特別編/多様化する入学者選抜の現在

高大接続の入学者選抜 特別編/多様化する入学者選抜の現在

 本誌207号の事例・リポートでも見てきたように、昨今の入学者選抜改革は多様を極める。なお、小誌は203号から「高大接続の入学者選抜」を毎号連載している。その特別編として、本稿では多様化する入学者選抜の概要整理を試みたい。

現状の入学者選抜を4象限で俯瞰する

 図表1に、佐賀大学アドミッションセンターの西郡教授が整理したAO入試の類型化を示した(小誌197号より再掲)。西郡教授は「重なり合う部分もあり、また全ての入試がきれいに類型化できるわけではない」としながらも、横軸に「目的」、縦軸に「アプローチ」を置くことで、導入目的に応じた4つの象限に分けることができるとしている。

 象限①は「お見合い型」。大学と相性の良い学生を「発掘」するマッチング型入試である。従来の面接による選考の多くはこれに当たる。海外ではアイビーリーグ等で一部卒業生が面接対応に駆り出されているケースも見られるが、大学の雰囲気や校風に合致した人材を選ぶのに卒業生は有効な手段のひとつであろう。もちろん、大学教育の独自性が確保され、その大学ならではの価値を卒業生が獲得できていることが前提となる。

 象限②は「マッチング醸成型」。発掘より育成の方向性で、入試受験までに複数回の接触を繰り返し、受験生自身の自省や大学へのロイヤリティを深めていく類型である。事例として取り上げた追手門学院大学のアサーティブ入試等がこれに当たる。複数回接触する意味づけや人的リソースの配置が難しい点はあるが、受験生が持つ本来の志向と実情のすり合わせを丁寧に行うことで、その後のスタンスがぶれなくなり、入学後の成長を見込める側面は大きい。

 象限③は「多様人材獲得型」。入学後に高いパフォーマンスを発揮し、他の学生に好影響を与える牽引人材を発掘する入試である。これまでに導入されているお茶の水女子大学の新フンボルト入試、九州大学21世紀プログラムのAO入試等、国立大学で多く見られた類型だが、p.42以降のリストでは東京女子大学の「知のかけはし」入試、神田外語大学のプレゼンテーション入試や、早稲田大学が全国から集まる多様な学生を基盤とした教育に取り組むための新思考入試も、この傾向が強い。近年企業ではダイバーシティの推進が叫ばれているが、多様性確保は人事戦略ではなく経営戦略であり、どういう事業運営をしていくかに拘る重要項目のひとつだ。大学でも多様性確保は学習活動の活性化に当たるものと捉えられつつある。従来の学力偏重入試では金太郎飴のように似たタイプの学生比率が高くなるというのは、現場の実感値としても高いようである。

 象限④は「教育プログラム一体型」。学部学科等の教育プログラムの内容設計から、その教育を実践遂行できる人材を獲得するために入試制度を設計するものである。創価大学のPASCAL入試は全学的に取り組むアクティブラーニングへの適性を問い、立命館大学の一連の改革では特色ある教育プログラムごとに多面的に評価する入試設計を行っている。教育と入学者選抜を一体的に改革するという、国が進める高大接続改革の形に最も近いのがこの類型と言えるだろう。

入学者選抜を改革する目的とは

 どの類型が最適かは大学の置かれた状況や戦略により異なるのは言うまでもなく、何を目的とした入学者選抜改革(あるいは教育改革)なのかという目的に照らし、設計するべきであろう。ただし、どの象限でも軸となるのはアドミッション・ポリシー(以下、AP)である。APは「こんな人材を育てるために、こういう教育を準備しているので、こういう能力・適性を持っている人に来てほしい。だから入試ではこのように評価します」という、言わば受験生へのメッセージだ。実際の入試がこれに沿って落とし込まれた内容になっていなければ、整合性に欠けるものとしてマイナスイメージすら与えかねない。「この大学で行う教育とは」「そのために必要な能力とは」といった議論から入試のあり方を捉え直し発信することで、強いメッセージとなって大学の独自化へ昇華することだろう。

 また、いずれの象限でも選抜の基盤は「多面的・総合的評価」である。象限①②で相性や意欲を従来の学力試験で測ることは不可能だし、③で牽引人材か否かを見極めるには多角的な測定が必要となる。④は教育プログラム自体が将来社会を見据えたスキル獲得や、今後成長が見込まれる産業ニーズに応える人材育成を目指す場合が多く、その入学者選抜はまさに21世紀型スキルを求める設計となりやすい。学力テストのみの測定では見えてこない学生の様々なポテンシャルを測る入学者選抜にしなければ、改革する意味がないのである。

 見てきたように、多面的・総合的評価を入れることはどの大学でも必要な措置だが、それによって何を達成するのか、どういう位置づけなのかを類型化等で整理し、大学の目指す方向性と合致させる必要がある。

改革を成功へ導くポイント

 ではまずどこから手をつけるべきなのか。大事なのは各入試制度でどういう人を選ぶのかという目的を再考することである。即ち、教育プログラムごとのAPの見直しと、入試区分への落とし込みである。基礎学力が重要な学問では、従来の学力重視型のマイナーチェンジが良いケースもあろう。前述した牽引人材を獲得するには、リーダーシップを多角的に検証する必要があろう。どの入試でどんな目的を持たせるのかを俯瞰することで、どこを改変しどう評価すべきかが見えてくる。そのプロセスで教育そのものの梃入れや新学部設置が必要となる場合もあるだろう。

 そのうえで、多面的・総合的評価においては、まずは授業で教室の前から座る意欲の高い30%をどう獲得するかという視点が重要だ。既に入学者選抜改革に踏み切っている大学も、まずはスモールスタートであるべき質の確保を行い、PDCAを回しながら徐々に定員規模を拡大していく傾向が強い。全体を改革するのは大変だが、言葉を選ばず言えば、課題感の大きい学部、あるいはガバナンス上改革しやすいところから手をつけるというのが定石のようである。

 なお、入試設計自体について、現状小誌で考える成功のポイントを挙げる。まず、受験生や高校がAPを理解するための場の設定があること。単純に改革を行い何も発信・説明しないままでは、単なる話題作りにはなっても、実質的な志願者獲得には遠い。理解と出願の二段階構造にすることで、漸く高校現場や学生に価値が浸透する。そして、入学後の学生育成の成果検証方法が構築されていること。APに即して入学した学生が本当に成長するのか、どういう教育介在によってそれが可能なのかを検証することなしには、改革も自己満足になりかねない。IRを交えた成果検証で、次の一手につなげる動きが重要だろう。

 大学変革に対する社会の認知が低いのは、積極的な情報発信が少ない、あるいは伝わるように発信していないためである。現在過渡期とも言える入学者選抜改革。大学経営が厳しくなる今後に向けて、大学の独自性確保の文脈でAPを中心に見直しを行い、それを積極的に広報していくことが、今まで以上に求められている。

(本誌 鹿島 梓)