教育の特色と育成人材像を導き出すプロセスが最適な入学者選抜制度を創る/金沢大学

全学的な教育価値の再考から共通教育を改革する

 金沢大学は2008 年度に学部学科制から学域学類制に移行した。異分野融合的な教育研究を推進すべく、主専攻を入学後に定める経過選択制、主専攻以外の領域も広く学べる副専攻制を敷いている。

 柴田正良副学長・教育担当理事は「2014年度に抜本的な教育改革に着手しました」と話す。背景には同年スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)タイプB への採択を皮切りに本質的な国際化へ舵を切ったことがあるが、改革の真意は、大学憲章を最新の状況に合わせて再解釈し、それを実現する教育体系を整理し、金沢大学で学ぶのに必要なマインドとスキルを導き出した一連の工程にある。「どんな時代でも基盤となる『地域と世界に開かれた教育重視の研究大学』という位置づけのもと、変化の激しい現代社会における本学の教育の意味を問い直し、
 (1)国際社会を生き抜く能力 
 (2)人類の課題に対峙する倫理観 
 (3)人間力の3点を涵養する教育
という観点から、独自の人材育成スタンダードを定めました」。それがKUGS(Ka na za wa University "Global" Standard)である。共通教育(教養教育)の根幹は、国際基幹教育院という新設の教育組織が、KUGSに基づく科目体系としてカリキュラム設計を行った。KUGSの5つの大項目(スタンダード)ごとに6つの基本科目(GS科目)が配置され、学生は各大項目から3科目以上を選択しなければならない仕組みだ。例えば、スタンダード1は「自己の立ち位置を知る」、科目は「グローバル時代の社会学」「地球生物圏と人間」等といった具合である。重要なのは理念から導き出されたコンセプトを実際の授業に落とし込んでいることだ。「本学で重視する異分野融合研究の推進に求められる資質を、入学時から育成すべく、初年次を中心に日々の授業を再設計しました。だから本学の学生は全て、この理念を軸とした教育体系を享受します」。まさに金沢大学ブランド教育とも言うべきものである。こうした改革を背景に、2015年度には国立大学交付金の3類型化において、金沢大学は国際的な競争力を志向する「卓越した教育研究」型、即ち第3類型を選択した。

教育内容に合致する多様な人材を求める

 一連の教育改革を経て明確になった軸に適合する学生をどう選抜するか。これから取り組むのは入学者選抜改革である。2017年度(2018年度入試)より「文系後期一括・理系後期一括入試」、2019年度(2020年度入試)より「KUGS特別入試(及び高大接続プログラムⅠ)」、2020年度(2021年度入試)より「超然特別入試(及び高大接続プログラムⅡ)」という3段階の構想があるという。詳しく見ていこう(図表)。

 「文系後期一括・理系後期一括入試」は、分野横断型の志向性のより高い学生を獲得するための仕組みである。センター試験と個別学力検査のほか、2~3年かけて多面的・総合的評価の選考プロセスを追加する予定だという。入学後1年間は学類に所属せず、多くの研究分野に触れ、2年次以降の学類選択に備えるカリキュラムとなる。金沢大学のコアとも言える経過選択制に最も沿った形態であり、導入初年次は文系62名・理系82名の定員を予定しているが、徐々に規模を拡大していく見込みだ。

 未だ構想段階ではあるが、「KUGS特別入試」は、予めKUGSに関連したセミナー・講義等を体系化した高大接続プログラムⅠを高校生に提供する。プログラムは受講必須ではないが、それらの内容を踏まえた特別セミナーへの参加とレポートが必須となる。選考はほかに講義(アクティブ・ラーニング、グループワーク、英語等を予定)・実験の実施等を含み、一連の活動を通じて生徒の主体性・多様性・協働性をKUGSの観点から見極める。「超然特別入試」は、特異な才能を持った学生をピンポイントで選抜するための入試で、高大接続プログラムⅡにて文学や数学等をテーマにしたコンテストを開催し、その入賞者を対象に選考を行う構想だ。この2つは、いずれも大学が高校生に「高大接続」型の教育コンテンツを提供し、その実施状況や高校生の適性を踏まえ、選考プロセスの中でスキルやスタンスを育成していくタイプの選抜制度である。入学後に徐々に発揮されてくる思考・資質を早期に見極めるためには、学力考査以外に何かしらのパフォーマンスを見る必要があるという。

分野融合と専門性をリンクする人材育成プロセス

 単一の入試制度だと運用面は楽だが、入学層が均質化し、多様性が損なわれる危険がある。学生の多様性を確保しようとすると、必然的に入試が多様にならざるを得ない。当然、教職員にかかる負荷は増大するが、柴田副学長・教育担当理事は「生き残るためには必要な痛み」と断言する。「社会は国際化・情報化の一途をたどっており、そこで活躍できる人材の輩出を志向する以上、多様性の確保は喫緊の課題です。本学では入学後GS科目を中心に分野融合の志向を学び、2年次以降に専門性を培い、大学院では自らの専門性を持って再び分野融合の研究を行う。大学院まで一貫して思考と知識を鍛錬するプロセスを想定しています。その入口として入試を捉えると、その後の教育との緊密な関連性を問うのは当然の流れであり、入試の時点から人材育成は始まっていると言えるでしょう」。

 教育改革の延長線上にある入学者選抜改革。その背景には、SGU採択や国立大学類型化等、政策軸の「外」の動向があり、それと同時に、現代に合った自校らしい人材育成を起点にした「内」の改革があった。入学者選抜は、大学教育の中核が何か、そこで育成すべき人材はどうあるべきか、という議論なくして設計することはできない。自校の強みと軸足を明確に定めてこそ、必要とされる改革が定まる。まず着目すべきは教育である。

(本誌 鹿島 梓)