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進学ブランド力調査2021 解説


コロナ禍+共通テスト不安解消+定員厳格化の落ち着きの影響が複雑に関連した結果に
──大学改革+高校生に向けた広報戦略が志願度を高めるポイントに


「伝える」と「伝わる」のギャップを定量的に見る

 2008年にプレスリリースを開始した「進学ブランド力調査」は、今年で14回目を迎えた。大学は様々な活動をする中で、高校生への情報発信を行っている。単にそれは広報や宣伝活動といったことにとどまらず、大学の活動の中核をなす、教育や研究、社会貢献活動や、スポーツや文化活動、オープンキャンパス等の学生募集活動、卒業生の活躍等、高校生との接点全てが情報発信となっている。それらが高校生にどのように認識されているのか。ブランドとは、そうした様々な活動から顧客が頭の中に思い浮かべるイメージの総和だと言われている。大学は、様々な広報活動等を通じて高校生に向けてメッセージを伝えているが、高校生側に伝わっているとは限らない。「伝える」と「伝わる」は違うのだ。

 その、大学側の「伝える」と高校生に「伝わる」のギャップを定量的に測定するのが、「進学ブランド力調査」である。言い換えれば、大学からのメッセージ=大学からの約束、高校生の回答=高校生からの期待と捉え、そのギャップがどこにあるのかを見いだすものである。

 この調査の特徴は、様々な指標を複合してウエイトをかけたものではなく、3年生になったばかりの高校生に知名度、興味度、志願度、イメージ等をそのまま聞いている点である。


図表1 進学ブランド力調査の目的

 この調査では、当該年度の受験を想定する先行指標としての志願度ランキングが注目され、多くのメディアに取り上げて頂いている。しかし、重要なのは知名度や志願度のランキングだけではない。ブランドの語源はburned、放牧していた牛や馬がどの家のものか分かるようにしていた焼き印だと言われている。つまり、ランキングに拘わらず、「あの~~な大学だね」と他大学とは異なる特徴や個性を持っていることが重要である。それを見るのがイメージ項目である。イメージ項目は主にスペックで表される「機能的価値」と、情緒的にイメージされる「感性的価値」に分類している。合わせて50項目を聞いているが、スコアを見ると高校生がイメージしやすい項目と、イメージしにくい項目がはっきりと分かれていることが分かる。イメージしやすい項目では、毎年のランキングの変動は少なく、イメージしにくい項目は回答数自体が少なく、変動が大きくなる。

コロナ禍の影響を大きく受けた今春の入試

 今年の進学ブランド力調査の結果を分析する前に、改めてコロナ禍の影響を大きく受けた今春の入試を振り返ってみよう。今春の入試では、大きく5つのポイントがあった(図表4)。①2カ月間にわたる休校で進路指導の機会が減少。模擬試験や対面型オープンキャンパスも中止になり、例年に比べて進路選択について検討する機会が減少した。②大学入学共通テスト初年度という不安に加え、コロナ禍で一般選抜自体が実施されるのかという不安から、学校推薦型選抜等の年内入試に受験者シフトが進んだ。③年内入試にシフトしたことにより、一人当たりの出願件数が減少。また、多くの高校生がコロナ禍以前の2年生までに第一志望校のオープンキャンパスに参加したが、併願校については十分な検討機会が持てなかったため、有名大学や地元の知っている大学から選択する傾向が見られた。④大都市圏での感染拡大により、都市部の大学進学を避ける、あるいは都市部への受験に行くこと自体が不安視されたことにより、結果として従来の地元志向とは異なる形での地元進学が強まった。⑤このように十分な進路先検討ができなかったことから、弊社の調査ではコロナ禍以前の2016年と比べて、進路選択活動全体に関する満足度は1割程度低くなっており、入学後の学びのモチベーションに不安が残る結果となった。


図表2 進学希望分野(関東・東海・関西合計)

ブランド力調査から見える今年の受験生の3つの傾向

 今回の進学ブランド力調査では、今年の受験生の進路検討について現時点で大きく3つの環境変化の影響を受けていることが垣間見られた。

 まずは「コロナ禍」である。昨年の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大が始まったばかりで、その影響は限定的であった。しかし、現高校3年生は、既に1年以上も感染拡大の影響を受けており、その結果が昨年以上に色濃く表れている。今回の調査では、特に2つの調査項目において、コロナ禍の影響が窺える。

 1つは高校生の進学希望分野である(図表2)。Society5.0に向けたデータサイエンティスト等の人材ニーズに加えて、コロナ禍で急速に進んだデジタル化を背景に、「情報」「工学(電気・電子・情報)」が2年連続で伸びている。工学系以外の情報分野の伸びは、文理融合型のデータサイエンスやプログラミングへの重要性の高まりが背景にあると考えられる。一方、コロナ禍による観光業界への影響や国際間の人材移動の制限等により、「観光・コミュニケーション・メディア」2年連続で、「国際関係・国際文化」「外国語」が前年比で減少しているほか、「美術・デザイン」「体育・スポーツ」「教育・保育」といった実習を必須とする分野が単年度で減少していることが分かる。


図表3 進学先検討で重視する項目(関東・東海・関西合計)

 もう1つは、進学先検討で重視する項目である(図表3)。「校風や雰囲気が良い」「学生生活が楽しめる」といったキャンパスライフに関する項目、「交通の便がよい」「自宅から通える」といった通学に関する項目が減少している。大学に通学できていない先輩の姿に加え、コロナ禍でオープンキャンパスに参加できなかったことも影響しているように思われる。

 続いて、大学入学共通テストへの不安解消である。昨年は、大学入学共通テストの初年度で、英語4技能や記述式への対応や入試会場における感染防止対策等、受験生にとっては不安が多かったが、大きな混乱がなく実施され、その不安が解消されたようだ。東名阪ともに、ランキング上位の国立大学の志願度が軒並み上昇しているが、こうした背景があるのではないかと感じている。

 最後は、定員厳格化の落ち着きである。2016年から始まった定員厳格化によって、大規模私立大学の難化が進み、高校現場では従来の偏差値が全くあてにならないとの混乱が生じた。志願度においては、大規模総合大学のスコアが年々減少し、中堅大学のスコアが上昇し、受験生の志向は「超安全志向」とまで言われた。しかし、昨年度には、大規模大学において収容定員の厳格化への対応がほぼ完了した。先輩の合格状況を見ての影響なのか、大規模総合大学の志願度スコアが軒並み上昇。いわゆる「超安全志向」に変化が見られた。

 上記の3つの傾向から、各エリアで国立大学や大規模総合大学の志願度が上昇している。これはオープンキャンパスへの参加が制限される等、高校2年生までにしっかりとした進路検討機会が持てなかったことから、現時点では単に知名度の高い国立大学や有名大学を受験したいと考えているとも推察される。そのため、今後進路検討が進んだ場合には、志願したい大学に変化が現れる可能性があるのでないかと考えられる。


図表4 コロナ禍における今春入試の振り返り、図表5 ブランド力調査から見える今年の受験生の傾向

ブランド力による「好循環」と「悪循環」モデル

 ここまで解説してきた通り、大学の志願度は社会環境の変化に大きな影響を受ける。しかし、14年間の進学ブランド力調査から見た志願度向上のポイントは、「大学改革の推進」と「高校生に向けた広報戦略」の2点である(図表6参照)。

 最も重要なのは、「大学改革の推進」である。志願度が向上している大学改革のポイントは①大学の統合、学部学科の改編、キャンパス移転、新たなプログラムの導入等時代の潮流に合致した大学改革を推進していること。②単年度ではなく、中長期的に改革を進めること③学生の卒業後を見据えた改革の実践である。

 もう一つ重要なのが「高校生のとのコミュニケーション(広報)戦略」である。せっかく大学改革を推進しても、肝心の高校生に伝わらなければ意味がない。進学ブランド力調査を分析すると、変えた時ではなく、高校生に伝わったときに初めて志願度が上がる傾向がある。

 受験生は毎年変わるし、高校生は3年で入れ替わる。当たり前のことなのだが、そのために広報戦略も短期だけではなく、中長期で考えていく必要がある。この2つをしっかりと実践している大学の多くは、着実に志願度が向上している。

 学部の新設やキャンパスの移転等については、実施した年は広報、メディア、口コミ等の浸透により、ある意味話題性をもって盛り上がるが、この効果は数年と持たない。大学のありたい姿を想定し、そこに向けたビジョンや中期計画の策定を通じて、絶え間ない改革の推進が重要になるのである。社会環境が大きく変化するなか、時代の要請に合致した改革を推進し、その内容を高校生に丁寧にわかりやすく、諦めずに、継続的に伝えていくことによって、大学は着実にブランド力を高め、高校生からの志願度を高めることができるのである。

 最後に、大学は教育機関である。そのため、広報戦略は単に改革の事実を伝えるのではなく、その改革が大学の教育や研究、人材育成の目指す方向性やビジョンとどのように連動しているのか、そのメッセージをしっかりと確立し、わかりやすく伝えていくことが、今後ますます重要となってくると考えている。


図表6「進学ブランド力調査」結果から見る志願度向上ポイント

(本誌編集長 小林 浩)



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