大学教育に必要な英語4技能を独自開発のテストで測定する/東京外国語大学 2021年度入学者選抜方針(英語)

東京外国語大学キャンパス

POINT
  • 言語文化学部、国際社会学部、国際日本学部の3学部3学科を擁する国立の外国語大学
  • 外国語の言語と文化一般を研究・教授し、言語を通して外国に関する理解を深め、多文化共生に寄与することを大学の目的とする
  • 1873年設置の東京外国語学校を起源とし、2023年に150周年を迎える


東京外国語大学(以下、TUFS)は2021年度入学者選抜方針において、独自開発のスピーキングテスト(BCT-S)を全学で実施すると公表した。その趣旨と背景について、東京都府中市のキャンパスを訪ね、理事・副学長の今井昭夫教授、入試課課長の佐伯季之氏にお話をうかがった。

英語外部資格検定試験の出願要件設定と独自のスピーキングテスト開発を分けて設定する

 TUFSの2021年度入試に関する公表を時系列にまとめると以下のようになる。

    2018年7月30日
  • 共通テスト「英語」において外部資格検定試験を出願要件として利用(A2以上)
  • 2019年度入試で国際日本学部に導入したBCT-Sを2021年度から全学に拡大

  • 2018年12月12日
  • 国際社会学部で実施する一般選抜(後期日程)では、思考力・判断力・表現力を評価するため、外国語に代わって小論文(英語の課題文を読み、日本語で解答する形式)を課す

  • 2019年10月24日
  • 一般選抜における主体性評価のため、出願時に以下の情報を追加で求める
    • 高校時代に取り組んだこと、将来に向けての意欲についての自己評価(チェックリスト)
    • 高校時代に主体性を持って取り組んだこと(200文字以内)
    •   これらは合否判定ライン上に位置する志願者の選抜に用いる
    2019年11月29日
  • 2018年7月30日に公表した英語の出願要件(A2以上)を取りやめ

 結果として、当初予定していた外部試験の出願要件を廃止し、独自テストに一本化したわけだが、その意図を問うと、「A2出願要件は、2018年に国立大学協会が示したガイドラインに沿いつつ、妥当と思われるラインを設定しました」と佐伯課長は言う。換算検討が必要な加点方式ではなく出願資格として扱い、国立大学として利用が推進されるなか、募集の母集団形成に影響しない程度に網を張った形である。その一方で、より実質的な4技能の実力を測るテストは独自に作問という方向性を定めた。

ブリティッシュ・カウンシルとの共同開発で実現したspeaking測定

 独自試験の柱であるBCT-S(British Council TUFS – Speaking Test for Japanese Universities)は、日本で中等教育を受けた学習者の英語コミュニケーション能力を測定する目的で、英国の公的な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル(以下、BC)とTUFSが共同開発したものである。元となったのはBCが独自開発した団体向け英語力測定ツールAptis。組織内の人材評価を目的に文法・語彙・4技能をテストし評価するツールで、約80の国と地域の政府機関・企業・教育機関等で利用実績がある。

 TUFSでは、言語を軸にして教育を行っていることから、4技能を測定する必要性は従前より議論されており、従来の入試でも、reading・writing・listeningの3技能については評価してきた。具体的には、listeningは校内放送を使った30分のテスト、readingとwritingは英語の長文読解と英作文等で評価を行っていた。しかし、最後のspeakingについてはなかなか評価方法を構築できなかったという。佐伯課長は言う。「一人ひとりのspeaking能力をテストで測るのは物理的な困難が大きく、必要だが技術的に難しいという状態でした」。そこで、作問はTUFSが行い、オペレーション部分はAptisが担う形で新たに開発されたのがBCT-Sである。

 BCT-SはPC(入試ではタブレット)で受験し、所要時間は12分程度。大学HPで公表されているサンプルテストによると、設問は以下4問。問題が進むごとに難易度が上がる構成だ。

 こうした内容の検討は、英語教員中心の学内WGが主体となり、2015年頃から始まった。「中等教育までの4技能養成への対応と、本学教育への接続の両軸から議論を重ねました。何しろ技術的な壁が大きく、我々としては問いたい内容を問うことができないジレンマがあったのです」と今井副学長は言う。その技術的な壁がBCの開発したAptisにより解消されたのがBCT-Sなのだ。2019年設置の国際日本学部で先行導入されたのは、新学部だからこその柔軟さに加え、学部教育が世界との交流を軸にしており、speaking能力が必須であったこと、留学生比率が高いこと等も理由として挙げられる。

 なお一般的に、日常生活・社会生活のあらゆる場面で状況に応じたやりとりや課題解決を外国語でできるために必要と言われる4技能だが、TUFSではこれを5技能と定義している。これは新学習指導要領と同じ定義だが、speakingが「やりとり」と「発表」の2つに分かれるためで、なるほど言われてみれば、人とスムーズに会話をやりとりできることと、大勢の前で自らの意見を発表することは、同じspeakingでも異なる技能というわけだ。「5技能をバランスよく育成することが重要です」と今井副学長は強調する。何か1つだけ特化していても実際の交流は成立しない。TUFSの外国語授業では効率の観点から技能を分割して鍛えるが、最終的に5技能が高いレベルで統合されるように授業を設計している。

SGUを契機に大学教育のグローバル化が加速

 TUFSにとって大きな契機となったのは2014年度に文科省の「スーパーグローバル大学創成支援事業(タイプB:グローバル牽引型)」(以下、SGU)で採択されたプログラム「世界から日本へ、日本から世界へ‐人と知の循環を支えるネットワーク中核大学‐」である。①真の多言語グローバル人材養成の実現 ②日本から世界への発信の実現 ③大学グローバル化支援の実現 の3つを柱とし、各領域で具体的なアクションプランと達成目標を掲げた(図1参照)。図1の①にある「留学200%」とは、1人の学生が2回以上留学することを指す。学生の語学力を育成し、実践経験を豊富に積ませ、発信力の源泉として開花させる教育を磨く一方で、将来はそうした方策を他大学のグローバル化にも役立てようとしている。BCT-Sの開発はこの計画の一端を担うものでもあり、将来は他大学での活用も見据える。留学生受け入れも2倍の数値目標を掲げ、English onlyの授業を増加させているという。

図1 SGU10年間の工程表(構想調書より)

図1 SGU10年間の工程表(構想調書より)

 また、図1の①に「可視化」とあるが、TUFSは2016年度大学教育再生加速プログラム(AP事業)テーマⅤ「卒業時における質保証の取組の強化」の採択校でもある。その内容は、各年次での言語運用能力、専門力、行動力・発信力、省察を記録するためのポートフォリオ「TUFS Record(たふれこ)」の整備と、卒業時に発行されるディプロマ・サプリメントの開発に大別される。前者は最終的に就職活動等での活用を視野に入れた「学修活動履歴書」としてアウトプットでき、後者は卒業時に配布され、SGUでも掲げた「多言語グローバル人材の育成」の証明にもなる(図2)。これはTUFSの卒業生全員の質保証の実現であり、大学教育の点検体制の構築と教育力向上の礎ともなるものだ。

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図2 「学習活動履歴書」(右)と「ディプロマ・サプリメント」(左)のサンプル
図2 「学習活動履歴書」(右)と「ディプロマ・サプリメント」(左)のサンプル

 また、言語運用能力の証明のため、TUFSでは広く使われているCEFRに準拠した評価システム「CEFR-J」を独自に開発し、「たふれこ」を通じて学生が現在どのレベルにいるかを随時把握できるようにしている(図3)。

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図3 「CEFR-J×28Project」の模式図
図3 「CEFR-J×28Project」の模式図

独自試験開発で示す外大としてのポテンシャル

 見てきたように、TUFSでは文科省採択プログラムを有機的に結合させて教育環境を整備しており、その教育を受けるための資格として英語力を位置づけている。共通テストの4技能評価が外部民間試験の活用を前提にしているのとは全く別の意味合いで、大学教育にとって積年の課題であった4技能評価のために独自試験を開発できたのはさすが外国語大学の矜持といったところであろう。TUFSの今後はもちろん、SGUの③で示す他大学の国際化支援がどのように展開されるかも、非常に楽しみである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/2/4)