教職協働で取り組む育成型入試「新ガリレオ入試」が育む学びのコミュニティ/北海道科学大学

北海道科学大学キャンパス


 北海道科学大学は、2018年度現在で、4学部13学科・3研究科と短期大学部を擁する、理系中心の私立総合大学である。札幌市手稲区の前田キャンパスに、5000人を超える学生と教職員が集っている。

 設置者である学校法人北海道科学大学は、遡れば1924年に設置した自動車運転技能教授所(現:北海道自動車学校)を皮切りに、北海道自動車短期大学、当大学の直接の母体となる北海道工業大学や北海道薬科大学等を通じて、北海道における理系高等教育を担ってきた。

戸田 入試広報センター長、菊池 同副センター長、蔵野 入試・地域連携部長、佐々木 入試課長

 近年、その北海道科学大学が矢継ぎ早に改革を果たし、変革の時を迎えている。その一端は、本誌188号(2014年「進学ブランド力調査2014」CASE3)でも取り上げられているが、その後も着々と改革を進めてきた。北海道科学大学が近年果たした改革を生み出した土壌、そして、本特集に大きく関わる入試改革とその成果、及び今後の方向性についてうかがうべく、戸田貴大・入試広報センター長、菊池明泰・同副センター長、蔵野雅行・入試・地域連携部長、佐々木卓也・入試課長を前田の地に訪ねた。

100周年を志向した改革の土壌とは

図1 校名変更・学部学科新設と主な入試制度の変更点

 学校法人北海道科学大学は設置100周年に向けて、上述の通り、様々な改革を進めてきた。188号での紹介の後の展開も交えて少し振り返ることにしよう(図1)。

 2014年、伝統ある北海道工業大学から北海道科学大学に校名が変更された。と同時に、保健医療学部の設置を機に3学部体制への移行がなされ、改革の道のりを行くこととなった。2018年度には、同法人設置であり、かつ、既に2015年度から前田キャンパスに移転してきていた北海道薬科大学との統合が行われ、現在の4学部体制での新生・北海道科学大学の陣容が整った。

 こうした改革の根底には、18歳人口減少の時代を迎え、「工学部を志願する学生が減ってきて」いたこと、工学系だと男性が多くなる傾向があるなかで女性も入ってくる学部がなければ「このままだと先細りになってしまうのではないか」という危機感が横たわっていたと、戸田センター長は語ってくれた。北海道の高校生に高等教育機会を提供し続けてきた北海道工業大学にしてみれば、この危機感は日に日に切実さを増すものであったことだろう。

 こうした危機感をドライビング・フォースとして、先述の大学統合やUniversity Identityの策定、後述の新ガリレオ入試、そして、全入試区分でのインターネット出願への一本化等、様々な改革が実現に漕ぎ付けられた。紙幅の関係で割愛したものも含めて、この間に北海道科学大学が成し遂げてきた改革は、北海道では初となるものも多く含まれている。これらの改革の実現に当たっては、現理事長である苫米地前学長の理念を受け止めたフォロワー達の奮闘が果たした役割が大であったことも触れねばならないだろう。苫米地理事長が浸透させた「北海道初、唯一」を狙うというコンセプトは、上述のものを含め様々なところに波及していった。

 その結実の一つが各学部のアドミッション・ポリシーである。全学部全学科において、求める人材像と学力の3要素(「知識、技能」「思考力、判断力、表現力」「主体性、多様性、協働性」)との対応が示され、人材像ごとに3要素における重要度の軽重が記号で分かりやすく表現されている

 学力の3要素を考慮するのは個別入学者選抜改革に合致した流れだが、これを先取りして動けたのは、時間を尊ぶコンセプトが浸透していたことも大いに助けとなった。一般的に言って、各学部には各専門分野に根ざすアイデンティティがある。だからこそ、こうしたポリシー等の策定には対話を欠かすことはできない。これは筆者の推測の域を出ないが、検討委員会での検討に当たって、入試広報センターが「初を狙う」視点を持って取りまとめた原案が果たした役割は大きかったのではないだろうか。

育てる入試としての「新ガリレオ入試」

 ところで、特に本特集との関連で言えば、取り上げねばならないのは、やはり「新ガリレオ入試」であろう。2016年度入試より、一部の学部における既存のAO入試を発展させるかたちでスタートした「新ガリレオ入試」は、多面的評価を取り入れることで、北海道科学大学とそこで真に学びたい学生をつなぎ出している(図2)。

図2 新ガリレオ入試(AO入試)の推移

 その具体的なステップはこうである。本稿では、2018年度実施(2019年度入学者対象)の新ガリレオ入試を例に説明しよう。この入試を受ける生徒は、新ガリレオセミナーを3回受けることになる。第1回目のセミナー(8月26日)では、全体のガイダンスを受けた後に、「講義」「集団面談」「個人面談」が行われる。ここでの内容や、次回セミナーまでに取り組む課題を踏まえつつ、第2回目が実施される。第2回目(9月2日)は、「基礎学力向上プログラム」と銘打った文章(レポート)の書き方に関する講義や、各学部で設定されたテーマによる4、5名程度での「集団討論」及び「レポート作成」が行われる。「集団討論」では、第1回目で課された課題の結果を持ち寄り、問題点の明確化や仮説の構築等を行う。このグループによるディスカッションの結果は、第3回目のセミナーにつながってくる。第3回目のセミナー(9月17日)では「集団討論」の結果を踏まえて、「実験・実習」を実施する。この3回のセミナーでの取り組みが評価され、出願許可(9月26日)が出ると、受講生はこの3回のセミナーで取り組んだことを材料に、「最終レポート」を作成した上で受験(10月20日)することになる。

 入試の一部ではあるが、この3週の間には、課題発見、仮説構築、検証という、大学での学びに必要なプロセスそのものが組み込まれている。それだけでなく、この3回のセミナーを題材とする「最終レポート」によって、この濃密な体験が一連のプロセスとして認識されるようにメタ認知を促すという、教育的配慮のもとに構造化されている。

 こうした学びのプロセスをガイドするのが「新ガリレオノート」である。「新ガリレオノート」には、セミナー全体の流れといった事務的な記載はもちろんだが、セミナー各回での学びや気づき、取り組んだ課題の結果等も記入できるスペースが用意されている。しかし、その白眉は「セミナーで身に付けたい力」がノートに明記されている点であるのは間違いない。この「身に付けたい力」は、「レポート」「集団討論」「実験実習」に取り組む際の自己チェックリストにもなっている。学習目標が受講生と共有され、自ら学ぶ力を育む枠組みが各セミナーとノートによって提供されている。なお、この身につけたい力の各項目は、新ガリレオセミナーでの取り組みを評価する際のルーブリックに対応している。特に「レポート」の評価結果は受講生本人にフィードバックされ、自身の学習状況の把握もできるようになっている。

 ここまで手厚い新ガリレオ入試は、継続的な教職協働の賜物である。各学科で選ばれたセンター主任教員と職員によって構成された入試広報センターにおいて、2014年の秋ごろ、5名の教職員で新ガリレオ入試のワーキンググループをスタートした。AO入試の本来の精神に立ち返ることが意識され、数カ月の議論を経て新ガリレオ入試はかたちづくられた。スタートしてからも改善を続けてきている。例えば、それは、ルーブリックの評価基準は毎年修正され、誰が評価に携わっても混乱がないよう工夫が凝らされてきたことに表れている。

 2017年度入試からは、評価者として職員もこの新ガリレオ入試に参画している。複数回にわたる研修会の実施を通じて評価者の評価基準の摺り合わせがなされたこと等により混乱もなかったこと、入試以外の課から参加した職員の中から高い関心を持って取り組む者が現れたことを蔵野部長、佐々木課長から聞くことができた。これらの実績を基に、2018年度入試からはAO入試を新ガリレオ入試へ一本化することになった。教職協働にて生まれた新ガリレオ入試は、教職協働のもとで雄飛している。

 こうした教職員による尽力によって継続的に充実を目指してきた新ガリレオ入試は、文字通りに育成型入試として機能している。そのことは、「自分が成長できると思った」(受講理由12項目中1位)から受けに来たという生徒達が、受講前後の自分自身の変化について「とても+やや感じる」(93%)とセミナー受講者アンケートに回答していることが実証してくれている。

キャンパスに顕れ始めた改革の成果

 新ガリレオ入試等をはじめとする諸改革のインパクトは、様々な側面に顕れている。例えば、PROGの結果では、新ガリレオ入試による学生のコンピテンシーは高く、数値でもその能力の高さが証明されている。また、旧来的な学力を問わない新ガリレオ入試(ただし18年度から基礎学力試験が追加されている)ではあるが、入学後に学びについていけず、留年や中退に至った者は一人も出ていない。

 しかし、北海道科学大学にとって真に重要なのはおそらくそこではない。北海道科学大学が得た成果を、ただ優秀な学生を迎えることができたことのみとして捉えるようであれば、見誤ることだろう。真に重要なのは、こうした新ガリレオ入試により入学した学生がクラスを引っ張っており、北海道科学大学の学びのコミュニティに新たな刺激をもたらしていることだ。コミュニケーションの力が高く、クラスの雰囲気づくりに一役買っており、各学部の教員からもその力が評価されてきていること、初年次教育におけるグループワーク等を通じて学力ベースの入試を経てきた学生が刺激を受けている様子が授業評価の自由記述に垣間見えることを菊池副センター長は教えてくれた。戸田センター長からも、困っているクラスメイトに助けの手を差し伸べている印象があるとのエピソードを聞くことができた。

 ところで、この間の大学改革で実現してきた目的養成系の学部の設置や、新ガリレオ入試による学生がもたらした成果は、キャンパス内でどのように顕れるだろうか。ここで、筆者が目の当たりにしたことをそのまま紹介することを許していただきたい。講義棟A棟の1階には塔時計が置かれているが、その斜向かいにある学生食堂(HUS TERRACE)に目を向ければ、多くの自習をする学生の姿が見える。塔時計を右手にし、まっすぐ進んで中二階に至れば、そこにもテーブルに授業の課題や参考書を広げ、問題と格闘している学生の様子を見て取ることができる。

 北海道科学大学に学ぶべきなのは、入学者選抜は望ましいキャンパスの実現のためにあるという、基本的だが忘れ去られがちなことに立ち返る重要性なのかもしれない。

おわりに― 改革の先に見据えられているもの

 北海道科学大学は先を見据え、さらなる飛躍につなげるべく、新しい一手を打ち出している。

 2021年度以降に実施される入試の基本方針並びに入試区分の変更等をはじめとする諸改革を、2018年11月に公表した。基本方針では、一般選抜出願者はインターネット出願時に第一志望学科の志望動機を100文字程度書くことを求めるといった内容等が盛り込まれている。これは、入学後の面談等の学生支援に生かすこと等が予定されている。この改革にも、学生の学びにつなげる視点が生きている。

 また、系列校である北海道科学大学高等学校との取り組みではあるが、高大接続の充実を図ることが目されている(図3)。北海道科学大学高等学校の1年生全員を対象に、将来の職業観を醸成するガイダンスや模擬講義等を実施。2年生の前半までは全員を対象に探究活動の枠内で資質・能力を育む学習機会を提供しつつ、後半から3年生にかけては北海道科学大学への進学希望者に絞って、グループディスカッションや実験実習、スクーリングといった、より大学での学びに近づくチャンスを用意することを予定している。こうした学びの成果はポートフォリオとして蓄積され、系列校推薦入試にも活用されることとなっている。

図3 高大接続強化プロジェクト~高校1 年生から大学教員の講義を受講~

 予定されているこれらの改革で始まる取り組みとその不断の改善を通じて得られた知見は、新ガリレオ入試の時と同じように学内に浸透し、キャンパスにおける学びの文化を強めていくと筆者には思われた。

 ところで、ガリレオ・ガリレイが振り子の等時性を発見し、それに基づいて後年にホイヘンスが振り子時計を発明したと伝えられている。北海道で「科学的市民」の育成を長らく続けてきた北海道科学大学は、今年度から北東北での入試広報にも力を入れることとなった。きっとそう遠くない未来に、塔時計を望むテーブルには全道と東北から集った若きガリレオ達が学ぶ姿が見えることだろう。

(立石 慎治 国立教育政策研究所高等教育研究部 主任研究官)



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