大学を強くする「大学経営改革」[64] 内部質保証システムとIRを確立して「評価」を大学機能の高度化につなげる 吉武博通

大学の活動は「評価」を抜きに語れない

 大学が担う教育、研究、社会貢献に対する期待が高まる一方で、大学を支える経済・財政的環境が厳しさを増す中、教育研究活動等の質を保証し、それらの活動の改善を促し、その状況を社会に示すことを目的とする「評価」が一層重要になりつつある。

 大学に係る評価について、近年の歩みを簡単に振り返ると、1991年の設置基準の大綱化に併せて、自己点検・評価が努力義務化され、1999年にはその実施が結果の公表とともに義務化され、加えて、学外者による検証が努力義務化されている。さらに、2002年の学校教育法改正により、自己点検・評価の実施と結果の公表に係る規定が法律上明示されるとともに、認証評価制度(機関別認証評価と専門職大学院評価)が導入され、ともに2004年度から施行されることとなった。

 また、2004年の国立大学の法人化に伴い、国立大学法人評価が開始され、公立大学についても2004年以降、法人化された大学について公立大学法人評価が実施されることとなった。

 私立大学については、1984年度に学校法人運営調査制度が創設されているが、2014年の私立学校法改正により、学校法人の運営が法令等に違反し、著しく不適正な状態に陥っているときに、所轄庁が報告徴収・立入検査、措置命令、従わない場合の役員解任勧告を行える仕組みが整備された。

 これ以外にも、大学改革を促進するための国の補助事業においては、達成状況の確認と改善のための評価体制の構築が求められ、採択後は中間評価と事後評価が実施される。

 このように、いまや大学の活動は評価を抜きに語れないと言って過言ではない。その一方で、「評価疲れ」という言葉に象徴される通り、評価にかかる負荷の増大を問題視する声や評価自体の実効性を疑問視する見方も広がっているように思われる。

 「評価」が不可欠であることは言うまでもなく、その充実に向けた課題も多い。同時に、「評価のための評価」に陥ることなく、それに費やされる資源や時間を抑えながら、実効性の高い評価を目指していかなければならない。

 本稿では、そのために何が必要かについて、多角的に検討してみたい。

社会からの理解と支持、教職員への浸透に課題

 最初に、機関別認証評価について、大学評価・学位授与機構(以下略称NIAD)、大学基準協会(以下JUAA)、日本高等教育評価機構(以下JIHEE)がそれぞれ実施したアンケート結果を基に、成果や課題を見てみたい。

 NIADは、毎年度、評価の実施直後に評価対象校と評価担当者にアンケートを実施しているが、第1サイクル(2005年度から2011年度)の結果を総合して分析した『進化する大学機関別認証評価−第1サイクルの検証と第2サイクルにおける改善−』(2013.3)から要点を拾い出すと以下の通りとなる。

  • NIADが掲げる評価の3つの目的のうち、「質の保証」と「改善の促進」について、概ね達成できたと考えている大学が9割に達する一方で、「社会からの理解と支持」については6割強にとどまっている。
  • 認証評価を受けるに当たって自己評価を行ったことによる効果・影響については、「教育研究活動等について全般的に把握」と「教育研究活動等の今後の課題を把握」の質問に9割を超える肯定的な回答があったのに対して、「各教員の教育研究活動等に取り組む意識が向上」と「教育研究活動等を組織的に運営することの重要性が教職員に浸透」の質問に対する肯定的な回答は4割強にとどまっている。
  • 「 自己評価書に添付する資料は、既に蓄積していたもので十分対応することができた」という質問に対する肯定的な回答は約4割にとどまり、対象校の半数以上が新たに資料・データを収集していたことがうかがえる。
  • 評価に費やした作業量のうち、「自己評価書の作成」については、約6割がとても大きい、約3割が大きいと回答しており、特に、根拠資料・データの収集や学内調整(本部と各部局間)のための作業量が大きかったとの意見が多く寄せられている。

肯定的な評価が多い一方で作業量に課題

 JUAAが2011年度から2014 年度に同協会の大学評価を受けた大学に対して行ったアンケートでは、自己点検・評価活動による効果と認証評価結果による効果について、それぞれにほぼ同じ内容の13個の質問を行っている。(JUAA, 2015.10,『 第2期大学評価(認証評価)の有効性に関する調査中間報告』参照)

 自己点検・評価活動による効果については、いずれの質問に対しても肯定的な回答(5段階のうち「該当する」と「おおむね該当する」を合わせたもの)が多く、「課題が明確になった」は9割を超えている。その一方で、「内部質保証システムが一層機能するようになった」はやや低く、肯定的な回答が約6割にとどまっている。

 認証評価結果による効果については、いずれの質問においても肯定的な回答が一段と高まる傾向にあり、「課題が明確になった」、「明確になった課題への改善に取り組むようになった」、「成果を出している取り組みが明確になった」はいずれも9割以上になっている。その一方で、「他大学の『大学評価結果』を自大学の取り組みに活用するようになった」に対する肯定的回答が5割強にとどまっている点は留意しておく必要がある。

 作業量については、「貴大学担当部署の作業量は、適切であった」について、肯定的な回答は4割以下にとどまり、ここでも大きな課題となっていることが分かる。

 作業量の問題は、JIHEEが2012年7月にまとめた『平成23年度認証評価に関する調査研究』でも明らかであり、「受審にかかる事務負担の軽減」を期待するかについては、「とても期待する」と「期待する」を合わせると9割を超える。同機構の評価を受審する大学の学部収容定員をみると、501~1000人規模の大学が最も多く、1001~1500人規模校まで合わせると約5割に達する。作業量問題は、中小規模校においてより深刻であることを十分に考慮しておく必要がある。

法人評価のあり方も問い直す必要がある

 機関別認証評価以外に、国立大学法人と公立大学法人には、中期計画及び年度計画に基づいて行った業務の実績に対する「法人評価」が課されている。

 国立大学法人の第1期中期目標期間(2004年度~2009年度)の業務実績に対する評価では、「教育研究等の質の向上の状況」と「業務運営の改善・効率化」について、ほぼ全大学が「おおむね良好である」以上の評定を得ている。また、学部・研究科等の教育研究の現況分析においても、教育と研究のそれぞれについて「期待される水準」以上にあるとされている。

 第2期中期目標期間における年度評価においても業務運営に関して、毎年9割を超える大学が「順調に進んでいる」以上の評定を得ているが、国は、「国立大学改革プラン」、「ミッションの再定義」、「国立大学経営力戦略」、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」等の方針を次々と示している。国立大学が社会的要請に応えていないとの認識に基づくものだとしたら、中期目標・計画や法人評価の仕組み自体の根本が問われることになる。

 公立大学協会が行った公立大学法人評価に対するアンケートでは、同一の質問に対する肯定的な回答の割合が、公立大学法人を評価する評価委員長と設立団体の回答に比べて、法人側の回答の方が小さいケースが見受けられる。また、公立大学法人評価においても、法人の負担感の大きさが指摘されている。(公立大学協会, 2015.3,『公立大学法人評価に関する調査研究』参照)

 国立大学法人と公立大学法人では事情が異なる面もあるが、法人評価のあり方を問い直す時期に来ているように思われる。

内部質保証システムを構築し、質の文化を定着させる

 自己点検・評価、認証評価、法人評価のいずれにおいても、「評価」が一定の役割を果たしていることは肯定的な回答が多いことからも明らかである。

 一方で、アンケートに対する大学側の回答者の多くは評価を担当する役員や教職員である。学部・研究科や各部署の活動に如何なる効果をもたらしているのかが十分明らかにされているわけではない。また、評価に対する認知や関心が広がらない限り、社会への説明という目的を果たし得ない。加えて、作業量の大きさについてはいずれの評価でも大きな問題となっている。

 これらの課題に対処するために最も注力すべきは、大学自らの意思と工夫により、「内部質保証システム」と「IR(Institutional Research)」を確立し、それを定着させることである。

 JUAAは、第2期の認証評価に当たり、「内部質保証システム」の構築を評価システム改革の主眼としている。評価に客観性は不可欠だが、評価者と被評価者の間の情報の非対称性は、如何に精緻化しても解消されることはなく、コストも増加する。

 JUAAは、内部質保証(Internal Quality Assurance)を、「PDCAサイクル等の方法を適切に機能させることによって、質の向上を図り、教育・学習その他のサービスが一定水準にあることを大学自らの責任で説明・証明していく学内の恒常的・継続的プロセス」(大学基準協会『大学評価ハンドブック』)であると説明する。

 NIADは、内部質保証を「高等教育機関が、自らの責任で自学の諸活動について点検・評価を行い、その結果をもとに改革・改善に努め、これによって、その質を自ら保証すること」(大学評価・学位授与機構『高等教育に関する質保証関係用語集第三版』)と定義している。

 同機構の林 隆之准教授は、大学自身が第一義的に負う教育の質保証責任について、「それぞれの教育プログラムを提供する教員や部局自らがその質を保証する責任」と「機関としての大学がその内部で提供する教育プログラムの質保証を行う責任」の2つを挙げた上で、「教育内容や方法を創造的に進化・発展させ、継続的に質の向上を進めていくことを促進」し、「質の文化(Quality Culture)」として定着させることの重要性を指摘している。

 そして、「内部質保証が十分に整備されていれば、『内部質保証システムの有効性』の確認のみに焦点をおくオーディッド型外部質保証もありうる」と述べる。(林 隆之, 2013.3,「教育の内部質保証システム構築に関するガイドライン(案)」内部質保証システムの構造・人材・知識基盤の開発に関する研究会報告より)

 「評価」は、国が法令で義務づけ、それを受けて大学が学部・研究科に、学部・研究科が教員に指示または協力を要請する形で進められてきた。制度上、この関係が変わることはないが、より重要なことは、教員個々あるいは組織単位で自発的に教育内容や方法の改善が進む状況をつくり出すことである。どうすればそれが実現するかを個々の大学の実情に即して考え、そこを出発点にして、教職員を参加させながら内部質保証システムを構築していく必要がある。

経営層が根拠データに基づく大学経営を意識・宣言

 もう一つの課題である「IR」については、近年急速に関心が高まり、IRを冠した組織を置く大学も見受けられるが、我が国の高等教育全体としてみれば緒に就いたばかりといえる。

 如何なる組織であろうとも、それを維持・発展させていくためには、目指す方向を定め、機能を高度化させ、その成果を発信しながら、ステークホルダーや社会の支持を得ていかなければならない。競争が激化し、経済環境が厳しさを増せば尚更である。

 そのためには、ヒト、モノ、カネと並ぶ4つの経営資源の一つとされる「情報」の収集、分析、活用が不可欠であり、その巧拙が組織の持続可能性を左右すると言って過言ではない。大学においてIRが重視される理由もこの点にある。

 IRを確立し、定着させるために特に必要なことは、①IRの目的の明確化、②収集する情報の選択・整理、③情報の収集・管理に係る組織の役割・責任体制、④情報を活用する能力の向上、⑤データウェアハウスの構築等情報インフラの整備、の5つである。

 大学には、数値を用いて議論することに抵抗感を抱く教員も少なくない。教育や研究の成果は数値で測れないというのがその理由である。また、学部・研究科や事務組織の各部署がデータを保有しながら、他部署に提供したがらないという傾向も見られる。

 情報は数値情報だけに限らず、定性情報も必要だし、定量・定性のいずれの情報でも表せない皮膚感覚や直感も重視すべきであろう。そのことも含めて、組織全体として情報に対する感度を高め、大学機能の高度化のために情報を最大限活用するという意識を定着させていく必要がある。

 IRの取り組みで注目される佐賀大学の佛坂孝夫学長(2015年9月退任)は、「学長をはじめとする大学の経営層が根拠データに基づく大学経営を行うことをまず意識・宣言し、改善評価を実践していこうとすることである。そうした中で大学の構成員全体が共通認識を持ち、改善に向けたPDCAサイクルの仕組みが自ずと醸成されていくことになるはずである」(佛坂孝夫, 2015.2,『大学版IRの導入と活用の実際』実業之日本社)と述べている。

 懸念すべきは、IRを担当する専任職員の配置や情報インフラへの投資が可能な大規模校と、それらが容易ではない中小規模校の間に差が生じる可能性があるという点である。IRの仕組みやデータウェアハウスの構築を複数校が共同で行う等の方策を講じる必要もある。


IRの確立・定着に向けて必要な事項


より良き「評価」の仕組みの構築を目指す時期

 ここまで内部質保証システムとIRについて述べてきたが、「評価」の課題はこれだけにとどまらない。

 設置認可との関係を含めて認証評価の目的をより明確にする必要があり、国公立大学の法人評価と認証評価の関係についてもさらなる改善が求められる。

 また、現行の機関別認証評価は、当該大学の教育研究等の総合的な状況について評価を受けることになっているが、「分野別の教育課程評価こそ、充実させていくことが求められる」(舘 昭, 2007.7,『改めて「大学制度とは何か」を問う』東信堂)との指摘もある。日本技術者教育認定機構(JABEE)の「技術者教育プログラム認定」は任意であるがその一つであり、国際的同等性を確保するため、ワシントン協定等国際的な枠組みに加盟している。

 教育の成果の測定も引き続き大きな課題である。山田礼子同志社大学教授を中心に、長期にわたり継続的に実施されている「学生調査」にも注目したい。

 これまでの様々な取り組みによって蓄積された知見に基づき、より良き「評価」の仕組みの構築を目指す時期にきている。



(吉武 博通 筑波大学 ビジネスサイエンス系教授)


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