学力の3要素評価の配点を公表したAO入試(高大接続重視型)/鎌倉女子大学

POINT
■「感謝と奉仕に生きる人づくり」を教育理念に掲げる大学
■AO入試(プレゼンテーション型)を改変し2017年度にAO入試(高大接続重視型)を導入
■評価の公平性を確保するため学力の3要素評価の配点を公表
■課題をブラッシュアップした2年目は定員38名に対しエントリー者76名、志願倍率は2.0倍
■次年度は短期大学部での入試改革を検討中

 鎌倉女子大学は1943年横浜市に設立した京浜女子家政理学専門学校を母体とし、「感謝と奉仕に生きる人づくり」を教育理念に掲げる大学だ。内面に清らかな感謝の心を養い、外へは逞しい奉仕の行いを促すことを軸とした教育は、実践と理論の一致、体験と知識の合一を求める「ぞうきんと辞書をもって学ぶ」という言葉に表される。現在は家政・児童・教育の3学部(入学定員500名)を擁するほか、初等教育分野の短期大学部も併設されている。
 典型的な小規模女子大学とも言えるこの大学で、既存のAO入試(プレゼンテーション型)を改変するかたちで2017年度に導入されたのが、AO入試(高大接続重視型)である。定員は全体の約1割の38名。プレゼンテーション型での課題だった「高校までの実績アピールに終始しやすい」という点を鑑み、より志望動機を重視し、入学後にこれまでの自分をどう活かすのかという接続部分を多角的に評価する手法に改変した。なお、小誌ではこの選抜導入時期に取材を行っている(詳細はこちら。)今回は導入から2年が経過した進捗状況を、河村和宏入試・広報センター長にうかがった。

 まずは初年度得られた成果と課題である。導入時の大きな特徴として、学力の3要素の何をどうやって評価するのか、その配点を公表したことがあった。「導入時には他大の事例よりも高校現場の意見を多く聞き、高校教育との接続を配慮しました。ルーブリックに客観性を持たせるには、情報をきちんと公表し、本学が何を重視するのかを理解してもらう必要があります」。また、多面的評価を公平に行うため、4つの審査種別それぞれに教員を2名ずつ、かぶらないように配置した。結果、担当教員数は38名にも及んだそうである。誰が評価しても公平になるよう、多面的なルーブリック評価を一覧化し、受検者1人当たり31項目もの得点集計で判定資料を作成した。こうしたスタンスに共感・信頼する高校は少なくなかったという。エントリー者はプレゼンテーション型の実績より2割ほど減少したが、「受検者の負担も多くなるため、もっと減ると思っていた」ということは、丁寧に事前説明を重ねたことで、2割で済んだと見るべきなのであろう。AOで見られがちな早期合格を狙った安易なエントリーも減少し、よりコアな出願が多かったようだ。
 一方で課題である。最も大きかったのは、「集団討論」の配点が40点と高かった割に、そこで差がつかなかったことだった。「同じ学科ごとにグルーピングをして討論テーマを置いたため、概ね似たような意見が多くなる。主体性・多様性・協働性を見ようとしても、志向性が似通ってしまったのが実態でした」。特に多様性を見るには、グループ構成自体を多様なメンバリングにする必要があることが確認された。その他、「集団討論」での司会進行者が審査を兼ねたため苦慮した等、運営面でも改善すべき点を洗い出すことができた。

 これらを踏まえ、2018年度は主に以下を変更することとなる。
①審査日・出願締め切りを遅らせ、主に2期制高校の調査書発行時期に配慮する。
②「集団討論」を学科別から全学統一方式に変更し、討論時間帯でテーマを変更して審査を行う。
    討論グループのメンバーは学科シャッフルとする。
③この方式で重視する「APの適合性」を、「面接」の評価観点に追加する。
④ルーブリック配点を、より的確な判定を行える形に変更する(図表)。
⑤運営面で負荷の高かった箇所を改善し、マニュアル等の精度を向上する。

 そして迎えた2年目はどうだったのか。
 変更点②では、特定の学科に拠らないよう、「建学の精神」に関連した統一テーマ設定に際し、学科ごとに案を持ち寄り、夏頃には全体の方向性を決定。採用された複数テーマを討論時間帯によって変更して審査を行った。討論グループも学科シャッフルとしたことで、異なる志望を持つ受検者同士のコミュニケーションでより個性が際立ち、議論も盛り上がる傾向があったようだ。こうした工夫が奏功し、前年度よりも主体性・多様性・協働性が格段に見やすくなったという。
 変更点⑤で特に注視したのは討論司会者の設定である。審査者と司会者を分けることが主目的であったが、司会者はその巧拙で受検者に不利益が生じないように、また測るべき受検者の要素をうまく抽出できるよう、入念な打ち合わせが必要だという。「属人的になりやすい役割ですが、人によって雰囲気や評価が変わらないように配慮する必要があります。複数回司会が必要なため、討論テーマが変わっても後ろの順番の進行の方がスムーズになるといったことも起こり得ます。今後も磨いていく必要がありますね」。

 こうした細部に渡る配慮の結果というだけではないだろうが、2018年度はエントリー者数もプレゼンテーション型の実績水準に見事回復したのである(エントリー者76名)。河村氏は「初年度は様子見というところも多かったのではないか」と話すが、測るべき要素と運営面の磨きこみ、それをきちんと高校現場とすり合わせる努力なくして、2年目で回復させることはできなかったのではないかと思う。次年度に向けても今年の実施結果を踏まえ、より改定した内容を検討中だ。
 高大接続の入学者選抜においては、まず入試で測る能力で学力の3要素を網羅し、APに紐づけた整合性を示す必要がある。鎌倉女子大学の改革は新しく入試を設計するものではなく、既存のAOのあり方に一石を投じる改変なのがポイントであろう。「新規に鳴物入りの入試を打ち出すよりも、既に社会に根付いている和製AO入試の問題点を明らかにし、改良して実践するほうが、より高校現場を惑わせない入試改革になるのではないか」と河村氏は話す。次年度は短期大学部で、職業教育を設置目的とした短大だからこその入試改革を構想中だという。世の中にどんなメッセージを出す入試になるのか、引き続き注目したい。

編集部 鹿島梓(2018/2/1)