「21世紀を生き抜くチカラ。」を独自の体験型プログラムによって選抜/北陸大学

北陸大学キャンパス


 北陸大学は「自然を愛し 生命を尊び真理を究める人間の形成」を建学の精神とし、健康社会の実現という使命の実現を目指して石川県金沢市に1975年に開学した。近年は、その歴史や伝統を守りながらも、地域そして社会に求められる大学であり続けるために、2025年度の創立50周年に向けての長期ビジョン「北陸大学Vision50(by2025)」を掲げ、学生一人ひとりのマインドとポテンシャルを多面的・総合的に評価し、入試から育てて伸ばす21世紀型の大学教育へと変革に挑んでいる。

 2017年度からは学部を大幅に改編し、4学部4学科の新体制となった。「薬学部・薬学科」では、薬だけでなく人と向き合い、国民の健康を多角的にサポートする医療人の育成に取り組んでいる。新設の「医療保健学部・医療技術学科」では、臨床検査学と臨床工学の2つの知識と技能を持った医療技術者を養成している。従来の未来創造学部は、「経済・経営・法律・会計・IT」の5分野に精通したゼネラリストを育てる「経済経営学部・マネジメント学科」と、日本を理解し国際化の波に対応する「国際コミュニケーション学部・国際コミュニケーション学科」に生まれ変わっている。

 本稿では、「北陸大学Vision50(by2025)」策定の背景や戦略、21世紀型の大学教育の推進に不可欠である独自の入学者選抜方法や評価基準等について、変革の旗振り役であり、北陸大学の卒業生でもある小倉勤理事長・学長にお話をうかがった。

小倉 勤 理事長・学長

「チーム北陸大学」の基盤づくり─「北陸大学Vision50(by2025)」の策定

 創立50周年である2025年に向け、さらなる飛躍を遂げるため、北陸大学では「本物の教育力を持った大学になる」ことを重要事項として掲げている。一人ひとりへのきめ細やかな教育により学生を育て上げ、社会が欲する人材として巣立つようにする。これを北陸大学の存在意義とし、「2025年までに学生の成長力No.1の教育を実践する大学となる。」をスローガンとする長期ビジョン「北陸大学Vision50(by2025)」を策定した。

 この長期ビジョンを具現化するためには、法人と大学が一体となり、「チーム北陸大学」として共通の現状認識に基づく一致した基本政策の策定及び推進が重要であることから、今後取り組むべき施策を第1期中期計画としてまとめている(図1参照)。実行力のある計画を立案するために、各重点項目の責任者を理事とし、常任理事会の下に、5年後、10年後の組織を背負うこととなる世代の教職員を中心に構成した長期ビジョン・中期計画策定委員会を設置している点に大きな特徴がある。

図1 長期ビジョン・第1期中期計画概念図

「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性・多様性」を重視した選抜の構築に向けて

 図1にあるように、長期ビジョンの実現に向け、入学者確保・退学防止・就職率向上を中期計画重要目標達成指標(KGI)として設定し、その達成を北陸大学の教育成果としている。さらにそのKGIを達成するための7つの重点項目と、個々に定量的もしくは定性的な目標(重要業績評価指標:KPI)を設定している。その1項目である「入学者確保」では、「受験者層との接触機会を増やし、意欲のある質の高い学生を確保するための施策を実施する」ことを基本方針とし、「各種接触者の増加」「志願者及び入学者の増加」を行動目標に掲げている。

 着目すべきは、「志願者及び入学者の増加」のための行動計画の一つとして、「学力の3要素を踏まえた多面的・総合的に評価する入学者選抜の実施」を挙げている点である。3要素の中でも、「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性・多様性」の2つの要素を入試の段階から重視し、従来の知識・技能偏重の入試では測りきれないような力を多面的・総合的に評価し、さらに伸ばすための仕組みの構築を目指している。

 北陸大学では、一般選抜、センター試験利用選抜以外に、AO選抜、指定校推薦選抜、一般推薦選抜等、多様な方法で入学者選抜を実施していた。しかし、AO選抜では対策をしてきた学生が目立つ等、スポーツAO選抜以外では、大学が期待するような学生を集めることは難しい状況にあった。小倉理事長・学長が就任直後から入試改革に即座に着手、その際に着目したのが「21世紀を生き抜くチカラ。」である。現代の社会では、知識や技能だけでなく、受験生が高校までに積み上げてきた「思考力・判断力・表現力」や「主体性・協働性・多様性」も、実社会で役立つ真の学力として重要視されている。北陸大学では、これらのチカラをさらに伸ばしたいと考える学生を「チーム北陸大学」のメンバーとして集めようとしたのだ。

 まずは、学修評価や初年次教育の専門家である山本啓一教授を招聘し、「21世紀を生き抜くチカラ。」を大学で育むにあたって、それにふさわしいコンピテンシー(+リテラシー)を持つ学生の選抜方法の検討をスタートさせた。試行錯誤を重ねながら、研究と現場がそれぞれの理想を意識しつつも両者が乖離しないように、選抜制度の設計・実施・改善に取り組んでいる。その際には、卒業後に求められるチカラを学部ごとに見据え、求めるリテラシーやコンピテンシーの整理も行っているという。

「21世紀を生き抜くチカラ。」を評価する2つのAO選抜

 「21世紀を生き抜くチカラ。」を育む北陸大学独自のAO選抜をまずスタートさせたのは、経済経営学部と国際コミュニケーション学部である。両学部では、従来のAO選抜を抜本的に改革し、「21世紀を生き抜くチカラ。」を多面的かつ総合的に評価する「21世紀型スキル育成AO選抜」を2017年度入試から実施している。

 今年度の選抜方法、選抜の流れ、評価基準等は図2の通りである。

図2 「21世紀を生き抜くチカラ。」を評価する選抜方法

 経済経営学部では、「コンピテンシー(行動特性)評価型」として、体験学習プログラム「北陸大学アドベンチャー・プログラム(HAP)」の手法を用いて「主体性・協働性・多様性」を、国際コミュニケーション学部では「グローバルスキル評価型」として、アクティブラーニング型のグループワークにより「海外への関心度」「思考力・判断力・表現力」を、それぞれ多面的・総合的に評価している。

 経済経営学部の「AOセミナー」は6時間以上にわたるもので、長時間かけることによって見えてくる行動特性を評価する。趣旨説明を行った後、アドベンチャー・プログラム研修を行い、受験生グループによる振り返り、その結果をまとめた個人シート記入を経て、個人面談を行っている。特筆すべきは、評価項目である自己評価、観察評価、面談評価、書面評価のうち、受験生自身の自己評価を特に重視している点である。自分を知ろうとすることは、自主性や自律、メタ認知を育む基本であるため、「自己を評価する」という視点やチカラは入学後も重視しているという。

 国際コミュニケーション学部の「AOセミナー」も5時間以上にわたるもので、趣旨説明の後、課題提示(課題説明、評価方法の説明)、グループワーク、グループによるプレゼンテーション、個人レポートの作成を経て、個人面談を行っている。「一つしかない正解を求める」のではなく、他者と協同して正解のない問題に取り組み、そこから自分なりの考えを作り出していく過程を評価しているという。

 両学部ともに「AOセミナー」での評価の結果を即座に合否につなげていない点は、非常に興味深い。「AOセミナー」では出願資格認定を行うに過ぎず、認定を受けた受験生が出願をするか否かを決定する流れになっている。大学入学後の教育プログラム(の一部)を体感したうえで、「その教育プログラムで自身が成長できそうか」を受験生が自らに問い直す機会を設け、最終的な判断を受験生側に委ねているのである。結果として、2017年度は出願資格を得た学生100%が、自身の意思で出願をしたという。

 また、「21世紀型スキル育成AO選抜」による入学者全員にAO奨学金を給付している点も大きな特徴であろう。年間20万円を4年間にわたり給付する制度だが、入学後に大学が指定する地域活動、学内活動への参加(参加後に自己申告に基づく活動報告書を作成し、クラスアドバイザー教員のチェックを受けることを含む)を継続条件としているのだ。学生を選抜するだけでなく、育成しようとする姿勢が伝わる制度である。

 今年度からは、薬学部、医療保健学部でも、従来のAO入試を抜本的に改革し、「21世紀を生き抜くチカラ。」を多面的かつ総合的に評価する「21世紀型医療人育成AO選抜」をスタートさせている。

 「AOセミナー」では、趣旨説明・模擬授業の後、グループによる科学実験・レポート作成を経て、個人での振り返り(授業や実験の内省)や面談を行い、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性・多様性」について多面的・総合的に評価する。「21世紀型スキル育成AO選抜」同様、「AOセミナー」では出願資格認定を行うだけで、その後に受験生自身が出願をするか否かを決定する流れとしている。募集人数は、今年度は薬学部10人、医療保健学部3人と少数であるが、検証を重ねながら、今後も検討していくという。

成果の感触と今後の展望

 「21世紀型スキル育成AO選抜」は2017年度から実施、「21世紀型医療人育成AO選抜」は今年度から実施のため、その成果や課題を時系列的に捉えることは、現段階ではまだ難しいだろう。

 とはいえ、「1年生全体が明るくなった」と小倉理事長・学長は手ごたえを感じている。大学が力を入れてきた「中国研修」に手を挙げる学生も、これまで以上に増えているという。スタートしてまだ1年足らずだが、「21世紀型スキル育成AO選抜」によって、いわゆる「自燃型」学生が少数でも入学することにより、少なからずいるであろう「可燃型」学生の行動や言動にも変化が表れ始めているのかもしれない。

 北陸大学では、学生が入学してから卒業するまでの成長の礎として「初年次教育」を重視しているが、「21世紀型スキル育成AO選抜」により入学した学生には、2年次以降、ステューデント・アドバイザー(SA)として下級生を指導することを求める等、リーダーシップの育成も目指す(図3参照)。「『将来なりたい姿になれましたか?』という問いに対する学生の回答こそ、教育の成果ではないか」と小倉理事長・学長が語るように、北陸大学では、将来設計力やそのための行動力も教育成果として重視している。学生の自己理解や表現力を育み、個々の学生の夢を実現すること、その満足度を高めることが、大学としての教育成果であるという。その検証を一つの目的として、学生満足度調査を積極的に実施しているが、近年は、全学生を対象に1年次より定期的にPROGテストを課す等、大学在学中の学生の成長にもより注視していくという。

 いわゆる受験学力の高い学生をペーパーテストにより選抜し、ベルトコンベアーにそのまま4年間乗せ、社会に送り出すような時代ではもはやない。

 近年、多くの大学ではこの4年間を学生の成長に活かすために、教育プログラム改革が行われている。しかし、それがいかに優れたものであっても、万人の学生に効果のある魔法のようなプログラムはないだろう。

 北陸大学の大学案内の扉ページには、「北陸大学はただの大学ではない。あなたの成長を実現するプロジェクトチームである。」とある。北陸大学では、そのプロジェクトにふさわしい学生を、そのポテンシャルに着目して選抜しようとしている。それは「合否」というジャッジではなく、「適合・不適合」といったマッチングに近いように思う。

 「チーム北陸大学」のメンバーとしての学生の成長とともに、北陸大学の入学者選抜、教育プログラム、その連動の今後の展開にも期待したい。

(望月由起 日本大学文理学部教育学科教授)



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