DXによる新たな価値創出[4]MDASHリテラシー採択プログラム「データサイエンス副専攻」/創価大学
中長期計画に位置づけられた全学DS教育
創価大学(以下、創価)がMDASHの申請に至った背景には、創立50周年を迎えたことを契機に2021年に策定された「Soka University Grand Design 2021-2030」がある。ここでは次の10年間の中長期計画として、「価値創造を実践する『世界市民』を育む大学」をテーマに、「教育」「研究」「SDGs」「ダイバーシティ」、それらの基盤である「経営基盤の構築」の5つの観点が示されている(図1)。
データサイエンス教育推進センター長の浅井学教授は、「DSは『教育』分野の4つ目の打ち手として、『2030年を展望する新たな教育プログラム』の文脈に位置づけられています」と話す。Society5.0による新たな職種ニーズに対応した人材を養成するため、①共通科目「データサイエンス入門」の全学必修化、②副専攻「データサイエンス」の拡充、③「ダブルメジャー制度」または「学部間連携によるデータサイエンス課程」等の検討がアクションプランとして提示されている。今回の採択は②の内容となる。
浅井氏は、プログラム採択の背景のもう1つに、学内会議であるICT戦略室会議の取り組みを挙げる。同会議では次代の教育のためのインフラ整備として、LMSの拡充、BYODの推進、授業の収録とLMS での展開等を推進してきた。従前より進めていたこうした取り組みは、各教室にハイフレックス用の機材を設置する等コロナ禍で一気に加速し、現状はDX対応WGが立ち上がり、「アフターコロナの授業形態」について検討が進んでいるという。
社会ニーズと学生の声を背景にスモールスタートから改革を進める
創価がDS教育を全学的に推進する理由の1つに、産業界のニーズの表れでもある卒業生アンケートの存在がある。「本学は学生中心の大学を標榜しています。社会ニーズと学生の声を教育改革の起点に置くのは、本学では当たり前の動きです」(浅井氏)。「学生時代に何を学んでおくべきか」というテーマについて、2000年頃の調査では英語が圧倒的で、英語:統計は10:1という比率であった。2010年代の創価はこうした声も背景に策定された当時のグランドデザインをもとに、キャンパスの徹底したグローバル化・英語教育に力を入れ、SGU(スーパーグローバル大学創成支援事業)に採択される等成果を上げた。それが2021年春実施の調査では、英語:DSが10:11と、DSニーズが逆転したのである。「社会に出た卒業生からすると、データを読み解く力が必要なのは目に見えている。しかし、本学は文系学部が多く、数学が苦手な学生も多い。ニーズを背景に強制を伴えば意欲は削がれ、また担当する教職員の負荷も高くなってしまうのが悩みどころでした」と浅井氏は当時を振り返る。そこで方策として選択したのは、「まずはスモールスタートで検証し、学部カリキュラム改定の流れに乗せること」であった。統計学を学ぶスキームが従前よりあった経済学部を中心にパイロット授業を設計し、その手ごたえを次の学部教育設計に生かす、といった形で、ついに全学必修化にまで漕ぎつけたのだ。
文系を含めた全学生が体系的にDSを学べる状態を目指して
次に、時系列で見たDS教育の動きを図2に見ておきたい。
近年の動きでは、2019年の副専攻「データサイエンス」開始が2021年のMDASHリテラシーレベル採択につながり、2021年開始の「データサイエンス入門」が2022年度生からの共通科目「データサイエンス入門」全学1年次必修化につながる等、毎年の動きが連関して改革が進んでいる。2020年には数理・DS教育強化拠点コンソーシアム連携校に加入したことによりDS関連の情報網が拡大し、検討のスコープが広がった。統計学が盛んなアメリカの動きにも注目しているという。
データサイエンス副専攻の設置目的は、「どの学部の学生でもDSを体系立てて学べるようにすること」である。創価には従前より、「幅広い学び」を保証するために、所属学部以外の分野からも体系的に専門領域を学習できるように整理された副専攻制度があり、今回それにデータサイエンスが加わった形だ。副専攻は、①24単位以上修得②卒業時に通算GPAが2.70以上という要件を満たすと、主専攻とは別に副専攻修了の認定がなされる。
2021年に開始した「データサイエンス入門」では反転授業を導入し、事前の学習を踏まえたオンデマンド授業に週1回TAとの対面セッションを入れることで接点不足を補う。授業自体も創価が従前より全学的に取り組む少人数アクティブラーニング(AL)と絡めながら、学生の自主的な授業参加を促す工夫を凝らす。背景にあるのは創価の過半数を占める文系学部に対してDS教育を展開する難しさだ。浅井氏は言う。「オンデマンド授業は継続率がとても低くなるので、そのケアが必要です。かつ、文系の学生にとってDSは構えてしまいがち。入門授業では特にそうした苦手意識に配慮し、議論やワーク等、他者と協働し、双方向のコミュニケーションを増やすように心がけました」。
モデルカリキュラムの各レイヤーで体系化を推進する
グランドデザインでDS教育において掲げた3点のうち、①DS入門科目の全学必修化と、②副専攻「データサイエンス」の拡充を達成し、②に伴って副専攻の必修科目を応用基礎レベルと置くことで、今年のMDASH応用基礎レベルにも申請し、採択された(2022年8月24日公表)。次に見据えるのは③DSに関する「ダブルメジャー制度」等の検討である。これは即ちエキスパートレベルへの準備だ。「文系学部の学生でもダブルメジャーをとることで、情報系の大学院研究科に進学できるようにしたい」と浅井氏はその狙いを語る。学士課程では全学的に必要なDS力を培い、さらに意欲を持った学生に対応できるよう、応用基礎、エキスパートとレイヤーごとの体系知を整備する。創価が実現を目指すのは、段階的に無理なく、しかしながら自らの意欲にそって学生一人ひとりがDS教育を選べる状態だ(図3)。浅井氏は言う。「本学の前グランドデザインで設置された学士課程教育機構は、こうした全学的教育整備の機関部であり、データサイエンス教育推進センターもその管轄にあるため、同じ思想で動いています」。推進力となる組織を適切に配置したことも一因となり、2010年代にグローバル化を一気に進めた創価。次がDS教育というわけだ。さらにこうしたDS教育推進は、高大接続にも有効に働いているという。姉妹校の希望者対象に、今秋からDS入門を開講予定で、創価に進学すれば単位認定される仕組みを整えている。
ほかに今後の方向性として浅井氏が挙げたのが「産学連携科目の拡充」である。2021年から日本IBM社との連携科目を開始しており、「今後はご協力頂ける連携企業をさらに増やし、企業側のニーズや問題意識、本学で求めたい教育的価値を協議しながら、実データ等も用いてより社会に近い授業で学生の意欲を引き出したい」と意気込む。「数理・DS・AIは、日常生活の問題や社会課題を解決する有用なツールになり得るのだということ、そして自らの専門性にDSを掛け合わせることで価値創出が可能なのだという点を、社会連携を通じて学生に実感してもらいたい」。
取材を通じて、創価がこれまで全学的に推進してきたALと、今回注力するDS教育の親和性の高さこそが、全学推進の鍵であり、創価の独自性であるように思われた。
(文/鹿島 梓)