入試は社会へのメッセージ[5]【事例report】特色入試/京都大学

 京都大学(以下、京大)が2016年度に導入した特色入試は、当時高大接続改革議論のさなかにあった高等教育機関やメディアを中心に大きな注目を集めた。導入から8年目を迎えた現在の状況をリポートしたい。

入試による高大接続と教育改革の推進

京都大学 2023年度特色入試チラシ

 まず、そもそも特色入試がどんな入試で、なぜ導入されたのかを振り返っておきたい。

 特色入試の目的は主に2つある。高大接続・高大連携の推進と、入試改革をばねとした高校・大学双方の教育改革だ。その実は、入試教科の高い学力だけでなく、幅広い学習に裏づけられた総合的な能力・意欲・適性・志を多面的に評価する入学者選抜を目指したものである。導入当初の「意欲買います。京都大学」というキャッチコピーが記憶にある読者もいらっしゃるだろうが、そのコンセプトは導入から8年経った現在も変わっていない(チラシ参照)。

 特色入試の概要をまとめると図1のようになる。具体的な「求める人材像」及びそうした人材を選抜する方法は学部学科によって異なるが、概ね基礎学力を大学入学共通テストで測定したうえで、「高校までの学修における行動と成果」を主に提出書類により評価し、「学部学科のカリキュラム等への適合力」を能力測定考査や口頭試問・面接等で判定するという3つの観点で選抜が構成されている。京大は建学以来の「自由の学風」と学術の伝統を守りながら、「対話を根幹とした自学自習」という教育理念を担う人材をアドミッション・ポリシー(AP)の形で規定している(図2)。特色入試で実践されている評価・選抜は、京大全体のAPの内容にも符合する。

 こうした評価要素は概ね2次選考まで盛り込んで選抜設計を行っている。募集人員や選抜方法、試験実施方式を総合型にするか学校推薦型にするかは学部学科によって異なる。詳細は大学HPに掲載の募集要項をご確認頂きたい。入試方式は多様だが、大学として掲げる「総合的な能力・意欲・適性・志を多面的に評価する目的で設置された入試」を特色入試と銘打って実施しているのである。2016年度は14学科が参加してのスタートであったが、2019年度以降は全学部の22学科と、導入する学科も増え、募集人員も2016年度108名から2021年度は165名、さらに今年度、2023年度は172名と拡大しており、スモールスタートで始めつつも追跡調査や実施結果分析等により、その在りようは細かくチューニングされ、全学的に定着しているそうである。


図1 特色入試の概要(イメージ図)
※求める人材像、募集人員、出願資格、選抜方法、提出書類は学部学科により異なる
【外部リンク】https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/admissions/tokusyoku


図2 京都大学の大学アドミッション・ポリシー


多様で積極的な特色入試入学者

 では、導入から8年経過し、どのような成果があったのか。

 まず、定量的な推移を図3に示した。年によってバラつきはあるが、特色入試の志願者は800~1000名程度、志願倍率は6.0倍前後で推移している。もともと数より質を求める入試なので、単なる数ではなく、求める人物像に合う志願者をいかに集めるかというのが募集広報の目的である。また丁寧な選抜を実施するために出願段階で一定のハードルを設けている点も関係がありそうだ。

 では、定性的に見て入学者にはどのような特性があるのかというと、一般選抜と比較した際、学部全体の成績分布の中でも特色入試入学者はGPAが高く、授業や課外活動等においても意欲的な姿勢であることが確認されているという。また、普段京大への進学が多くない公立高校からの合格者が相対的に多い、女性比率が一般選抜よりも高いといった特徴も見られ、入学者の多様化にも一役買っているという。

 また、特色入試担当教員等からは特色入試入学者について、「授業中の質疑応答が積極的であり、かつ、質問内容のレベルも高い」「一般選抜入学者と比較して、興味の幅が広く、授業のテーマに拘わらず、質問や発言が積極的である」「一般選抜入学者に比べ、プロジェクトベースの授業において、授業全体に対して積極的に関与していたとともに、グループワークにおいても積極的にリーダーシップを発揮していた」「全学共通教育の履修科目において、受講しながら1年生受講生へのサポートを積極的に行っている」「3回生前期配当の科目を2回生前期に履修、単位取得する等、自分の興味がある分野の講義の履修に対して積極的である」「履修科目での研究室訪問調査で、積極的・意欲的な活動が注目された」「クラス委員としてクラスを取り纏め、リーダーシップを発揮している」といった意見が寄せられ、狙い通りの入試として機能していると学内では受け取られているという。こうした経過を踏まえ、今後も特色入試を実施推進していく方向性に変わりはないという。2023年度の変更点等の詳細は大学HPを参照されたい。


(文/鹿島 梓)
取材協力:京都大学教育推進・学生支援部入試企画課

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