大学を強くする「大学経営改革」[74] 女性研究者の活躍促進のための取り組みを通して大学のこれからを考える 吉武博通

世界114位にとどまるジェンダーギャップ指数

 「世界経済フォーラム」が2017年11月に公表したジェンダーギャップ指数(各国の男女格差を指数化したもので、以下GGI)で、日本は144カ国中114位と、前年に続き過去最低を更新した。

 2003年に国は、「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位(議会議員、法人・団体等における課長相当職以上の者、専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者)に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるように期待する」という目標(『2020年30%』目標)を掲げ、実現に向けた施策を展開してきた。

 民間企業をはじめ社会の様々な分野においても、国の方針に沿って、あるいは自発的に、女性の活躍を促進する取り組みが行われている。

 それにもかかわらずGGIの世界順位が低迷している背景には、世界各国が日本を上回るペースで取り組んでいるという要因もあるが、それ以上に、我が国の社会や組織に内在する問題があることを認識し、これまでの活動が部分的・表層的なレベルにとどまっていないか等、厳しく検証する必要がある。

 大学は、初等・中等教育と社会をつなぎ、その教育研究については、成果の提供を通して社会の発展に寄与することが期待されている。男女共同参画社会の形成にも、より能動的に関わっていかなければならない。

 加えて、大学自らも女性教員・職員の活躍を促進し、多様な構成員が能力を最大限に発揮できる組織に変わっていく必要がある。

 本稿では、国がこれまで推進してきた女性研究者研究活動支援事業を振り返り、その成果と課題を整理することで、大学のこれからを考える視点を提示したい。

 なお、本稿で「女性研究者」という場合は、大学等の研究者(教員、大学院博士課程の在籍者、医局員、その他の研究員)のほか、企業、非営利団体・公的機関の研究者も含む。

「男女共同参画社会の形成」と「積極的改善措置」

 はじめに、女性研究者の研究活動支援の背景となる2つの大きな流れを押さえておきたい。

 1999年に制定された「男女共同参画社会基本法」は、前文で「男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題」とした上で、第二条において「男女共同参画社会の形成」と「積極的改善措置」の2つの用語の意義を以下の通り定めている。

  • 男女共同参画社会の形成:男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう。
  • 積極的改善措置:前号に規定する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供することをいう。

 ここでいう「積極的改善措置」が、ポジティブ・アクションと呼ばれているものである。

 ちなみに、ポジティブ・アクションには、性別を基準に一定の人数や割合を割り当てる「クオータ制」、能力が同等である場合に一方を優先的に取り扱う「プラス・ファクター方式」、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示してその実現に努力する「ゴール・アンド・タイムテーブル方式」、女性の参画の拡大を図るための基盤整備を推進する方式等がある(内閣府男女共同参画局ホームページ参照)。

 この法律に基づき、国は5年ごとに基本計画を策定しており、2015年12月閣議決定の「第4次男女共同参画基本計画」においても、第3次に続き「科学技術・学術における男女共同参画の推進」を掲げ、施策の基本的方向と具体的な取り組みを示している。

女性研究者採用割合を自然科学系全体で30%へ

 もう一つの流れが、1995年制定の「科学技術基本法」に基づき、5年ごとに策定されている「科学技術基本計画」である。

 同計画において、女性研究者の活躍促進を本格的に掲げたのは、2006年度から2010年度を期間とする「第3期科学技術基本計画」である。その中で、期待される女性研究者の採用目標として、自然科学系全体で25%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、保健系30%)という数値が初めて示された。これを受けて、国による女性研究者研究活動支援事業が本格化する。

 2011年度から始まる「第4期科学技術基本計画」では、女性研究者は年々増加傾向にあるものの、その割合は諸外国と比較してなお低い水準にあるとの認識に基づき、第3期計画で掲げた自然科学系25%の採用割合の早期達成に加えて、さらに30%まで高めて(理学系20%、工学系15%、農学系30%の早期達成及び医学・歯学・薬学系合わせて30%の達成を目指す)、関連する取り組みを促進する方針が示された。

 この目標は、2016年度から始まる「第5期科学技術基本計画」にも引き継がれ、第5期期間中に速やかに達成するとの方針が示されている。なお、これらの数値目標は「第4次男女共同参画基本計画」にも反映されている。

 目標値に対する達成度を確認すると、研究者採用に占める女性割合は、2014 年度時点で、理学系20%に対して15.2%、工学系15%に対して11.6%、農学系30%に対して20.3%、保健系30%に対して34.2%、自然科学系全体で30%に対して28.1%となっている(内閣府「第4次男女共同参画基本計画における成果目標の動向」2017年6月16日時点より)。

 また、女性研究者数は、2016年3月31日時点で13万8400人、研究者全体に占める割合は過去最高の15.3%になっており、2007年から2.9ポイント上昇している。その一方で、英国37.4%、米国34.3%、独28.0%、仏26.1%など、欧米先進国とはなお大きな開きがあり、韓国の18.9%をも下回っている(総務省統計局「統計トピックスNo.100」(2017年4月)より)。

研究環境のダイバーシティ実現に向けて

 次に、国が推進してきた女性研究者研究活動支援事業を、ホームページで確認できる公表情報に基づき振り返り(次頁を参照)、大学に焦点を絞り、その成果と課題を検討する。

 まず、研究と出産・育児等ライフイベントを両立できる研究環境の整備や意識改革を促すことを目的に、2006年度に「女性研究者支援モデル育成プログラム」が開始される。

 また、2009年度からの2年間は、女性研究者の採用割合が低い理学系・工学系・農学系の研究を行う優れた研究者の養成を加速するべく「女性研究者養成システム改革加速プログラム」が加わる。

 2011年度からは出産・子育て・介護と研究を両立するための環境整備を促すため「女性研究者研究活動支援事業」が開始され、ワークライフバランスへの配慮、女性研究者の研究力向上、上位職への積極登用、他大学や企業等との連携による取り組みの普及を支援する枠組みも強化されていく。

 さらに、2015年度からは「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」として、女性研究者の積極採用やライフイベントによる研究中断からの復帰・復職支援を含め、研究環境のダイバーシティ実現に向けた体系的・組織的な取り組みを支援している。

 これらの事業が支援した取り組みは、両立支援、意識改革、ポジティブ・アクション、研究力向上、次世代育成の5つにまとめることができる。

両立支援、ポジティブ・アクション、研究力向上

 なかでも、プログラムに採択された機関の取り組み事例を見ると、両立支援、ポジティブ・アクション、研究力向上の3点に、特に力を入れてきたことがわかる。

 ここでいう「両立支援」とは、研究とライフイベントの両立、仕事と生活の両立を促すための取り組みである。

 研究支援員の配置、ライフイベントによる研究中断からの復帰支援(例えば、スタートアップ研究費、学会参加、論文投稿の支援)、学内保育施設の設置、病児・病後児保育や学童保育に対する支援、相談体制の整備等が主な施策として挙げられる。

 研究支援員は、出産・育児・介護等により十分な研究時間を確保できない研究者の研究活動を支援する制度であり、調査・実験の補助、データ入力・分析、資料作成等がその業務となる。これらの補助業務はスキルアップや将来のキャリアを考える機会ともなり得ることから、大学院生や学部生を支援員として雇用する大学が多い。

 また、「ポジティブ・アクション」には、女性教員を採用する部局に対するインセンティブ付与、女性採用枠の設定、女性限定公募のほか、上位職への積極登用も含まれる。

 女性限定公募を前提に学長裁量枠を部局に配分する、女性教員増加を全学方針として示した上で、中長期的な人事計画を部局に提出させる等、ガバナンス改革の方向に沿って、学長権限を有効に機能させつつ推進している様子が窺える。

 「研究力向上」に向けた施策としては、競争的資金獲得や研究スキルアップ(例えば、英語論文作成、英語プレゼン等)を目的としたセミナー、女性研究者をPI(Principal Investigator)とする共同研究への支援、国際学会参加への支援、シニア教員や先輩教員をメンターとする支援体制等が挙げられる。


図 国による女性研究者研究活動支援事業の推移

支援事業により明らかになってきた成果と課題

 文部科学省の委託を受けてプロジェクトの公募・審査、推進・評価などの業務を行う科学技術振興機構の山村康子プログラム主管は、研究環境整備が進んだことで、ライフイベント要因の女性研究者の離職者が大幅に減少したこと、ライフイベント期間中に支援を受けた女性研究者の研究業績が高い水準に維持されていること、産休・育休を取りやすくなる等、職場の意識・環境も変わってきたこと等の成果を挙げる。

 また、大学執行部と部局の間にあった温度差が、プログラムに採択され、それを推進する中で縮小してきたこと、採用割合や在職割合等を目標値化することで、全学や部局の女性教員数に関心が向くようになったこと等、大学運営面での効果にも注目する。

 その上で、プログラム実施機関を中心に取り組みが活発な大学とそうでない大学の間で差が生じている可能性があること、推進の要となるコーディネータの多くが任期付であり、ポジションが不安定であること、女性限定公募を行っても応募がない等地方の大学に不利な状況が見られること、工学系で女性研究者の取り合いが生じていること等の課題を指摘する。

10年間で女性教員比率は6.0ポイント上昇

 文部科学省「学校基本調査」によると、2017年度(速報)における女子学生比率は学部44.8%、修士課程31.0%、博士課程33.4%であり、学部学生のうち理学の女子学生比率は27.2%、工学は14.5%となっている。

 一方、本務教員に占める女性比率は24.2%であり、職名別女性比率は助教29.8%、講師31.8%、准教授24.2%、教授16.2%と、上位職になるほど女性比率が減少する傾向は続いている。

 これらの数字を10年前の2007年度と比べると、女子学生比率が学部で4.1、修士で0.5、博士で2.7ポイント上昇しているのに対して、女性教員比率は18.2%から6.0ポイントの上昇となっている。また、職名別では准教授が6.0、教授が5.1ポイント上昇している。女子学生比率の上昇を上回るペースで教員の女性比率が上昇しているが、看護系教員の増加の影響を考慮する必要もあり、そのペースは緩やかと言わざるを得ない。仮に、年平均0.6ポイントの上昇が続いたとして、女性教員比率が30%に達するのは10年後になる。

 だからといって高い目標を掲げ、ただ加速すれば良いというものでもない。基本となるのは、これまでの取り組みで有効性が高いことが確認された施策を持続・定着させること、それらを他機関や地域に広く波及させること、より根の深い構造的な課題に、長期的な目標を明確にしながら戦略的に取り組むこと、の3つである。

女性のキャリア形成にいかなる役割を果たすべきか

 構造的課題の一つは次世代育成である。学部段階の女子学生比率は男子に対して10ポイント低く、なお開きがある。その差は修士課程になると38ポイント、博士課程では33ポイントとなる。自然科学系とりわけ理学・工学系における女子学生比率の低さも影響している。

 GGIの教育分野を見ると、日本は初等教育・中等教育の在学率はともに1位であるのに対して、高等教育の在学率は101位である。

 この問題に関して、国立女性教育会館の内海房子理事長は、「GGIの上位国はいずれもPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の数学テストで平均点に男女差がないのに対して、日本は女子が男子に比べ20点も低い。初等・中等教育段階や家庭環境によって形成された意識に原因があるのだろう。研究者として活躍する女性、理工系分野で活躍する女性のロールモデルを増やしていく必要がある。大学の果たす役割は極めて大きい」と大学の取り組みに期待を寄せる。

 2つ目の課題は「意識」である。男女共同参画学協会連絡会は「無意識のバイアス-Unconscious Bias-を知っていますか?」のリーフレットを作成し、この概念に対する理解活動を展開している。

 女子は数学が苦手、女性はエンジニアに向かない等の固定観念もこれに含まれる。バイアスが採用・昇任の審査に及ぼす影響も指摘されている。

 女性教員を急速に増やすことは難しくとも、意思決定プロセスに女性をより多く参画させることは、学長や部局長の強い意志があれば可能である。

 3つ目の課題は、山村氏も指摘する地域格差である。採用において地方の大学が不利な状況に置かれたり、夫婦が長期にわたり別居を余儀なくされたりという状況は容易には解決できない問題であるが、地域を超えた大学間連携や企業・自治体等との地域連携等により、それを克服する道筋を見出さなければならない。

 これらの3点は大学のこれからを考える上で重要な視点である。とりわけ1つ目の課題は大きい。次代の女性研究者育成という目的にとどまらず、大学は女性のキャリア形成にいかなる役割を果たすべきかについて、より大きな文脈の中で多面的に検討する必要がある。


【参考文献】
「無意識のバイアス– Unconscious Bias – を知っていますか?」男女共同参画学協
会連絡会(2017),【外部リンク】http://www.djrenrakukai.org



(吉武 博通 公立大学法人首都大学東京 理事)


【印刷用記事】
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