「報酬型インターンシップ」と社会連携の必然/中部大学

中部大学キャンパス


 愛知県春日井市に本拠を置く中部大学は、7学部30学科6研究科からなる私立の総合大学である(2015年5月現在の学生数は1万1082名)。地域企業との連携による「報酬型インターンシップ」の導入など、大学と社会をつなぐ挑戦的な取り組みで注目を集める。2013年度には、同大学と春日井市との連携による教育事業がCOC(地(知)の拠点大学における地方創生推進事業)にも選定された。中部大学はなぜ、地域社会と連携した教育事業に力を入れているのか、その理念や正課教育との関係、特色ある取り組みを打ち出し実現していく組織的な仕組み、これまでの成果と今後の挑戦課題等について、山下興亜学長にお話をうかがった。

「あてになる人間」の育成、総合大学としての成熟


山下興亜 学長

 中部大学の母体は、1939年に創立された名古屋第一工学校である。創設者は名古屋高等工業学校の教授であった三浦幸平。その言葉、「不言実行、あてになる人間」が、建学の精神である。四年制大学としての出発は、1964年の中部工業大学の開学から。1984年には中部大学への名称変更とともに、経営情報学部、国際関係学部を設置した。その後、人文学部の設置(1998年)、応用生物学部の設置(2001年)、生命健康科学部の設置(2006年)、現代教育学部の設置(2008年)等を経て、今日の総合大学としての姿に至る。「ものづくりを担う工学部にはじまり、次に社会、文化を作る人材の育成、さらに食物、健康を支える人材、人づくりを担う人材と、社会の必要に応えて成長を続けてきた。今も、総合大学としての質的な充実、成熟を目指し、様々な挑戦を続けている。現在進行形で成長過程にある大学だ」と山下学長は話す。

 山下学長は、2001年4月に中部大学の副学長となり、その後2005年4月には学長に就任。以来、教育の質的充実に向けた諸施策を積極的に打ち出してきた。2007年には全学をあげた教育改革に本格的に着手。2011年度には全学共通教育部を設置し、教養教育を拡大強化した全学共通教育が全面的に開始された。同時に、課外教育を含む学生支援施策の充実や、春日井市との連携も進展。2013年度には文部科学省COC事業にて「春日井市における世代間交流による地域活性化・学生共育事業」が採択されている。同事業では、「報酬型インターンシップ」や「キャンパスタウン化」等、春日井市との連携による特色ある取り組みを通じて、「あてになる人間の育成」が目指されている(図表1)。


図表1 2013年度COC選定取組「春日井市における世代間交流による地域活性化・学生共育事業」

地域社会との連携による「報酬型インターンシップ」


図表2 春日井商工会議所と中部大学の連携による「報酬型インターンシップ」

 中部大学の代表的な取り組みとも言える「報酬型インターンシップ」は、正課外の教育活動として設定されており、単位認定は行わず修了証書の授与が行われる。頻度は週2回程度で、時給800円ほどの報酬をうけながら、就業体験を行う仕組みだ。ひとつの企業で継続的に働く長期型と、複数の企業の仕事を経験できる多業種型が用意されている(図表2)。特に多業種型は日本初の取り組みだ。報酬型インターンシップには、中部大学の学生であれば誰でも参加できる。これまでの参加企業・参加学生数は、2013年度15社39名、2014年度32社40名、2015年度43社45名(2015年度については春学期時点の人数)と、順調に拡大してきた。参加企業が同大学の学外特命教授に任命される点もユニークだ。これら学外特命教授と学長、学部長等を交えた学外特命教授の会を年2回開催し、インターンシップ制度の改善や修了証書認定を行う。参加した学生からは「普通のアルバイトとは違う」「大学の中にいただけでは分からない、働くということの意味がよく分かった」等の声が寄せられている。2015年度には、参加学生の中から、インターンシップ先の経営者に見込まれて就職・就職内定に至った学生も出てきている。

 報酬型インターンシップは2013年度からの事業であるが、提携先である春日井商工会議所との交渉は、その2年ほど前から始まっていた。「社会で生きる人は仕事を通してしか育たない。仕事というのはお金を得ること。それは大学だけではできないこと」との理念が交渉の背景にあった。当時、他大学には見本となる取り組みは見当たらず、初めは商工会議所の反応も芳しいものではなかったという。しかし、話を進めるうちに、春日井市内の企業の側にも、後継者育成という切実な課題があることが見えてきた。「地域には中小企業が多い。中小企業にとっての課題は、その時々の商売以上に、自分達の後を継いでいける人、馬が合う人を見つけること。けれども、そんな人間は30分程度の面接では見抜けない。それならば、インターンシップを通じて時間をかけてじっくり見て下さい、そういう人間を一緒に育てる場をお互いに提供し合いませんかと提案し、地域企業と大学のニーズをすり合わせていった」と山下学長は話す。

「学内資源7割、学外資源3割」で学生を育てる

 地域資源を生かした社会性の育成を、中部大学の側から積極的に提案してきた背景について、山下学長は次のように話す。「大学はユニバーサル化したと言われるが、それは多様な学生に対応した教育をしなければいけないということ。まして少子化が進む中で、誰一人として人材は粗末にしてはならない。けれど、そのための取り組みを、全て大学が自前で行うのは不可能であるし、傲慢でもある」。

 また、多様な学生の中には、経済的に厳しい家庭の学生も含まれる。働きながら勉強するための環境整備は大学の役割であるが、それは社会と連携しなければ達成し得ない。このようなシビアな動機が、報酬型インターンシップの背景にあった。「学生は、70%までは学内資源で育てないといけないが、残り30%は学外資源で育てる。大学がやるべきことは、その30%の窓を開くことだろう」と山下学長は話す。

 もう一つ、学生の置かれた状況に即し、地域ぐるみで学生が育つ環境を用意するという点で注目されるのが、「地域連携住居」の事業である。これは、春日井市内の個人住宅や空き家を、学生が3人ほどでシェアできるような住居として用意する取り組みである。春日井市がニュータウンとして空き家が多いことも背景としており、地域にとってもメリットがある。たとえば家賃は1月2人で2万7800円ほど。この取り組みは、COC事業の「キャンパスタウン化」にも位置づけられる。大学近くに安価で暮らすことができる環境を用意すること、分野や関心の異なる学生間の共同生活で人間としての成長を促すこと、及び地域貢献をすることが同事業の狙いだ。「授業外学習時間の確保が求められているが、中部大学の学生の場合、自宅から2時間もかけて通っている学生も少なくない。近くに住めば、その分の時間を勉強や課外活動を通じた成長に充てることができる。自分達の学生が置かれている状況を理解して、学生が実践できる教育方針を示し、そのための環境を整えなければいけない」と山下学長は話す。

学問の論理に根差すテーラーメイドの正課教育

 他方、大学を名乗る以上、正課教育において大事にしなければならないのは、あくまで学問の論理による教育であると山下学長は考える。「社会で生きていくためには、学問の論理だけでは難しい。けれども大学という学問の場で、学生が一生懸命に研究をして何か新しいことを生み出そうとすること、その過程で嘘をつかずに確かな手順を踏むやり方を身に付けることは、大学が外してはならない人材育成教育の鉄則であり、社会に対して負う大学の責務である」。同時に、学問の側も、現代の社会に即した切り口を常に作り出していかなければいけない。2014年度に工学部に設置されたロボット理工学科も、学問の論理を新しい切り口で示そうとする挑戦だ。「例えば、機械工学のようなディシプリンは、300年近くかけて生み出された、重要でゆるぎない価値を持つ。しかし、個々のディシプリンは、歯車に相当するもので、社会的なニーズに応えるためには、歯車と歯車を組み合わせ、構造物としての出口を与えなくてはいけない」(山下学長)。

 もう一つ、現代における学問の論理は、学生個々の課題に即した枠組みが必要であるという。それを体現するのが、経営情報学部、国際関係学部の改革だ。経営情報学部、国際関係学部では、2016年4月より、それぞれ従来の3学科を統合した新たな学科として「経営総合学科」、「国際学科」をスタートさせる。経営総合学科、国際学科では4年間を通じた少人数教育の下、学生一人ひとりの意欲や関心に応じた学修環境が用意されている。特筆すべきは、卒業論文指導のシステムである。総合経営学科、国際学科の卒業論文指導では、指導教員のテーマに合わせて学生が卒論ゼミに配属される従来のシステムではなく、学生が希望する卒論テーマに合わせて指導チームを作るという新たなシステムが採用される。「教員に学生が合わせるのではなく、一人ひとりの学生の関心に合わせて、教員の学問を組み合わせるという仕組み。テーラーメイドの教育と呼んでいる」。多様な学生の多様な希望を、取りこぼすことなくすくいあげようとする理念が、ここにも生きている。

時限付き戦略室の機能と効能


図表3 近年の戦略室・特別委員会の展開

 中部大学の挑戦的な教育事業、学生支援事業を支える仕組みとして注目されるのが、時限付きで設置される戦略室の機能である。中部大学の戦略室は、時々の課題に応じて切れ目なく設置されてきた(図表3)。中部大学の改革は、学長を室長とするこれらの戦略室が大きな枠組みを提示し、その後に恒常的な組織が具体的な事業を組み立てていくというやり方で進められてきた。例えば、報酬型インターンシップや地域連携住居の取り組みは、学生支援戦略室が提示したアクションプランが、学生教育部を中心とする実施組織の中で具体化されていったものだ。

 「戦略室会議は、枠組みを提示するという役割も大事だが、もっと大事なのは会議を通じて参加者が学習すること。限りある期間の中で集中的に議論することで、皆が賢くなる」と山下学長は話す。例えば、ディプロマ戦略室では、「100% 卒業、100%就職」との方針が提示されたことで、卒業水準に到達していない学生まで卒業させるのか、と学内で大きな議論となった。しかし同時に、教育の入口から出口までが教員の仕事である、との意識が広まる効果もあったという。「100%の卒業は、現段階でも達成できているわけではない。しかし、学生を卒業に至るまで責任を持って育て上げなければいけない、との理念を示すことが重要だった。学長のリーダーシップというものがあるとするならば、細かなところまで指示を出すというよりも、考え方のレベルを、一段上げるような議論の枠組みを投げかけることだろう」と山下学長は話す。

成果としての志願者増、学生の変化、さらなる挑戦

 中部大学における不断の挑戦の成果は、入試の志願者数の増加にも見て取れる。中部大学の志願者数は、2008年以降、継続的な上昇傾向にある(図表4)。入学生の質の面でも変化がみられるという。「学生が元気になった」「意欲のある学生が増えた」と話す教員の声も少なくないとのことだ。「様々な取り組みを行っているが、大学全体として、社会とつながる活動を進めていることが成果につながっているのではないか。保護者の間でも、大学は知識を得るだけのところではないとの認識が広まっている」。


図表4 募集人数・志願者数・志願倍率の推移

 同時に山下学長は、「もっと色んな提案をしないといけない。まだまだ挑戦が足りない」とも話す。具体的な課題として、例えば報酬型インターンシップについては、幅広い学生のニーズに応えるべく、より多くの地域の企業と連携していくことがこれからの挑戦となる。また、中部大学が求める人材像を高校生により明確に伝え、そこに共感する意欲ある学生の入学を促進するべく、2015年4月に立ち上がったアドミッション戦略室において、まさに現在進行形で次の打ち手に関しての議論が進んでいる。「教育も研究も、常に新しい価値を作ってこその大学。挑戦を止めてしまったら、終わりだと考えている。学生、教員、総力をあげてチャレンジしていきたい」と山下学長は話す。

必然性を伴った、独創的かつ挑戦的な教育改革

 総合大学としての成熟を、社会との連携によって実現しようとする中部大学の取り組みは、シビアな社会認識を背景に、自大学に通う学生の等身大の課題、自大学の置かれた地域の切実なニーズを捉えた結果として創案された、必然性を伴う独創的な挑戦であった。「他大学を真似るのではなく、また他大学との優劣から考えるのではなく、自分達の過去と比べて、自分達の学生のために何ができるのかを考えて、挑戦を続けてきた。全ての取り組みが成功しているとは思わないが、社会とのつながりを築こうとする中で、春日井市、商工会議所とも、友好的な関係が続いている」(山下学長)。中部大学の社会連携は、中部大学の課題に根差した成果であり、安易に他大学が模倣できるものではないかもしれない。しかし、自大学の学生と、自大学の置かれた環境の課題に即し、絶えず進化を模索する中部大学の挑戦の過程には、日本の大学が広く学ぶべき教訓が、数多く含まれているように思われる。

(丸山和昭 名古屋大学高等教育研究センター 准教授)



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