【専門職】好調な法人経営の次の一手‐フードサービス業界の不の解消を担う高等教育機関設立/かなざわ食マネジメント専門職大学

かなざわ食マネジメント専門職大学

POINT
  • 石川・福井に多数の専門学校を展開する学校法人国際ビジネス学院が2021年開設する専門職大学
  • 「専門産業の発展に貢献できる職業人の育成」を法人の教育理念とし、専門学校領域では「産学共同教育」「現場に即した実践教育」「一流による教育」「社会人基礎教育」の4つをKBGメソッドとして、自ら考えて仕事ができる職業人の養成をうたう
  • 新設の専門職大学では「フードサービス企業の経営のプロフェッショナル」養成を掲げる


国際ビジネス学院は2021年にかなざわ食マネジメント専門職大学を開設する。多数の専門学校を抱える法人がこの分野で専門職大学を創る狙いは何なのか。大聖寺谷 敏理事長にお話を伺った。

職業教育の社会的地位向上を目指す

 かなざわ食マネジメント専門職大学は、2017年に一度「金沢専門職大学」の名称で認可申請し、2019年開学を目指したが取り下げ、今回再チャレンジにて見事開学が決定した。設置検討を開始したのは2016年頃、構想から6年越しの念願であるという。

 申請に至った経緯について、大聖寺谷理事長は、「かねてより日本では職業教育が一段低く見られているという悔しさを持つなかで、専門職大学の目的の1つに、職業教育の社会的地位を向上させるとあったことに強く共感したから」と話す。「日本は若者の6割以上が職業教育を受けて社会で活躍しているのに、給与面含めなかなか認められない。目的意識を持って学び、資格取得して世に出ても、低賃金で長時間働かないといけない構造に異を唱えたい。我々は若者が長く業界で活躍できる状態を創りたいのです」。

 使命感に裏打ちされた二度にわたるチャレンジは、結果的に学びも多かったという。まず、「専門学校を創るのと専門職大学を創るのは大きく異なる」ことだ。制度設計上、専門職大学は職業教育機関であること以前に、まず大学であることが求められる。そのため、「大学運営法人としてたくさんのことを学ばせて頂きました」と理事長は言う。「我々のような小さな学校法人が『専門職大学設立』という高いハードルに挑戦することで、他の小規模法人を勇気づけ、また、少しでも職業教育に対する意識を高める一助になればと思っておりました」と続ける。

業界の人材育成課題に根差した大学の誕生

 職業教育の分野として選んだ「食」は、「食品製造業」「食品流通業」「外食産業」「農林漁業」等の関連を合計すると117.3兆円もの市場規模を持ち、国内総生産(GDP)にして54.9兆円、即ち全経済活動の11.4%を占める国の基幹産業でありながら、専門人材育成が遅れている分野だ(平成30年概算・農林水産省)。「日本フードサービス協会をはじめとして、業界の方々から“食のマネジメント人材”が圧倒的に不足しているとの多くのご意見を聞き、そうした人材を養成することが、業界の発展に貢献できると考えました」と理事長は言う。新設校で掲げるのは「フードサービス企業の経営のプロフェッショナル」の養成だ。「従来の経営系大学は広く産業の人材養成を行っていますが、本学はフードサービス企業に絞って就職することを想定していることから、業界に深化した学びを行い、即戦力の人材を業界に輩出することができると考えております」。

 フードサービス業界では将来の幹部候補であっても、まずは現場で数年経験を積むのが通例だ。現場の状況や気持ちを察せられない人物にマネジメントはできないからである。しかしその数年の間に、輝かしいマネジメントシーンを夢見ていた学生はギャップに耐えられず、離職してしまうこともある。OJTで経営人材を育成するのには困難が多く、そこに業界課題がある。そこで新設校ではこうしたいわば下積み経験を大学在学中から課し、理論と実践の両軸で企業の中核人材となれる業界特化型経営人材を養成する。HPには「この変化と多様化の時代に、『経営学』という一括りでよいのか」との文章がある。まさに、多様化を極める時代だからこその専門職人材育成というわけだ。

次代のフードビジネスを担う人材養成カリキュラムの体系化

 しかし、社会的ニーズが高いとはいえ、既存の大学教育では体系化されてこなかった「食マネジメント」の体系化は困難を極めた。「特定の職業を想定したカリキュラムを構築すべしと何度も言われましたが、本学が目指すのは、言ってみれば大学の経営学部卒がマネジメント層に育ちにくい業界課題を解決する新しい人材育成。そこがなかなか折り合わない。まさに産みの苦しみでした」と理事長は回顧する。度重なる検討と議論の末、一般的な経営学を基礎としつつ、フードサービス企業の経営実務までを包含するカリキュラムが完成した。図1に見るように、軸となるのは経営学・ICT・食という3つのコンセプト。企業や業界からのヒアリングをもとにフードサービスマネジメントに必要な要素として決定したこの3つを掛け合わせて科目を構成し、科目趣旨ごとに基礎科目・職業専門科目・展開科目・総合科目に配置した(図2)。


図1 教育概念図
図1 教育概念図



図2 カリキュラム概念図
図2 カリキュラム概念図


 カリキュラムを指導する教員については、「設置基準を満たす選定と新たな教育に向けた人材集めを並行して行った」と言う。設置基準に記載の必要数は確保しつつも、併せて①既存大学で実際に教鞭をとる経験があること、②現役で各業界の第一線で活躍していること を重視して採用し、常に最先端の情報や技術を教育へタイムリーに活用できるように工夫した。

 専門職大学制度特有の科目である展開科目については、「考え方と発想力を身に付ける科目」、「情報関連科目」、「地域関連科目」の3つの科目群を設置した。フードサービスに関連する周辺分野を学ぶことにより、柔軟で新しい発想と広い視野を得、それらを組み合わせることで独創力を養うことを目的としている。

 さらに制度特有の臨地実習についても見ておきたい。図3にあるように、臨地実習は2年次から始まり、全体で600時間実施。Ⅰ・Ⅱは地元の店舗中心にまずは業界を知り、ⅢはⅠ・Ⅱの実践と課題について本社で企画・プレゼンテーションを実施するというように、段階的にレベルアップしていく。大学の定員が40名に抑えられている主要因がこの臨地実習であるという。「県外に出る実習先ならば宿泊等も含めたケア、全員丁寧に漏れなくレベルアップしていくサポートを考えると、40名が限界です」と理事長は言う。実習先は北陸でFC展開している大手企業が中心で、今後も継続して模索する予定だ。「いたずらに数を増やすのではなく、教育の一環であることを正しく理解して頂けるネットワークを充実させたい」と理事長は言う。


図3 臨地実習概観
図3 臨地実習概観


経営が順調な段階で全国展開に向けた次の一手を打つ

 前述したように大学の定員は40名、完成年度でも総定員160名という超小規模校である。経営的に成り立つのか伺うと、「短期的に見れば、経営的には非常に厳しいことは明白です」と理事長は笑顔で言う。「しかし、教育の質を重視し、フードサービス業界に有益となる人材を輩出することが、結果として学院全体の成長につながると確信し、経営面よりも教育の質を選択しました」。専門職大学開設の挑戦は、単体で見た対業界の設置意義のみならず、法人内で抱える「現場のスペシャリストを養成する専門学校」とは違う土俵で勝負する意義がある。さらには、法人としての理念や実績を活かした独自性の高い大学創りを行うことで、全国から学生を集めたいという意向もある。つまり、国際ビジネス学院が次の経営ステージに上がるためのフラッグシップでもあるのだ。「幸いなことに、堅実な教育が多くの生徒や世間の評判に支えられ、法人経営は極めて順調です。だからこそ、次の手を今打つ必要があるのです」。北陸地方の18歳人口は向こう10年で約15%減少する。現在が順風満帆でも、圏内のみの募集力ではいずれ行き詰まるかもしれない。「経営は先手必勝、行き詰まってから手を打つのでは手遅れです。常に5年後・10年後を見据えて次の一手を模索するのが経営者の役目」と理事長は断ずる。まず見据えるのは2025年、専門職大学の1期生卒業年だ。「そこまでに全国から金沢に学生が集まってくる状態を創りたい」と理事長は意気込む。認可申請に当たっての受容性調査では、調査企業の95%で「卒業生を採用したい」という意向が得られた。業界の中核人材を養成することが法人の成長につながり、若者の未来を後押しするアクションにもなる。そのために必要なのは「教育の質を上げていくことと、高度な実践の場を創り続けること」だという。豊かな食文化が伝統的に根付く金沢の地にフードビジネスの理論と実践の両軸を持つ大学ができれば、関連施設や現役のプロフェッショナルとの共同展開等が生まれてくる。そうした機会も大学の「教育の場」として活用したい。理事長の方針は明快だ。新たな教育の場のスタートが今から楽しみである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2021/1/19)