学部学科の教育につながる学びの計画書を軸にしたAO入試/広島工業大学

POINT
  • 1961年開学した広島工業短期大学が母体。現在、工学部(6学科)、情報学部(2学科)、環境学部(2学科)、生命学部(2学科)の4学部12学科体制。
  • 2017年度入試よりAO入試を全学科で改革し、学力の3要素評価に変更
  • 入学後の教育を見据えた学科主導の設計ながら、多面的・総合的評価になるよう入試広報がチェック
  • 定員の5%に当たるAO入試で「とがったリーダー」を獲得する

2017年度入試より多面的・総合的評価を全学科一斉導入

 広島工業大学(以下、広工大)のAO入試はユニークだ。評価プロセスは全12学科で同一で、学科ごとのテーマの講義とそれについてのグループディスカッション(合計100点配点)、事前に提出した学びの計画書をもとにした面接(100点)、調査書(100点)(図1)。各学科の配点比重・方針に従って合計300点で志願者を多面的・総合的に評価する内容で、テーマ設定や配点等から学科の独自性が示されている。また、募集要項では12ある学科の学びのポイントと、そのための入試プロセスが同一ページに示され、何のためにどんな力をどう評価するのかという接続が見えやすくなっている。例えば、2018年度の機械システム工学科の「学びの内容」には「新たなものづくりに挑戦できる一流のエンジニアを育てる」とあり、「表現力:図面等を使用し、分かりやすくまとめているか」「協働性:グループの仲間と協働し、合意形成に向けて行動することができるか」といった具合に、選抜ごとの評価ポイントと内容が提示されている。そして、一部の学部学科からスモールスタートする大学が多いなか、全学科一斉導入というのは珍しい。このかたちにAO改変されたのは2017年度入試からだそうだが、果たしてどうやってこうした入試設計に至ったのか。入試広報部の河田智成部長、脇坂憲太郎課長にお話をうかがった。

学内の認識を揃えるプロセス

 他校でも概ねそうであるように、最も大きな背景としてあったのは高大接続改革の流れであった。知識・技能評価に依った現状から、多面的・総合的評価へ。従来のAOでは学科別に課題と志望理由書を提出させていたが、課題はそのままに、志望理由書を発展させ、グループディスカッションと面接を追加した。「今からやらないと間に合わないという危機感がありました」と河田部長は話す。

 それまでAOは学科主導の設計だったが、入試広報が国の動向を踏まえた新しい観点を示し、学科にその理解を得て新しい枠組みに再設計してもらうというかたちをとった。入試広報として方向性は提示するが、学科教育への接続を踏まえると、各プロセスで評価する項目や尺度は学科主導の方が合理的である。全学科導入に特段拘ったというより、もともと工学部から派生した学部学科構成ということもあり、教授会も合同で実施する等、文化風土的に一体的な意思決定が可能な状態だったそうだ。とはいえ、新しい方式に対する理解を得るため、まず行われたのは認識を揃える作業である。「何しろこれまでの経験上なかった評価手法ですから、共通理解を置く必要があると考えました」と脇坂課長は言う。具体的には、教職員対象の模擬試験を設計し、企業研修等を参考にしたテーマでのディスカッションを行ったという。どのような検討が必要になるか、実践により検証したのである。ルーブリックの在り方から、どんな机の配置にすると議論しやすいかといった実務的な観点まで、やってみないと分からないことは多いだろう。

 これにより教職員に共通のイメージが湧き、また温度感も向上し、その後の検討が格段にやりやすくなったという。学科主導ながら、従来の知識・技能に偏らないように入試広報がチェックする、迷いがあれば共通認識に立ち戻る、といった具合の新しいガバナンスが作られていった。

学びの計画書で内省を促し、大学教育と接続する

 選抜プロセスの中で特に目を引くのは「学びの計画書」であろう。もともと「志望理由書」として入学の意志を確認するための書類だったが、予め先生や親とすり合わせたような模範解答も散見され、「自分の考えをまとめるステップになっていない」「安易な出願につながっているのでは」等の懸念があったという。

 この選考の採点対象は計画書そのものではなく、その内容に関する20分の個人面接である。20分間専門の教授が会話すれば、書かれていることの真偽は概ね見当がつくという。重視するのは「内省」。自分で自分のことを自分の言葉で語ることができるか。広工大の学びをどう理解し、志望したいと考えるのか。その接続を自分の言葉で説明できるかどうかにかかっている。

 理想は用紙をしっかり埋めて面接で話ができることだが、自らの考えを言語化し文章にするという行為に慣れているわけではない高校生にとって、とっつきにくいのではないかという懸念もあった。そこで計画書を作成するためのガイドラインとしてスケッチが用意された。清書する前の自己省察用に設計されており、ガイドに従って記入をしていけば計画書が作成できるようになっている。今までの自分を振り返るリフレクション→入学後の自分をイメージし「今の自分に足りないこと」=「入学後身につけたいこと」「4年間しっかり頑張りぬくエネルギー」→将来の自分をイメージ「大学を卒業し社会で活躍する自分の姿」の3パートから成り、これまでの自分から将来の目標までを一貫したストーリーとして描き、途中で「アドミッションポリシーを確かめたか?」「自分が取り組むべきことと大学での学びは一致しているか?」等、選考上の注意点を経由する作りだ。

 また、広工大ではAO入試合格者向けの入学前教育として、3種類のサポートを準備している。Letterと称したレポート作成では、学科に関する課題を数回に分けて大学が提供し、それを受けて自分の考えをレポート形式で提出し、さらにそれに対して解説等を加えて返却するという双方向のコミュニケーションを行う。ほかに、大学教育に向けた基礎学力の補完としてBrush-upという添削学習と、対面指導を軸にした入学前教育セミナーの機会も提供している。

 入学後は、全学的に専門力×人間力を軸にしたHITPOというオリジナルのポートフォリオシステムを運用している。自らの目標や活動記録を学生が記入し、教員が入力内容をもとに目標を達成できるようにアドバイスする仕組みだ。各入試区分の入学者の成長度合い等の検証もこのシステムをベースに考えられているという。

今後は評価尺度を統一し、より丁寧な選抜を実施

 2年間の実践を経て見えてきた課題を問うと、河田部長より「尺度の統一」との答えが返ってきた。現状は、ルーブリックの評価尺度が3段階の学科もあれば、5段階の学科もある。学部ごとの事情を鑑みそのように設計していたが、外部への公平性の説明責任を考えると、全学科共通尺度にするのが望ましいと考えているという。

 脇坂課長は調査書評価を挙げた。調査書はこれまで知識・技能面を中心に、学科別に必要な項目を100点換算で使っていたが、調査書自体を学力の3要素の観点で多面的に評価する必要性から、今後は異なる評価を設計していく必要があるという。

 また、「将来的にはAO入試をもっと丁寧に時間をかけて選抜できるようにしたい」と河田部長は話す。とがったリーダー人材を獲得することがAO入試の目的なので、そうした観点でより多面的・総合的に志願者を評価する仕組みを磨いていきたいという。AO入試の定員は全定員の5%程度の割合だが、その合格者が期待されている役割は決して小さくない。

編集部 鹿島 梓(2018/7/12)