ビジョンに基づき課題を改善するPDCAサイクルの恒常化/東京女子大学

東京女子大学キャンパス



小野祥子 学長

 東京女子大学は、1918年に「キリスト教の精神に基づいて女子に高等教育を施すことを目的とする」という建学の精神のもと、リベラル・アーツ・カレッジとして創立された伝統校である。現在は現代教養学部の一学部体制で、学生数が約4000名の中規模大学である。伝統的なイメージが強かったが、今回の取材を機に大学のウェブサイトを丹念に調べるなかで、一歩ずつ着実に改革を進めている姿に感銘を受けた。東京女子大学の教育改善のための取り組みについて、小野祥子学長にお話をうかがった。

グランドビジョン策定とそれに基づく改革

 小野学長は2014年に着任してすぐ、100周年を迎える2018年に向け、グランドビジョンと大学として育成する人物像を作成した。方向性を持たないと改革を進めるのが難しいからだという。東京女子大学は、自立した女性を育てることを目標に、リベラル・アーツ大学として設立された。この原点を踏まえて、その理念を現代に生かすものとして、8つのグランドビジョンと、それに基づき、5つの観点から大学として育成する人物像を作成した(図表1)。

図表1 グランドビジョンと育成する人物像の定義

 専門性を持った教養人を育てる点は従来と変わりがないが、それに加えて、現代社会の変化に対応するべく、知力を行動力にするよりアクティブな女性、国際的視野を持った女性、自分でキャリアをカスタマイズできる女性、高度情報化社会に対応できる女性という観点を掲げた。こうした観点に基づき、教育改善につなげる努力をしている。

 その1つが、2018年度の学部体制の変更である(図表2)。実践的学びという視点から、コミュニティ構想専攻を新たに設置し、まちづくりから行政まで、女性目線の政策提言をできる人材を育てる。また、国際化の推進には英語力の向上が不可欠だが、これまで2学科2専攻で行ってきた教育を国際英語学科1つにまとめた。従来も行ってきた文学、英語学、英語教育等に加えて、英語キャリアコースを新設し、学生が希望すればより実践的な分野も学べるようにする。この専攻では、2年次後期には原則半年間の留学が必修となっている。また、受験生からの要望の高い心理・コミュニケーション学科も新設する。

図表2 2018年度からの学部学科体系

 こうした専攻の改組だけでなく、全ての専攻において、育成する人物像に基づいた教育改善をさらに進める。例えば、実践的学びを取り入れるために、全専攻でアクティブラーニングやPBL型授業を導入し、特に高大接続の意味でも1年次に必ずアクティブラーニングを提供することとした。学生自身が自分の英語力強化につなげられるようTOEFL® ITP テストを入学時と2年次の終わりに、大学の負担で全員が受験しているが、学部改編後は英語科目の必修を増やし、全専攻で英語による授業を導入する。また、それぞれの専攻で、女性とキャリアについての科目を新設し、各専攻での学びがどういうキャリアに結びつくのかを学ぶという。

課題を改善に確実につなげる仕組み

 矢継ぎ早に展開しているこうした改革がどのように実現できたのか。それは、大学としての課題を改善につなげる仕組みを作り、それを機能させている、いわゆるPDCAサイクルをきちんと回すことができたためと考えているという(次頁図表3)。

図表3 改革のPDCA サイクル図

 どの大学でも行っていることではあるが、まずは各部署で自己点検・評価活動を継続的に、熱心に行っている。東京女子大学の優れた点は、そうしたものを点検しっぱなしにせずに、自己点検・評価委員会とやり取りし、見直すことで、課題や足りない点を明確にし、将来計画推進委員会に提案・報告している点である。学長が委員長を務める将来計画推進委員会で改善策を検討し、各部署でより具体的な改善案を検討するように指示する形で、PDCAサイクルを機能させているのである。このように2つの委員会が連携することで、教育改善がスムーズに進む仕組みを整え、足りないところを皆で意識して取り組んでいることが改革に着実につながっている。例えば2009年の認証評価では、6カ月以上の長期留学が少ない課題が指摘されたが、こうしたプロセスで検討し、国際英語学科の新設と半年間の留学の義務付けによる送り出しの増加、国内の日本語学校の推薦指定制度による留学生受け入れ開始という形で、問題点の解消につなげている。

 このサイクルを回すうえで、東京女子大学が1学部1キャンパスという利点は大きい。教授会も1つで、学長も出席しており、全教員で情報を共有できる。そのうえで、教職員の協力を引き出し、全学で教育改善につなげるように、FD・SD活動にも力を入れている。FDは教授会が終わった後に、原則全員参加で行う。アクティブラーニング、国際化等の議論では教員の抵抗も一部あったそうだが、テーマに応じて適切な講師を呼んで、2回3回と話を聞くなかで、徐々に協力者が増えてきたという。職員のSDも夏休みに研修等を実施しているほか、教員FDにも参加可能な職員は参加することで、大学全体で教育改善に取り組めるように努めている。

ファクトとビジョンの両方が不可欠

 改革を進めるうえで、ファクトとビジョンの両方が大事で、どちらかが欠けていてもだめだと学長は強調する。確かにエビデンスなしの改革は的が外れる恐れがあり、ファクトは重要であろう。2014年度AP事業「テーマⅡ 学修成果の可視化」に申請し、採択されたのもそうした流れから必然であったと言える。在学生(TOEFL® ITP・汎用能力テストPROG、学修行動調査等)、卒業生、企業への調査とその分析を通じて、目指すべき人材養成の目的達成度を客観的に測定し、可視化することで、教育改善につなげている。2016年には学長直属組織としてIR推進室を設置した。大学のウェブサイトには、学修行動実態調査の報告書も掲載されているが、エビデンスに基づき、しっかりと自己点検・評価をしていることがよく分かる。IR 推進室のデータ分析のフィードバックは、全体的傾向は教授会で、当該部署には個別面談で、「こういう結果が出ているから改善して下さい」と丁寧に伝えているという。英語の授業を増やすことや、シラバスに学生の授業外学修時間の目安を書くようにといった取り組みも、こうしたフィードバックを通じて実現されている。授業外学修時間の増加を期待しない教員もいたが、AP事業で目標に掲げた数値をフィードバックすることで協力体制を築くことができたという。少しずつ何かやらない限りは増えることはないと説得したが、その根拠を示すに当たり、やはりデータと分析の力は強いと感じたという。

 こうしたファクトの蓄積と同時に、ビジョンも不可欠だという。ファクトが分かってもどのように変えるかの方向性を示すのは、ビジョンの問題だからだ。教授会や理事会で説明し、賛成した学長のビジョンや方針があることが極めて大事だと強調する。英語による授業導入も初めは負担感からか教員の抵抗は大きかったが、意欲のある学生に選択肢を与えて、興味のある学生を伸ばしていくためにも必要で、学生のためになるものだからと訴え続けることで徐々に協力する専攻が出てきて、最終的に全専攻で必ず1科目は英語授業を行うことになった。国際的視野を持った女性を育てるという大学の方針を全員で共有したことの効果が大きかったという。

 また、プランを実行していくうえで重要な事務体制についても、2016年に大学改革推進課を、やはり学長直属組織として設置した。これにより議論や意思決定のスピードが増し、改革については大学改革推進課が担当ということが、学内的にも分かりやすくなったという。学長のリーダーシップが改革を進めるうえで欠かせないが、それを支える事務体制ができたため、ビジョンを具現化する流れが整備され、非常に助かっているとのことである。

学長のタイプとリーダーシップ

 お話をうかがうなかで、前々学長の頃から徐々に改革を進めた成果が、近年になって表れつつある印象を受けた。将来計画推進委員会が設置されたのは前々学長時代の2005年。また、1学部1キャンパスの利点を述べておられたが、以前は現代文化学部と文理学部の2学部体制だった。2009年といえば、多くの大学が学部の新増設を重ねていた時期だが、時代に逆行するかのように、1学部体制にしたのも前々学長であった。教養教育を重視するなら、全学生に同じ内容を提供すべきだとして改革したという。自己点検・評価委員会と将来計画推進委員会を連動させる仕組みを作り、10年以上このやり方でやってきた。この仕組みに加えて、前述の通り、小野学長が2014年に就任してすぐに、東京女子大学グランドビジョンを策定し、皆が目指すべき方向性の共有にさらに役立っている。

 何かその頃から変化があったのかと尋ねたところ、前々学長から3代にわたり、卒業生で学内出身の学長が続いているという。学長の選考方法が変わったわけではないが、それ以前は学外出身の男性学長だった。卒業生で学内出身の学長の場合、脱皮をしたり殻を破ったりするような改革をするのには向いていないのかもしれないが、大学の特性や組織構造を理解し、一歩ずつ着実に改革を進めていける利点はあったのではないかという。小野学長は東京女子大学で32年間教員をしてきたが、学長が改革を進めようとすると、教員が「なぜ必要なのか」と議論する姿を何度も見ており、「そもそもの共通ビジョンがあるとやりやすいのでは」と感じていた。だからこそ、学長になってすぐにビジョンを策定し、このことが改革を着実に進めている。学内の雰囲気、大学の成り立ちをよく理解しているものが学長になったことの良さがあったのではないか。

 ただし、内に閉じこもるのではなく、学外の目も意識的に取り入れている。自己点検・評価の客観性を高めるため、2009年頃から外部評価を熱心に入れている。例えば、2014年度の文部科学省の女性研究者研究活動支援事業や2010年度GPプログラム(マイライフ・マイライブラリー)での外部評価、2012年度のFD活動三女子大学連携相互評価等がそれに当たる。2014年度の全学的な自己点検・評価においても、自己点検・評価だけでなく、2015年前期に外部評価も行いその評価結果を発表しているが、学外の意見を学内改革に結びつける動きも着実に進んでいる。大学のことを理解したうえで、様々な視点から客観的評価をしてくれる方に外部評価委員をお願いしているが、それにより、例えば、客観的に見て奨学金が足りない等の指摘を受けて改善を行ったこともある。また、外部評価だけでなく、理事会との関係の構築の仕方にも工夫が見られる。例えば将来計画推進委員会には、学長推薦の外部理事が入っている。他大学の学長経験者であり、改革へのアドバイスもしてもらえるため、理事会側に改革プロセスを知ってもらい、サポートを得るのに役立っているという。また、理事会・教授会合同作業部会を不定期で開催している。理事会の中の中心メンバーと大学の役職者が集まるもので、何かを決定するわけではないが、忌憚のない意見を言ってもらうことが非常に参考になっているという。皆が理解をひとつに、一体として改革を進めるために、こうした工夫を鋭意重ねている。

内部質保証の恒常化で改革を進める

 学長の方針・ビジョンで改革の方向性を共有し、2つの委員会を連動させてPDCAサイクルを回すことで、様々な教育改善に着実につながっている印象を受けたが、今後の課題について尋ねてみた。教育の質向上につなげるシステムとして機能させることは最も重要な課題で、それは今後も変わらないという。そのためには、学長のリーダーシップが大事で、学長自身がその気になってやらないと動かない。動かすうえで、方針を決めることは大事で、リーダーシップを支えるのが方針やビジョンになると強調する。

 また、内部質保証は認証評価に合わせて、7年に一度やるのではだめで、恒常的に行っていく必要があるという。ウェブサイトに毎年のように発表されている報告書を見ると、既に、東京女子大学の自己点検・評価活動は、徐々に恒常的になりつつある印象を受ける。ただ、教員の負担を考慮し、最近はテーマごとに行っているという。例えば、2011年には全学共通カリキュラム、2012年にはFD活動と学科科目の自己点検・評価を行い、現在は外国人留学生特別科目の自己点検を行っている。テーマを限定することで負担は減らしつつ、エビデンスを基に改革するマインドを植え付けていく。それと同時に、全学的な自己点検はこれまで通りプログラムの完成年度ごと、つまり4年ごとに見直すが、報告書の作成が目的化しないように気をつけていきたいという。東京女子大学の教員には自己点検・評価が法的義務ではなかった時代から教育に熱心な伝統があるが、全学的に必要な点は、将来計画推進委員会などで引き続き、議論していくのが重要である。2018年4月以降の学部体制の変更も、学外だけでなく、学内にもしっかり広報して、教育改善を実質的につなげていく。

 大学の教育活動を派手にアピールしないが、着実に、堅実に教育改革を進めている好事例ではないだろうか。点検・評価し、それを着実に改善につなげており、そうした諸活動をウェブサイトで学外にも公表している。補助金も手当たり次第に申請するのではなく、教育事業にあったものであれば申請してきたという。「学修成果の検証はもともとやろうと思っていた時期にAP事業の募集があったので、申請した」と話し、政策ありきではなく、内部の計画通りに着実に進めている姿もまた東京女子大学らしいと感じた。こうした改革が学生の成長にどのようにつながっていくのか、楽しみに注視していきたい。

(両角亜希子 東京大学大学院教育学研究科准教授)



【印刷用記事】
ビジョンに基づき課題を改善するPDCAサイクルの恒常化/東京女子大学