入試を起点とした、高大接続と地域貢献人材育成への挑戦/島根大学

島根大学キャンパス


 島根大学は、1949年に創設され、法文学部、教育学部、総合理工学部、生物資源科学部(以上、松江キャンパス)、医学部(出雲キャンパス)の5学部からなる総合大学だ。学生数は、学部5355人、大学院644人である(2015年5月1日現在)。

 法人化を契機に大学の存在意義をより明確にするため、2006年に「島根大学憲章」が制定された。そのなかでは、「地域に根ざし、地域社会から世界に発信する個性輝く大学」を目指すことが宣言されるなど、地域との関係を重視する大学としての役割が明確に打ち出された。


服部泰直学長

 このような姿勢は、教育に関するその後の取り組みにも表れており、2013年度の「地( 知)の拠点整備事業(COC)」と2015年度の「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」に採択されている。さらに、今年度から、主に山陰地域から地域志向の強い学生を受け入れる「地域貢献人材育成入試」が導入された。同入試は、全ての学部において地域出身者・地域就職希望者を一定数受け入れるという点で、全国の国立大学で初の試みだ。

 それでは、地域貢献人材育成入試とは、具体的にどのような入試なのだろうか。また、高大接続というスローガンは、「言うは易し」の典型的な例だと思われるが、島根大学では、どのように実行に移そうとしているのか。高大接続において鍵となる、育成を目指す人材像やカリキュラムの内容等も含め、現在進行中の入試の現状や課題、今後の展望について、服部泰直学長にお話をうかがった。

育成したいのは、「専門を身につけるための力」を持った地域貢献人材

 まず、島根大学が育成しようとしている「地域貢献人材」について確認する。

 服部学長は「大学で学んだことによって、既存の課題を解決できるだけでは、意味がない」と断言する。学生は卒業後、約40年という長い期間にわたり社会で働き続けることになる。その間、社会の状況は絶えず変化し、新たな課題が生じる。それゆえ、これまで想定されなかった課題に対峙し、それらを解決する能力を持った人材を育成することが求められるという。

 そのために必要とされる能力を、服部学長は「専門を身につけるための基礎的な力」だと説明する。もちろん、各学部の専門教育において、専門的な知識や技術を習得することは重要であるが、それらの能力は早晩に陳腐化する。社会の変化によって新たな課題が生じたときに、新たな専門性を身につけ対応するためにも、それを自ら学ぶための基礎的な能力が必要とされるということだ。

正課内外にわたるCOC人材育成コースの設計


図表1 COC人材育成コース カリキュラム

 このような人材を育成するために設計されたのが、後に詳述する地域貢献人材育成入試を通じて入学する学生を対象としたCOC人材育成コースだ(図表1)。

 同コースは、ベースストーン(BS)科目とキャップストーン(CS)科目を中核として構成される。BS科目は「地域を知る」ことを目的とし、主に1、2年生を対象とした教養育成科目を中心として、地域の基礎的な現状と課題について学習できる導入科目によって構成される。CS科目は主に各学部の専門科目で構成され、「地域に挑む術(すべ)」を学ぶことを目的とし、地域に関するより高度な知識を学ぶと同時に、学部の専門教育科目において修得した知識を活用した課題解決の手法や視座について学ぶ科目によって構成される。

 BS科目、CS科目ともに、各学部の専門教育科目に該当するものについては所属学部以外の科目は履修できないが、「地域課題解決プロジェクトA・B」という全学部の学生を対象とするCS科目を新設するなど、学部を超えた多様な学生が協働しつつ学ぶ場も確保されている。

 なお、これらの科目の履修は、BS科目とCS科目それぞれを2単位から4単位ずつ、合計6単位以上の履修がコース修了の条件とされている。コースを修了した学生には、各学部・学科において一定の専門性を身に付けつつ、それぞれの専門性を活用することによって地域社会に貢献できる人材となることを期待しているという。

 以上のコース全体の設計は、一朝一夕に作られたものではない。島根大学では、2013年度に「課題解決型(PBL)による地域協創型人材養成」というテーマでCOC事業に採択されて以来、地域課題学習支援センターを設置し、同センターを中核として自治体や産業界、NPO、地域社会と連携しつつ、地域を志向するPBL等に取り組んできた。

 例えば、地域に関する科目を科目数だけで見ても、COC事業採択2年目(2014年度)にはBS・CS科目の合計は100科目、3年目(2015年度)には130科目を超えるなど、着実に進化を遂げている。

 このように、COC人材育成コースの実現は、地域に根ざした島根大学の歴史とCOC事業に採択されて以来の継続的な取り組みの賜物であるといえる。

 他方で、COC人材育成コースの特徴は、学びの場が正課にとどまらない点にある。服部学長は、「(コース履修の最低要件である)6単位というのは、あくまでも仕掛けに過ぎない。そこから学生が自主的に何をやるか。それが重要だ」と強調する。

 もちろん、それは無責任な放任主義ではない。COCセミナーと総称される正課外における学びの場や、各種インターンシップの機会の提供、その他の正課外活動の支援等、学生の主体性を尊重しつつ、授業科目における学びを発展させる環境が整えられつつある。これらの支援体制の整備のため、前述の地域課題学習支援センターを発展的に改組し、2015年10月1日に地域未来戦略センターを設置している。

地域への想いを評価する、地域貢献人材育成入試


図表2 地域貢献人材育成入試 実施状況(2016年度入試)

 それでは、地域貢献人材育成入試とはどのような入試なのか。服部学長によれば、同入試において重視する志願者の資質・能力とは、「地域への想い」であるという。島根県には、人口減少や過疎化、高齢化等、解決すべき様々な課題(challenge)が存在する。それらの課題に挑戦(challenge)しようとする意欲のある学生を選考することを目的としているのだ。

 大学としては、各学部に募集定員を割り振ったうえで、学科間での定員の配分や実際の入試方法等の決定については、各学部の判断を尊重している。そのため、推薦・AO等の入試区分や選考方法は、学部により多様になっている。また募集定員については、既に地域枠が設けられていた医学部を除けば、各学部5名から7名の間で設定されている(図表2)。

 18歳人口が減少している島根、鳥取という地理的な要素を踏まえれば、新たな入試において一定の選抜機能が働くかどうかも定かではない。

 しかし、地域の課題に向き合おうとするならば、こうしたリスクをあえて引き受けつつ、大学としても挑戦(challenge)をしなければならない。このような覚悟のもとに新たな入試は開始されたという。

 以上を踏まえれば、島根大学における地域貢献人材育成入試は、入口に関する小手先の改革ではなく、地域に対する問題意識に根ざした取り組みだと言える。さらに、育成する人材像やCOC人材育成コースという教育プログラムとの一貫性を備えた設計がなされている点も、注目すべき特徴であろう。

面談会で生徒の問題意識と大学の学びを丁寧に接続、主体的な進路意識を育成

 とはいえ、「地域に対する想い」を測ることは簡単ではない。また、「想い」を大切にするからこそ、大学で学べること、学べないことを生徒に対してきちんと伝える必要がある。このような理由から、入学者選抜の前段階で、高校生や高校教員との接点をこれまで以上に持つ必要があった。そこで実施されたのが、地域貢献人材育成入試面談会だ。

 面談会は、生徒と大学の教職員との対話を通じて、①生徒自身の問題意識を明確化し、②島根大学で学べることを生徒に理解してもらうこと、を目的としている。志願する学部が決定して初めて、入試ガイダンスへ進む。

 あくまでも生徒の学習意欲と大学で学ぶことの接続を目的としていたため、面談の過程において志望する学部や学科が変わったり、さらには、生徒の問題意識と島根大学で学べることが食い違う場合には他大学の受験を勧めるケースもあったという。

 面談会は、6月から9月にかけて島根県・鳥取県の各地で合計15回実施され、延べ124人の生徒が参加した。結果として、学部によって多少異なるものの、高い学部では7割程度とかなりの比率の参加者が出願に至っている。

 ちなみに、面談会への参加者は、山間部の高校の生徒がやや多いという印象があるという。背景としては、高校において地域課題学習をしっかりとやっていることが考えられる。

 その意味でも、新たな入試改革の試みは、地域をテーマとしながら、高校での学習と大学での学修を結び付けようとするものであると評することができる。

 高校側の評判も好意的である。高校の教員からは、参加した生徒が「学びたいことが明確になった」といった感想を述べているという報告がなされているほか、「大学が高校生の進路意識の醸成に協力してくれている」という評価を受けるなど、生徒のみならず、高校との良好な関係性を築くきっかけとなっているという。

 なお、面談会は、入試の選考プロセスと明確に区別し、入試自体の公平性を担保するという意図から、学部に所属しない全学センター系教員と職員が担当している。事前に研修を受けた延べ62人の教職員が対応し、負担は決して軽くなかった。しかし、上記のような手ごたえを感じられていることから、現状では十分な成果が挙がっていると評価している。

育成型入試の拡大を目指して

 最後に、今後、この地域貢献人材育成入試を含め、入試全体のあり方についてどのような展望を持っているのかについてうかがった。

 現在、島根大学では、地域という枠組みを超えた新たな入試の開発を目指して「高大接続事業」、「島根大学型育成入試」の2つの事業について検討を進めているという(図表3)。


図表3 島根大学型育成入試の開発

 前者は、高校の地域課題学習やキャリア教育をサポートするなどの大学が実施する高大接続事業を通じて、高校生が主体的に考える力を身につけることを目的としたものである。

 後者は、文部科学省が進める高大接続改革を見据えつつ、島根大学の今後の入試のあり方について検討を行うというものである。特筆すべきは、教育・入試改革特別委員会という学内委員会において検討を進めるだけでなく、中国5県の教育委員会の代表、各県の校長、各学部の学部長によって構成される入試改革協議会において、高校側の意見を聴きながら、制度設計を行おうとしている点である。これらの議論を踏まえ、2021年度入試(2020年度実施)から新しい入試を導入する予定である。

 その際の目標は、地域貢献人材育成入試と同様の接続を重んじた多面的・総合的評価を行う入試による入学者定員を、全体の40%まで引き上げようという野心的なものである。こうした入試改革の狙いは、前述の地域貢献人材育成入試に通底する。即ち、多様な学生が入学することによって、キャンパスにおける学生の化学反応を期待しているのだ。

 服部学長は、「入試というのは、大学のメッセージを伝える格好の機会」と述べたうえで、「高校と大学とで一緒に生徒や学生を育てていくことが夢」だとする。また、「結局、高大接続は人」としつつ、「それぞれの立場だからこそ見える生徒の良い部分を、顔の見える関係性の中でやり取りすることが、円滑な高大接続に資する」と言う。数学を専門とする学長自身が「県内の数学の高校教員であれば、三分の一の顔が分かる」と言うほどに島根県はコンパクトである。「小さいからこそ島根大学にはできることがある」として、一層の連携に意欲を示す。

 島根大学では、前述の目標実現のために、2016年度に入学センターをアドミッションセンターと改組し、機能強化を図る予定だ。大学が入試に掛けるコストやパワーは非常に大きい。しかし、それでも地域貢献人材育成入試は島根大学にとって大きな挑戦であり、その成否は同大学における入試改革の試金石でもある。今後の展開を注視したい。

(橋場 論 福岡大学教育開発支援機構 講師)



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