大都市東京に根差し課題解決を担う多様な人材を選抜する/首都大学東京

2020年に向けた改革

 首都大学東京(以下、首都大)は2005年に東京都立大学・東京都立科学技術大学等4校の統合により誕生した、東京都の公立大学である。「大都市における人間社会の理想像の追求」を大学理念の根幹に据え、都市に集積する様々な課題に対し、社会と連携しながら、広い分野横断的視野と深い専門的学術の教育研究を担う。

 2017年3月に発表した第三期中期計画の中には、「入試改革の推進」と題し、「2017 年度にアドミッション・センターを設置し、教学IRに基づく入学者選抜方法の検証・改善を行い、2020年度以降に実施予定の大学入学者選抜改革に対応する」「国際バカロレア資格等を活用した入試を拡大するとともに、AO入試等の多様な選抜による募集人員を全体の30%に拡充する等、志の高い多様な学生を選考するための入試制度を充実させる」とある。「2020年入試改革、2024年高校指導要領改訂等を見据え、入試の大きな方向性を示す必要があります」と、アドミッション・センター長の川上浩良教授(入試改革学長補佐)は話す。また、その実行段階に関し、いくつかのポイントがあるという。

 まず、運営組織変革である。新たにアドミッション・センターを設置し、より戦略的・包括的に入学周りの業務を担うものとした。入試設計・運営に加え、高大接続の設計や、入試ごとの成果検証・分析に基づき改善開発等も行う。「まずは現行入試の分析と、それに基づく2020年の入試設計に取り掛かっています。指導要領の科目変更等もあるのでそのまま使えるわけではありませんが、まずは現状のエビデンスを棚卸し、今後のデータ集積も踏まえ、ゆくゆくは入学時点の試験・科目等とカリキュラム・成績、卒業までの横断解析に取り組んでいきます」。その結果をもとに大方針を示し、採りたい学生像とその方法論を議論していく。合わせて東京都教育委員会や都立高校との連携、カリキュラムサポート等も行うという。

 次に、教育再編である。首都大は2018年に4学部7学科から7学部23学科へ、学部学科を大きく変更する。開学から10年余り経過する中、社会も大きく変化しており、教育体制を現状に合わせて再構築したわけだ。特に都市環境学部は都市に特化して学ぶ、国内でも稀有な学部である。「地球上の人口の7割は都市部で生活しており、人類規模の問題の大半は都市で起きています。『都市』というテーマで学部を作り、学問系統を構築しているのは本学特有と言えます。その中身は観光科学、都市機能や環境整備、ランドスケープデザインを含めた建築や政策面のアプローチに至るまで、極めて多岐にわたり、異なる分野融合、文理融合で学びます」。首都大は首都に根差す大学であってこそ、首都大というわけだ。その他詳細は誌幅の都合上割愛するが、全体的には時代の変化に対応し、少子化でも選ばれる大学になるための価値議論の末の再編であるという。

理念を入学者選抜にどう活かすのか

 前述した首都大にしか掲げられない理念を、入学者選抜、教育、卒業においてどう整合させるのか。見てきた通り、教育面では理念に沿った改革が進んでいる。育成人材は都市部の課題解決者として卒業後も活躍する実績を持つ。では入学者選抜においては、どのように反映されるのだろうか。

 現行の首都大の入試は、「一般選抜」と「多様な選抜」と呼ばれる2種類に大きく分かれる(図表)。

 「一般選抜」は知識・技能を中心に学力を測るタイプ。「多様な選抜」は、科目以外の評価を重視するタイプだ。以下に特徴的なものを見ていこう。

 一般推薦の推薦基準・出願要件は学科により異なるが、評定平均を課している場合は概ね4.0~4.3以上と厳しく設定されている。それに加え、知識・技能・表現力を問う小論文、主体性・コミュニケーション能力を測る面接を課す等、多面的・総合的に評価する入試設計になっており、いわゆる「学力の3要素」を測る入試として機能している。指定校推薦も概ね同様に厳しい条件を課しているという。

 AO入試のうちグローバル人材育成入試は、その名の通り英語4技能に対応した入試だ。1次試験で英語外部試験スコアを活用し、2次試験では小論文(英語または日本語)、面接を課す。出願要件は一般推薦と同等であり、それに加えて高い英語力を求めるという、かなり難易度の高い入試だ。その理由は入学後にある。グローバル入試で合格した学生は入学後主専攻に加え国際副専攻に属し、半年から1年間の留学が義務づけられる。首都大では文系でも理系でも、様々な主専攻に国際副専攻を追加して学ぶことができるという。そうしたハードなカリキュラムに取り組める、言葉の壁を越えられる学生をきちんと選抜する必要があるというわけだ。

 そして、形として最も高大接続型といえるのが、ゼミナール入試だ。大学講義(ゼミナール)を複数回受け、その履修状況を踏まえて合否を測るもので、全入試の中で最も入学後の成績が良いという。ゼミナールは前期土曜日3回、サマーセッション2日、後期土曜日4回受講し、その履修成績や面接、志望理由書、調査書等を総合的に評価する。講義は各1時間半、演習実験は各3~5時間にも及び、レポート提出等も厳しく課される。「大学の授業と高校の授業は時間も質も全く違うので、そこを丁寧に接続する入試です。その内容についていけるということは、その分野の学力や好奇心、意欲が高いと考えられます」と川上教授は話す。

 このように、「多様な選抜」はその名の通りかなり幅広い。こうした設計について、「大学側で共通項は絞るが、それ以外は各学科の狙いに合わせた設計にしている」と川上教授は話す。都市の課題に挑むためにはある程度の学力と、柔軟な横断的思考が必要であり、それを学科の学問に合わせてどう設計・評価するかを試行錯誤しているようだ。現在入学定員1570名のうち約20%を占めるこれらの多面的・総合的評価型を、2020年までに30%以上にするのが当面の目標である。実績として、「多様な選抜」で入学した学生と一般選抜の学生の入学後の成績を比べると、前者が圧倒的に伸びるそうである。その理由を問うと、「まず、第一希望であるため意識が高い。理念を理解し、首都大を選ぶ理由が明確にあるので、スタンスが違います。そして、学力の3 要素の『主体性』『学習意欲』を選抜上重視しているので、必然的に自主的に成長していくのです。これは実証的に検証されており、引き続き注力したいと考えています」。そのため、「多様な選抜」においても出願時点でのラインは下げず、学力以外の要素を重点的に評価するようにしていきたいという。

 多様化を進めながら、次は一般選抜の改革に着手する。「入試はどういう学生を求めるかという重要なメッセージであり、それが伝わらないような入試をしても仕方ない。知の集積再生を目的とした20世紀型の入試では通用しなくなるのは当然のことです。21世紀に生きるうえで必要な能力を見定めるのは大学の使命でしょう」という、川上教授の言葉が印象的だった。

(本誌 鹿島 梓)