、いずれも分野別「看護・医療・保健・衛生」の志願度ランキングで上位にランクインしている大学であるが、北里大学は女子と理系で、帝京大学は女子と文系でランクインしていることから、2つの大学は高校生から見ると異なる特徴を持った大学として受け止められていることが分かる。

 全体として、改革を進めている大学が新たにランクインするとともに、進学率が上昇している女子からの支持が、全体のランキングにも影響を与えていると考えられる。


関東男女別
女子の上位20位以内に女子大学が入らず

図表 志願度ランキング関東男女別


 男子は、2008年早稲田大学、2022年明治大学と上位2校が入れ替わっている。また、7位だった中央大学が3位にランクアップしている。これは、2019年に国際経営学部と国際情報学部を開設し、2023年に法学部を茗荷谷キャンパスに移転することが、特に男子の志願度に影響を与えているのではないかと考えられる。10~20位を見ると、名称変更した東京都立大学とともに、芝浦工業大学、東京電機大学が新たにランクインしている。この間、芝浦工業大学は2009年にデザイン工学部、2017年に建築学部を開設。東京電機大学は、2012年に東京千住キャンパスを開設している。昨今の工学系人気も後押しをしていると考えられる。

 女子は、トップが2008年立教大学から、2022年に早稲田大学となっている。早稲田大学が女子の志願度トップというのは、保護者世代からは想像しづらいのではないか。また、2008年にランクインしていた女子大学が、2022年には20位以内に入っていないことも一つの大きなトレンドと言えるのではないか。新たにランクインしたのは、2022年に観光まちづくり学部を開設した國學院大學。そして2012年に有明キャンパスを開設し、毎年のように学部・学科の改組を実施、2019年にデータサイエンス学部、2021年にはアントレプレナーシップ学部と新たな領域に積極的に取り組む武蔵野大学が入っている。


関東文理別
理系にも求められる新たなキャンパスの価値

図表 志願度ランキング関東文理別


 文理別のランキングは、2009年からスタートしたため、他のランキングとは1年異なる。まずは文系。2008年のトップ3は明治大学、早稲田大学、青山学院大学と続き、2022年は早稲田大学、青山学院大学、明治大学となっている。青山学院大学のランキング上昇は、文系学部を青山キャンパスに集約したことが無縁ではないだろう。中央大学は、前述の通り新学部設置や、法学部の都市部移転が志願度を高める要因となっているようだ。新たにランクインした國學院大學は、2009年にたまプラーザキャンパスの1~2年次課程を渋谷キャンパスに移行、2022年には観光まちづくり学部が人気を集めた。

 理系ではトップが東京理科大学から、明治大学に替わった。新たにランクインしたのは、東京北千住キャンパスを開設した東京電機大学。また、順天堂大学は、2019年に保険医療学部を開設、2022年には新キャンパスである浦安日の出キャンパスに医療科学部を設置、2023年にも健康データサイエンス学部(仮称:設置認可申請中)の開設を予定している。

 このように見てみると、学部の新設が志願度に影響を与えていることは明白である。加えて、従前より文系学部はキャンパス移転の効果が高いことが言われていたが、近年は理系においても単に交通の便が良いというだけではない、新たなキャンパスの価値が期待されているように思える。




【東海編】高まる地元志向 統合、名称変更の影響大

東海全体
統合や名称変更によって、ポジションが変化

図表 志願度ランキング東海全体


 東海エリア全体で見ると、若干の動きはあるもののトップを含めて上位の顔ぶれに大きな変動は見られない。2008年では、東海地区以外の大学で、関西の立命館大学、関東の早稲田大学がランクインしていたが、2022年では立命館大学のみとなり、ランキングも下がっていることから、地元志向が高まっていることが考えられる。

 新たなランクインの顔ぶれに静岡県の常葉大学が入っている。2013年に同一法人内の浜松大学、富士常葉大学、常葉学園大学を統合し、常葉大学として開設された。大学としての規模が大きくなり、学べる学問領域が整理されたことで、高校生からの認知が高まり、志願度が大幅に上昇した。同じくランクインした藤田医科大学は、2018年に藤田保健衛生大学から名称変更している。

 全体の志願度を2008年と比較すると、地元志向が高まる一方で、大学の統合や名称変更などの改革が、高校生の志願度を高める要因になっていると考えられる。

東海男女別
男子は理工系、女子は資格系がトレンド。関西の大学が躍進

図表 志願度ランキング東海男女別


 男子は、2008年と2022年で、上位3位までは全く変動がない。他エリアの大学を見ると、2008年では、関東の3大学に対して、関西は立命館大学1 校のみランクインとなっているが、2022年には逆に関東が早稲田大学のみとなり、関西の大学が4校とランクイン校が増えている。ただ、大学名を見ると立命館大学以外は、いずれも国立大学である。新たにランクインしたのは、2021年に白水校舎を滝春キャンパスに統合した大同大学。ランキングが上昇した大学、他エリアの大学、新たなランクイン大学の顔ぶれを見ると、東海エリアの男子では、明らかに理系志向が強まっていると言えるのではないだろうか。

 女子は、トップは南山大学で変わらずだが、2位は8位から上昇した名城大学である。ナゴヤドーム前キャンパスや外国語学部の開設が、女子の支持を集めていることは間違いない。他エリアの大学を見ると、東海全体ランキングと同様に女子でも関東の大学が入らず、立命館大学のみとなっている。新たなランクイン校は、藤田医科大学、常葉大学、岐阜聖徳学園大学と、医療や教員といった資格取得が仕事に直結する学部を持つ大学となった。

 男子は理工系、女子は資格系が東海エリアのトレンドとなっている。

東海文理別
文系・理系共に国公立大学が増加

図表 志願度ランキング東海文理別


 文系は2位までの順位は変わらないが、2022年の3位は7位からランクアップした名城大学となった。前述の通り、ナゴヤドーム前キャンパスや外国語学部の開設が、理系色の強かった同大学で文系・女子の支持を集める要因となっている。エリア外の大学を見ると、2009年には関東、関西いずれも2大学ずつであったが、2022年には関東は1大学となり、関西が2大学となっている。新たなランクイン校を見ると、統合した常葉大学のほか、静岡県立大学、岐阜聖徳学園大学、岐阜大学となっている。2009年に6校だった国公立大学が、8校に増えている。

 理系は、上位2位までは変わらず、名古屋工業大が3位にランクアップした。他エリアの大学を見ると、2009年は関東3大学、関西2 大学であったが、2022年には関東が姿を消し、関西が3大学、しかも全てが国立大学となった。新たなランクイン校は、大同大学、豊橋技術科学大学、愛知学院大学となり、その結果、理系では20校中12校が国公立大学となった。文系・理系共に、国公立大学の志願度が高まっていることが分かる。




【関西編】大規模公立大学の誕生と新設大学の学部増設の影響大

関西全体
学部新設に積極的な大学と新設大学の動きに特徴

図表 志願度ランキング東海全体


 関西全体の志願度では、1位、2位に変動はないが、3位に大阪市立大学と大阪府立大学が統合して2022年に開学した大阪公立大学が3位となった。大阪市立大学、大阪府立大学時代にも、それぞれ10位以内には入っていたが、統合して1学域11学部に、1学年定員も大阪大学、東京大学に次いで、国公立大学で3位の規模となることで存在感が増した。

 新たにランクインした大学の顔ぶれを見ると、学部新設を積極的に行っていることが特徴だ。摂南大学は2010年に経済学部、2012年看護学部、2020年農学部を開設、2023年にも現代社会学部(設置認可申請中)を開設予定だ。京都橘大学は2012年に健康科学部、2017年に国際英語学部、発達教育学部、2021年に工学部、経済学部を開設している。

 この間に新設された大学もランクインしている。大和大学は、2014年に教育学部と保健医療学部を擁して開学した新しい大学だが、2016年に政治経済学部、2020年に理工学部、2021年に社会学部を開設、2023年には情報学部(設置認可申請中)の開設を予定している。また、森ノ宮医療大学は2007年に開学し、保健医療学部1学部だったが、2022年に看護学部、総合リハビリテーション学部、医療技術学部の3学部に改組した。

 新設大学が、徐々に学部を充実させ志願する高校生を増やしているのが関西の特徴と言える。

関西男女別
男子は工学系、女子は看護・医療系の学部を持つ大学がUP

図表 志願度ランキング東海男女別


 男子は、トップが2008年の関西大学から近畿大学に入れ替わった。また、大阪市立大学と大阪府立大学が統合して開学した大阪公立大学が3位となった。新たにランクインした大学を見ると、大阪電気通信大学、京都工芸繊維大学と工学系の専門大学が入っている。

 大阪公立大学、摂南大学、和歌山大学と併せて、工学系の学部を持つ大学が新たにランクインしており、昨今の工学系人気が反映されているように感じられる。

 女子は、トップは関西大学で変わっていないが、近畿大学が順位を上げて2位となっている。2010年の総合社会学部で女子の獲得に向けた広報戦略を展開、国際学部の開設、キャンパス整備等により、男子だけでなく女子でも支持を集めるようになっている。新たにランクインした大学を見ると、大阪公立大学、京都橘大学、摂南大学、兵庫県立大学、大和大学と、全ての大学が看護・医療系の学部を持つという共通点がある。

 関西エリアの変化を一言で表すならば、男子では工学系、女子では看護・医療系の学部を持つ大学の人気が高まっていると言えるだろう。

関西文理別
文理とも、学部新設や統合・合併による規模拡大が要因に

図表 志願度ランキング東海文理別


 2009年と2022年を比較すると、文系のトップは関西大学で変わらないが、国際学部、情報学部を開設した近畿大学が3位から2位にランクアップしている。新たにランクインした大学では、京都橘大学が2021年に経済学部、経営学部を開設。追手門学院大学は、2015年には地域創造学部を開設すると、2019年には総持寺キャンパスを開設、2022年に文学部と国際学部を設置、2023年には法学部(設置認可申請中)を設置予定と、積極的な改革を推進している。大和大学も、前述の通り、2014年に開学すると2016年に政治経済学部、2021年に社会学部を設置している。滋賀大学は、2019年に日本初となるデータサイエンス学部を設置しているが、文理融合の学問領域として文 系からも支持を得ているのではないか。

 理系は、2009年には大阪府立大学、大阪市立大学として、それぞれ3位と5位となっていたが、2022年には大阪公立大学がトップとなった。本調査は、分野別ランキングを調べているが、工学系の全ての分野で大阪公立大学がトップとなっており、多くの学生の支持を集めていることが分かる。2022年では、大阪医科薬科大学がランクインしているが、2021年に大阪医科大学と大阪薬科大学が合併して誕生している。



15年を俯瞰してみると──
大学統合や合併、学部の新設・再編等新たなチャレンジが志願度向上のカギだった

 関東・東海・関西それぞれのエリアで、2008年と2022年の全体、男女別、文理別(文理別のみ2009年と比較)の志願度を比較してみると、エリアやセグメントごとに特徴が異なることが分かった。それは、それぞれのエリアの人口動態や産業構造等によって、マーケットの特徴が少しずつ異なるからである。

 特にそれは、新たに20位以内のランキングに入ってきた大学に表れている。関東では、全体として総合大学のランキングが上昇しており、女子大学が20 位以内に存在しなくなった。これは、総合大学が女子の獲得に力を入れているからであるが、東海・関西では女子大学が健闘していることから、今後女子大学にも取り組みの余地があるのではないか。

 東海では、国公立大学の志願度が高まるなか、関東の大学に比べて、関西の大学の存在感が増している。これは、人口減少率が全国平均を上回る関西の大学の危機感の表れとも見てとれる。

 関西では、2008年以降に開学した大学が、新学部を設置し、学問領域を拡大することによって、上位20位以内にランクインしている。これを見ると、18歳人口が減少するなかにおいても、新たな個性や価値を提供できる大学に対しては、高校生の期待が集まる余地があることを示している。

 また、東海、関西では、男子で工学系学部を持つ大学の人気が高まり、女子では看護・医療系の学部を持つ大学の人気が高まってるということも明らかになった。この状況が今後継続するかどうかは言い切ることが難しいが、一つの大きなトレンドと言ってよいだろう。

 最後に、一つだけ言えることは、志願度を高め、新たに20位以内にランクインした大学は、改革を積極的に行っているということである。大学の統合や合併、新たな学問領域に挑戦したり、商品ラインアップである学部を新設・改編しているのだ。社会環境が大きく変化しつつある状況を、ただ指をくわえて見ているだけでは、高校生の支持は得られない。人口減少は予想を超えて進んでいる。動かなければ地盤沈下は避けられない。マーケットを見据えた積極的なチャレンジが必要なのである。


(文/小林 浩)


【印刷用記事】
関東・東海・関西 志願度ランキング