大学を強くする「大学経営改革」[98]業務の「外部化」と出資会社の活用 ──大学業務の構造改革の視点と課題 吉武博通

吉武 博通氏

大学業務の構造の抜本的な変革が急務

 想定を上回るペースで進む18歳人口の減少、世界における順位低下が続く研究力等、大学を巡る状況はさらに厳しさを増しつつある。他方で、日本経済の持続的成長に向けた人的資本の強化やイノベーション創出等、大学への期待は高まる。

 大学の内部に目を向けると、教育の質保証、学修成果の可視化、きめ細やかな学生支援、外部資金獲得、社会・地域連携、国際化等、取り組むべき課題が増え続けている。

 2022年8月に科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が公表した「科学技術指標2022」では、他国・地域が論文数を増加させるなか、日本は横ばいが続き、Top10%補正論文数については世界第12位とさらに順位を下げる結果となった。

 同月にNISTEPが公表した「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2021)」では、研究時間を確保するための取組と研究マネジメントの専門人材の育成・確保が不十分との強い認識が示されている。

 2021年8月に東京大学教育学研究科大学経営・政策研究センターが公表した「第2回全国大学事務職員調査報告書」(以下「職員調査」)では、現在担当している仕事について「業務量が多すぎるか」を問うた質問に対して、「そう思う」「ある程度そう思う」の合計は61.8%に達している。また、「将来の経営を担う人材が育っていると感じるか」を尋ねた質問では、「そう思う」「ある程度そう思う」の合計が26.1%にとどまっている。

 大学は高まる期待に応え、増大する課題に取り組みながら、厳しさを増す環境を克服していかなければならない。今後を見通すと淘汰・再編は避けられないだろうが、健全なる競争を通して、個々の大学、ひいては我が国全体の教育力・研究力を高めていく必要がある。

 これに対して、研究者と職員を対象とする2つの調査結果を見る限り、現状は極めて深刻であると言わざるを得ない。増大する業務のなかで、教員が教育研究により専念でき、職員が経営を担う人材として育つための環境をどう整えるか。そのためには、大学業務の構造を抜本的に変革するしかない。

 その一つがデジタル技術を最大限に活用した構造改革としてのデジタル・トランスフォーメーション(DX)であり、もう一つが業務の外部化(いわゆるアウトソーシング)である。DXについては本連載で既に取りあげており(本誌第229号、2021.7-8)、本稿では業務の外部化について、学校法人が出資する会社(以下「出資会社」)の活用のあり方と併せて論じることとする。

 なお、表題の「外部化」にカギ括弧を付したのは、一般の民間会社を活用する場合と出資会社を活用する場合では、グループ内に機能を担保するか否かという点で、意味合いが大きく異なるからである。

間接部門のスリム化と直接部門へのシフト

 前述の職員調査によると、「業務の外部委託や大学間での共同化を促進すべきと感じるか」の質問に対して、「そう思う」「ある程度そう思う」の合計は64.8%に達している。その一方で、「業務の外部委託が増えている」との問いに対して、「そう思う」「ある程度そう思う」の合計は22.3%にとどまる。

 大学はこれまでも警備、清掃、食堂、施設・設備の保守・点検、システムの開発・維持、図書館等の業務を外部に委託してきたが、それ以降、目に見えて外部委託が増えているという状況には至っていないようだ。

 職員調査では、回答者の現在の職務を問うているが、その結果は多い順に「総務・人事」31.2%、「教務・学生支援」27.5%、「財務・経理」8.5%となっており、設置区分別にみると、国立大学の「総務・人事」が50.7%と突出して高いことが分かる。

 分母は回答者であり、実際の人員配置がこの通りとは限らないが、総務・人事や財務・経理等の「間接部門」に配置される人員がかなりの割合を占めていることが分かる。企業経営においては、これら業務の効率化を通して一般管理費を圧縮することが強く求められているが、大学も間接部門をスリム化し、教育・学生支援、研究、社会・地域連携、国際化等大学機能に直結する「直接部門」に人的資源をシフトしていく必要がある。

 同時に、直接部門か間接部門かを問わず、それぞれの職務領域における定型的・事務的業務についても、これらに係る人的資源や費用の抑制を一層進めていかなければならない。

 そのためには、大学業務全体を俯瞰し、構造をどう組み直すかという発想が不可欠であり、理事長や学長等トップの見識と気概が問われることになる。

外部化にあたって留意すべき4つの課題

 その際に重要なことは、大学として職員に何を期待し、職員が成長できる環境をどう整えるかという視点である。

 18歳人口の減少は学生募集だけの問題にとどまらない。優秀な人材を他の業種・職種と競って確保し続けるために、仕事や職場の魅力を高めることがこれまでにも増して求められる。また、自校の中でしか通用しない人材を育てたのでは、大学の競争力は高まらず、雇用の流動化が進むなか、職員個々のエンプロイアビリティも向上しない。

 前述の職員調査を見る限り、国公私の設置形態を超えて職員が抱く閉塞感は深刻なレベルにあると思われる。また、雇用の安定や処遇の良さに満足し、現状維持を望む職員がいるならば、これはこれで問題があると言わざるを得ない。

 DXも業務の外部化も大学業務の構造改革である。特に、外部化に際しては、組織内で担保すべき機能は何か、専任職員が担うべき業務は何か、という視点で大学業務のあるべき構造を考える必要がある。

 他方で、外部化にあたっては留意すべき課題も多い。最大の課題は「委託先の選定と評価」である。外部調達においては、調達先に関する情報の収集、当該企業が提供する財・サービスの質とそれに対する対価の評価がその成否を左右する。このような能力をどう培うかは大学にとって大きな課題である。

 「費用の下方硬直性」も危惧される。外部化に伴い、契約で取り決めた事項以下の具体的な処理方法は委託先に委ねられることになり、業務の改善が進まないという状況も起きうる。改善を促すインセンティブ等契約上の工夫も必要である。

 この問題とも深く関わるが、「業務のブラックボックス化」への対応も避けて通れない課題である。加えて、「実務経験の付与機会の減少」に伴う人材育成面での問題についても考えておかなければならない。

 最後に、外部化が結果として総費用の削減につながったのかどうか、「費用削減効果の検証」を行う必要がある。企業でも、社員数や人件費は削減されたが、外注費が増加し、トータルでの費用削減効果が得られないという状況は起きうる。大学においてもこの点は絶えず確認しておかなければならない。


業務の外部化による大学業務の構造改革の概念図


 これらの課題に対処するためにも、出資会社の活用は有効な方策の一つである。

 国立大学法人と公立大学法人にも出資は認められているが、研究成果の活用等国や設置団体の政策的要請に基づくものであり、本稿の趣旨には合致しない。従って、学校法人が出資する会社を主に考えることになるが、現時点での会社数等全体を把握できる情報は見当たらない。

 大学の規模がある程度大きければ法人自らが設立した出資会社を活用することもできるだろうが、規模の面等から現実的には困難な大学も多いだろう。その場合は、他の学校法人の出資会社の活用、または複数法人による共同出資等が考えられる。

 今後、業務の外部化と出資会社の活用をどう進めるべきだろうか。その手掛かりを得るために、大学業務と出資会社の経営の両方に精通した3名に考えを聴いた。




大学をプラットフォームと考える発想も必要
西川幸穂
株式会社クレオテック専務取締役(前学校法人立命館常務理事)

 これまでの大学は全てを自己完結させようとしてきた面があるが、自らの力だけで改善・改革ができるわけではない。大学をプラットフォームと考えて、よりオープンに多様な機能を結びつけるという発想も必要なのではないか。

 法人系の業務は大学に限らずどの組織にもある。それをやりたくて大学に就職した新卒職員はあまりいない。法人系業務の外部化は望ましい方向であり、教育・研究支援系の業務でも外部化の余地は大きい。

 一方で、教育研究業務は、補助金算定上、外部委託より職員で担当するほうがメリットがあり、外部化すれば消費税負担も生じる。これらを上回る効果を得るためには、受託した側が知恵を出し、持続的に改善を行っていく必要がある。

 出資会社には、学生納付金として得た資金を学生への還元を含めて大学の中で回していくという目的もあり、また大学が直に手がけにくい活動を出資会社が担うという考え方もある。例えば、広報、システム開発、留学生支援等に学生の力を活用したい場合、出資会社なら学生を雇用しやすい。

 クレオテックは清掃、警備、施設・設備管理等の業務から出発したが、現在では、国際業務や奨学金業務を一括して受ける等事務委託まで業務範囲を広げている。出資元である立命館の発展に寄与することが最大の使命だが、規模の利益を享受する観点から、この使命に反しない範囲で、他大学へのサービス提供も考えていきたい。




出資会社に蓄積される多様なソリューション
三浦 暁
株式会社早稲田大学アカデミックソリューション(以下WAS)
代表取締役社長執行役員・早稲田大学総務部調査役
(前早稲田大学人事部長)

 早稲田大学は1988年の職員問題総合審議会答申「職員に期待される新しい役割およびあり方」以降、職員の役割や業務のあり方を巡り議論を重ねてきた。その中で、定型的な管理業務から、サービス型業務、意思決定支援業務、高度専門的な管理運営業務、プロジェクト推進にシフトさせることが必要との認識が示され、専任職員、嘱託職員、派遣社員等の役割を明確にするなかで、業務委託の活用を進めてきた。

 WASは、遠隔教育実現のために設立した会社、チュートリアル・イングリッシュ開発のために設立した会社、教育・研究支援を担う会社等が統合され、今日に至っており、その業務は大学運営支援、学生・教員へのサービス提供、国際化支援、教育・研究成果の社会還元、IT推進、語学教育支援等多岐にわたる。早稲田大学はもとより、広く大学・社会へ貢献することを目指して活動している。

 早稲田大学というフィールドで培われたノウハウが、グループ内に蓄積されるという点は大きな利点であり、雇用も人事も大学から独立することで自由度が増し、専門性を育みやすいという面もある。

 早稲田大学への貢献が最大の使命であるが、委託金額の妥当性とパフォーマンスが厳しく問われる等、大学側から評価されるという緊張感は絶えずある。

 社内に様々なソリューションが蓄積されてきた。今後は個別のソリューションを組み合わせて新たな価値を提供できる、イコールパートナーとして成長していきたい。




地域単位での共同出資会社設立も一つの方法
松本 雄一郎
株式会社エデュース代表取締役社長・中央大学常任理事

 アウトソーシングでは、人件費は減るが委託費が増える、組織内にノウハウが蓄積されない、一度外部に委託すると容易にその業者を変えられない、といった問題が起きうる。

 その点において、出資会社を設立してそこに業務を委託することは、グループ内で機能を担保するという意味で「内部化」と考えることもできる。

 出資会社には、株主である学校法人に利益を還元することを目的に、学校法人と民間会社との取引の間に入って収益を得ることを重視するケースも見られたが、それは望ましい姿ではない。大学業務の効率化・高度化にどう貢献するかに出資会社本来の使命がある。

 中央大学でも、職員の働き方を一段も二段も引き上げ、経営を担うスタッフとしての成長を後押しするために、定型事務を新たに設立した中央大学ビズサポートに移すことにした。

 また、エデュースは大学を設置する16の学校法人が共同出資して設立した会社だが、各大学が個々にゼロから開発していたシステムをパッケージとして開発・提供することからスタートし、ソリューション、コンサルティング等、学校法人に特化した多様なサービスを展開している。

 大学が真に競い合う領域は何かを見定めたうえで、それ以外の領域では業務を共通化する等、協力して効率化を進めることが重要である。それを推進するために地域単位で共同出資会社を設立することも一つの方法だと思う。




何を自前で行い、何を外部に任せ、内と外をどう連携させるか

 伊丹敬之一橋大学名誉教授(現国際大学学長)はその著書『経営戦略の論理(第4版)』(日本経済新聞出版社、2012)で、企業の中核戦略として、製品・市場ポートフォリオ(誰になにを売るか)、ビジネスシステム(そのためにどんな仕事の仕組みにするか)、経営資源ポートフォリオ(その仕事をきちんとやれるように、どんな能力・資源を自分で持つか)、の3つをあげる。

 その上で、ビジネスシステムの設計の最も基本的な決定は、(1)どの業務を自分で行うか、なにを他人に任せるか、(2)自分で行うことを、どのように行うか、(3)他人に任せることを、どうコントロールするか、の3つであるとしている。

 企業のみならず大学業務のこれからを考えるうえでも示唆に富む考えである。

 大学におけるこれまでの外部化は、誰もが疑問を感じることのない領域で行われてきた。他方で、現在進みつつある外部化には、大学間でその考え方や程度に差が生じているように思われる。

 労働力人口の減少、雇用の流動化や雇用形態の多様化、AIの発達等を背景に、働き方や業務のあり方をどうするかは、日本社会全体が問われている課題である。

 職員のみならず教員の仕事を含めて、何を自前で行い、何を外部に任せ、内と外をどう連携させるか。大学は真正面からこのテーマに取り組む必要がある。


(吉武博通 情報・システム研究機構監事 東京家政学院理事長)



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