グローバルエンジニア育成教育のためのコンピテンシーを定め、入学時の英語4技能を評価する/九州工業大学 2021年度入学者選抜方針(英語)

九州工業大学キャンパス

POINT
  • 1909年開校した私立明治専門学校(採鉱学科・冶金学科・機械学科)を源流とし、1921年官立移管を経て1949年現行名にて開設した国立大学
  • 「技術に堪能なる士君子の養成」を建学の精神に掲げ、現代訳した「日本の産業発展のため品格と創造性を有する人材を育成する」との基本理念から、産業界ニーズに即した人材育成を軸に、工学部と情報工学部の2学部に11学科を展開
  • 2019年3月卒業生の就職率は学部99.5%(希望者405名)、大学院99.6%(希望者557名)。高い就職実績と6万人を超える卒業生を擁する


九州工業大学(以下、九工大)は2021年度以降入学者選抜における英語4技能評価のため、民間資格・検定試験の利活用を表明した。その趣旨や背景についてお聞きするべく、福岡県北九州市にある戸畑キャンパスを訪ね、安永卓生副学長(広報・入試・IR担当)、花堂奈緒子アドミッション・オフィサーにお話をうかがった。

グローバルエンジニア養成を標榜し国際プログラムを充実

 まず、九工大が公表した情報を概観したい。

  • 大学としてグローバル社会の中で活躍できる技術者・研究者の養成を目指しており、入学後の学びへの対応には入学段階で一定程度の英語能力が欠かせないため、一般選抜・特別選抜において英語能力を評価対象とし、英語資格・検定試験を利活用する方針を継続する
  • 具体的には、各選抜の英語配点に応じて換算表により換算した点数(換算点)を英語得点(大学入学共通テストを課す選抜においては「外国語」素点)に加点する(英語配点の2割程度で、選抜区分ごとに上限あり)
  • 高校での英語4技能教育を一定程度評価しうる資格・検定試験を対象として選定する
  • 利用できる検定試験のスコアは、各選抜区分の出願期間初日から過去2年以内に受験(従来型英検については2次試験)した公式スコアとする

  • 【参考資料(PDF外部リンク)】
    令和3年度入学者選抜(令和2年度実施)における英語資格・検定試験の活用方法について
    https://cache1.jimu.kyutech.ac.jp/archives/033/201911/20191128_2021yokoku_eigo.pdf


図表1 対象となる資格・検定試験(私費外国人留学生選抜以外)

図表1 対象となる資格・検定試験(私費外国人留学生選抜以外)


 公表内容は概ねグローバルエンジニア(以下、GE)育成をうたう大学教育に照らし、英語4技能を評価に加える趣旨であるが、工業大学が英語4技能について加点措置をとることについて、学内外から批判はなかったのか。

 「本学は従前よりこうした方針はあり、全入試区分で外部検定試験を加点もしくは置き換えとして活用してきました」と安永副学長は言う。そのため、今回共通テストにおける逆風にも拘わらずその方針を維持したことについては、「これまでの成果や周囲からのご期待に照らし当然のこと」と断ずる。

 では、こうした方針を導入した当初はどうだったのだろうか。2004年に86の国立大学が法人化に伴う新しい仕組みに従って一斉に策定した第1期中期計画(2004~2009年度)の段階で、九工大は「教育」において「GEを育成する」と明言している。もともと九工大は産業界ニーズにマッチした人材育成を掲げており、社会のグローバル化は大学としても看過できない大前提だ。そのため、大学全体でも以下3点を包括する国際戦略を掲げている。

  • Global Engineerの養成
  • 有能な人材の確保による「知の競争力」の向上
  • 国際的プレゼンスの向上

 こうした全体方針に照らし、教育のグローバル化に伴う入試の英語4技能活用が前提となるのは当然という認識のためか、入試の方向性については、満場一致というわけではなくても、概ね賛同する教員が多かったという。九工大は個別入試に英語を課していないため、かつては「英語は苦手」と自称する学生が多かったが、こうした方向性を踏まえた学内改革の成果か、ここ4~5年は「入学後に留学できますか」といった問い合わせが増えた。「本学は語学留学も含めた海外派遣が増えており、昨年度は29カ国・地域に697名、1年間で全体の約14%が海外に行った計算になります(図表2)。そうした実態に即した反響を頂けるようになった」と安永副学長は嬉しそうだ。

 「工業大学でベースとなるのは数学と理科です。しかし、数理は小学校以降の積み上げで実力がついているのに対して、英語ができる人は学習習慣がついている人であることが多い」と安永副学長は続ける。特にリスニングは聴き続けていなければ高スコアが期待できない。誰しも、海外旅行の直後は英語が聴きやすいが、1週間後には分からなくなるといった経験はあるだろう。「ある意味、英語ができるとは継続的に学習に取り組むことができるというスタンスの証明でもあると捉えています」と安永副学長は言う。

図表2 海外派遣者数の推移

図表2 海外派遣者数の推移

GEの素養を定義し、それらの獲得のための教育を整備する

 九工大では、GCE(Global Competency of Engineer)と称して5つの要素を定義している。

  • 多様な文化受容
  • コミュニケーション力
  • 自律的学習力
  • 課題発見・解決力
  • 工学的デザイン力

 この5つを基礎に「(学部教育の)専門性」を持つことがGEには必要であるとする。この中で①②③を効果的に養成するには、前述した海外派遣が最適であるというわけだ。それ以外にも、日本人学生と留学生が共同生活するなかで国際感覚を磨く学生寮等のファシリティも用意している。

 海外派遣プログラムでは事前に募集説明会があり、派遣前後に事前・事後学習の機会を設ける等、パッケージ化している。初めて海外渡航する学生を対象とし、異文化理解やSDGsといった基礎知識を事前修得するFirst Step Program等、多様な学生ニーズに応える内容を揃えている。また、GE育成のために大学院への進学までを視野に入れた6年間の教育プログラム「グローバル・エンジニア養成コース」も開設している。社会での活躍を見据えたこうした大学改革を背景に、冒頭の入試方針を見れば、その内容に得心するのではないだろうか。入試改革の起点は、やはり教育なのである。「小さな地方国立大学がこうした方向性を打ち出すのは勇気も要りますが、我々が進んでいく方向性に沿った制度にしていきたい」と花堂氏は言う。

高校生が「自分の未来をデザインする入試」を総合型選抜として位置づける

 そうしたグローバル化の一方で、総合型選抜改革についても触れておきたい。現行のAO入試では、センター試験成績、グループワーク、個人面接、高校入学後の活動に関する記述及び調査書等の総合的な評価により合否判定を行う。これは先ほど挙げたGCEの①②③が他者との協働学習やグループワークによっても育まれるものであるという前提で、その素質があるかどうかを測るものである。それと同時に、「メタ認知ができるかどうかを見るものでもあります」と安永副学長は言う。「本学では目標の達成度合いや成長度合いを観るための独自のポートフォリオを運用していますが、そうしたものを活用していくには本人のメタ認知能力が必要。自分を客観的に見て自己評価できる能力として捉えています」。こうした内容を踏まえ、2020年9月から始まる総合型選抜Ⅰでは、既存の工程に加え、大学講義を受講してのレポート作成、学びの計画書作成等のプロセスが加わる(図表3)。これまでの自分を知り、大学が何をしているかを知り、大学で何をしたいのか考え、他者協働やメタ認知、GCEに向かう基礎力があるか検査する。こうした選抜方式はオープンキャンパスのデモや高校への出前講義、高校教員向け研修会等を通じ、徐々に知られるようになってきたという。「受験生を育てる意識で入試を設計しています」との花堂氏の言葉が示す通り、入試の紹介キャッチコピーは「自分の未来をデザインする入試」である。

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図表3 総合型選抜Ⅰを含む多様な入学者選抜
図表3 総合型選抜Ⅰを含む多様な入学者選抜

 九工大では同窓会組織である一般社団法人明専会や産業界等からの支援を受け、学生グループによる自主的な課外活動として、技術系競技大会参加や地域貢献活動を行う学生プロジェクトを多く展開しており、学生は正課内外で実践力を磨いている。多様な人々と自主的にテーマを持って協働できる人材を選抜することは、入学後教育の活性化にも大きく貢献するのである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/3/3)