高等教育の最新事情

私立大学の中期計画に関する学長調査 詳細分析vol.4

私立大学の中期計画の共有・浸透


杉本 昌彦・両角 亜希子


2020年4月から中期計画の策定が義務づけされた。そこで、四年制大学の学長に対するアンケートを『カレッジマネジメント』と東京大学大学院教育学研究科の両角亜希子准教授と共同で、私立大学の中長期計画の策定・運用状況等について実施。同研究科において詳細について分析を実施した。

調査報告全体編はこちら
カレッジマネジメント220号「私立大学の中期計画に関する学長調査」
両角 亜希子(東京大学 大学院教育学研究科 准教授)

1. 中長期計画は、構成員への課題共有が鍵

 大学における中長期計画は、構成員に課題が共有されることが計画の達成の鍵であり、大学の規模、立地、偏差値などの要因を統制しても、課題共有が進んだ大学ほど定員充足状況が良いことが指摘されている(両角・小方 2011)。一方で、中長期計画が必ずしも十分に浸透していない状況やその要因も報告されている(坂本 2018)。

 本稿では、私立大学の中期計画の教職員、学生・保護者、社会一般それぞれへの共有・浸透の状況を確認するとともに、教職員への浸透を促進するための工夫、浸透の結果としての効果について考察する。

2. ウェブサイトで公開しているほど、ステークホルダーに計画が浸透

 本調査における中期計画の公表・説明の程度と共有・浸透度の状況を図1に示した。教職員への公表・説明は、十分にされているようであるが、公表・説明はあくまで組織内のみで行われ、その結果として学外に対しては浸透していない様子が分かる。これらの属性ごとの公表・説明の程度と共有・浸透度の関係は、当然のことではあるが、説明するほど浸透している関係がみられ、統計的にも有意(0.1%水準)であった。

図1 中期計画の公表・説明の程度と共有・浸透度の状況

 学外への公表・説明の手段としてはウェブサイトでの公表があるが、本調査では「公開していない」が41.8%であり、積極的に情報発信している大学は多くはない。一方で、ウェブサイトで公開しているほど、学生・保護者、社会一般への浸透が進んでいる関係も確認できた(0.1%水準)。学生・保護者、社会一般に公表・説明している大学ほど、教職員への共有・浸透度が高い傾向もみられたが、中期計画の焦点を分かりやすく示すことが学内の理解も促進していると考えられ、中期計画をウェブサイトなどでステークホルダーに公表・説明することが一つの効果といえるだろう。

3.数値目標の設定率と教職員への計画浸透度は非常に関連

 中期計画の策定・検証プロセスにおける工夫は、教職員への浸透にどのような影響を与えているのだろうか。それぞれの工夫によって、教職員への浸透度がどのように異なるのか。図2には、統計的に優位な結果を示した項目について、「十分に浸透」の割合を示した。計画策定段階で構成員への共有をとても重視している大学の47%が教職員に計画が十分に浸透しているが、「ある程度重視」と回答した大学においては19%しか浸透していない。このように策定段階、進捗度を構成員に共有するといった直接の工夫の効果も大きいが、それ以外にも、学内の様々なシステムをうまく連動させることによって、教職員への浸透度が上がっている。例えば、策定プロセスでは、「計画実施の責任体制の明確化」、「毎年度の事業計画での具現化」、「中期計画と教職員の個人目標の連動」、「事業の財源や予算措置の明確化」が、検証プロセスでは、「定期的な達成状況の評価や未達原因の分析」、「教職員の取り組みを評価し業務改善や人材育成とリンク」、「専門部署での進捗管理の実施」、「計画達成度の評価報告書作成や報告会実施」等をするほど、教職員への浸透度が高まっていることが分かる。

図2 計画の策定・検証プロセスが、教職員の計画浸透に与える効果

 数値目標の設定も、教職員への浸透が一つの目的であるが、設定率と教職員への計画浸透度はとても関連している。紙幅の都合で図は省略するが、「十分に浸透」の割合は、ほぼ全て設定(中期計画に掲げた項目のうち70%~について数値目標設定)では63%、多く設定(30~70%)では39%、ある程度設定(~30%)では27%、特に設定していないでは28%であった。

4. 教職員への浸透プロセスを経て、目標の達成、経営改善につながる

 最後に中期計画の構成員への共有・浸透の結果として、中期計画の達成など、効果の面をみてみよう。図3には、教職員への計画の浸透度(十分に浸透・それ以外)によって、計画の効果(とてもあてはまる・それ以外)がどうなっているのかを示した。計画が構成員に十分に浸透している大学のうち69%の大学では構成員が計画実現に向けて努力していると感じているが、そうではない大学においては28%に過ぎないなど、計画の共有・浸透が極めて大きな効果を持っていることが分かる。それ以外の項目(計画推進者がリーダーシップを発揮して実施、計画によって大学が発展・好転、重点課題を重点的に推進できるようになった、経営と現場の意見交換が進んだ)においても、計画の浸透度が計画の効果的な推進に大きく影響している。これらの結果を踏まえると、中期計画が大学の教職員に浸透するプロセスを経て、目標の達成、あるいは経営改善につながる傾向が明らかになった。

図3 構成員への浸透度が与える効果

5. 構成員への共有と社会への浸透が、目標達成に不可欠

 本稿では私立大学の中期計画の共有・浸透のための要因、共有・浸透による効果や計画の達成などを確認したが、学生・保護者と社会一般に対しては公表・説明、共有・浸透が現状で十分でないなかで、学生・保護者や社会一般にまで公表・説明していれば、教職員への浸透度も高くなることが示された。

 次に共有・浸透のための工夫として、「計画策定段階での構成員への共有」、「毎年度の事業計画での具現化」などに加え「計画の達成度の評価報告書の作成や報告会の実施」、「定期的な達成状況の点検評価や未達成事項の原因分析」などの進捗管理が教職員への計画の浸透に有効であることを示した。加えて、数値目標の設定も構成員への共有・浸透に関係していること、さらに構成員への共有・浸透の結果として中期計画による効果や計画の達成度、経営改善に影響があることも確認した。2020年4月施行の私立学校法改正により、学校法人が中期計画を策定することが義務化されるが、計画を構成員が共有し、浸透させるというごくあたりまえのことが、目標達成に不可欠であることを強く再認識する必要があるだろう。

    【参考文献】
  • 両角 亜希子・小方直幸、2011、「大学の経営と事務組織: ガバナンス, 人事制度, 組織風土の影響」『東京大学大学院教育学研究科紀要』51、pp. 159-174
  • 坂本孝徳、2018、「中長期計画の役割と課題」『私大ガバナンス・マネジメントの現状とその改善・強化に向けて』第2章、pp. 25-38、私学高等教育研究叢書.

(2020/4/24掲載)