庄内で地域課題に取り組み、その成果をそれぞれの出身地に還元する/東北公益文科大学

東北公益文科大学キャンパス



図表1 山形県全域と庄内地域

 現在のような、先を見通すこともおぼつかない状況下で、生き抜いていくための力を学生にいかに身につけさせるかは、言い古されてすらいる課題だ。いま、殊更に言い立てる必要はないかもしれない。

 しかし、地域と向き合い、学生の力を伸ばすことに取り組んできた東北公益文科大学を見ていると、この問題を新たな気持ちで受け止めることができる。本稿で取り上げる東北公益文科大学は、2001年に庄内(図1)は酒田の地に開学した。山形県並びに14市町村(当時)の財政支援を得て設置された、いわゆる公設民営の大学だ。それまで高等教育機関がこの地にはなく、悲願の末に設置された大学である。

 また、日本で唯一の公益学を扱う大学でもある(刊行現在)。複雑な社会の中で生きるすべをただ教えるのではなく、むしろその社会にどう益するか(公益)を教える大学なのである。地域に待望されてスタートを切り、地域社会に資する人を、地域社会の力を借りて育てていく。まさしく本特集で取り上げるのにふさわしい大学だということがおわかりいただけたのではないだろうか。

 取り上げる理由は、他にもある。地(知)の拠点整備事業を始めとして、東北公益文科大学が獲得してきた外部資金は極めて多い。また、18歳人口減の煽りを受け、東北公益文科大学も学生数の減少に見舞われたが、2013年度を境に増加基調に転じている(図2)。この背景には、何があるのだろうか。

 実態に迫るべく、東北公益文科大学酒田キャンパスに、吉村 昇学長を訪ねた。


図表2 2001~2016 年度 入学者状況


地域に根差した柔軟なカリキュラム


吉村 昇 学長

 同大学は、公益学部公益学科2系5コースを擁する単科大学である。地域経営系には経営、政策、地域福祉のコースが、交流文化系には国際教養、観光・まちづくりのコースがある。

 同大学の教育上の特長は二つある。一つは、総合的なアプローチを採っていること。もう一つは、地域に出る、ということである。

 同大学のカリキュラムはかなり高い柔軟性を備えている。1年生の4月に系を選ぶが、2年生以降でも系の変更は可能である。また、2年生でコースに分かれた後も、系やコースを超えて学べる仕組みになっている。卒業に必要な単位の指定も、コースで何単位ではなく、所属の系から所定の単位を取ることになっている。例えば、地域経営系の経営コースで学んでいたとしよう。学びが進むにつれて、経営コースの科目を多く取って経営学を深く掘り下げることもできれば、政策コースや地域福祉コースの科目を取って、経営学を軸にしつつも幅広く学ぶことも可能だ。更には、他の系の科目ですら一定程度を卒業単位に組み入れることができる。

 学生の中には、入学前から例えば社会福祉士になるという希望を持ち、地域福祉コースを選ぶタイプの学生もいれば、学んでいくうちに漠然としていた興味が明確になるタイプの学生もいる。どのような学生であっても学んでいける柔軟性を備えており、自分だけの学びを実現できるのが、東北公益文科大学のカリキュラムである。

 もう一つの特長である、「地域に出る」はどのように手当をしているのだろうか。

 地域に関わる学びは、1年次第2セメスターに配当されている必修科目「庄内の文化」から始まる。「庄内の文化」では、広く庄内地域の現状を学ぶように内容が組み立てられている。実は、ここで学ぶ庄内の現状は、同じく1年次第2セメスター以降に開講される「プロジェクト型応用演習」の成果が用いられている。「プロジェクト型応用演習」は、庄内の地に潜む課題を扱う授業となっており、例えば近年では、観光や小中高生向けの授業開発、実店舗の経営、防災、老いなど、今起きていること、今取り組まねばならないことが直接的に扱われている。この成果が他の学生にもフィードバックされ、新たな学びにつながる仕組みが埋め込まれている。

 他にも、「インターンシップ」や、企業等から持ち込まれた課題を解決する「競争型課題解決演習」が開講されている。大学から地域へ、地域から大学へ、という方向性の違いはあったとしても、いずれもがその地域における実際的な「本物の課題」に触れる機会を学生に与えていることがわかるだろう。

自由度の高い学びを支えるアドバイザリー制度

 このような自由度の高いカリキュラムや実践的な科目を前にして、学生は立ち尽くさないのであろうか。

 東北公益文科大学では、学生が自身の学びにしっかり取り組めるよう、アドバイザリー制度が敷かれている。アドバイザー教員と学生は、半期に一度面談し、各種のワークシートを用いて、学生の自己評価や成績、履修状況を基に、次の半期でどのように学んでいくかを共に考える。

 このアドバイジングには全教員が関わる。初年次に必修として開講されている「基礎演習a」を担当した教員が、1年生及び2年生の間はアドバイザーとして学修支援を行う。各教員が受け持つ学生の数は最大8名となっており、きめ細かい対応が可能となっている。ゼミ所属後は、ゼミの教員がアドバイザーを引き継ぐ。

 半年に一度の定期の面談に限らず、オフィスアワー等を活用していつでも相談に乗ってもらえる。それだけでなく、退学の未然防止の観点から、欠席が2回連続した学生についてはアドバイザーに連絡が行き、アドバイザーがケアをするという体制になっている。

 このように、必要な学びについて助言してくれるアドバイザーを加味することで、学生の学びが促される体制を調えている。

地域の人たちと一緒に取り組む

 さらに深く理解していくために、教育課程以外のことにも目を向けてみたい。同大は、学生を地域志向にするだけでなく、地域の人たちとともに地域課題に取り組める体制作りもまた目指している。地(知)の拠点整備事業の一環として、地域の人材育成の場である、「庄内地域カレッジ」を2014年度より開いてきた。中学生向けには、地域課題の理解を深める授業の開発、実施を行った。高校生向けには、「庄内の達人プロジェクト」と銘打った、庄内にて活躍している人の話を高校生が聞き、書き残す取り組みも行っている。大学生以外の若者を巻き込む手立てとして、「庄内の達人プロジェクト」を支える実行委員会を組織し、そこに地域の若者に参画してもらっている。これらの取り組みを通じて増えた地域との「つながり」は、今後公益大生が地域で活動する時にも生きてくることだろう。

 大学から地域に出て行くだけではない。キャンパス内にコワーキングスペースを設け、学生、企業、地域の方が交流できる場を作った。言ってみれば、地域の人を大学に引き込むための仕掛けも行っている。

 また、公益大生が地域で活躍した例として、酒田おもてなし隊の取り組みはぜひ見ておかなければならない。「山形デスティネーションキャンペーン」に端を発する酒田おもてなし隊は様々なプロジェクトに取り組んできた。酒田駅に降り立った観光客を歓迎する活動(「酒田駅おもてなしプロジェクト」)や、地域住民の方にインタビューして庄内を紹介するメッセージを発信する活動(「庄内スマイルプロジェクト」)、庄内の各駅からのハイキングコースを作成、紹介するという活動(「駅からハイキング」)など、庄内の魅力を増し、かつ届ける取り組みを行ってきている。これらの活動の実績から、後に酒田おもてなし隊はJR東日本から感謝状を得ている。酒田おもてなし隊に関して目を見張るのは、これは授業ではなく、学生の自発的な取り組みだということだ。したがって、上に紹介した活動の内容も、学生が自ら考え、実施にこぎ着けている。これらの活動の詳細は動画※1や活動記録集※2にぜひ実際に当たっていただきたい。吉村学長は「このおもてなし隊の活動に引かれて入ってきた学生もいる」と教えてくれた。これらの活動が地域に与えたインパクトの大きさが推して知れることだろう。

地域に出て本物に触れることで成長を得る

 地域に根ざしていこうという教育の手応えは、既に表れてきている。授業アンケートで尋ねている、地域への関心や理解、地域課題への理解や取り組み、課題解決に役立つ知識・理解・能力の高まりに関する項目は軒並み数値が向上している(例えば、能力が身についたとの回答は、2014年度の62.8%から2015年度は69.7%へ上昇)。

 数値だけでなく、学生の責任感や意欲の高まりは教員にも実感されつつある。「地域の方と関わる機会が増えてきたわけですよね。何か課題をやるときも『大学外の方もいるので来週までに企画書を作ってきてくださいね』と言えば、しっかり取り組んできますし、自分から意欲的に取り組む学生は増えてきています。刺激を与えて課題に取り組ませると、しっかりできるようになっていきます」と手応えを語ってくれた。

 地域での経験は学びの要素にあふれている。だからこそ、教育する側も、教えるのは最小限にとどめ、まずは学生を地域に出し、経験したことをふり返らせることを重視している。例えば、「インターンシップ」では、事前・事後に面談を最低でも3回ずつ(1回30分程度)、一人一人に行っている。何ができ、何ができなかったか、できなかった理由は何か、次に何をすべきかなどについてふり返らせた後、具体的な行動目標を立てるところまで促している。二つの「演習」科目も、個別ではないが、受講生全員でのふり返りを重視して行っている。

 考えてみれば、我々も社会において経験する様々なできごとをすべて予習できるわけでも、しているわけでもない。むしろ、予想もしなかった様々なことを経験し、可能ならば次に生かしうる教訓を引き出している。地域に出て「本物に触れる」経験そのものが価値を持つが、このような「本物との向き合い方」を学ぶこともまた重要なことだ。結果として、「学生が失敗して御迷惑をおかけすることもあるが、同じような失敗はしなくなっていく」(神田学部長)というのは、まさしくこのふり返りのプロセスが効いているからであろう。

 そして、地域に学んだ成果は大学を出てからさらに花開くと言ったら、過言であろうか。成長した学生のエピソードを尋ねた際に語られた、在学時に様々なことにチャレンジした学生の話を紹介したい。起業を目標に入学してきたその大学院生は、卒業後に就活サイトを立ち上げ、目標を達成した。そのサイトは、庄内の企業を紹介し、「働いている人の顔が見える」就活サイトであったという。庄内の人と人をつなぐサイトを作った後も、在学時に得た人脈等を生かして、現在は他の事業にも進出し、活躍につなげている。この卒業生の姿は、地域社会に、そしてそこに住まう人たちに資することを学ぶ機会に恵まれた公益大生だから行き着いた一つのかたちではないだろうか。

庄内で地域を学び、成果を地元に持ち帰る

 ここ、東北公益文科大学に入学した学生は、庄内は酒田の地“で”学び、学んだ成果を自身の地“に”持ち帰っていく。学生の就職先も、ほぼ入学者の出身エリア(山形県内外)の割合と同じように分布しており、地域に学び、地域に就職する状況である。酒田で学んだことを、自身の地域へ持ち帰りたい、という学生は多くなってきている。

 きっと、東北公益文科大学で「地域を学ぶ」ことを期待してやってくる学生は今後もいるだろう。だからこそ、今後を展望する手がかりはこれまでの積み重ねのなかに見出したい。吉村学長は、学生の目の色が変わるのは「社会の役に立つ、地域の役に立つ課題に取り組んだとき」と語る。「インターンシップ」や「プロジェクト型応用演習」はまさしくその機会となっている。「インターンシップ」は約5割の学生が履修しているほか、「プロジェクト型応用演習」は年間で例年20テーマ前後が開講され、約200名の学生が履修している。現在、これまで培ってきたメンタリングのノウハウが新しく関わる教員にも共有されるよう、教員体制の充実化を図っている。これまでを踏まえた次なる一歩は既に踏み出されている。歴史にもしもはないが、もし地(知)の拠点整備事業といった補助金の後押しがなかったとしても、東北公益文科大学では地域と向き合うことを大切にし、その点から考え抜いた教育が行われたことと思わずにはいられない。

 最後に、冒頭で述べた入学生数の回復や外部資金の獲得が成立する背景について触れて終わりたい。吉村学長は「教育、研究、社会貢献、そして国際交流をしっかりやり、外部発信すれば、魅力は伝わる」と力強く語ってくれた。庄内の地に在る大学として、それも日本で唯一の公益学を扱う大学として、この地でできることは何か、すべきことは何かを突き詰めていき、必要な手を打つ。そのような打ち手は、自然とその大学に備わる魅力を増すものになるだろう。結果として、高校生の目にも魅力的に映るし、充実した取り組みを後押ししようと外部資金もついてくる。その大学が持つ真の強みに専心することこそが、王道なのである。そして、王道に近道はない。これまで積み重ねてきた一歩一歩があるからこそ、次の一歩が踏み出せることを忘れてはいけないだろう。公益学を学べる大学としては、今まで培ってきた地域との関わりを生かし、突き詰めることにほかならなかったということだ。あなたの大学にとっては、突き詰めるべきそれとは何なのであろうか。

(立石慎治 国立教育政策研究所高等教育研究部 研究員)


  • https://www.youtube.com/watch?v=7y8sZItG_B0
  • http://coc.koeki-u.ac.jp/archives/1673


【印刷用記事】
庄内で地域課題に取り組み、その成果をそれぞれの出身地に還元する/東北公益文科大学