高校生の志願度の変化 上位10大学の変遷
15回の調査の変遷から見えてきた
高校生の志願度の変化
上位10大学の変遷
志願度に影響を与えるのは
「社会環境」「大学改革」「高校生への広報」
次ページから紹介しているグラフは、2022年の上位10大学について、2008年~2022年にわたる15回の調査の志願度の推移を表したものである。改めて、大学の志願度の推移を見ると、大きく3つのことが影響を与えていることが分かる。1つ目は、「社会環境の変化」、2つ目は「各大学の改革の推進」、そして3つ目が「高校生への広報」、つまり高校生に伝わっているかである。
まず、社会環境の変化との関係を考えてみたい。「進学ブランド力調査」を開始した2008年当時は、小泉改革が進む中で景気が上向きの時期だった。関東は高校生が“憧れ校”と呼んでいた早稲田大学がトップ、東海、関西でも私立大学が志願度トップとなった。2008年9月に起こったリーマンショックにより2009年の調査時には景気が一気に冷え込んだ。関東で高校生が頑張れば手が届く“チャレンジ校”と呼んでいた明治大学、東海では学費の安い国立の名古屋大学にトップが入れ替わった。その後、2011年には東日本大震災でさらに景気は冷え込み、関西でも2011年に国立の神戸大学が3位になる等、この傾向が続くこととなる。その後、2012年からスタートしたアベノミクスや、2013年の東京オリンピック開催決定等、景気回復の兆しが見え始め、東海で2014年に私立の名城大学が、関東で2017 年には早稲田大学がトップに返り咲いている。2017年以降は2016年にスタートした定員厳格化により、関東・関西の大手総合私立大学が難化したことから、軒並み志願度が低下した。2021年には定員厳格化が一段落したことから、各エリアとも大手総合私立大学の志願度が上昇している。
次に各大学の改革等を見てみたい。大きな変化があった年の主な改革を吹き出しに示した。その内容を見てみると、学部新設、大学統合、キャンパス移転等が、志願度の上昇と概ねリンクしている。学部・学科の新設や大学の統合は、企業で言い換えれば商品ラインアップの充実であり、良い商品が生まれれば顧客の支持を得るということが、大学にも当てはまることが分かる。キャンパス移転は、通学を主とした授業形態のなかで、高校生はできるだけアクセスが良い場所を求めていることが分かる。ただ、キャンパスの移転だけでは、上昇した志願度を維持・向上することは難しいとも言えるだろう。
3つ目は高校生に分かりやすい広報、伝わっているかという点である。吹き出しに示した改革と志願度の上昇を比較すると、改革の前から志願度が上昇していることが分かる。学部新設や統合、キャンパス移転は、大概改革の前から広報をスタートする。つまり、改革したときではなく、高校生に伝わったときに志願度が上昇するのである。「近大マグロ」の広報で話題となった近畿大学、箱根駅伝で4連覇を成し遂げた青山学院大学は、その時期に志願度が上昇している。高校生に、どのように伝えるかということも志願度アップの大きなポイントなのである。
【関東】景気影響が志願度に影響。
コロナ禍&定員厳格化の落ち着きで、有名私大が再び上昇
景気が上向きだった2008年には、早稲田大学が志願度トップとなった。一人当たりの受験校数も多く、高校生の回答欄のフリーコメントには“憧れ校だから”という言葉が多く、記念受験も含めた層の支持を集めたと言えるだろう。2位が明治大学、少し離れて立教大学、青山学院大学、日本大学、法政大学、慶應義塾大学が第3グループを形成し、また少し離れて中央大学となっていた。2009年には明治大学がトップとなり、早稲田大学と入れ替わる。明治大学に対するフリーコメントには、頑張れば手が届く“チャレンジ校だから”という言葉が複数あり、リーマンショックによる景気後退に伴う家計の影響を受け、“憧れ校からチャレンジ校へ”という動きが生じた。多くの私立大学の志願度が2009年を機に減少に転じている。
この間、明治大学は、2008 年に国際日本学部設置、2013年には中野キャンパス開設、総合数理学部設置等の改革を推進し、トップを維持することになる。青山学院大学が2013年に文系学部を青山キャンパスに集約、地球社会共生学部を設置する等の改革とともに、駅伝4連覇の成功ストーリーでメディア露出も増え、高校生からの志願度も上昇していくこととなる。また、2016年からの定員厳格化で、私立の大手総合人気大学が難化したことで、軒並み志願度が低下した。
2020年には定員厳格化が一段落したことから、2021年に私立総合大学の志願度が再び上昇に転じた。高校生は先輩の合格状況を、しっかりと見ていることが分かる。コロナ禍において、オープンキャンパスへの参加が制限される等、十分な進路選択活動ができなかったことも有名私大の志願度上昇の一因となっていると考えられる。2022年では、早稲田大学、明治大学、青山学院大学が3強となり、2番手グループとの差が若干開きつつあるのが関東の状況である。
【東海】国公立が上位10大学の半数を占めるマーケット。
キャンパス移転や文理・男女に幅広く訴求できる学部新設が進む
東海地区は、東名阪の3つのエリアのなかでは、最も国公立志向が高い。しかし、2008年には、名城大学と中京大学の2つの私学がトップを競い、名古屋大学が3位、南山大学、愛知学院大学、三重大学、名古屋市立大学、岐阜大学がその次のグループを形成していた。2009年に卒業生のノーベル賞受賞で話題を集めた名古屋大学がトップとなり、以降トップを独走する。状況が変わったのは2016年だ。名城大学がナゴヤドーム前キャンパスを開設、外国語学部の設置等の改革を進めた。これにより、男子・理系のみならず、女子・文系の興味関心も高めたことが、全体の志願度上昇に影響を与えている。
興味深かったのは、本調査で聞いているイメージ項目のなかで「キャンパスがきれい」「自宅から通える」の数値が、ナゴヤドーム前キャンパス開設時ではなく、それ以前から上昇していたことである。実は、新キャンパス開設については、数年前から新聞等の報道で取り上げられており、高校生に注目されていたのである。これは、改革した時点ではなく、高校生がその事実を認知し、自分に関係あることだと認識することが、志願度やイメージに影響を与えているという一つの証左だと考えている。
その後、2017年には、名古屋大学が情報学部を設置、南山大学がキャンパスを統合して国際教養学部を新設し、ランキングの上位に変動が生じている。2020年には、名古屋大学と岐阜大学が統合して東海国立大学機構が誕生した。一時的に岐阜大学のランキングが上昇したが、指定国立大学となったことも影響したのか、翌年には名古屋大学の志願度も上昇している。2022年では、男女、文理と幅広い高校生の支持を集めるようになった名城大学がトップを独走し、それを名古屋大学が追いかける形となり、3位以下とは差が開いている状況だ。
【関西】私立を中心に総合的なマーケティング力が問われる関西。
公立大の統合が今後の志願度の変動要素に
2008年調査スタート時には、関西大学が2位の近畿大学に大きな差をつけてトップとなっていた。続いて、関西学院大学、立命館大学、同志社大学、龍谷大学が3位グループを形成していた。関西大学は、2009 年に外国語学部、2010年には堺キャンパスを開設して人間健康学部を、高槻ミューズキャンパスを開設して社会安全学部を設置する等、次々と改革を進め、トップを維持している。
2位の近畿大学は、2010年に総合社会学部、2011年には建築学部を設置。2013年には、同大学の研究所の名称をそのまま使用した店舗「近畿大学 水産研究所」を大阪と東京・銀座に開業。大学の研究所で育てた魚を商品=卒業生として販売して話題を集めた。同時に、マグロをモチーフにした積極的な広報を展開し、従来の偏差値による序列を「固定概念を、ぶっ壊す」というコピーで関西のみならず、全国で注目を集めるようになる。さらに、2016年の国際学部設置、2017年のACADEMIC THEATER開設と改革の手を緩めなかった。
その間、同志社大学は、今出川校地と京田辺校地における、教学体制の再構築を行った。また、立命館大学は、2015年に大阪いばらきキャンパスを設置、2018年には食マネジメント学部、2019年にはグローバル教養学部を開設。関西学院大学は、2009年に聖和大学との合併によって教育学部を開設、2020年に神戸三田キャンパスの再編を行っている。龍谷大学は、2015年に国際学部、農学部を開設している。全国的に見ても、この間各大学が最も改革を推進したのが関西エリアだったのではないだろうか。
2022年では、トップの関西大学に、情報学部を開設した近畿大学が肉薄、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、日本最大の公立大学となった大阪公立大学が3位となり、4位以下とは少し差が開いた状況となった。
(文/小林 浩)
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