【専門職】多彩なキャリアパスを目的にした従来からの四大化志向が結実/高知リハビリテーション専門職大学 リハビリテーション学部リハビリテーション学科

 55年ぶりの新学校種となる専門職大学・短期大学制度が発足した。初年度に開学認可されたのはわずか3校。その設置趣旨と認可申請における困難等を取材させていただいた。

POINT
  • 1968年に開学した高知リハビリテーション学院(理学療法学科)を前身とし、古参の理学療法士(PT)養成機関として全国に人材を輩出してきた50年もの歴史を持つ
  • 建学の精神として「至誠をもって事にあたり、人や社会に信頼される人物の育成」を、教育理念として「医学的リハビリテーションに関する高度で専門的知識と技能を修得した、至誠心に富み、信頼される『理学療法士』『作業療法士』『言語聴覚士』を育成する」を掲げる
  • 専門職大学・短大制度の初回認可申請において保留なしで認可された唯一の学校
  • リハビリテーション学部リハビリテーション学科に理学療法学専攻(PT)、作業療法学専攻(OT)、言語聴覚学専攻(ST)の3専攻を展開
  • 一期生は定員150名(PT70・OT40・ST40)に対し、132名(PT67・OT34・ST31)が入学

 高知リハビリテーション専門職大学(以下、高知リハ)は専門職制度一期校として2019年4月に開学した。前身の専門学校(以下、学院)における50年ものリハビリテーション教育機関としての実践を基盤として、教育研究の新たな展開を迎えたことになる。制度初回の17件の認可申請において、保留なしでストレートに認可された唯一の学校となった。その設置趣旨や検討経緯について、小嶋裕学長、大倉三洋副学長、濱田和範教務部長にお話をうかがった。

従来からの強い四大化志向によるアドバンテージ

 「本学はPT人材育成の実績ある学院が基盤ですが、もともと四大化の志向が強かった」と小嶋学長は言う。最たる理由は学位の国際通用性にあるという。「学位があれば、さらに勉強したければ大学院に進学したり、海外に出たりと、キャリアを広げやすい。ただ現場で働くだけの人材ではなく、厚みのあるセラピストを養成するには、そうしたキャリアパスが不可欠と考えていました」。四大化は卒業生からも強い希望があったという。そう話す小嶋学長自身も学院PTの一期生である。学院時代も1987年から佛教大学通信教育部と教育提携する等、学士取得の方向性を模索してきた。リハビリテーションの本場である欧米では既にリハビリテーションに修士以上の学歴を求める等の高度専門職化が進んでいる。そうした国際水準に照らした判断でもありそうだ。

 また、四大化志向が強かったもう1つの理由として、濱田教務部長は高知県の特性を挙げる。「高知県は進学時の県内残留率が非常に低い。これは地元高校生の受け入れ先となる大学が少ないからです。高等教育配置の最適化という観点でも、四大化は必須でした」。その言葉の通り、高知県に大学は国立1校、公立2校、計3校しかない。大学進学者の残留率は20.3%で、5人に4人は県外に流出してしまう(2018年学校基本調査より)。こうした状況に対し、地元で学んで地元で働く循環を創り出すためにも、四大化は喫緊の課題だったというわけである。

 四大化を見据え、従来から教員は大学設置基準の認可で必要な研究実績を重ね、今や全体の2/3が修士以上のキャリアを持つ。だからこそ、今回の申請に当たっても教員を公募せず、既存のリソースと伝統に裏打ちされた人脈や紹介等で揃えることができたという。大学の教員審査においては、大学は教育研究機関であるという点に比重が置かれ、有り体に言えば「教えるのに長けた人材」であっても「研究実績のある人材」でなければ教員として認められず、これは実務家教員であっても例外ではない。また、施設設備も大学用に設計し、2014年には図書館も造っていた。専門職制度初回の審査においては、専門職育成機関として最適かという観点に加え、大学を名乗るに適しているかという観点でも厳しい審査が行われた。17件中開学に至ったのが3件のみという近年稀に見る認可率の低さ(17.6%)がその難易度を物語る。特に困難だったものの1つと言われる教員審査とファシリティにおいて、大学化に向けた動きに早々に着手していたアドバンテージは大きかったことだろう。

4つの科目区分で体系的に専門職を育成する

 設置審査においては、科目の構成も是非を分けたポイントであった。専門職制度では、卒業単位124の内訳として、基礎科目20・総合科目4・職業専門科目60に加え、専門職のためではない別分野の科目を設定する職業展開科目20が規定されているが、この展開科目の扱いが極めて大きなポイントとなった。専門職制度である以上は当然専門職に必要な科目設計という観点が強くなりやすい。しかし、イノベーティブな人材を育成する目的で専門ではない別科目を敢えて一定数設定するという制度設計の趣旨を鑑みるに、専門に寄せすぎるのは望ましくない。

 であるが故に、展開科目にこそその大学等の特徴が出やすいという側面もあるようだ。各専攻の展開科目の特徴を以下に整理したが、各専門領域から染み出した幅広い課題に応える内容となっている。

■PT
設置目的:子どもから高齢者までの幅広い年代における健康課題に対する解決力と経営等のマネジメントに関する基礎知識を養う
展開する科目群:健康課題の理解(生涯スポーツ論、学校保健論等)、組織における事業運営の理解(企業論、経営組織論等)、事業の発案・実行の理解(データ分析論、起業論等)

■OT
設置目的:障害のある者や高齢者等の地域における生活課題に対する解決力、自立生活支援のための新たなサービスや機器開発等の着想ができる創造力を養う
展開する科目群:地域の特性理解(土佐地域資源論等)、対象者への教育と支援技術の理解(特別支援教育論等)、社会課題への解決手法の理解(ロボット技術活用論等)、生活を支えるサービス等の理解(地域生活とサービス等)

■ST
設置目的:情報化社会に伴うコミュニケーション手段の変容による言語理解や言語表出が困難な者におけるコミュニケーション課題に対する解決力を養う
展開する科目群:地域における情報の理解(広告論等)、情報伝達の手法の理解(情報メディア学入門等)、情報の表現方法の理解(マンガ基礎実習、カラーコミュニケーション概論等)

 カリキュラムの全体構成は、PT専攻を例として図表に示した。教育目標に合わせて4つの科目区分を構成し、授業科目を配置した。専門職としての目的意識や探究心を備え、豊かな人間性と幅広い教養、専門知識・技術と総合的な判断力を培うことができるよう、体系的にカリキュラムを編成している。

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図表 PT専攻カリキュラム

歴史と伝統に裏打ちされた期待を社会につなげる

 ストレートに認可されたとはいえ、答申が出たのは10月中旬。極めて短い募集期間ではあったが、県内や近隣県から質の高い一期生が集まったという。小嶋学長はこう話す。「リハビリテーションは人がより健やかに、幸せに生きていくための支援を担う社会的責任ある職業。資格取得だけでなく、そうした視座と意欲を持ち、新しい学校で育む自分の人生をしっかり選択して来てくれた学生達に、教育を提供できるのが嬉しい」。

 「我々は、第一期の専門職大学として、この制度の存在意義を創るパイオニアという立場にある」。大倉副学長は言う。「PT養成のパイオニアとしての学院の歴史が、今の時代に合わせた専門教育のフラッグシップにつながればという思いです」。「そのためには成果を出していきたい。一期生の質は大学の今後に大きく影響する。大学教育の質は、社会からの評判、つまり卒業生の評判に端的に表れるはずですから」と、濱田教務部長の言葉は力強い。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/9/18)