国立大学の入試改革について

「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」について

 国立大学協会は、2015年9月に、標記のアクションプランを策定・公表した。策定にあたって留意した高等教育を取り巻く基本的な認識は、確実にやってくる少子化と厳しい我が国の財政状況であった。この2点は容易に変えがたく受容せざるを得ない物理的な問題である。策定にあたっては、もちろん、グローバル化し激動する社会情勢等についても勘案した。国立大学の使命と役割を再確認したうえで、これらの問題を直視しつつ、将来にわたり国立大学が世界に開かれた高等教育機関として、次代を担う学生の育成、地域の多様性と活力発揮、イノベーションの創出等を牽引していくための主体的な改革の方向と工程表を明らかにした。

 当面重点的に取り組む課題として、「優れた資質・能力を有する多様な入学者の確保と受入環境の整備」及び「大学間等の機能的な連携・共同による教育研究水準の向上」を掲げている。特に前者については、少子化が進む一方で、我が国の大学入学者率が他の先進諸国に比べて必ずしも高くない点、また社会人の学び率も極めて低いこと、あるいは海外からの入学者も十分とは言えない状況であることに留意すべきであると考えている。即ち、高等教育を受ける多様な資質を持った18歳にさらに多くの選択肢と就学支援が、社会経済の高度化やグローバル化の進展に伴う社会人の学び直しのニーズへの対応が、また科目ナンバリング等の国際的な通用性を備えた学修システムの開発等による留学生受け入れ環境の整備などが必要である。留学生の受け入れに関しては、例えば留学生を国立大学総体として受け入れ、複数大学での学習を可能にして学生の大学間の流動性を高めることなどを提案している。

国立大学の入試の現状

 現在、国立大学はその入学者に、①入試教科・科目にとどまらず基礎的・基本的な全般の教科・科目に関する幅広い学力・教養、②単なる知識ではなく、知識を関連付けて解を導く論理的な思考、③大学で学ぶ学問分野に対する強い関心と学問を通じて社会に貢献する意欲、等を備えていることを期待している。このため、各大学は、それぞれのアドミッション・ポリシーに基づき、一般入試においては、基礎的・基本的な教科・科目についての学習の達成度を測る共通試験(大学入試センター試験)と各大学の実施する個別試験の組み合せにより、適切な選抜に努めてきた。個別試験では、記述式・論述式問題により論理的思考力・判断力・表現力を問う学力検査を行うほか、多くの大学は募集単位の一部で意欲、適性等を評価するために面接、小論文、実技試験等を課している。前期日程・後期日程の分離分割方式によって実施している個別試験は、複数の受験機会の提供とともに、選抜方式の多様化と評価尺度の多元化につながっている。最近では一般入試以外に推薦入試・AO入試を導入する大学も増えている(図表1)。さらに、社会人、帰国生徒、留学生等を対象とした特別選抜も実施されている。

国立大学の入試改革の方向性について

 これからの多彩な学生を一層積極的に受け入れていく必要性に鑑みた時、入学試験の改革は必要・不可欠と考えられる。即ち、人材養成目的も画一的ではなく、それを達成するための教育課程にも大きな改革が必要であり、そのような課程で教育を受ける学生の選抜方式にも工夫が必要である。特に、志願者の意欲・適性等をきめ細かく適切に評価する観点からはなお課題があると認識している。

 国立大学協会は、2014年8月に中央教育審議会に提出した意見書において、今後の改革の方向性として、①一般入試の共通試験・個別試験を通じて、各大学のアドミッション・ポリシーに基づき、学力検査の結果の段階別評価や面接、小論文、調査書等の活用等の多様な選抜方法を可能な限り工夫して、多面的・総合的な評価による選抜を行うよう努めること、②一般入試の個別試験における学力検査においては、良質な記述式・論述式問題の出題により、単なる知識ではなく論理的思考力・判断力・表現力等を適切に評価するようにすること、③共通試験の活用や大学独自の選抜方法を工夫して一定の学力を確保したうえで、面接、小論文、調査書、書類審査等を適切に組み合わせた多面的・総合的な評価による選抜(推薦入試・AO入試等)を行う入学者の割合を拡大することなどを表明した。

 さらに、この度のアクションプランの工程表では、具体的な取組例として、2021年度までに「推薦入試、AO入試、国際バカロレア入試等の拡大(入学定員の30%を目標)、個別入試における面接、調査書の活用等」を推進することを掲げている。2014年度時点、約9割の国立大学が推薦入試を、約5割の国立大学がAO入試を実施している。国立大学の入学者の15%が推薦入試やAO入試等で入学していることになる(図表2)。アクションプランでは取組例を示しており、各大学の事情や方針等によって多様な工夫があり得る。

高大接続システム改革に対する考え方について

 文部科学省の高大接続改革実行プランが提起する現状認識と問題意識については、2015年12月に国立大学協会が高大接続システム改革会議に提出した意見書にも述べたように、国立大学も共有するものである。まさに、高等学校教育、大学教育及び大学入学者選抜を三位一体で改革していくことや、大学において三つのポリシー(アドミッション、カリキュラム及びディプロマ)を一体的に策定することは極めて重要である。初等・中等教育におけるコミュニケーション力・協働力、また英語力等の強化に繋がる改革も必要である。一方で、大学入試センター試験に代わる新テストの内容・方法や大学入学者選抜全体に共通する新たなルールについては、なお具体的に明らかでない部分が多く、高等学校や大学をはじめ幅広い関係者による議論が必要である。

 多様な資質を持った入学者を受け入れるという観点からは、各大学の多様な個性・特色・特長や教育研究方針を尊重することが重要であり、改革によってかえって画一化が進むようなことは避けなければならない。大学は、良き市民を育成するだけではなく、秀逸なエコノミストも、デザイン・美術に秀でた者も、素粒子物理学者も育てていかなければならない。そういった意味では、個別試験については、方法論上一定の基準を設ける一方で、大学の個性的な試験方法も可能とする枠組みでなければならない。さらに重要な観点は、大学は社会・世界に開かれた学びの場であり、また今後の我が国の知的基盤を支える人口構造を考え、入試改革にはグローバルな視点、社会人受け入れの視点なども不可欠である。才能に国境や年齢はない。

国立大学協会としては、高大接続システム改革の着実な実現のために、新テストの内容・方法等の具体的制度設計をはじめとする今後の検討に積極的に参画したいと考えている。


永田恭介(国立大学協会副会長、筑波大学長)