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これからの大学改革の核、SD・職員力の飛躍(大学設置基準改正)

中教審で職員が議論になった意義

 そもそも職員の位置付けや育成が中教審の重要なテーマとして浮上してきたのは「大学ガバナンス改革の推進について(審議のまとめ)」(2014年)である。「『高度専門職』の設置や恒常的な大学事務職員のスキル向上のためのSDの義務化等、今後、必要な制度の整備について法令改正を含めて検討すべき」。この提起がなければ大学設置基準改訂にまでは至らなかった。

 学長への権限付与、教授会の役割の教育・研究への限定等の学校教育法改訂を方向付けたこの「審議のまとめ」は、一方で、それを実質化し真の学長のリーダーシップを確立するためには、職員の力を育成し職員の位置付けを高めることが不可欠の要素だと、当初から考えていたということだ。

 職員の役割の重要性は古くから指摘されてきた。「学長の責任と権限を明確にし、トップのリーダーシップとそれを支える事務局・職員の強化による改革推進」。これは1998年の有名な答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」の中での提起だが、20年近く前の方針が漸く具体的な実行措置を伴って現実化されたとも言える。

 直近の答申等でも、2008年の「学士力答申」や2013年の「質転換答申」で繰り返し同様の提言がされた。しかし、方向性は提示されても目に見える改善措置はとられてこなかった。今回それが初めて法改訂となり、また今後の改革の方向を明示し、現実改革を一歩進めたことを私は高く評価したい。

議論の焦点は何処にあったか

 中教審の議論の最終取りまとめ、大学設置基準改定の基礎となった「大学運営の一層の改善・充実に向けた方策の必要性について(取組の方向性)(案)」の結論を図表1に簡潔にまとめた。

職員の資質・能力の向上

 職員育成の強化、SDの義務化には大きな異論はなく一致した。職員の育成がなかなか進まない点は『日本経済新聞』7月2日付記事「大学職員研修進まず―全員参加6・6%どまり」の文科省調査結果でも明白で、3割を超える大学で半数以上が研修に参加せず、内容も業務上の基礎知識の習得が約60%と多く、特に今求められている中長期計画の立案や推進など「戦略的企画能力」の育成は約23%と少ない。これを飛躍的に強化しなければならないことは委員の共通認識であった。

専門的職員の配置

 最も議論になったのは専門的職員である。後に示す文科省の全国調査でも、まだ多くの大学が端緒的な取り組みで、専門的職員の定義や育成方法、役割については確立途上にあり、引き続き環境整備に努める結論となった。

 この間の答申等では、リサーチアドミニストレーター(URA)、IRerなど多くの専門職が例示されてきた。当初の提起が「高度専門職」だったこともあって、ここから、大学職員の専門職化とは、教育研究に関する特定分野の専門家を指し、それはドクターを出た高度な知識を持った者で、それをどういう資格や処遇で外部から採用し、また大学間で異動させるかという議論が主流になっていた。しかし、現実には外部人材だけで教育研究の質向上はできず、今いる職員を如何に専門職に育てるか、また専門的職員は教育研究の特定分野だけではない。この在り方については、まだ委員の中で一致を見たとは言えない。

職員の位置付けと役割

 私が最も重要だと思ったのは「事務を処理するために専任職員を置く」という大学設置基準第41条の改訂である。これについては繰り返し中教審で発言した。反対する意見はなかったが、その必要性についての認識や切迫感には温度差があるように感じた。自らの41年間の職員生活の中で、職員提案が相手にされなかった苦闘の日々は恐らく体験した者でないと分からない。職員をどう位置付け、大学組織のどこに参画させ、運営にいかなる権限を持たせるか、ここが決定的な問題である。いくらSDが義務化され力をつけても、それを発揮する場所が無ければ宝の持ち腐れ、何の役にも立たない。力量の形成とそれを発揮するポジションの確立、この2つはセットである。

 これについての私の意見や提案は最後の取りまとめも含めかなり取り入れて頂いた。直ちに設置基準41条の改訂には至らなかったが、職員の位置を明確に示し、改訂の方向性が提示された点で画期的なものだと思っている。

大学職員の専門職化とは何か

専門職員に関する文科省の全国調査

 文科省は、2015年、専門的職員の配置状況に関わる初めての本格的な全国調査を行った。図2で示した結果から読み取れるように、現在、専門職として配置されているのは、以前からあった図書館での司書資格、学生の健康管理分野での保健師や看護師、施設管理分野での建築・施設関連資格、情報管理分野でのIT資格、新しい所では就職支援でのキャリアカウンセラー資格が上げられるくらいである。

 ただし、これから必要な分野となるとIR分野、つまりデータを分析し課題を見つけ政策提案のベースを作り得る人材や「執行部判断に対する総合的な補佐」、トップを支える人材など、特定分野の専門家というよりは必要な政策立案や改革の推進を担える力を持った総合力のある人材が求められていることが分かる。

 こうしたことから、求められるのは、特定分野の教育・研究支援を担う専門職人材とともに、トップを補佐しつつ大学全体の政策を企画し目的達成に向けて組織し調整できる高度なゼネラリスト、大学の現状や問題点を熟知し、解決策を提案・実行できる人材が求められていることが分かる。

専門的職員には2つの特性

 調査結果から読み取れるこの専門職の2つの特性は、それ以前の職員のあるべき姿をめぐる調査研究でも明らかになっている。大学職員論の草創期を担ったひとり孫福弘氏もゼネラリストとスペシャリストのハイブリッド型プロフェッショナルを職員の最終目標とし、大学行政管理職員と学術専門職員を位置付けている(山本眞一編『SDが変える大学の未来』2004年)。

 大学行政管理学会の調査・研究でも、大学職員の専門性とは特定分野の専門家だけでなく、高等教育全体に深い知見を持ち、当該大学の基本政策や固有の事情に精通し改革推進をリードできる人材はゼネラリストの専門性を備えた職員と見なすべきということだ(山本淳司「大学職員の『専門性』に関する一考察」『国立大学マネジメント』2006年12月号)。

 これらを総合すると専門的職員は、図3のような2つの特性に分けられる。中教審の提起する2つの機能に即して整理すると、第1の機能がゼネラリストの要素を持つアドミニストレーター、第2の機能がアカデミック・アドミニストレーターとなる。この2つの専門職が、連携し協働することなしに、大学教学の質向上とその推進マネジメントは実効性を持つことはできない。

力量を高め職員力を発揮するために

大学設置基準の改訂をどう読むか

 今回改訂された大学設置基準の第42条3項(研修の機会等)で、最も注目すべきは「職員に必要な知識及び技能を習得させ」るのは、「当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため」であり、事務処理の迅速化や効率化(もちろんこれも必要であるが)ではないという点だ。SDならもう十分やっていると年数回の定型的な業務研修を上げる大学もあるかもしれない。しかし改訂設置基準が求めているのは、教育研究そのものの質向上や高度化支援、教育・学生支援力の育成にある。入口(学生募集、入試)から、教育・学修支援、学生生活の充実、そして出口(資格取得やキャリア形成支援)に至る学生育成への職員の関与を深め、また教員を動かして教育の質向上を作り出す職員力、教学マネジメント力が求められている。「大学」設置基準なので、経営や総務、財務職務については直接触れていないが、教育研究の効果的な運営や資源投下を図るこれらの分野の力量向上も当然に対象に入る。

 設置基準改訂の省令通知の留意事項では、SDには事務職員だけでなく教員等大学執行部も含まれるとするが、教育研究をマネジメントする大学行政管理能力の育成は、教職の幹部集団一体で行われるべきである。またSDは、各大学の実態や目的を踏まえて行われるが、その際「計画的、組織的」な取り組み、そして「職員の研修の実施方針・計画が全学的に策定」され実効性あるものになっているかどうかが求められている。

SD、職員の育成制度の構築

 職員を育てる、力をつけるSDとは、研修制度の充実のみではない。本物の力を付けるのは図4に示した力量向上のトータルシステムが必要だ。

 もちろん学内研修制度の充実は必要だ。年1〜2回程度の知識習得型研修ではなかなか力はつかない。演習・討議などアクティブラーニングの手法や、年代別・テーマ別などの体系化、実際の業務を素材にする実戦形式等の工夫がいる。個人の研修計画の立案と資金面や勤務上の配慮なども重要だ。

 人事考課制度も48.1%の大学に導入され(私学高等教育研究所調査、2010年10月『財務、職員調査から見た私大経営改革』以下私高研調査)、資格基準や職務レベル、育成システムを明確に設定し上級管理者育成を系統的に行っている所も出てきている。例えば『私学経営』誌に紹介された龍谷大学、関西学院(2015年5月号)や京都産業大学(同4月号)等の事例である。しかし一方、同私高研調査では、評価制度はあるが面接がない所や評価と育成が結びついていない所も半分近くある。査定型評価では育成に効果が少ない。求められているのは企画・開発力や学生育成支援力であり、目標を明確に主体的行動を促すものに進化させねばならない。

 その点では、目標管理制度、年間業務に目標やテーマを設定してチャレンジしそれを評価し励ます取り組みは効果が大きい。中期計画等で実際に求められている課題をブレークダウンすることで改革方針も浸透し、また多くの職員が現実の改革課題を担いチャレンジすることで経営・教学改善も進み、かつ成長にもつながる。

 管理者昇格制度または専門職への昇任を如何に行うかも重要な育成の機会である。年功序列を改め、あるべき管理者像を示し考課制度でチェック、論文や業務提案、面接等ふさわしい昇格試験を行うなど意図的に昇格を教育システムとして活用することが求められる。

 そして、全ての人事・業務・運営・組織を育成型にする、この視点で業務運営と組織を見直すことも重要である。求める人材像を明確にした採用から成長を意識した配置・異動・任命等様々な育成のチャンスがあり、プロジェクトやワーキンググループ等も横断的な育成機会となる。組織も硬い縦割りから改変し、会議の持ち方や業務改善、提案制度やプレゼン体験、表彰制度等、様々な工夫で思わぬ効果が得られる。この点では、『大学職員は変わる』(上杉道世著)にある、東京大学での事務局改革のトータルプランの取組みが参考になる。

 そして積極的に外部研修に派遣し、大学院入学等の専門機関での学習を支援し評価する。私大は基本他大学異動がなく、外部で学ぶことは大きな刺激であり、また他流試合、人脈形成、情報交換など成長のチャンスでもある。大学院に進学する職員は増えてはいるがまだ7.4%。専門的・体系的に学ぶまたとない機会である。

 そしてその全ての基本にOJD(オンザジョブ・ディベロップメント)、開発行動を通じた育成、即ち自らの業務の中で改革を企画提案し実践し、成果を上げること。自分の頭で解決策を考え実行管理し結果を出す、これを育成システムに組み込むこと、最後はこれしかない。これが現実を変える本物の力となる。そしてそれらの基礎には、図4に示した3つの領域の基礎・専門知識がある。

役割を高め、運営に参画する

 最後に強調したいのは、職員の運営参画である。私高研調査によると職員が提案、発言する風土や運営がないとする大学は約半数(47%)に上る。職員は、大学運営や教学方針に口を出すべき職務ではない、教育のことは教員が決めるという根強い意識がある。前掲の設置基準第41条の事務処理規程、これが教授会自治、教員統治の伝統と相まって職員の大学運営参画を押し止めてきた。

 今回の中教審の審議の結論「現行の事務組織は大学設置基準上単に事務を処理することが目的とされている等、事務組織及び事務職員に対する期待の高まりやその役割の重要性等に必ずしも対応するものとなっていない。事務組織及び事務職員がこれまで以上に積極的な役割を担い、大学運営の一翼を担う機能をより一層発揮できるようさらに検討を深め、その結果を法令等に反映させる」は非常に重要かつ意義がある。今回の提起が、国公私大約10万人の現職職員(事務系)の役割の拡大と成長を後押しし、経営参加、大学運営参画の飛躍的前進につながることを期待したい。

 全国の大学職員は是非この方針に着目し、またその積極面を生かして積年の改革課題にチャレンジして頂きたい。大学に再び訪れる厳しい時代を見据えると、職員の力量とその役割の飛躍的向上こそが大学の生存と進化にとって必須の条件だと言える。

篠田 道夫(桜美林大学教授、日本福祉大学学園参与、中央教育審議会大学分科会大学教育部会委員)