ブランドの変遷を左右してきた4つのドライバー(2)将来のキャリアを見据えた学びのサポート

就職という点ではなく、人生100年時代に社会に出てから活躍できる力をどう身につけるか

 高校生の重視項目で、常に上位に入っている項目が「就職が有利」「資格取得に有利」「卒業後に社会で活躍できる」「将来の選択肢が増える」といった、卒業後のキャリアを意識した項目である。どちらかというと、男子は「就職」、女子は「資格取得」を重視する傾向があるといった違いはあるが、大学卒業後のその先を見ているという点では変わりはない。

 卒業後のキャリアを考える際に大きく3つのポイントがあると思われる。

 1点目は、卒業時に何ができるようになるのかといった学修成果を気にするようになっていることである。大学入学者選抜が多様化して、総合型選抜や学校推薦型選抜による入学者が約半数を占めるようになり、その大学で学ぶ目的を明確に問う時代においては、入学時の偏差値だけでなく、何を学び、何が身につくのかを高校生にも分かりやすく伝えることがより重要になってくる。昨今、新卒採用においても、ポテンシャルを重視する日本型の「メンバーシップ型」採用に加えて、特定の職種を限定して採用する「ジョブ型」採用や、スキルや経験をもとに学生個人に企業が直接アプローチする「スカウト型」採用等が、徐々にだが着実に広がり始めており、学修成果の可視化はこれからますます重要になってくると考えられる(参考:図1)。


図1 企業が大卒者に特に期待する『資質』は何か


 2点目が、サポート体制である。就職率や資格取得率だけではなく、なぜ就職率が高いのか、資格が取得できるのかという理由をしっかりと見せていくことである。特に女子はサポート体制を気にかけている。オープンキャンパスでの説明時間について、女子は男子の2 倍時間がかかるといわれている。男子は、その大学や学部の一般的な就職率や就職先を聞いて納得してしまうケースも多いが、女子はなぜ資格の合格率が高いのか、どのようなサポートがあるのかといった、「私」がどうなれるのかといった視点での説明が重要なのだそうだ。メンター制度やピアサポート、Wスクール等、サポートが分かりやすく表現されている大学の支持が高くなる傾向がある。

地域社会や産業界との連携したプログラムが拡がる

 3点目は、人生100 年社会のなかで、単に就職という点ではなく、卒業後に社会で活躍できる力を身につけられるかといった点である。注目されているのは、企業や地元産業界、地域社会との連携によって、社会で求められる資質・能力を育んでいこうとするものである。正課のPBLやインターンシップ、ボランティア、正課外活動等様々な取り組みがされているが(参考:図2)、重要なのは学生個人ではなく、大学がプログラムとして実施し、学生へのフィードバックやリフレクションを通じて、学生に目的や成果を自覚させることである。2022年には「採用と大学教育の未来に関する産学協議会(産学協議会)」が学生のキャリア形成支援活動を類型化し、インターンシップの定義を見直して推進することを明確にしている。こうした動きにより、大学と地域・企業・コンソーシアム等が連携したキャリア形成プログラムが、より前向きに実施されることが想定される。新たな動きを大学がうまくキャッチアップできるかどうかも、今後のブランド力向上の要因となりそうだ。


図2 企業は大学の教育プログラム面でどのような改革を期待しているのか



(文/小林 浩)





長浜バイオ大学
地域との連携をベースにしたキャリア教育で就業観を醸成

 1~3年次に約900時間に及ぶ実験・実習を行い研究の現場で通用する技術力・応用力を涵養し、4年次の卒業研究で研究力を高める教育に強みを持つ長浜バイオ大学。培った専門性や技術力、研究力を卒業後、社会のニーズに応じて発揮できるよう、地域と連携したキャリア教育も長年行い、学生の就業観を高めている。その現状と課題を、バイオサイエンス学部メディカルバイオサイエンス学科教授で地域連携・産官学連携推進室長を務める坂井伸彰氏に伺った。

地域・企業を知り、研究力への期待を体感する

長浜バイオ大学 地域連携・産官学連携推進室長 坂井氏

 長浜バイオ大学のキャリア教育科目は計8科目。情報収集と分析の方法や、課題発見・解決のための論理的思考力や表現力を鍛える「大学での学びと実践方法Ⅰ・Ⅱ」(1年次配当)を必修科目とし(臨床検査学コースではⅡは選択科目)、1年次春期以降の地域や企業とのプロジェクト型科目等は選択科目に設定。この構成を「各学科で得た知識・技術や研究力をどうすれば社会に生かすことができるのか、また、社会が今、大学や研究に何を期待しているのかを学生自身が段階的に体感できるように仕立てている」と坂井氏は説明する。

 加えて坂井氏が期待しているのが、「3年次以降の実験・実習や卒業研究で学ぶべきことや身につけるべきことについての気づきを低学年次より獲得する機会」としての役割だ。「キャリアの作り方には、好きなことややりたいことを糸口にする方法と、世の中で求められていることを出発点に興味・関心を切り拓いていく方法の2つがある。皆が皆最初から好きなことがあって4年間邁進できるわけではないので、身近にいる地域社会の人達との直接的なかかわりを通じて、学ぶべきことや社会のニーズに1、2年次生のうちに気づく機会の1つになれば」と坂井氏は話す。

ポスト・コロナ社会での連携のあり方を模索

長浜バイオ大学 地域連携・産官学連携推進室長 坂井氏

 このような考えのもと、長年、地元企業や自治体と連携してPBLやフィールドワーク、講義へのゲスト招聘等を行ってきたが、コロナ禍を経てカリキュラム構成や連携の仕方をブラッシュアップするフェーズに入っているという。

 課題は大きく2つで、1つは、2年次生の負担の大きさだ。2年次生は実習・実験科目のウエイトが高く、配当されているキャリア教育科目もPBL形式が中心であることもあって、忙しすぎて履修できなかったり、履修してもメンバー全員が揃ってチーム課題に取り組める時間を授業外で十分に持てなかったりする学生が散見されるという。実際、近年の受講者数は、1学年160~250名中、10名前後とのこと。また、狙いが似ている科目が別にも存在するといったカリキュラム設計上の課題もあるため、科目や配当年次を精査してより多くの学生が学べるよう見直しを進めている。

 もう1つは、2年を超えたコロナ禍に伴う、地域との連携機会の減少だ。大学自体は、実験・実習のため2020年後期からほぼ対面に戻しているが、地域との連携においては、連携先の意向もありフィールドワーク等が十分にできなかった。2022年度に入ってからは、オンラインと対面の使い分けや対面の価値の再認識が社会的に進んできたことで、4~5人単位であれば地域にも受け入れられるようになってきたそうだ。「今後は、目的やテーマをより明確に持って連携を図っていく一方、地域の方々からは、より気軽かつラフに関わっていただけるよう動いていきたい」と坂井氏。「これまで連携してきた地元企業や自治体の方々からは『学生の等身大の考えを知りたい』というニーズが強くある。学生と地域の方とが構えずにコミュニケーションをとり、活動することで面白いものが生まれてくるだろうし、学生は世代の異なる方や学外の方とのリアルなコミュニケーションを通じて、一市民としての生き方を知る機会にもなる」と続ける。


図2


課題解決に取り組んだ経験を自信に社会に巣立ってほしい

 ここ2年は企業・自治体との取り組みはオンライン実施が多かったが、受講生からは「就活の採用選考でグループディスカッション等があっても臆することなく取り組めるようになった」といった声が挙がっているという。「グループワークや発表等に苦手意識を持っている学生が本学には多いので、自信がついたと自分で言えるのは受講による大きな変化」と坂井氏。「まだまだ入試偏差値を基に学生が見られることも多いが、自らが学んだ経験に自信を持って巣立つことができれば、社会でも戦っていけるはず」と続ける。

 地域連携・社会協働のかたちでのキャリア教育の展開は、地域や社会からの期待が大学のブランド力向上に寄与することが期待される。「課題を発見し解決する力と研究力を兼ね備えている本学の学生の良さを、広く社会や企業に分かっていただけるようもっと頑張っていきたい」(坂井氏)という長浜バイオ大学の今後に注目したい。


(文/浅田夕香)


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