【TOP INTERVIEW】100周年に向け、 総合学園として一貫した人間教育を推進/学校法人稲置学園 理事長 稲置慎也
学校法人稲置学園 理事長 稲置慎也(いなおき しんや)
1960年生まれ
1984年 学校法人稲置学園入職・星稜高等学校数学教諭
1990年 学校法人稲置学園本部次長
1999年 学校法人稲置学園経営企画室長 学校法人稲置学園理事就任
2001年 学校法人稲置学園経営改革推進室長
2004年 学校法人稲置学園経営企画部長
2006年 星稜女子短期大学(現金沢星稜大学女子短期大学部)副学長
2010年 学園創立80周年記念事業企画・実行委員長
2013年 学校法人稲置学園副理事長就任
2016年 学校法人稲置学園理事長就任(現在に至る)
「就職に強い星稜」のブランド構築
学校法人稲置学園は、創設者の稲置繁男が1932年に金沢市に創設した「北陸明正珠算簿記専修学校」を起源としています。この学校は、金沢女子商業学校、実践商業高等学校と名称を変更したのち、1970年に石川県に移管されることになりますが、これとは別に1962年に開校した実践第二高等学校が現在の星稜高等学校の前身です。その後、1967年に経済学部の単科大学として金沢経済大学を開学。幼稚園、中学校、短大も設置しました。学園創立70周年の2002年には大学の校名を金沢星稜大学に変更し、幼稚園から大学まで一貫した星稜ブランドが確立しました。2007年に人間科学部、2016年に人文学部を設置し、現在は3学部5学科、学生数2700名を超える大学となり、これまで約5万4000名の卒業生を輩出してきました。
教育の特徴として、北陸エリアで「就職に強い星稜」として評価されていることが、今の本学を支えている大きな柱です。きっかけは一時定員割れを起こしてしまったことによる危機感でした。1996年の新校舎竣工で多くの受験生を集めたものの、翌年には大きく減少したことで、校舎効果だけでは1年しか持たないと認識し、まずは就職を強くしようと全学的な改革をスタートしました。就職実績と公務員実績の向上を2本柱に、就職は外部から就職に強い人材を採用し、公務員試験と簿記1・2級の資格取得の支援を始め、2005年からは本学独自の難関試験突破プログラム「CDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)」を導入しました。こうした出口政策で人気が高まり、志願者数は年々増加、2017年には志願倍率6.4倍を記録したことから、2018年には収容定員を2300名から2632名へ拡大しました。新入生アンケートの進学理由も「就職に強い」が8年連続でトップ、日経新聞社「企業人事担当者から見た大学イメージ調査」(2022)においても、小規模大学ランキングで本学が総合1位になりました。
「星稜100年ビジョン」
創立80周年に当たる2012年には、「『星稜100年ビジョン』星稜の人間教育を、地域へ、世界へ。」を策定しました。建学の精神「誠実にして社会に役立つ人間の育成」のもと「星稜の人間学」をさらに発展させ、100周年に向けて目指す学園の姿として、基本方針「5つの柱」を掲げています。
私は2016年に理事長に就任しましたが、まずは基本方針の1つ目の柱「グローバルに活躍できる人材を育成する。」の実現に向け、大学全体のグローバル化を推進する拠点として「グローバルコモンズ」を竣工し、同年に人文学部国際文化学科を新設しました。同学科は入学後1年前後の早期に全員が留学を経験し、生の異文化体験を通じて英語と国際文化を学ぶ学科です。
次に、2つ目の柱「総合学園としての一貫した教育を行う。」に向けた中高一貫教育に着手しました。建学の精神に沿った人材育成として、幼稚園から大学院まで一貫した星稜の人間教育「星稜学」を進める一歩でもあります。
中高一貫校を設置する前に、私には経営者としてまず、2つの附属幼稚園が抱える約1億円の赤字を解消するという課題がありました。そこで両幼稚園を認定こども園に改組することでこれを1年で改善し、中高一貫校を設置することができました。
2017年、教育スローガン「『GROW! SEIRYO』世界で活躍する個性豊かな星稜生に “成長する” ことを願って。」を掲げ、中高一貫教育を開始しました。中高6年間を基礎・応用・発展の3つのタームに区分し先取り教育を実施することで、大学受験に必要な基礎学力の早期確立と十分な受験勉強期間を確保しました。また全生徒にタブレットを導入したICT教育や、サイエンス・キャリア・グローバルの各プログラムによる主体的探究を推進してきました。中高は今年完成年度を迎えるので結果が楽しみです。
星稜中学・高等学校はスポーツが強いことで有名ですが、スポーツだけでなく進学希望の生徒に応えようと、中高一貫校のための総合寮「GROW DORM」を昨年2月に竣工しました。生徒の進学希望を確実に叶え、より堅固な進学実績を築こうとする、「スポーツの星稜」から「教育の星稜」へ転換を図る環境整備でもあります。新しい寮は既存の3つの寮に比べ、学習と食生活を全般的に支援する寮です。「人を育てる」という創始者の思いを込め、社会性・協働性を育むことを目的に2人1部屋の設計とし、共有部分には3つの学習室を備えチューターを配置し、寮内において学習指導を受けることもできます。
「教育力の星稜、授業力の星稜」を目指す
学園創立90周年の今年は、理事長として一つのターニングポイントにもなる年です。私は常々、学園の守りを固めるという意味で、「ガバナンスの強化」「危機管理体制の構築」「自己点検評価の充実」の3つを重要課題として掲げてきました。この1年を通過点としつつ、次の100年(2032年)に目指す姿が実現できているかを自己点検しながら、時代の流れに即した教育振興に邁進します。
そのために、「就職の星稜」を基盤としながら「教育力の星稜、授業力の星稜」を目指します。既に新キャンパスの用地を取得していて、スポーツ施設と教育環境を充実させる予定です。また学問の新領域として、経済学部に第3の学科を構想中であるほか、かつてのグローバルのように今は「AI戦略2019」の大きな流れがあるので、本学にふさわしいデータサイエンス系の新しい学びの形を検討しています。
そしてこれからも本学園が軸とする「星稜の人間教育(星稜学)」とは何かを模索しながら、経営者としては、教育と経営とは両輪であり、しっかりとした教育環境を作るためにも健全な財政基盤を作っていきたいと考えています。
(文/能地泰代 撮影/杉浦康之)
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