前後の接続領域の変化を見据え改革ドメインを見定める

前段で高校における変化対応力について見てきた。では、大学の対応力はどうなっているのか。今回、以下のテーマに即し、過去に編集部が取材してきた多くの記録を見直し、今回新たに何校か追加で取材を行った。事例を見てみると、変化対応力のある大学は、高校までの教育、大学の建学の精神に根差したあるべき姿、学生の接続先である社会という3つの観点を見据えつつ、注力すべき領域を定めて改革を行っている様子が垣間見えた。つまり、ここでご紹介する事例は、根底としては「高校・大学・社会をつなぐ」という観念が共通しつつ、具体的な施策に関して切り口が異なるのである。各大学の改革を細かく見ていくには紙幅に限界があるため、今回はテーマに即して注目すべき点をピックアップしてご紹介する。詳細をご覧になりたい方は是非、小誌ウェブサイトに掲載の各大学記事をご確認いただきたい。

高大接続の入学者選抜 http://souken.shingakunet.com/college_m_jirei/cat_31/
注目の領域・新増設 http://souken.shingakunet.com/college_m_jirei/cat_33/


① 高校の変化への対応(入試面)


 まず、高校側の変化に対応した入試を設定する動きを見ていきたい。このテーマに合致するのは、これまで高大接続事業を丁寧に実施してきた大学が多い。その蓄積のなかで、高校側で起こっている「探究」を軸にした変化を敏感に察知し、その要望に応えようとする動きである。要望とは、「探究活動を進めていった先はどうなるのか」「大学は入試でそうした生徒をきちんと評価してくれるのか」といった高校現場の切実な声である。

 改めて、「探究」を軸にした高校の学習指導要領の変化について触れておきたい。「探究」は、2022年度より年次進行する次期学習指導要領の柱だ。日常生活や社会に目を向け、生徒が自ら問いを立てて課題を設定し、情報収集、整理・分析、アウトプットまでの一連の行為を回すプロセスで、問いが問いを呼び新たな課題設定に至り、スパイラル的に連続していく動きとなる。問いを設定し、教科書に書かれていることやメディアの情報を鵜呑みにせず、自ら手足を動かして一次情報を獲得し、フィールドワークに赴き、自分の目で確かめる。自分の問いを検証し、成果をアウトプットしたうえで、次の問いにつなげる。こうしたサイクルを回すことで「自分の頭で考える」経験が増えるほか、日常生活の様々なことに関心を向ける姿勢を育み、フィールドワーク等で場合によっては学校外のネットワークができ、成果を他者に分かりやすく説明したりプレゼンテーションする技法や伝え方の思考を深め、自律的な学びのスタンスが涵養される。探究における問い、即ち課題設定で重要なのは「自分の視点」「持論」なので、生徒の数だけ問いが形成され、問いを軸にした個別の学習が進むことが期待される。学びは自分のものであり、社会とつながるためのツールであり、自らを高みに引き上げる装置である。

 そうした経験を得ることは人生における財産になろうが、ここでは「その結果大学に入れるのか」という切実な問題もある。探究は学びの個別化という側面が強いため、当然それを指導する高校現場にかかる負荷は高い。探究を推進すればするほど、あらゆる方向に生徒の関心に基づく探究が広がっていくので、知識を教えることはもちろん、どう評価するのか、うまくいくようにアドバイスしたりする等、これまでの教科指導以上の役割が期待される。結果、従来の受験指導に割く時間と労力は減少せざるを得ない。2022年度より、「古典探究」「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」「理数探究」「理数探究基礎」「総合的な探究の時間」の7つの探究科目が新設される。科目ごとの「探究」も展開されるとなると、科目の先生方は、「大学は従来型の知識を求めるのか、探究を評価するのか」という2つの問いの狭間で板挟みになりかねない。

 こうした高校の現状とこれからに照らし、「探究の先にスムーズに接続される入試」を設計した事例をご紹介する。入試を変えるだけでなく、まずは大学教育と高校教育、大学入学と進路指導を接続する観点を持っていることに注目されたい。


【Case① 入試】 高崎商科大学 総合型選抜(探究・ブレインストーミング型)

高崎商科大学が考案するのは、2022年度から本格化する高校の探究活動の先にある入試である。

 検討経緯 


  • 「自主・自立」を建学の精神とし、「実学重視・人間尊重・未来創造」を理念とした教育を展開する大学
  • 「社会で活躍できる人材が変わる」→「それに対応するために大学教育を変える」べく、社会のリアリティーと学問を結びつける企業連携教育を展開。そこで活躍できる人材を選抜する入試を企業連携で企画
  • 大半の高校で聞かれる「探究とは何か」「生徒の今後にどう役立つのか」といった疑問の声に応えるため、高校で取り組む探究の延長線上に位置づけられる入試を構想

 注目すべきポイント 


  • 入試の背景にある企業連携教育
    • 「授業で一方的にインプットするだけでは通用しない時代を生き抜く学生を育てたい」との狙いで、社会のリアリティーと連携させるべく2014年から企業連携「3.5本の矢プロジェクト」に取り組む
    • 趣旨に賛同する企業と学生のコラボレーションで企画を立案・設計するプロジェクトを多く推進
    • 現在は全員必修の「達観シリーズ」と称する企業人の哲学や思考にスコープを当てた企画へと展開が広がっている
  • 高校の探究活動の先にある入試を創ることが大学の価値創造の担い手を育成することになるという設計
  • 入試のブレインストーミングで問う「協働」のマインドは社会で必要とされるものであり、社会を反映した教育にも必須の素養であるというカレッジレディネスの定義
  • 高校の教育改革のベースが揃う2024年までじっくり入試を育て、大学のブランドとして構築していく意向

社会の変化に対応した大学教育を展開する大学として、そこで必要となる素養をIRで分析し、その素養を評価できる入試を新たに設計した。小手先の方法論として入試を変えるのではなく、まず企業と協働して教育を変えたことに意味がある。高校の探究学習を推進しても大学入試にはつながらないのではないかという高校現場の不安を汲み取る動きでもある。


画像 高崎商科大学「3.5本の矢プロジェクト」、「達観シリーズ」



【Case① 入試】 産業能率大学 一般選抜(未来構想方式)

産業能率大学は、大学教育に必要なレディネスと高校の探究を接続する入試を一般選抜で導入した。

 検討経緯 


図表 産業能率大学「SANNOの学び」

  • 1925年創立の日本産業能率研究所を起源とし、即戦力となるプロフェッショナル人材の育成を通じ、産業界の発展に貢献し続けてきた大学
  • 社会接点の多い大学としての課題意識から、「持続可能な多様で豊かな社会」の担い手となる牽引者を選抜する目的で入試を構想

 注目すべきポイント 


  • 獲得人材
    • 自ら主体的に社会と関わり、未来を見据える視点を持つ人材を獲得人材に設定
    • そうした人材は高校の探究活動を主体的に実践してきた人材と符合するものと定義
    • 探究活動に力を入れることで産能大で活躍できるという高校教育→大学教育への接続筋を通す
  • 未来構想レポート
    • 学力を評価する科目試験と構想力を評価する本試験の2段階で入試を構成
    • 後者では実在する村や島の衰退から、そうならないためにはどの段階でどういう打ち手を講じれば良かったと思うか、自らの視点で分析し、提言する力を問うレポートを作成
    • 問いたいのは「自らの視点で問いを立てる力」であり、データを読み解いたり、周辺情報を集めて仮説を立てたり、ベンチマーキングから参考情報を引き出す等、社会活動を成り立たせる様々な行動能力を入試で問いたいという目的に照らし、情報収集のためのデバイス利用が許可されている
  • 社会変化に合わせて教育を改革してきた自負のもと、大学として注力するアクティブラーニングやPBL、社会・地域連携の適性を問うことで課題に向き合うスタンスを汲み取ると同時に、高校との接続を実現する

社会に必要な実践型人材を輩出してきた大学として、今の日本が解決できていない課題に取り組む姿勢を入試で問い、同時に高校教育と大学教育の接続を実現した。


図表 産業能率大学「学修システム」



【Case① 入試】 桜美林大学 総合型選抜 探究入試Spiral

桜美林大学は、2022年度入試より、探究的活動に注力する学生を評価する入試を導入した。

 検討経緯 


  • 現在5キャンパスに6つの学群を展開する総合大学
  • 2016年に開始したAO・推薦準備セミナー、翌2017年に開始した高校生応援プロジェクト「じぶん探究プログラム」を2019年より統合した高大接続事業「ディスカバ!」を展開
  • 豊富な高大接続実績から高校との対話を積み重ね、高校教育改革を支援する立場として探究入試を設計

 注目すべきポイント 


  • 高校生に対し、自らの経験を棚卸して大学教育に向けて翻訳する経験を、入試を通じて提供し、学力や意欲もさることながら、自らの探究を軸にした進学の意思決定を支援することで、入学後のミスマッチを防ぐ
  • 一見同じような道をたどりながらも、少しずつ変容していく螺旋と、高校生自身の試行錯誤のプロセスを重ね合わせ、社会につながる行動様式だと定義
  • 社会での活躍人材を「探究的なスパイラルを多く回転できる人材」と位置づけ、高校時代に探究スパイラルを回した経験とそこから学んだことを大学教育にどう紐づけるかを問う
  • 高校生が入試準備をしやすいよう、また軸を定めてリフレクションを進められるよう、評価基準を公表
  • 大学教育も探究にシフトするよう同時並行で改革中
  • 学内推進のため、既存の旧AO入試に近い設計とし、他の総合型選抜と提出書類を極力揃える等を工夫

卒業時に送り出す人材の特徴から社会で活躍するための素養を考察し、翻って高校時代に実践してきてほしい経験を「探究スパイラル」と定義。その回転経験とそこから得た学びを中心に大学へのレディネスを問う。高校の学習指導要領との接続を志向しているように見えて、実は高大社接続を体現している入試でもある。


図 桜美林大学「探究モデル図」




② 高校の変化への対応(教育面)


 ここで主に「変化」のターゲットとなるのは第1章で挙げた学習指導要領の改訂である。高校段階での探究は生徒によって問いの深さが異なり、レベル感も様々かもしれない。しかし重要なのはアウトプットの質よりも、問いを軸にした探究プロセスを構築すること自体にある。その過程で生徒は多くのことを学ぶ。では、こうした頭の使い方を知った生徒達が大学に入学してきた時、大学はそれに対応できるだろうか。大教室での一斉授業でこうした思考回路が培われることは想像し難い。探究プロセスに慣れた高校生から見て、果たして貴学の大学教育は魅力的だろうか。否、本来大学教育こそ探究的な学びであるという言もあろう。しかし、その志向性が発揮されるのは2~3年次以降のゼミ活動からというケースは多い。問題は、高校を卒業して入学してくる初年次のタイミングで、探究が継続されるような仕組みがあるのかどうかかもしれない。

画像 文部科学省「学習指導要領の改訂のポイント」

 関連して、文部科学省「学習指導要領の改訂のポイント」によると、今回の改訂では、知識の理解の質を高めるために、「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう、全ての教科等を以下3つの柱で再整理している。

  • 学びに向かう力・人間性の育成(学んだことを社会で活かす)
  • 知識・技能の習得(社会で生きて働く)
  • 思考力・判断力・表現力(未知のことにも対応できる)

 こうした高校教育を受けてきた生徒が大学に入学した時、高校での学びをさらに発展させるような内容ならば、そしてそれを支援する体制が構築されていれば、高大の学びは比較的シームレスに接続されることであろう。大学は探究的な思考や学び方、カリキュラムマネジメントされた高校教育とうまくつながるように、大学教育を設計する必要があるだろう。

 ここでは、高校での探究学習を踏まえた高次の挑戦がしやすいように設計された好事例をご紹介する。


【Case② 教育】 筑波大学 総合選抜・総合学域群

筑波大学は2021年4月から総合選抜合格者向けに総合学域群をスタートさせた。
総合選抜で入学した1年次生のためだけに用意された特別な「学びの場」である。

 検討経緯 


  • 建学の精神「学際」「社会に開かれた大学」により、独自の教育システムとして学類・専門学群制を展開
  • 「昨今の複雑化・多様化する社会に対応するには、文理横断的に学問を統合して取り組む必要がある」として総合選抜・総合学域群を設計

 注目すべきポイント 


  • 総合選抜
    • 一般選抜(前期日程)の定員のうち、約7割を従来の学類・専門学群選抜、3割を総合選抜に設定
    • 学類・専門学群選抜とは、学類ごとに定めるアドミッション・ポリシーに則り、基礎学力を中心に選抜し、入学後は学類に属するもの
    • 総合選抜とは、「文系」「理系Ⅰ」「理系Ⅱ」「理系Ⅲ」という広い区分で選抜し、入学後の学類・専門学群選択の幅を担保するもの
  • 総合学域群
    • 高校までの学びを軸に自分で履修メニューを組み、1年かけて様々な学問的知見を広く学んだ後に学類・専門学群に移行する
    • 選抜区分にとらわれない移行を支援する学修サポートを整備
    • 学類・専門学群選抜の入学者と教育課程に大きな違いはないが、履修に際しては学生自身の主体性と目的意識が必須
    • 学類・専門学群とは別のフレームで、高校3年間+大学4年間で何を自分は探究するのかという観点を見定め、必要な能力を培う。何を目指すかをまず決めてから進路を選ぶという風潮に一石を投じる設計

高校の探究テーマを大学の専門という器に合わせて押し込めるのではなく、その軸足で多様な学問に触れる中で新たな問いを見出す可能性に期待する。高校時代に培った経験を大学にどうフィットさせるかを1年間模索することができる仕組みである。


図表 筑波大学 総合選抜の入学後教育



【Case② 教育】 神田外語大学 グローバル・リベラルアーツ(GLA)学部

GLA学部は大学創立30周年を迎えたことを機に設置された新学部である。その優れた設計力にも注目したいところだが、今回は「高校での探究学習からの接続」という観点でGLA学部を俯瞰したい。

 検討経緯 


  • 開学以来、「高度な語学運用能力」「グローバルに通用するコミュニケーション能力」を中心に高い評価を得てきた教育
  • 30周年を迎えたことを機に長期的な生き残りを見据え、これまでの基盤を活かし、より高次の課題に取り組む

神田外語大学GLA学部イメージ画像

 注目すべきポイント 


  • 建学の理念「言葉は世界をつなぐ平和の礎」を体現する学部
    • 学部コンセプト“Global Liberal Arts for Peace”
    • 未解決のグローバルイシューに挑む人材を育成する
  • 1年次と3年次の2回の留学と、3つの分野から成る専門教育で構成されたカリキュラム
    • 「世界の課題の最前線を体感」し、「学修意欲を喚起する」ための留学を1年次に実施。まず最前線に学生を送り、そこで生じた「問い」を学びの軸とするオーダーメイド教育
    • Humanities(人間と文化)、Societies(社会と共生)、Global Studies(グローバル・スタディーズ)の3つの異なる分野からグローバル社会の課題を多角的に捉える専門教育
    • 3年次後期には全学生がニューヨーク州立大学に4カ月長期留学し、現地の学生と共に自らのテーマについて学びを深める

高校の探究学習との違いとして、大学ならではの高次で段階的なフィールドが用意されること、問いの検証において学問的専門性を付与・実践されることが挙げられる。高校の探究学習の高度化ともいえる教育システムである。




③ 社会の変化への対応


大学教育に大きな影響を与えるものの1つに、社会があることに異論はないだろう。学生が卒業後に所属する社会には、産業や個々の企業、地域、国やグローバル等、多様な切り口が存在する。社会の変化として現在大きいのは、世界的に見たSociety5.0とグローバル化、日本の地域であれば少子高齢化や過疎化があろう。現在は新型コロナウイルス感染拡大に伴うICT活用の進展、感染関連のデータサイエンスの必要性、科学エビデンスを取り入れた政治の必要性等、新たな変化がもたらされている。こうした社会の変化に大学教育はどう対応すべきだろうか。

 また、第2章までで見てきた「高校の変化」は、これから変化していく社会を意識して作られたものである。文部科学省の「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」総則編には、冒頭の「第1章 総説 第1節 改訂の経緯及び基本方針」に、以下の文章がある。

 今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく、また急速に変化しており、予測が困難な時代となっている。また、急激な少子高齢化が進む中で成熟社会を迎えた我が国にあっては、一人一人が持続可能な社会の担い手として、その多様性を原動力とし、質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくことが期待される。

 こうした変化の一つとして、進化した人工知能(AI)が様々な判断を行ったり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されるIoTが広がったりするなど、Society5.0とも呼ばれる新たな時代の到来が、社会や生活を大きく変えていくとの予測もなされている。また、情報化やグローバル化が進展する社会においては、多様な事象が複雑さを増し、変化の先行きを見通すことが一層難しくなってきている。そうした予測困難な時代を迎える中で、選挙権年齢が引き下げられ、更に平成34(2022)年度からは成年年齢が18歳へと引き下げられることに伴い、高校生にとって政治や社会は一層身近なものとなるとともに、自ら考え、積極的に国家や社会の形成に参画する環境が整いつつある。

 このような時代にあって、学校教育には、子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め、知識の概念的な理解を実現し、情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。

 ここで示されるように、高校の学習指導要領改訂は「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」という軸で社会と連携し、社会に必要な資質・能力を育もうとするものだ。そこには2つの観点がある。まず、変化が激しく複雑化する社会で活躍するために育成すべき資質能力。そして、社会と接続した学び方に変容する必要があるという、学び方の変化だ。こうした教育が先行導入の2019年度から足掛け3年目に入り、2022年度からは1年次から順番に年次導入、そして2024年度からは全学年のカリキュラムがこの指導要領の内容に沿ったものとなる。

 加速度的に変わりつつある社会。高校がそうした社会を見据えた教育に変わっていく中で、大学はどうだろうか。社会の様々な変化のうちどれを捉え、事実をどう集めて分析し、課題にどうアプローチし、どういう人材を育成するのか。そのために学部を作るのか、全学教育を変えるのか、学び方を変えるのか、大学のビジョンを見直すのか。どのようなストーリーを描くかはケースバイケースである。

 繰り返すが、第1~3章は、流れのなかでどこを取り上げるかの違いである。高校と大学と社会をどうつなげるのか。そのためにどこから取り組むのか。切り込み方が大学で違うだけで、どの事例も全ての領域を何らか意識して設計されていることにお気づきであろうか。貴学はどこから始めるのか、その参考になれば幸いである。


【Case③ 社会】 武蔵野大学 2050年の未来に向けた大学改革

武蔵野大学は近年、2050年の未来に向け、ブランドステートメントを軸にした大学改革を加速している。

 検討経緯 


  • 1924年国際的仏教学者の高楠順次郎氏により開設した武蔵野女子学院を起源とし、1950年女子短大設立、1965年四大化、2004年に共学化。1990年代以降の活発な新増設・改組で知られ、今や2キャンパスに12学部を擁する総合大学
  • 仏教による人格教育「四弘誓願」を建学の精神とし、ブランドステートメント『世界の幸せをカタチにする。』を2016年から標榜
  • 社会ニーズを的確に捉える理事会のもと、既存の大学教育への挑戦とも取れる多様な打ち手を展開
  • 2024年に迎える100周年に向けて、「武蔵野大学2050VISION」を策定し、2050年に生きる学生に必要な素養を身につけるための学部学科や共通教育改革に着手

 注目すべきポイント 


  • データサイエンス学部の設置(2019年)
    • 講義なし・テストなしという方針で、課題プロジェクトに挑むなかで教員とディスカッションしながら学ぶスタイル
    • プロジェクト型学習を基軸に、少人数で企業との共同研究や、実社会の課題について実践的に学ぶ「未来創造プロジェクト」等、初年次段階から具体的なソリューションに携わる機会を多く配し、その後の原理的な学修に移行しやすくするカリキュラム設計
    • Musashino University Smart IntelligenceCente(r MUSIC)を拠点にAI教育を全学展開し、AI-Ready-Universityを目指す
  • アントレプレナーシップ学部の設置(2021年)
    • 不安、不満、不足など、世界に溢れる「不」を解決するため、「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を見出し、創造していくマインド」を身につける。大学のブランドステートメントを体現する学部でもある
    • ヤフー株式会社の企業内大学Zアカデミア学長として、次世代リーダー育成を行っている伊藤羊一氏を学部長に迎えた
    • 武蔵野INITIAL ブランドステートメント『世界の幸せをカタチにする。』イメージ画像

    • 「マインド」「事業推進スキル」「実践」の3つのフレームでカリキュラムを設計。「マインド」「スキル」を実践しながら鍛え、その繰り返しで学生を成長させることをカリキュラムの主眼に置き、「学生の志を中心に置いて、社会に対して新たな価値を創造する実践的な能力を身に付けるアプローチ」と称する
  • 武蔵野INITIALの導入(2021年度)
    • Society5.0の先にある社会を生き抜くタフな学生をどう育てるかという命題に全学で応えるため、またブランドステートメント『世界の幸せをカタチにする。』を実現するために必要な素養を全学共通基盤の枠組みで体系化
    • 共通教育の前身『武蔵野BASIS』で培った遺産は継承しつつ、AI、データサイエンス、SDGsを新たなコンテンツとして追加
    • 「武蔵野大学2050VISION」で掲げるHappiness Creatorとしての志を立てるのに必要となる資質・能力の養成を基礎教育が全学的に担う仕立て

改革の背景には全体を貫くブランドステートメントと、その実現のための「2050VISION」があり、未来社会とマーケットに向けた冷静な視点がある。常に社会を見ながらマーケットニーズを見据えた勝ち筋を描き、それが大学の独自性に昇華されるようにコンセプトをつむぐ。それを非連続的な速度でつなぎ、相乗的な改革効果を創出するのが武蔵野大学の改革である。



【Case③ 社会】 金沢大学 融合学域先導学類

金沢大学では社会変革を先導できるリーダーの育成に向け、文理融合の新たな学びが始動した。

 検討経緯 


  • 2004年の国立大学法人化以降、2008年の学域学類制の導入、知識集約型社会で活躍する中核リーダーの人材像を示す「金沢大学〈グローバル〉スタンダード(KUGS)」の策定をはじめ、社会や時代のニーズを踏まえた多彩な教育改革を推進
  • 社会変革が加速する中、日本の国際競争力低下に歯止めをかけ、イノベーションの創成をリードする人材を育成するため、既存の3学域17学類に加え、2021年に融合学域先導学類を新設

 注目すべきポイント 


  • 社会の実情と未来を見据え、既存学問を超越するフラッグシップとして構想
  • 実践を重視し、現状を打破する「突破力」と周囲を巻き込む「人間力」を涵養
  • 地域・社会・世界でのフィールドワークを通して、様々な社会的課題から自らが追究したい課題を設定。その「自分の問い」を軸に、課題解決に必要な学知を学ぶオーダーメイドの履修計画を設計
  • イノベーションに求められるのは、多分野にわたる専門知識。3つのコアエリア×2つの探求エリアを往還する中で、自ら設定した課題に応じた基礎科目から学び始め、幅広い分野の専門知識を総動員して課題解決に近づく学びを深める、「バックキャスティング学修」が学びのコンセプト
  • 他者と共創し、新たな価値を創造する力を高めるため、多様なバックグラウンドを持つ人材の協働と、実践知を積む体系的なアントレプレナーシップ教育を重視

社会の変化やパラダイムシフトに目を向け、社会変革を先導できるリーダーを、既存の枠組みを超えて育成する未来志向型教育。そこには社会動向への冷静な視点と、より良い社会構築への熱い想いがある。だからこそ、これからの社会を担う若者に求められる資質・能力をきちんと育みたいという次世代に向けたベクトルが、構想の基盤となっている。


図 金沢大学「バックキャスティング学修」



【Case③ 社会】 叡啓大学

2021年4月、広島県公立大学法人が設置する2校目の大学として誕生。

 検討経緯 


  • 社会を前向きに変えるチェンジ・メーカーを育てる、ソーシャルシステムデザイン学部同学科の単科大学
  • 県立広島大学は従来の「地域に根差した人材育成」を継続・強化し、一方で「地域に根差してグローバルに突き抜ける人材育成を展開」するのが叡啓大学というすみ分け
  • 2014年から広島県が推進する「学びの変革」を背景に、高等教育段階における「新たな教育モデル」を体現する大学として誕生:知識伝達型授業によるインプット中心の学びから、横断・探究・体験を軸に、主体的・対話的で深い学びを軸とするアウトプット中心の学びへ、能動的な学びへとシフトすることを目的にし、初等教育から高等教育までをつなぐ次世代教育のバリューチェーンの一角を担う

 注目すべきポイント 


  • ソーシャルシステムデザインを学部レベルで学ぶ全国的にも稀有な教育。「つながりで価値を生み出す力」=イノベーション創出力を養成する
  • 全学的にアクティブラーニングを採用し、豊富な協働と実践でコンピテンシーを育成
  • イノベーションを牽引するリーダーを育成するために身につけるべき能力は、「実践力」「国際教養力」「グローカルな視点」と定義。それぞれに沿った学びを「修得×実践」というコンセプトで設計。軸になるのは学生一人ひとりの「問い」。「問い」の解決に必要な知識・スキルを自ら選び構成するオーダーメイドカリキュラム
  • 卒業単位124のうち62単位を英語で修めることが卒業条件であり、全単位英語での履修も可能。教育との整合性を図るべく、入試段階ではCEFR B1レベルを出願要件として課した
  • 課題解決に必要なツールとして「ICT・データサイエンス」と「思考系」の科目群を用意し、次世代に必要なICTと「システム思考」「デザイン思考」「論理的思考」を学ぶ
  • 2年次から本格的に体験・実践プログラムや課題解決演習(PBL)、インターンシップや留学で豊富なフィールドワークを経験する
  • 多様化・複雑化する課題を解決するうえで基盤となる知識・スキルの修得を目的としたリベラルアーツ科目群で、SDGsを意識した国際教養力を身につける
  • 自律的な学修を伴走支援するため、コーチング制度、学生の居場所を作るポート(港)制度等を整備
  • 4人に1人は留学生というグローバルキャンパスで、国際学生寮での生活も含めてグローカルな視点を身につける

チェンジ・メーカーに必要な資質・能力の育成に特化した学びで、多角的にグローバル・コンピテンシーを涵養する。公立ならではの地元自治体・産業界とのネットワークも背景に、広島県が踏み出す新たな一歩に注目したい。


図 叡啓大学「コンピテンシー」イメージ





(カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓)


【印刷用記事】
前後の接続領域の変化を見据え改革ドメインを見定める