アクティブラーニングに必要な行動特性を見極めるPASCAL入試/創価大学

GP 事業を契機にアクティブラーニングを推進

 LTDという言葉をご存じだろうか。アクティブラーニング(以下AL)の一種で、Learning Through Discussionの略、即ち話し合い学習法と呼ばれ、予習教材に対し十分な予習・読解作業を行った後、それらを持ち寄りディスカッションを実施し、協同的に学習を深めていくプロセスである。創価大学(以下創価)には教育力の強化・向上の一環で、このLTDを含めALを2000年以来全学的に進め、定期的なFD活動により進化させてきた実績がある。

 その契機となったのは、かつての文科省GP(Good Practice)事業である。2000年に開設した教育・学習支援センター(CETL)における、教員FDを含めた総合的な学修支援体制構築事業が2003年のGPに採択されたことが、強い追い風になった。「そこから学部を問わず全学的にAL推進に取り組み、2014年度大学教育再生加速プログラム(AP)にも複合型(AL、学修成果の可視化)で採択されました。現在多くの授業でLTDを含む多様なALを実施しています」と、アドミッションズセンター長の山岡政紀教授は言う。

 そんな創価が2018年度から導入するのがPASCAL 入試(Performance Assessment of Students’ Competency for Active Learning)。その言葉の通り、大学全体で推進しているALに対する行動特性を評価するための入試である。

建学の精神に基づく教育の深化

 創価の場合、大学全体でALを推進する流れからして、求めたい学部共通のスキル・スタンスはある程度明確である。実は従来型の入試でも、こうした大学教育への適性が高い人物を選抜しやすいものは存在した。「本学では専願の公募推薦が最も志願度が高く、本学の教育内容も見据えてか、高校までのAL学習習慣もついており、入学後のGPAも高水準で推移する傾向があります。ただし、明確にAL適性を見るというよりは、学力+人物評価という域を出なかった。今回のPASCAL 入試は公募推薦の定員を一部移管し、よりALに特化したパフォーマンスを重視する新しい評価方法を実施します」と山岡教授は話す。初年度導入にあたり、対象学部は完成年度を迎えていない理工学部・国際教養学部を除く6学部で、定員は100名。全体定員の約7%である。入学後の修学状態をIRで分析しながら、いずれは定員を広げていきたいと考えているという。

 ではそもそも、なぜ創価はALに力を入れてきたのか。そのヒントは建学の精神にある。創価の建学の精神で最初に出てくる言葉は「人間教育」。自らを教育のための大学だと称する。そこから貫かれるスタンスは「学生第一主義」である。「誤解を恐れずに言えば、本学は研究よりも『どうやって学生を育てていくか』を重視して常に進化を志向する大学です。だから授業方法や教員FD、学生の成長を支える体制強化に何より力点を置きます」。学生第一主義とは、学習者である学生を第一に考えるということだ。ALはまさに学習者を中心にした教育方法の総称であり、創価の理念に合致した教育方法であると言えるのである。

 2021年に50周年を迎えるにあたり策定したグランドデザインでも、その点が確認されている。改めて定義した創価の社会的役割は「創造的人間の育成」。「創造的人間」とは、知力と人間力を兼ね備えた人間を指すという。即ち、正解のない課題に取り組む力・柔軟性・能動性・主体性等を兼ね備え、知識を知識で終わらせず、最終的には人類の共生社会、平和につなげることができる人間である。「そうした人材を育成するにあたり、入学時点では断片的な知の量を測るのではなく、総合知を測りたい。グランドデザインの議論の中で、改めて本学が求める人材像が浮き彫りになりました」と、山岡教授は話す。

選考の全工程を総合的に評価

 では、PASCAL 入試ではALに必要な行動特性(Competency for Active Learning)をどう評価するのか。全体の選考の流れを図表に示したが、全体として「学力の3要素」を総合的・多面的に評価する内容である。特色が見られるのは特に二次選考であろう。

 試験当日行われるのは、LTD方式のグループワーク(以下GW)、小論文、個人面接。GWは6人で、与えられた課題に対し、グループで議論して共通理解を目指す。そのプロセス・パフォーマンスを独自開発のルーブリックにより、複数の教員で客観的に評価していく流れだ。「知識・技能」を中心に見る一次選考の結果発表と同時に、受験生には予習教材と予習ノート等が支給される。予習ノートは教材に即して自らの論点を整理することが目的であり、その出来は評価されない。事前に教材について考え抜き、自分なりの視点や場に臨む気持ちを整えてきたかどうかが問われる。GWでは積極的に議論に参加する姿勢やリーダーシップ、議論による自己変容に対して寛容か、他者の意見を昇華することができるか、表現力等、学びの深化を起こすことができる素養を丁寧に見るという。評価するのは普段からLTDを用いた授業を行っている教員だが、評価するという経験は初であるため、事前にFD研修・個別研修等で模擬練習を重ねて本番に臨むという。

 小論文はGWと連動し、課題と関連した内容を当日課す。文章による表現力はもちろんだが、予習教材を読んで理解してきたかどうか、そして、行われたばかりのGWにおける理解の深化を活かせるかどうかが問われる。その後、受験生1:面接官3の個人面接で志望動機や学習目的を確認する。二次選考全体が「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性・多様性」を見る選考プロセスなのである。最終的な合否判定は一次選考の書類や学力、二次選考の状況を総合的に見て判断する。こうした内容は高校教育で培った力を総合的に活用できる力を見るものであり、高校側からも評価が高いという。今年3月からのオープンキャンパスではLTD模擬授業を実施したが、全回予約段階で満席となる好評ぶりだったそうである。

 創価の場合、こうした取り組みを全学的に遂行するための、CETLを中心にした教育支援体制の強さが際立つように思う。私立大学が入学者選抜で高校教育と大学教育を実質的につなぐには、まず大学側の建学の精神に根差した強みと教育理念が実体化されていることが必要であろう。それにより、その大学で学ぶのに必要な資質・能力が明らかとなり、そのための評価方法が見えてくる。そうしたプロセスを全学的に踏めるからこそ、本質的な志願者を集めるための勝ち筋と方策を見いだせるのだと考える次第である。

(本誌 鹿島 梓)