ボトムアップでの入試・教学一体改革/西南学院大学

西南学院大学キャンパス


 西南学院大学(以下、西南)は、1916年、米国人宣教師C.K.ドージャーによって設立され、キリスト教を教育理念の根幹に置く、学生数8300名を超える7学部13学科からなる文系総合大学である。同大学では2019年入学者選抜において、総合型選抜として新たな学力の3要素を問う入試を実施している。志願者数も多く、九州地区の私立大学ではほとんどの文系分野で偏差値もトップクラスの同大学で、いち早く入試改革の実施に至ったのはなぜなのか。その取り組み内容や目的等について、入試センター長・文学部教授の藤本滋之氏、副学長(取材時点は経済学部長)の立石剛氏、入試部事務部長の三苫正淳氏にお話をうかがった。

藤本教授、立石教授、三苫事務部長

2019年度入試から総合型選抜入試を先行導入

 大学の教育にあった学生を受け入れるという問題認識は常にあったが、今回の変化のきっかけは、2017年7月13日に文部科学省が入試制度改革に対する基本方針を示したことだ。2020年から入試種別が一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜に変わるが、総合型選はこれまでの制度の公募型推薦、AO入試に近いので、入試課が、そうした入試を実施している学部に議論を投げかけ、2年先がけて今年度から総合型選抜という名称に変えようという提案にどの学部も賛成した。2019年度入試の総合型選抜の実施状況を表1に示した。2019年にはまず5学部で先行して実施し、2020年から商学部の入試も公募型推薦制度を廃止して、総合型選抜入試を導入することが決まっている。専門能力重視型、英語4技能重視型の2方式で、合計28名程度を選抜する予定だ。文部科学省の言う学力の3要素をどのように測るかの議論を各学部で進めた結果が、こうした選抜方法に表れている。学部・学科によって具体的な方法は少しずつ異なっているが、小論文試験、面接試験、講義に基づく試験、提出書類等を用いて、総合的に学力判定を行う内容となっている。

図1 経済学部・文学部の志願倍率と歩留率

 西南が総合型選抜の入試改革にいち早く取り組んだと聞いて、筆者は正直なところ、やや意外だった。同校は定員割れとは無縁であるし、各種のデータを見る限り、学生選抜で大きな課題が見えなかったからだ。図1、2には、このあと中心的に取り上げる経済学部と文学部について、志願倍率と歩留率と、入試方法別の入学者割合を示した。図1を見ると、2018年はどちらの学部も11倍の志願倍率、31%の歩留率となっており、この何年かで大きな変化はない。2017年に経済学部では60名、文学部では50名の入学定員増を行い、志願倍率は多少落ちたものの、それでも高い志願倍率を維持している。入試方式別の推移をみると、年によって多少の増減はあるが、一般入試の割合が70%台から61%まで下がっており、経済学部の場合は指定校推薦、文学部の場合は公募型推薦が特に伸びている。入学者の質と量を一定水準に保つために、入試方法を変更する等して対応してきたことは分かるものの、図1や同校の偏差値の動向を見る限りは、特に大きな変化があったように見えない。実際に、新しい入試を始めることを伝えると、高校の教員等学外からは、「西南さんはそんなことしなくてもよいのでは」と言われることもあったそうだ。

経済学部で総合型選抜入試─「学びと探究型」と「活動実績型」

 7学部の中でも、最も積極的に検討をしたのが経済学部であった。「学びと探究型」と「活動実績型」の2つの方式で、それぞれ10名程度を募集する。その概要は表1に示した通りだが、基本的には学力の3要素に従って考えたという。「基礎的な知識・技能」については、現在のところそれを統一的に測る全国的な試験がないため、今年は評定平均で測ることにした。評定平均4.0に対して少し厳しめという意見も出されたが、ほかの測定基準がないのでまずは試行してみる。「思考力、判断力、表現力等の能力」いわば「応用する力」については、講義に基づく試験で測ることにした。経済学を知らない受験生に対してその場で経済学部の教員が必要な知識を分かりやすく教えて、理論ツールと様々な状況を説明するデータを示して、「あなたならどう考えますか」と問う。それでどこまで測れるかは別問題だが、事前学習がなくても対応できるような思考力を測る。「主体的に学習に取り組む態度」については、面接により評価する。これまでの面接では教員がその場で思いついた主観的な質問をしていたが、一定の基準を設けて、これまで何をしてきたのか客観的に判断できる行動のみを尋ねる。工夫する力があるか、苦労して成長したのか等、事実を確認するヒアリングを行い、段階付の評価をする。こうした方法に変更することで、考えて行動できる人、自分のために主体的に科目を選べる人を選抜するのが狙いだ。

表1 2019 年度入試における、各学部の総合型選別入試の概要

 立石教授によれば、入試課から新しい入試制度に変わるという議論のきっかけをもらい、学部内で当初は否定的な意見もあったが、実現へと進んだのには3つの要因があったという。第一は、現在の公募型推薦が、入学時のばらつきが大きく、平均的にGPAが低い等の状況から、必ずしも有効に機能していないのではないかという意見が教員の中から出始めたこと。第二は、学生の学びの意識に対する問題意識。最近の学生は学びの体系やキャリアを考えず、単位の取りやすさで履修科目を選ぶ傾向があるが、自分で必要な科目を考えて選んで学べる学生を取りたいという議論が出始めた。第三は、国公立大学でAO入試の導入が進み、高校もその対策を始めつつあるという外部要因。推薦入試と違い、総合型選抜では募集人員に対する制限がなくなるが、九州地区は18歳人口の減少も激しく、何の手も打たないと、競合校である地方国立大学に入学者を奪われるのではないかという危機感である。こうした課題意識が学部内に共有され、新しい入試に対して早めに対処し、良い学生が取れる訓練を始めようという流れになった。

 文学部も総合型選抜を導入した学部の一つであるが、2020年度に文学部を外国語学部(仮称)に改組することを契機に、来年度の入試をさらに変革する。これまで3つの学科・専攻は別々に学生募集を行ってきたが、来年度からは学部で一括募集し、それを機会に総合型選抜にさらに力を入れていく。総合型選抜に注力するのは、学力の3要素をバランスよく見るうえで、最も可能性が高いと感じるためだという。経済学部の方式をまねて、一部アレンジを加えた。具体的には面接ではなく、内容とテーマを決めたプレゼンテーションを行わせる点、経済学部では、高校での学びの実績アピール型と、大学に入ってどのような勉強をしたいのかという学習計画アピール型に分けているが、新しい外国語学部ではこの2つを合わせて、西南を希望する理由を一つの論文として提出してもらうのが変更点である。

 そうして提出された論文自体が思考力・表現力の証であり、主体性は学習計画や高校までの実績で検証する。ただし、書類や論文だけではどの程度自分で本気に考えたかが分からないため、面接でプレゼンを課す。ほかの受験生のプレゼンも互いに聞き合い、そのあとのディスカッションを受験生同士でやってもらう。これまでの面接では、受験生は事前に覚えてきたことを言いがちだったが、こうした方式にすれば、質問する力を見ることができる。問題意識がないと良い質問はできないし、大学の授業においても文学部ではプレゼンをして議論をする機会も多く、高大接続の点でも意義は大きい。

 文学部の改組と入試改革の関係について尋ねたところ、当然のことながら改組、教育改革、入試改革は連動して議論されたという。先行して議論したのはカリキュラムだったが、連動して入試の議論になった。学部改組をするなら一括募集でやってみようということは最初に決まったが、それをどのように具現化するのかについては学部内で熱い議論が繰り広げられた。例えば、外国語学科英語専攻は一般入試での成績もよく、わざわざ変えるメリットは何かという議論も出たし、高校の英語科教員として勤める多くの卒業生の出身学科がなくなることや入試レベルが下がる懸念が示されたが、そうならないように設計すると話した。

 新たな総合型選抜で英語の4技能に優れた学生が入学してくることを見越して、学部教育の改革も議論している。言語教育センター長とも議論し、4技能を重視したカリキュラム、具体的にはネイティブ教員が担当する20名規模の1年生向けクラスを作るように準備している。藤本教授によると、外国語学部に改組する動機の一つが人事を柔軟にできることだという。3つの学科・専攻に分かれた12、12、8の人事枠でなく、外国語学部全体で32の人事枠を活用できれば、時代の変化や社会のニーズに柔軟に対応できる。

 経済学部の入試改革も、その背景には、経済学部の学生の学力や教育への危機感があった。数学等の基礎科目を教えている先生から学生の学力が落ちており、ゼミが成り立たなくなったという意見が出されていた。また、西南では入学時、卒業時にアンケートを取っているが、経済学部は、入学時の期待は高いが、卒業時の満足度は最も低く、長期的に競争力を落とすのではないかという危機感があった。何度もカリキュラム改革を試みたが、うまくいかなかった。そこで、今回、入試を変えることでほかを変えていくことにした。学生全員の底上げを一気に目指すのではなく、良い学生を取ってロールモデルになるような形でほかの学生の意欲を上げていくことで改革が可能なのでは、と考えた。習熟度別クラスの導入、総合型選抜で入った学生に対するチューター制度を作り、教員が1対1で学習計画を指導する等の取り組みも行う予定である。カリキュラム全体を一度に改革するのではなく、良い学生が入学することで、受け皿としての教育内容が改善されることを期待しているという。経済学部では近年重視されるようになったデータ分析、金融の分野に関して新しい教員を配置し、実習科目でプログラミング教育を強化する予定にしている。教員が定年退職するときは十分に時間を割いて次の人事を学部・学科で議論して、社会変動のなかでのカリキュラム構想を見ながら、適切な分野での教員採用を考えている。

図2 経済学部と文学部の入試方式別の入学者割合

学部でのボトムアップの改革文化

 いずれの学部でも、今回の入試改革について、学部内で検討委員会を作り議論をして、最終的には教授会で決定している。入試改革や教育改革に関するインタビューにも拘わらず、トップマネジメントの関与の話題がほとんど上がらないのが印象的であった。西南では、ボトムアップの文化があり、入試だけでなく、PDCAも学部ごとに行っているという。

 全学の入試を検討する組織として、全学入試委員会があり、全学共通の一般入試はこの委員会が責任母体で、入試センター長が委員長を務め、各学部長、大学事務長、入試部事務部長、入試課長がメンバーであり、基本的にはこの委員会組織に全裁量が与えられている。それに対して、秋に実施される入試は各学部の裁量で運営されている。かつては入試の種類が少なく全学統一で全て行っていたが、20年くらい前から各学部が秋の入試で独自の取り組みを始めるようになった。それに対して全学部門や他学部から横やりが入ることもないし、運用上の問題が生じない限り、学部の独自性は最大限に尊重されている。

 ボトムアップ型の改革は、学部での意識共有がうまく進めば、改革の実現に非常に有効だが、改革スピードが遅くなりがちな欠点もあり、一長一短である。ボトムアップで分散型の西南は、普段は改革スピードが遅くなりがちだが、入試についてはスピーディーに動いたという。それだけの危機感が学部内に共有されていたためだと考えられる。

 それを支えた一つの要因がデータ分析とその結果の適切な共有であるように思われる。藤本教授も「西南の強みは事務局。例えば、国際交流も数多くの協力大学との交流事業を職員主導で運営している。職員にも卒業生が多く、高い専門的知識・技術を持ち、愛校心が強く、自分達の手でマネジメントをしている自負を感じる」と話す。改革の議論を支えるデータ、例えば入試形態別の追跡調査等は入試課で実施し、学部に共有してきた。入学時と卒業時のアンケートも長い歴史があるという。これまでは各部署でそれぞれ必要なデータを集めて分析し、必要に応じて学部と共有してきたが、今後はより体系的に行い、教育の中身にIRをいかしていくために、IR組織の設置を検討している。

 入試制度の企画だけでなく、その実施も各学部で推進していく。経済学部は入試委員会を作り総合型選抜を運営する。文学部も学部改組に伴い、文学部入試委員会を作った。入試制度が決まったから解散というわけにはいかず、学部統一の総合型選抜の実施を支える常設委員会として運営されていく。また、商学部では、入試制度検討委員会を設け、高校の成績、入試の成績、大学時代の成績、就職等のデータを分析して、それらが連動しあっていることを最近の学内の研修会で発表しており、面白いと話題になった。

 取材時点では出願が始まっていなかったため、出願状況や試験をしてみた感触等はうかがえなかったが、今後の課題を尋ねてみた。総合型選抜では手間をかけて実施するため、増える教員の負担をいかに効率化するのかが大きな課題である。面接は時間もかかることや、教員は研究者であって面接の専門家ではない等の事実を踏まえてどのように効率化できるかが同校でも課題だという。また、良い学生がどういう経路で入ってきているのかに関する分析をさらに進める。推薦入試で入る学生は早めに入学が決定する点を生かして入学前教育に力を入れていく構想もある。

 新しい入試がどう機能するのか、取り組みを通じてどのように教育改革を実現していくのか、非常に楽しみである。

(両角 亜希子 東京大学大学院教育学研究科准教授)



【印刷用記事】
ボトムアップでの入試・教学一体改革/西南学院大学