DX革命 ビル全体をIoT教材‐学部教育の実践の場としてキャンパスを設計する/東洋大学 情報連携学部INIAD

東洋大学キャンパス


坂村 健 学部長

 情報通信におけるデジタルトランスフォーメーション(DX革命)は社会の仕組みや生活を変えた。大学は、インターネットの恩恵を享受し情報システムを整備するだけでなく、社会インフラの変容に合わせた教育の在り様の再検討が必要であろう。新たな社会ニーズや技術革新がもたらす革命的変化に対して大学はどのような価値を提供できるだろうか。

DX革命を背景に次世代の学問をゼロから構築する

 2017年、東洋大学は東京都北区に情報連携学部(INIAD)を開設した。INIADは「文・芸・理の融合」と「連携」を掲げる。坂村健学部長はその起点としてDX革命を挙げる。「平成元年にインターネットが登場し、そこから情報通信技術は目に見えて人々の生活やビジネスの仕組みを変えました。現在はPCからスマホへとユーザーは移行し、5Gの展開を控える。次の大きな技術革新の波はIoT+AI。モノがネットワークにつながり、モノと人、モノとモノがオープンにつながり最適制御されるのが当たり前になります。そうしたDX革命を前提とした学問の在り様や社会へのアプローチをゼロから模索したのが、INIADです」。

志願者数の推移

 経済産業省が2018年12月にまとめたDX推進ガイドラインによると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」であるという。こうした社会を大きく変える技術を前提とした教育を新しく構築する必要性から構想されたのがINIADであり、「AIとIoT時代のための教育の場」とも言い換えられる。具体的には、「変化が加速する時代に文・芸・理を高いレベルで融合させたサービスを提供できる人材育成」であり、「連携するための文・芸・理の知識と学習について研究する学問」である。開設以来の志願者数の状況は図表2に示した。

情報・語学・協働を徹底的に修得するカリキュラム

 教育の基盤は、次世代の共通言語である情報連携基盤教育と語学を含むコミュニケーション教育である。1年次にその2つを共通カリキュラムで徹底的に学び、まずはコミュニケーションをとれる状態を作る。2年次からはコースごとに2つの研究領域を専門的に学ぶ4コース制を敷いている(図1)。授業はMOOCsを利用した事前動画予習を前提に、リアルの対面では議論を中心に展開するフリップトクラスルーム(反転授業)を原則とする。インプットとアウトプットの循環による効率的な知識修得と同時に、自分とは違う価値観・意見を持つ他者と積極的にコミュニケーションできる力を培う。

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図1 INIADのカリキュラム

学んだ内容をファシリティで実践活用する仕掛け

 こうした教育が行われるメイン校舎のINIAD HUB-1は、「ビル全体が大学教育の教材」である。総床面積1万9000平米のビルの中に5000個のIoTデバイスが取り付けられており、プログラミングで教室の照明を点けたり消したりする演習や、ロッカーを開閉する演習も行われる。照明制御API(Application Programming Interface)とオープンの音声認識APIを組み合わせて声で照明を制御するといったことも行う。「プログラミングで生活環境を広げたり改善したりできる」ことを学び、オープンナレッジの組み合せで新しい価値を生み出し、それをまたオープンにするといった一連のプロセスを実践できるようになっている。建築外観設計は隈研吾氏、内装とIoT設備は坂村学部長がそれぞれ手掛けた。授業を行う教室に黒板はなく、クラウドに入った教材をプロジェクター投影して進める(写真参照)。こうした教育環境の充実もあってか、志願者数は開設以来順調に推移している(図2)。

 キャンパスが立地する北区は高齢化率が25%と高く、INIADの地域連携によるコミュニティプランニングや福祉研究にも期待が集まる。課題はイノベーションの源泉となる多様性の確保であり、「男女、日本人学生と外国人学生、新卒と社会人がそれぞれ1:1となるのが理想」と坂村学部長は言う。現状は外国人学生10%、女性は30%程度だが、INIADは企業との共同研究や社会人の再教育に力を入れており、キャンパス内により多彩な属性が行き交う光景は、遠からず実現するように思われる。



東洋大学キャンパス内風景

【写真右】紙の本のない図書館
【写真左】コミュニケーションや実習のために小教室中心の構成



東洋大学キャンパス_ロッカー

学生が授業で学んだプログラミングを活用することでロッカーが開錠される



東洋大学キャンパス内風景

【写真右】インターネットに接続し、自動運転にも応用可能な様々な状況を実験できるT-Car
【写真中央】IoTテストハブに設置されたT-Car走行用サーキット
【写真左】AR技術を使ったナビゲーションシステム



東洋大学キャンパス_ロッカー

人間が知覚する現実空間に情報を付与することで現実空間を拡張して見せることができる



(文 鹿島 梓)



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