オホーツクでしかできない学びと経験で、学生のわくわくと成長を支援/東京農業大学 北海道オホーツクキャンパス

東京農業大学 北海道オホーツクキャンパス 副学長 生物産業学部 海洋水産学科 教授 千葉 晋 氏

 北海道・網走に拠点を置く、東京農業大学生物産業学部の北海道オホーツクキャンパス。このキャンパスには農業や海洋等に関わる4つの学科があり、毎年360名ほどの学生が全国から集まっている。驚くべきことに、1989年に網走にキャンパスが置かれてから35年間、一度も入学者が定員割れになったことがない。なぜ、この“日本のさいはての北の大地”に学生が集まり続けるのか。何が10代を魅了するのか。北海道オホーツクキャンパスの千葉 晋副学長にお話を伺った。

全国からオホーツクに学生が集まる

 北海道オホーツクキャンパスがある網走近郊は、北海道のなかでも、海と大地の実りが特に豊かな土地。食料自給率1068%にものぼり、まさに日本の食料生産基地として大きな役割を担うエリアだ。生物産業学部はここに、農業生産系の「北方圏農学科」、漁業生産系の「海洋水産学科」、加工産業の「食香粧化学科」、自然環境ビジネスの「自然資源経営学科」の4つの学科を置く。

 「農業、漁業ともに食料生産が豊かな場所ですので、研究課題もたくさんあります。土地がなぜ肥沃なのか、オホーツクの海はなぜ豊穣なのか?例えば、農林水産物のなかで最も外貨を稼いでいるホタテの約半数がこのオホーツクで安定生産されていましたが、気候変動によって不安定になる年が出てきています。こうした作物や水産物の収穫量や種類の変動、代替作物の研究等も大きな課題です。こうしたアカデミアの研究拠点の多くは都市にありますが、東京農業大学の生物産業学部は、オホーツクという食料生産の現場に根差したアカデミアとして存在していることがほかにはない特徴になっています」(千葉氏)

 表の地域別入学者割合にあるように、このオホーツクのキャンパスに全国から学生が集まっている。約9割が北海道以外からの学生だ。しかも距離的に近い東北だけではなく、沖縄や九州からの学生も少なくない。学科としては『北方圏農学科』と『海洋水産学科』は特に安定して学生が集まっているという。


2024年度在学生出身地域別一覧

海も陸も、オホーツク全体がキャンパス
ここにしかない学びのフィールドが広がる

 なぜ全国から学生が集まるのか。農業・漁業や自然への高い関心をもつ学生は一定数いると考えられるが、オホーツクという自然の中で学ぶということ自体にも学生をひきつける要素があるようだ。

 オホーツクキャンパスの学びについて「自然のなかで食料生産という産業の本物に触れ、現実を知り、五感で体験して学べるところがほかの大学にない特徴」と千葉氏が語るように、オホーツクで学ぶ学生達の生活は非常にユニークだ。現地の通称「農家バイト」「漁業バイト」に多くの学生が携わり、食料生産産業の現場と人に触れる機会が多いのだ。学外の学びだけでなく、リアルを体験するとともに、働く大人との接点も多いという。

 「学生にとってバイトの最初のきっかけはお金を稼ぐことですが、生産の現場で働くことで『こうやってホタテが獲れているんだ』『じゃがいもやビートはこうやって育てられているんだ』ということを知ることができます。また現場の大人とのコミュニケーションも身についていきますし、生産物がスーパーに並び消費者の手に渡るまでの流れや、流通が抱える問題等、社会の仕組みもわかる。学びの場が学校の中だけにおさまらず、バイトを通じた現場にも広がっていることは、このオホーツクキャンパスならではの特徴だと思います」(千葉氏)

 キャンパスに限らず、オホーツクの農場や漁場と、そこで働く人々との交流といった学生生活の全てが、ここにしかない体験になっていることが学生をひきつける大きな要素となっている。

 こういった学生のバイトは、実のところ生産現場にとっても貴重な労働力にもなっている。網走市の人口は約3万2000人だが、そのうち18歳から20代前半の人口の約半数が東京農大生。地元からも若手の働きは頼りにされ、自ずと学生と社会との接点が増えていくという好循環も生まれている。


写真 知床等での森林研究、ホタテ漁業バイト

大学と地域に愛着を持つ「回帰率」を重視
将来の東京農大生を生むサイクルを作る

 こうした網走ならではの地域と大学の関係性は来てから体験できるものだが、それ以前に、なぜオホーツクのキャンパスを選んで学生はやってくるのか。東京農大で実施されたアンケート調査によると3つの理由が見えてきた、と千葉氏は語る。

 1つめは大学の偏差値やブランド名よりも、自分の好きなことを追求したいという志向が強いこと。

 2つめは、オホーツクに行けばユニークな自分が見つけられる、あるいは成長できるというような期待感を持っているということ。特に関東や関西の大都会から来る学生たちの意見として「都会にいたら自分が埋もれてしまう。とりわけ向上心が高いという自覚はないが、その他大勢のままでいる自分も嫌だ」という声が顕著に聞こえてくるという。

 3つめが映像でしか見たことない大自然のなかで、リアルな当事者として活躍できるということ。

 「おそらくこの3つがオホーツクに集まってくる学生の特徴であり、私たちはそこに訴求していけば、今後も安定して学生達を呼べるのではないかと思っています。特に3つめの“自分自身がプレーヤーになれる”ことは、学生たちが本当に魅力に感じているようです」(千葉氏)

 こうした志向的な条件に加え、千葉氏は卒業生たちが東京農大とのつながりを大切にし、オホーツクに遊びに来たり、大学の同窓会に顔を出す、といった行動にも着目し、「回帰率」と称して重視していると言う。

 「同じ釜の飯を食った仲間、といったつながりの意識は大学や地域の未来にとっても大切です。卒業生の多くはオホーツクから出ていくのですが、最近では卒業生のお子さんがオホーツクキャンパスに入学することも増えています。こういったことがとても大切だと考えています。卒業後の学生の地域定着だけではない指標で大学の価値を考えていく必要性を感じています」(千葉氏)

(文/木原昌子)





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