地域の健康に寄り添う多角的なアプローチ/広島国際大学 健康科学部・健康スポーツ学部

広島国際大学キャンパス

POINT
  • 常翔学園が1998年に設置し、保健医療学部・医療福祉学部から始まった保健医療・福祉が軸の大学。同法人内に大阪工業大学、摂南大学がある
  • 「世のため、人のため、地域のため、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する」を建学の精神に掲げ、「いのちのそばに。ひととともに。」を大学のタグラインに冠する
  • 保健医療学部、総合リハビリテーション学部、看護学部、薬学部に加え、2020年から健康スポーツ学部、健康科学部を開設。6学部11学科での教育展開となる


広島国際大学(以下、広国大)は2020年4月に健康を冠する2学部を設置する。その趣旨・背景について東広島のキャンパスを訪ね、健康科学部の田中秀樹学部長(就任予定)、健康スポーツ学部の服部宏治学部長(就任予定)にお話をうかがった。

医療から健康へのアップデート

 今回の2学部新増設改組の根底には、共通した課題意識がある。即ち、「医療から健康へのアップデート」である。田中学部長は言う。「本学は長らく医療系を中心とした学部構成で、地域の福祉を支えてきました。それを、健康増進という領域に広げて地域活性へつなげていくのが改革のコンセプトです」。

 一般財団法人日本総合研究所の「47都道府県幸福度ランキング2018」によると、広島県は総合27位、5つの基本指標「健康(健康寿命・平均歩数等)」「教育(学力・社会教育費等)」「生活(待機児童率等)」「仕事(高齢者有業率等)」「文化(余暇・娯楽等)」のうち「健康」では46位、直訳すると非常に不健康な県である。人生100年時代と言われて久しいが、不健康に老いることは非常な困難を伴う。こうした現状に大学としてできることは何か。地域の健康と幸せを考えられる人をいかに育てるか。広国大のミッションでもある「世のため、人のため、地域のため、理論に裏付けられた実践的技術を持ち、現場で活躍できる専門職業人を育成する」ため、アプローチ方法をスポーツからと保健医療からの2つに分けたのが今回の新増設改組とも言える。

医療の専門家として他領域との広がりを創出できる人材を養成(健康科学部)

 健康科学部は、既存の心理学部・医療栄養学部・医療経営学部・医療福祉学部をもとにした届出改組である。4学科は、もともと各フィールドで資格取得を軸にしたカリキュラムが組まれている。

  • 心理学科
    人の心を探究し、社会の課題解決に活かす学科。認定心理士、社会調査士、睡眠改善インストラクターのほか、公認心理師の受験資格取得が可能(卒業後実務経験または大学院進学が必要)。

  • 医療栄養学科
    社会ニーズに対応できる質の高い管理栄養士を目指す。栄養士、食品衛生管理者、食品衛生監視員、栄養教諭一種免許状が取得できるほか、管理栄養士の受験資格が得られる。

  • 医療経営学科
    医学・経営学・情報学等を横断的に幅広く学び、医療機関や企業等で活躍する人材を育成する学科。診療情報管理士、医療情報技師、医業経営管理能力検定、医療経営士、メディカルクラーク等の取得が可能。

  • 医療福祉学科
    人々のしあわせな生活を支える専門職を目指す。全専攻で高等学校教諭一種免許状(福祉)・社会福祉主事任用資格が取得できるほか、医療福祉学専攻では社会福祉士・精神保健福祉士等の受験資格、介護福祉学専攻では介護福祉士・社会福祉士の受験資格、保育福祉学専攻では保育士のほか、社会福祉士の受験資格が得られる。

 特に医療経営学科は特長的な学科である。その名称からすると医療機関の経営スタッフ養成に見えるが、昨今活況の健康医療ビジネス領域も包括しているという。田中学部長は言う。「今健康は社会ニーズそのもの。病院ありきではなく、専門性を持って健康ビジネスを手掛けることができる人材を想定しています」。2019年9月、米国Apple社が聴覚・女性の健康・身体機能と心臓の健康という3つの研究に着手したニュースがあったように、健康ビジネスは社会ニーズと合致したチャンス領域である。研究と実践がつながり、イノベーションが生まれる素地のある領域で活躍する人材を育成したいという。

地域や社会の健康を支え、トレーナーとしても活躍できる人材を育成(健康スポーツ学部)

 健康スポーツ学部は新規の設置認可申請である。服部学部長は言う。「本学部は、健康寿命の延伸・国民医療費の抑制政策や地域社会の健康・運動・医療に関する関心の高まりを背景に、スポーツ・運動を通した人々の健康増進を推進する役割を担う人材育成を目指すものとして構想されました」。具体的には4つの履修モデルを用意している。

  • メディカルフィットネス・トレーナーモデル
    アスリートへのトレーニング指導から一般向けのメニューの提案まで、多様な実践力を身につける。
    フィットネスクラブでフリーパーソナルトレーナーとして活動できるNSCA-CPT(認定パーソナルトレーナー)、主にアスリートやチームを指導するNSCA-CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)のWライセンス(全米資格認定委員会承認)やJATI(日本トレーニング指導者協会)の基礎資格であるJATI-ATI(認定トレーニング指導者)の受験資格取得が可能。

  • 健康・体力づくり支援モデル
    健康・体力づくりに欠かせないスポーツの楽しさや必要性を伝え、1人ひとりのライフステージに応じた運動指導を実施し、豊かな生活作りをサポートする。適切な運動プログラムを提案指導する健康運動指導士・健康運動実践指導者の受験資格取得が可能。

  • スポーツ教育・指導者・スクールトレーナーモデル
    中学校・高等学校の保健体育教員を中心に、健康・スポーツ教育の指導者を育成する。中学校・高等学校の保健体育教諭一種免許状、公認スポーツ指導者、第一種衛生管理者、初級障がい者スポーツ指導員の資格取得、介護予防運動トレーナー等の受験資格取得が可能。

  • スポーツ行政・地域づくり支援モデル
    地域課題に健康・スポーツ分野から取り組むリーダーを育成する。国家資格「社会教育主事(任用資格)」の資格取得とともに、2020年に創設が予定されている国家資格「社会教育士(称号)」の取得にも対応するほか、公認スポーツプログラマーの資格取得、介護予防運動トレーナーの資格取得が可能で、公務員として行政機関や一般企業等で働くことを想定している。

 なお、社会の健康・運動に対する認識は変化しており、「かつては『スポーツで飯は食えない』と言われた時代もあったが、現在は『食える』時代になりつつある。こうした中で人々のニーズに応えるためにはしっかりとした知識・技能を身につけた運動・スポーツ指導者の輩出が求められています。本学部ではあらゆる分野での活躍を想定し、企業や公務員といった場面でもサポートする体制を整えています」と服部学部長は言う。

 また、学生募集において、体育系学部と言えば自らがプレーヤーだった学生を想定している場合も多いが、「運動部活動加入者だけを特段ターゲットとしているわけではない。運動やスポーツが好きで、人々の「健康」を支える側に興味を持っている生徒に広く興味を持ってもらいたい」と服部学部長は言う。

付加価値の高い専門職人材育成で「支える」側への人材輩出を強化

 広国大では2013年よりIPE(専門職連携教育)に力を入れている。具体的には、複数の専門職が専門的な役割を担いながらも、共通の目標をもって協働できるようになるための教育で、多様な職種を目指す学生同士が意見交換・相互理解し、それぞれの観点からチーム医療連携について深く学び合うための科目を設定している。

 これに加え、健康スポーツ学部・健康科学部では他学科の学びを受講できる「横断プログラム」を導入した。社会で活躍するためには、「専門性+αをいかに身につけるかが大切」との趣旨だ。図表にあるように、自分の専門性がまずあり、付加価値として他領域の学びを積みあげるスタイルで、例えば「ビジネスと介護に通じる福祉人材→企業で健康関連商品開発」「スポーツに強い栄養士→アスリートがパフォーマンスを最大限に発揮できる食の専門家」のように、分野連携によって実際の社会での活躍イメージに近づくとの考えだ。

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図表 横断プログラム概念図
図表 横断プログラム概念図

 「こうした人材を行政側に多く輩出したい」と田中学部長は話す。「現場に強いだけでなく、支える側・プランニングする側に専門知識を持つ人材を送り込むことで、地域施策全体がアップデートされていくことを期待しています」と服部学部長も続ける。広島県の健康増進を支援する広国大の動きに期待したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/3/17)