DXによる新たな価値創出[4]MDASHリテラシー認定プログラム 副専攻「AI・データサイエンス」/敬愛大学

敬愛大学キャンパス


敬愛大学 学長 中山氏、AI・データサイエンス教育センター長 髙橋氏、IR・広報室長 工藤氏

 敬愛大学は2019年より副専攻「AI・データサイエンス」を開設し、その内容が2021年6月にMDASHリテラシープログラムに認定された。その内容と背景にある考えについて、中山幸夫学長、AI・データサイエンス教育センター長の髙橋和子教授、IR・広報室長の工藤龍雄氏にお話を伺った。

これからの時代に必要なスキルセットを文理を問わず提供する

 敬愛大学は2030年までに達成すべき目標として、「敬愛大学ビジョン2030」を掲げている。そこには、「新たな時代の変化に対応する教育~Society5.0に対応できるAI人材を養成~」として、「Society5.0の時代に、『人間の強み』を発揮する想像力(Imagination)と創造力(Creativity)の双方を豊かに備えてAIを活用できる人材を養成する」とある。中山学長は、「変化が激しく予測困難な時代をどのように生きていくのか。本学の学生にはデジタル時代の読み書きそろばんとしてAI・データサイエンスの基礎力を修得し、社会を積極的に支える人材になってほしい」と話す。その取り組みの1つがこの副専攻であり、「建学の精神である『敬天愛人』、即ち人や人の作る社会・地域をより良くするのに貢献する具体的な方策の1つとも言えます」と続ける。建学の精神の具現化であり、これからの時代に必要なスキルセットを教育に組み込んだ内容でもあるのだ。

 しかし、敬愛大学は経済・国際・教育という文系3学部の大学である。文系大学でこうした方針を打ち出せたのはなぜなのか。教育リソースをどのように捻出したのか。

 それについては、2つの要因があるという。経済学部でかつて高等学校の「情報」の教職課程を持っていたこと、そして国際学部で社会調査士の資格が取得可能な科目を持っていたことだ。こうしたカリキュラムで既に展開していた科目により、数理・データサイエンス・AIモデルカリキュラム(リテラシーレベル)の要件の多くを網羅できたという。

 では、副専攻プログラムの具体的な内容を見ていこう。

副専攻制度で学生の意欲や目的に応じた学びを設計

 3学部それぞれでAI・データサイエンス教育を構築するのではなく、全学共通の副専攻制度を採用した理由について、髙橋氏は3点を挙げる。まず、AI・データサイエンスの利活用は分野横断的であり、所属学部に拘わらず履修可能な制度が必要だったため。次に、副専攻は学部学科の主専攻に加えて、もう1つの専門分野をコンパクトに学ぶことができる仕組みで、目的に直結した学びが可能であるため。そして、既に副専攻「エアポートNARITA地域産業学」、副専攻「日本語教員養成課程」の実績があり、柔軟なカリキュラムの構築に利点があったためである。副専攻「AI・データサイエンス」では所定の単位・資格を取得すると大学独自の「修了証明書」が授与され、卒業単位にも認定される。また、いわゆる文系の学生にとっても、学ぶことの意義や楽しさが分かるよう教材に工夫を凝らし、学修の動機づけや履修登録の指導、就職の支援等のサポートを手厚くしているという(図1)。「副専攻での学びを基盤に各自で関心を深め、参考文献を読んだり、プログラミングに挑戦したりと、自律的な学びを行ってほしいと考えています」と髙橋氏は言う。

 こうした取り組みの甲斐あってか、2020年3月に行った申請者へのアンケート調査では、全学部合わせて84.9%の学生がこの副専攻を「ほかの学生や新入生に勧めたい」と回答し、手ごたえを感じたという。なお、難易度に対する問いでは「難しい」が17.0%、「やや難しい」が62.3%であった。「調査時の本副専攻は応用基礎レベルを想定していましたが、2022年度からはリテラシーと応用基礎の2段階の修了を選択できるようになっています。学生には、各自の目的や学修の進度に応じてチャレンジしてほしいと考えています」と髙橋氏は言う。

 なお、副専攻では「求める学生像」(3ポリシーのAPに相当)を図2の通り定めている。自律的な学びを継続するためには学生本人の意欲が欠かせない。


図1 サポート体制、図2 副専攻「AI・データサイエンス」で求める人材像


段階的に着実にAI・データサイエンス教育を全学に導入

 こうした検討は2018年から始まった。2019年にはAI・データサイエンス教育研究会が発足し、副専攻「データサイエンス」が開講。2020年度に副専攻「AI・データサイエンス」に改称され、「AI概論」における株式会社日本アイ・ビー・エム(IBM)による特別講義を開始。2021年度には研究会がAI・データサイエンス教育センターに昇格し、MDASHリテラシーレベルに認定。2021年度には新たに開講された「AI・DSへのいざない」のために、初学者がこの分野を学ぶことの意義や楽しさを実感できるよう内容に工夫を凝らした動画教材を開発した。同科目では、2022年度に企業がデータや情報をどのようにビジネスに活用しているのかについて、実際の企業にインタビューをした内容を加えて充実を図った。今後もこうした企業連携を増やしていく予定だ。「学生が課題を設定し、必要なデータを収集して分析、結果の考察を行って報告するという一連の流れを実課題や実データにより体験する科目を強化していきたい。データがどのように社会で活用されているのかを知ることで、学びのモチベーションも上がると考えています」と髙橋氏は言う。新課程入試初年度に当たる2025年度には、「情報Ⅰ」を履修してきた学生が大学に入学することを見据えてカリキュラムを改訂する予定であり、これに向けて企業や自治体等との連携を強化していきたいと意気込む。

 先述の通り、2022年度からは副専攻のレベルを2つに分けた(図3)。MDASHリテラシーレベルに認定された「リテラシーレベル」と、MDASH応用基礎レベルに採択された(8月24日公表)「応用基礎レベル」である。応用基礎レベルでは、所属する学部学科の専門知識を背景に、各自が課題を見つけ、それに対するアプローチを考案できることを目指す。リテラシーレベルで基礎的な知識・スキルを確実に身につけ、応用基礎レベルで課題解決にチャレンジできるようになってほしいという意図だ。2段階構造にすることで、学生が自分のレベルや目的に沿った学びが可能になっている。


図3 副専攻の修了要件


履修率向上と社会の課題解決に挑戦する人材の育成を目指す

 副専攻申請者数は2022年度6月時点で200名、全学在籍学生数の約11%である。学部別にみると、経済学部で約15%、国際学部で約10%、教育学部で約1%とバラつきが大きい。経済学部・国際学部では、「AI・DSへのいざない」を2022年度から1年次必修に位置づけたが、教職課程の制約が大きい教育学部では初年次からの履修が難しく推奨科目となっている。2023年度からは教育学部でも同科目が必修化されることが望ましいという。

 副専攻の申請について、髙橋氏は「リテラシーレベルは100%を目指したい。応用基礎レベルは個人の意欲に応じて深める段階で、1人でも多くの学生に申請してもらうに当たっては先輩の声が大事です。後輩の目標となる修了者を育成し、様々な媒体を通じて積極的に紹介していきたい」と言う。

 こうした取り組みに対して、毎年の改善と学生の履修の様子が見えてくるにつれ、徐々に学内の認識も深まっているという。また、受験生に対しては広報の成果により「最近はAI・データサイエンス教育の存在を挙げる受験生も出てきている」と工藤氏は言う。また、系列高校からAI・データサイエンス教育での高大連携事業の一環として理数探究科目の支援を依頼されることもあるという。「MDASHリテラシーレベルの認定で学外の評価や関心が高まっているように感じている。申請者数を増やすために学内向けの説明や導入をより丁寧に行っていこうと考えています」と髙橋氏は言う。

 敬愛大学が育成を目指す「社会で活躍できるAI・データサイエンス人材」とは、この分野の基礎的な知識・スキルを身につけ、想像力(Imagination)と創造力(Creativity)を豊かに使って社会の様々な課題の解決に挑戦することができる人材であり、自ら学びを深めていくことができる人材だという。「3学部のそれぞれの強みを生かしてAI・データサイエンス人材の育成を行っていきたい」。髙橋氏の言葉は力強い。


(文/鹿島 梓)


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