コロナ禍で狭くなる受験生の視野、ミスマッチをどう防ぐか(カレッジマネジメント Vol.229 Jul.-Aug.2021)

 2021年度に入学した受験生には乗り越えなければならない大きなハードルがあった。一つは入学者選抜改革である。本来21年度は入学者選抜改革元年となるはずであった。しかし、大学入学共通テストにおける記述式導入や民間の英語4技能検定の活用等が断念されたことから、少なくとも初年度については、その機運は高まらなかった。それよりも大きかったのが新型コロナウイルスの感染拡大の影響である。

 21年度の受験生の状況を一言でまとめると、「リスク回避」である。コロナに対する一般入試受験への不安が影響し、年明け受験を避けて、学校推薦型選抜を選択する高校生が増加した。また、対面や行動の制約から、進路選択において必須の場と言われているオープンキャンパス(OC)で、リアルな情報を収集することが十分にできなかった。そのため、早期に決める第一志望校の変更は少ないものの、併願先選び等は、十分な検討ができず、知っている大学や地元の大学の中から進学先を選ぶ傾向が強まった。結果として、リスク回避のため超安全志向となり、都市部での受験を避けて、従来の地元志向とは異なる形での地元進学が増加した。そのため、進路選択の満足度が大きく低下している。今年度入学生については、学びに向かうモチベーションをどう高めていくかが、重要な課題となりそうである。

 では、22年度の受験生はどうだろうか。彼らは高校2年生の段階においてもOCに参加することができていないため、今年の入学生よりさらに進路選択行動が進められておらず、現状では一層進路選択の“視野”が狭くなっている可能性が高い。受験生は進学先情報を求めて、今後におけるOCへの参加希望が非常に高くなっている。対面型の希望が多いが、地域によっては対面型を開催できない状況が続いている。オンラインOCは、いつでも、どこでも、お金をかけず参加できるというメリットはあるものの、まだコンテンツが充実しているとは言えず、多くの大学で対面型の補完にとどまっている。今後も全て対面型に戻ることはないだろう。学生募集におけるDXの一環として、リアルとオンラインの価値の使い分けを真剣に考える必要がある。

 コロナ禍の収束にはもう少し時間がかかりそうである。コロナウイルスの感染状況を考慮すると、今年も年内入試へのシフトは続くと想定される。そう考えると、一人当たりの受験校数(件数)の増加は期待できない。コロナ禍は、募集戦略における「量から質への転換期」になるかもしれない。重要なのは、質=大学の理念に共感した学生の獲得である。今回リクルート進学総研が実施した調査では、高校の進路指導でアドミッション・ポリシー(AP)の活用度がアップしていることが分かった。受験生についても、APを調べた、役に立ったとの回答が増加した。APは進路選択時に活用されているのである。探究学習の導入、観点別評価、APの活用等、明らかに高大接続改革を受け、高校現場は変わってきている。

 十分な進路選びの機会がもてず、悩む受験生に向けて、しっかりと大学の価値を伝えていくことがミスマッチを防ぐ要因となる。そのためには、4つのポイントを挙げたい。①大学の価値や個性を再整理し、分かりやすいAPを策定すること②年内入試を見据えて早期からの広報&コミュニケーションを実施すること③入学をゴールとせず、入学後の学びのモチベーションを高めるためのサポートを充実させること④デジタル技術を活用し、募集においてもDXを推進すること、である。コロナ禍はいずれ収束するであろう。しかし、今後の学生募集のあり方が大きく変わる転機となるのではないか、と私は考えている。

今後の学生募集で考えなければいけないポイント

 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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