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データからみる地方私立大学の入学定員充足状況──定員管理の厳格化は地方大学にどう影響を及ぼしたのか

日本私立学校振興・共済事業団 私学経営情報センター私学情報室長 新倉氏、私学情報室副主幹 髙橋氏

 私立大学の入学定員充足状況については、私学助成における定員管理の適正化に伴う入学定員充足率の厳格化(以下、「定員管理の厳格化」という)が開始された2016年度以降に大きな変化が生じている。今回は、当事業団が、1999年以来22年にわたり刊行している「私立大学・短期大学等入学志願動向」のデータを様々な角度から集計・分析し、定員管理の厳格化開始以前の2015年度から2020年度までの地方私立大学の入学定員充足状況等について報告したい。

 規模別の動向 
充足率100%以上 規模800人以上→200人以上3,000人未満に変化

 全国の私立大学の規模別の充足状況について、大学1校当たりの入学定員ごとに11に区分した。入学定員充足率の過去6カ年の推移をみると、2016年度までは、800人以上の4区分で入学定員充足率が100%以上となり、定員規模が大きいほど充足率が高くなる傾向にあったが、2017年度以降は、年度が進むごとに充足率100%以上の範囲が小規模の区分に広がり、2019年度以降は、200人以上3,000人未満の8つの区分で100%以上となっている。一方、定員規模の大きい「3,000人以上」では、2015年度以降、100%以上であったものが2019年度に100%未満に転じている。また、2019年・2020年と2015年の差をそれぞれみると、いずれも最小である入学定員「100人未満」から「800人以上1,000人未満」の8つの区分で増加し、反対に1,000人以上の3つの区分では4~11ポイント減少している(図表1)。


図表1 入学定員充足状況(学校規模別:過去6カ年)


 定員管理の厳格化では、収容定員が4,000人以上の私立大学が対象になり、大学が主に4年制であることを踏まえると入学定員1,000人以上の大学が対象となる。この入学定員1,000人以上の各大学の入学定員を合計すると約30万人となり、私立大学全体の65%を占めている(図表2)ことから、入学定員1,000人以上の大学が入学者数を抑えることによる、1,000人未満の大学の入学定員充足状況に与える影響は大きく、入学定員1,000人を境に異なる傾向になったと考えられる。


図表2 入学定員規模別入学定員の割合(2015年度)


 地域別の動向 1 
地方私立大学の充足率が三大都市圏私立大学の充足率を上回る

 私立大学の地域別の充足状況を学校の所在地により、三大都市圏(東京、埼玉、千葉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫)と地方(三大都市圏以外)の2つに分けて分析したものが図表3である。入学定員充足率の過去6カ年の推移をみると、2015年度において地方と三大都市圏との充足率には9.56ポイントの差があり、また地方の充足率は97.72%と100%未満であったが、定員管理の厳格化が開始された2016年度以降、上昇し2018年度に100%以上となり、2019年度では三大都市圏の充足率を0.69ポイント上回る103.20%まで上昇している。2020年度においても上昇して103.51%となり、三大都市圏との差は1.17ポイントまで広がっている。


図表3 入学定員充足状況(地方・三大都市圏別:過去6カ年)


 三大都市圏の充足率が下降した要因として、定員管理の厳格化の影響が考えられる。三大都市圏では2020年度の入学定員をみると2015年度に比べ6.5%増加しているのに対し、入学者数は、定員管理の厳格化の対象となった入学定員1,000人以上の大学が入学者数を抑え、全体で1.6%の増加に留まったことが、充足率の下降につながったと考えられる。一方、定員管理の厳格化の影響が少ない地方では、2020年度の入学定員は、2015年度に比べ3.8%増加しているのに対し、入学者数は全体で10.0%増加しており、充足率の上昇につながったと考えられる(図表4)。


図表4 地域圏、入学定員規模別入学定員・入学者(2015年度・2020年度)


 地域別の動向 2 
12の地方地域で充足率が上昇充足率100%以上の地方地域は5→10

 図表5は、私立大学の地域別の充足状況を、学校の所在地により、21の区分に分けて、2015年度と2020年度を比較したものである。入学定員充足率が上昇したのは全国で15地域あるが、地方は13地域中12地域が上昇している。上昇した15地域の上位をみると東北10.74ポイント、東海9.56ポイント、北海道9.35ポイントと全て地方となっている。地方の充足率が上昇した結果、2015年度において充足率が100%以上の地域は5地域であったものが、2020年度では10地域まで増えている。

 一方、三大都市圏に該当する地域では、京都を除く7地域で充足率100%以上を維持しているものの、8地域のうち5地域が下降している。特に、東京(▲8.82ポイント)、京都(▲7.48ポイント)、愛知(▲2.56ポイント)で下降幅が大きくなっている。


図表5 入学定員充足状況(地域別:2015年度・2020年度)


 学部系統の動向 
地方は、人文科学系、社会科学系が強い

 図表6は、学部所在地が地方(三大都市圏以外)である学部について系統別に13区分し、2015年度と2020 年度の入学定員充足率と入学者数の関係をまとめたものである(系統別の入学定員充足状況の詳細についてはP.15以降に参考として記載している)。

A:充足率が上昇、入学者数も増加したグループ
人文科学、社会科学、芸術系の3系統が該当した。これら3区分の充足率は、100%未満から100%以上に改善している。人文科学、社会科学系は、一般企業や官公庁に就職する際に有用な知識を学ぶ学部が多いためと考えられる。芸術系は、充足率が低かったこともあるが、創作活動等を通じて培った創造力、表現力、クリエイティブな思考力等が、卒業後において社会で活かされる場が多くなったことで受験生を中心に魅力が高まり、入学者数の増加につながったと考えられる。

B:充足率は上昇したが入学者数が減少したグループ
理・工学系、その他の2系統が該当した。両系統とも学部数の減少により入学定員が減少したが、入学者の減少数が入学定員の減少数より少なかったため、充足率は上昇している。

C:充足率は下降したが入学者数は増加したグループ
医学、保健系、農学系、教育学、体育学、家政学の6系統が該当した。これらの系統の多くは資格取得が可能な学部が多く、入学者を安定的に確保する要因となっていることから学部数が増えたことに伴い入学定員も増えているが、入学定員の増加分まで入学者数が増えなかったため充足率は下降している。特に保健系、農学系、体育学、家政学の4系統は5ポイント以上下降し、家政学にあっては充足率100%以上であったものが100%未満となっている。

D:充足率が下降、入学者数も減少したグループ
歯学、薬学の2系統が該当した。両系統とも充足率は100%未満であり入学者数の減少幅も大きく学生確保が厳しい状況がうかがえる。両系統ともに修業年限が6年間で授業料等の経済的負担が大きいこと、国家試験合格率が平均合格率を下回る学校が少なくないこと等が厳しい状況の要因と考えられる。


図表6 地方大学・系統別の入学者増減と入学定員充足率の上昇下降の関係図


 個別地方大学の動向 
充足率100%以上の学校が増加

 図表7は、2015年度と2020年度の地方私立大学別の入学定員充足率の分布状況である。100%以上の学校は103校(42.9%)から155校(62.2%)に増加している。また、2015年度では、50%以上100%未満の学校が各区分10から40校程度あるのに対し、2020年度では、「60%以上70%未満」「70%以上80%未満」の2区分で学校数が大きく減少し、90%以上130%未満の区分で学校数が増加している。このことにより、個別大学においても入学定員充足状況が改善していることが分かる。


図表7 地方の入学定員充足率別学校数(2015年度・2020年度)


 まとめ 
さらなる教育改革等を行い、地域に必要とされ魅力ある大学づくりを!

 以上のように定員管理の厳格化の導入開始前後の入学定員充足状況について分析をしてきたが、各私立大学は、地域における知識技術の創造拠点として「建学の精神」に基づき、多様性に富み独創的な教育研究を行うとともに大学教育研究の充実を常に図っており、このことが受験生や地元企業等からの評価を高め入学者数の増加につながっていることを忘れてはならない。18歳人口は2021年度から再び減少期に入り、10年後の2030年度においては全国平均で約10%減少する見込みであるが、地方の平均減少割合は約13%で全国平均より高く、特に東北、関東、北陸、甲信越の4地域では15%を超えている。今後、進学率の急激な上昇がなければ18歳人口が減少することで入学者数も減少するので、地方の私立大学にあっては、入学者の確保についてさらに厳しい環境になることが予想される。地方では経済的に負担の少ない地元の大学を選ぶ傾向があり、地元志向が強いと考えられているが、今後は、地元出身者のみならず他県からの入学者を確保することも重要になってくる。このため各大学においてはさらなる教育改革等を行い、地域に必要とされる魅力ある大学づくりをさらに進めていくことが必要と考える。


日本私立学校振興・共済事業団 私学経営情報センター 私学情報室長
新倉健二

私学情報室副主幹
髙橋一男


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