入学前に面談で育てる「育成型AO入試」/愛知東邦大学

 名古屋市名東区にキャンパスを構える愛知東邦大学は、学生1176名、専任教員46名、専任職員30名の大学である。全学の入学定員は350名で、うち100名がAO入試枠である。現在は、経営学部と人間学部の2学部構成であるが、2014年度からは経営学部、人間学部、教育学部の3学部構成となることが予定されている。

 愛知東邦大学では、2008年の定員割れを契機に、学生募集方針の転換をはじめとする、数々の改革を進めてきた。なかでも、AO入試出願前の事前面談を義務付け、「なぜ愛知東邦大学か、ほかの大学も見てきなさい」と問いかける「育成型AO入試」はユニークである。その他にも、全職員対応で学生の入学後の環境適応を個別にサポートする「TSS制度」など、個別対応を重視した改革を進めた結果、2011年には定員割れに歯止めがかかり、その後も志願者数の増加が続いている。愛知東邦大学での入試改革の経緯、内容、成果、及び今後の発展について、成田良一学長、村上道治入試広報課長、奥田緑入試広報課長補佐に話をうかがった。

愛知東邦大学における入試改革の経緯

 愛知東邦大学の母体となる東邦学園は、1923年の東邦商業学校の創設から数えて90年の歴史を持つ。愛知東邦大学は2001年に開学(当時の名称は東邦学園大学)、経営学部地域ビジネス学科の教育研究活動を開始した。その後、2007年には、健康や保育などの分野を志す学生のために人間学部(人間健康学科、子ども発達学科)を増設した。しかし、2008年に定員割れの事態に直面、また2008年に512名であった出願者数は、2009年には498名、2010年には422名と、その後も減り続けた。4年間での中途退学者も3割を超える状況であった。

 これに対し、愛知東邦大学では創立100周年を視野に入れた学園全体の将来計画を策定、学生募集の強化、中退防止に向けた短期的な改革を連続的に実施した。とりわけ、入試戦略の改革という点で大きな役割を果たしたのが、理事会のもとに設けられた「学生募集推進委員会」(2012年度より「学生募集戦略会議」に改称)である。

 改革以前の入試関連の会議は、入試戦略も実施も全てが大学内部の機関に任されていた。これに対し、2010年度に行われた入試改革は、学生募集戦略を理事会側の「学生募集推進委員会」に、入試の実施を大学側の「入試委員会」に、それぞれ明確に分担するものであった。改革以前の入試関連の議論は、学生数を増やしたい経営側と、学生の質を確保したい教学側の調整の場になりがちであったが、「学生募集推進委員会」の設置により、単なる経営と教学の調整を超えた入試改革のアイデアが提案されるようになったという。

 愛知東邦大学での入試改革において、もう一つ、重要な役割を果たしたのが、理事のリーダーシップと、職員の側からの積極的な提案である。愛知東邦大学では、2009年度に福島一政氏(現・追手門学院大学副学長、福井大学監事)が理事に就任、さらに2010年度には同氏が学生募集担当理事となり、入試改革推進の中心を担った。同時に、入試担当職員による学生ヒアリングが実施された。このヒアリングの分析の結果を踏まえ、新たな学生募集戦略として提案されたのが、AO入試におけるエントリーシートの廃止と、事前面談を出願条件とする「育成型AO入試」のアイデアであった。

育成型AO入試の目的とプロセス

 「育成型AO入試」の目的は、その名称が示す通り、教職員との対話を通じ、AO入試を通じて受験者自身が成長することにある。出願前に「なぜ大学に進学したいのか」「なぜこの大学を志望するのか」を対話のなかからさぐり、受験生は「自分の進路は自分で決める」ことを行う。そのうえで「育成型AO入試」において、大事にしているのはマッチングであると、成田学長は話す。受験者の進路と愛知東邦大学での学びの内容、また受験者と愛知東邦大学が持つ雰囲気が、うまくマッチングしているのか。これらをAO入試の過程において明確にすることで、入学後の不適応や中退を減らし、大学において成長するための準備を整えることが、「育成型AO入試」の目的となる。

 「育成型AO入試」の具体的なプロセスは、①AO入試要項の入手、②AOガイダンス参加、③出願書類の準備・提出、④一次試験(書類審査)、⑤一次試験合否発表、⑥二次試験(面接)、⑦二次試験合否発表、⑧入学前学習プログラム、の8つからなる(図表1)。なかでも、AO入試の際に、最低1回の面談(ガイダンス)を出願条件としているのが大きな特徴だ。またガイダンスの際に対応したサポーターは、出願書類の準備から入試に至るまで、継続して同じ受験生の相談に対応する。試験は一次、二次とあるが、「育成型AO入試」は年に4回実施されており、不合格者は何度もチャレンジが可能だ。その際にも改善点をサポーターに相談できる。またAO入試による内定者には、入学者プログラムをより念入りに課している。

 ガイダンスは、予約制AOガイダンス、イベント会場AOガイダンス、出前AOガイダンスの三種類。オープンキャンパス時にもガイダンスを実施している。オープンキャンパスでは、模擬授業や、学生スタッフによる案内を受けたあとでのガイダンスとなるため、愛知東邦大学を理解するうえでの効果を増していると成田学長は話す。

図表1 「育成型AO入試」のプロセス

職員サポーターが果たす役割

 「育成型AO入試」ではサポーターの果たす役割が大きい。ガイダンスで話をする「サポーター」は全職員で分担する。ガイダンスで話す内容は「将来どんな人になりたいか」、「その将来にあてはまる学科は愛知東邦大学にあるのか」、「似ている学科はほかの大学にもあるよ。見てきなさい。」といったものである。学生の獲得に躍起になるのではなく、あくまで、本当に愛知東邦大学に来たいのか、受験生の側に寄り添って話を聞く点に特徴がある。

 ガイダンスに来る高校生の実際の様子はどんなものか、実際にサポーターを担当してみての印象を尋ねてみた。ガイダンスに来る高校生は、不安を抱えて来るかというと、必ずしもそうではない。大学に来る理由を「考えていない」パターンが多いという。例えば、「なぜ大学に来るの?」と聞くと、「何でだろう?」との反応が返ってくる。また、将来について「夢は何?」と聞いても話せない受験生も多い。ところが、じっくりと話を聞き、反応を引き出していくと「そういえば」と話し出すようになる。そのほか、サポーターは、出願に向けた調書作成のための、調べ方、書き方のアドバイスも行うが、「こんなことに取り組んだのは初めてだ」の声も。この作業を夏休みにやることで、学生は非常に伸びるそうだ。

 また、サポーターとの関係は入学後も続く。愛知東邦大学では、高校生活から大学生活へと移行するうえで、新しい環境や生活習慣に適応できるよう、職員が一人ひとりの学生をサポートする仕組みとして「TSS 制度(TohoStudent Supporter)」を実施している。同取り組みでは、全職員対応で、1年次学生を15名程ずつ担当し、教員、カウンセラーとの連携を図る。AO入試を通じて入学した学生の場合、AOガイダンス担当のサポーターが、引き続き「TSS制度」でもサポーターとなる。1年次学生を対象とした取り組みではあるが、なかには、「TSS制度」を通じて生まれた学生同士、あるいは学生と職員の密な関係が、2年次以降にも引き継がれる事例もある。

改革の成果と「持参割」による一般入試改革

 愛知東邦大学における入試改革の成果は、志願者数の増加に顕著である(図表2)。「育成型AO入試」を導入した2011年度入試では、出願者795名、入学者352名と4年ぶりに定員割れの状況が解消された。出願者も、2012年には866名、2013年には1193名と増加を続けている。またAOガイダンスの参加者も、2011年の206名、2012年の215名、2013年の263名と、年々増えている。特にAOガイダンスの参加者は、3分の2がAO入試を含む何らかの入試で入学している。

 「育成型AO入試」の効果は、これら量的な変化に加え、学生の質にも影響を与えているという。「育成型AO入試」によって入学した学生は、改革以前の学生と比べた場合、入学時の積極性に違いがあるという。また、高校や保護者へのアピールという面でも効果は大きい。改革により、愛知東邦大学は「高校生と向き合っている大学」と見られるようになっており、特にAOガイダンスとTSSの取り組みが、高校側に注目されているという。「フェイス・ツー・フェイスで、直接、高校生と会って話しているのが強みである」と村上課長は話す。

 また育成型AO入試の成功は、さらなる入試改革へも力を与えている。例えば、2013年度のオープンキャンパスでは、高校3年生全員への面談が実施された。そのうえで、AOガイダンスへの誘導を行ったところ、AOガイダンスの参加者がさらに増加したという。

 また、2013年度には一般入試の改革として、「持参割」による個別面談が実施された。これは願書持参のうえで、個別面談を受けて出願した場合、受験料を半額に割り引くという取り組みである。「持参割」もまた、「育成型AO入試」と同様に、ミスマッチの解消、中途退学対策を目的とした取り組みであるが、その成果は、歩留まりの改善や、志望順位の向上に顕れているという。「持参割」の成果について、村上課長は「WEB情報などで大学を決めるのが主流のなか、1対1で話し合い、ちゃんと見てから志望校を決めているというのが大きい」と話す。学生との近さを武器にした愛知東邦大学の強みが、一般入試でも発揮された成果であるといえるだろう。

図表2 育成型AO 入試と一般入試の出願・入学数推移

今後の方向性

 愛知東邦大学における今後の入試改革の課題の一つに、AO入試後、3月まで緊張感を保つための工夫がある。入学前教育を実施しているものの、どうしても気が緩んでしまうためである。また入試改革が、4年間の学び、中退率の改善、また卒業後の生活に及ぼす効果の検証も、これからの課題となる。

 他方、愛知東邦大学では、就業力育成に向けた取り組みや、カリキュラム改革を、入試改革と並行して進めてきた。例えば就業力育成では、体験重視の視点から、「地域連携PBL(Project Based Learning)手法」を多くの専門科目に取り入れるとともに、入学から卒業までを支援する「学生ポートフォリオ」を導入したほか、「就業力マイスター奨学生制度」を設けている。「就業力マイスター奨学生制度」は、学生の一年間の活動を総合的に判断して、奨学金に反映する制度で、就業力育成に向けた学生の正課内・外での取り組みを推奨する狙いがある。

 また3学部制への移行に伴い、カリキュラムの再編が進められている。全学的な学部改組とカリキュラム改革は、大学と併設高校の同時改革、連携を見据えて、学長、高校長、事務局長の間で集中的に検討されてきた。様々な案が出されたが、最終的にまとまったのが、経営学部地域ビジネス学科、人間学部人間健康学科、教育学部子ども発達学科の3学部3学科体制である。このうち教育学部は、従来の人間学部子ども発達学科を母体としたものであるが、新たに小学校教員免許の取得が可能となるカリキュラムが構想されている。また、経営学部地域ビジネス学科、人間学部人間健康学科についても、卒業後の「出口」を見据えた、より具体的な目標設定ができるコース構成となる。

入試から始まる大学改革のサイクル

 愛知東邦大学の特徴について、成田学長は「メリットはコミュニケーションの密度にある。小さいキャンパスなので、学生と接する機会も多い」と話す。2008年の定員割れから、その後の志願者増に至る改善達成は、AO入試の改革にのみよるものではなく、その他の入試改革や、学部改組を含めた、総体的な改革努力の成果とみるべきであろう。同時に、小規模大学としての学生と教職員の距離の近さをメリットと捉え、個別対応を重視して行った一連の入試改革が、大学全体の改革意識に与えたポジティブな影響もまた大きい。

 とりわけ、全職員がサポーターとして直接に個々の学生とコミュニケーションを図ることの意義は大きい。「育成型AO入試」を通じて学生と関わることに対し、奥田課長補佐は次のように話す。「せっかく、大学に勤務しているのだから、学生と関わらずにいるのはもったいない。自分が“人を育てるところにいるんだ”と実際に感じられるAOガイダンスは、自分にとっても楽しい場である。また、担当した学生が4年間を通じて成長していく様子を見られるのもうれしい」。

 他方、AOガイダンスの意義が、はじめから全ての教職員に共有されていたわけではない。AOガイダンスは、当初、入試広報課の職員のみが担当していたが、徐々に職員全体で担当するようになったものであるという。「最初の年は、改革の発想は、まともに理解されなかった。それが年々、実際に担当し、高校生の悩みにも触れることで、ちょっとずつ理解されてきた」と村上課長は話す。

 現在、「大学全体は変わっていると思うか」との質問に対しては、「そのように感じている教員、職員は多い」との回答であった。愛知東邦大学の事例は、小規模大学としての特徴を生かした取り組みの成功が、大学構成員に共有されることで、さらなる改革サイクルを回す原動力になった事例として、入試から始まる大学改革サイクルの一つのモデルケースであるように考えられる。


(丸山和昭 福島大学 総合教育研究センター 特任准教授)


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