経営的観点で公共の課題を解決する/大阪商業大学 公共学部公共学科

POINT
  • 1928年設立の大阪城東商業学校を前身とし、1949年大阪城東大学開学。1952年現校名に改称。現在、経済・総合経営・公共の3学部入学定員1100名を擁する、経済・経営の大学。
  • 「世に役立つ人物の養成」を建学の理念に掲げる。
  • 2018年4月開設した公共学部では、経営学の観点から地域社会の活性化や地域間交流に貢献できる力を育成する。


よりよい社会づくりのために公共の課題に挑む

 2018年4月、大阪商業大学(以下、大商大)は公共学部を開設した。大商大は『商業』を掲げる日本唯一の大学であり、また公共学部という名称も日本ではここにしかない。当然掲げる理念もこれまでにないものであろうと、東大阪のキャンパスを訪ね、片山隆男副学長にお話を伺った。

 公共学部で授与される学士は経営学。「公共とは、地域を経営することである」と片山副学長は話す。「そもそも経営とは企業活動に絞ったものではなく、課題を解決するための人の営み全てを指します。地域に多く内在する課題を掘り起こし、自らが介在することで解決に向けた方針を示し、また具体的に動ける人材を育てるのが、この学部というわけです」。この資質を片山副学長は『公共マインド』と称する。ではこの考え方はどこから来たのか。

 実は大商大が「公共」を掲げるのはこれが初めてではない。前身である総合経営学部公共経営学科ができたのは2005年。1980年台、市場原理に基づく自由競争を志向し小さな政府へ舵を切った日本において、以降、地域やコミュニティ等の存在感が増し、個人の自立と他者との関係性がフォーカスされるようになった。そのために大商大は社会科学の立場から何ができるのか。当時の公共経営学科はこうした動きを捉えて設置に至ったが、地域や個人にフォーカスしつつも、学ぶ軸は行政中心だったという。それから13年。より現代の課題を盛り込んで『公共』を捉え直し、個人と地域社会寄りに軸足を変え、「経営的視点と発想から公共サービスをマネジメントし、より良い社会づくりを目指す」(学科パンフレットより)と公共学部の設置趣旨を謳う。今後も公共学部の概念、学ぶ必要性を高校生に理解してもらう工夫が重要なポイントである。一方で、公共学部設立は大学理念に根差した別の意味合いもあるという。

時代に即した「世に役立つ人材」を育てるための4つの柱

 大商大は建学の理念「世に役立つ人物の養成」を支える4つの柱として、①思いやりと礼節、②基礎的実学、③柔軟な思考力、④楽しい生き方 を掲げる。建学の理念と4つの柱が示すものは、時代に合わせて変化する。遡って、戦後復興・経済成長期には、大企業に年功序列的に長く勤める企業戦士こそが「役立つ人物」と言えた。4つの柱も、企業で長く生き抜くために必要な要素として読み替えることができたのである。翻って昨今。定年まで勤め上げる働き方はもはや神話と化し、人々は職を時に変化させながら、自らの強みを軸に生き方を選ぶ時代。国際化も進み、ビジネスの世界では価値観や文化素地の異なる多様な人々と協働するのが当たり前になりつつある。一元性から多様性へ。ドメスティックからグローバルへ。時の変化に応じて求められる「人材」の資質も変わるだろう。4つの柱を現在必要とされる要素として整理すると、①思いやりと礼節:多様性を認める思考、②基礎的実学:問題を捉える能力、③柔軟な思考力:人の意見を聴く姿勢、④楽しい生き方:労働者としても生活者としても自立して生きる と読み替えることができるという。既存学部学科はもとより、そうした人材を育成するための新たな場が必要であるというわけだ。建学の理念とそれを支える柱を現代に合わせて解釈した結果、必要な要素を揃えた新しい学部ができたとも言えるのだ。

 ちなみに、4つ目の柱「楽しい生き方」とは少し独特である。片山副学長にその真意を問うと、「大商大が掲げる『商業』を紐解くと、それは商人の町大阪だからこその基盤があることが分かります」と言う。商いを成功させるには、ただ売る技術を磨くだけでは不十分だ。「商いの場面でも教養が不可欠です。この人から買いたいとか、この人とつき合うと面白いと思わせる気質を育むべく文化や教養を磨き、そこで人とのつながりを作り、商いを広げていくのが大阪商人。大阪で商いを生業にするとはそういうことなのです。そして、それはグローバル化の時代にこそ求められる生き方でもあります。だから、我々は人としての豊かさを創る『あそび』を大事にしたい」。それが豊かな人生、楽しい生き方につながる。商人の家に生まれ文化人として活躍した井原西鶴や木村蒹葭堂、あるいは千利休のように、文化教養をベースにしたサロン的なつながりから顧客や取引先が広がっていくのが本来の商い。そうした素養も含めた教育を大商大では提供したいのだという。そうした心意気を4つ目の柱「楽しい生き方」で標榜しているのである。人や社会の豊かな姿を描き、商いの外へと領域を広げる。現代企業のCSR等にもつながる考え方とも言えそうだ。大商大は商人の町大阪を基盤に、「世に役立つ人物の養成」を支える4つの柱を時に時代に即して読み替えながら、学問的な切り口を経済学部・総合経営学部・公共学部の3つから示している大学とも言えるのである。

学生個人の興味から公共にアプローチする体系的カリキュラム

 では、公共学部に戻って、今回の改組は何故学部の設置を企図したのか。現代的に解釈した建学の理念の実現と公共マインドの養成は既存の学科のブラッシュアップでは実現できなかったのだろうか。

 これについても片山副学長の言葉は明確である。「大学は教育と研究がミッションです。人間の営みから生じる多様な課題を経営学の視点で見るのが公共学だとすると、その学問的広がりは学部として系統立てて学ぶのに足るだけの深さがある。今後、学問としてより発展し拡大・深化していく分野だと思うのです」。だからこその学部化であるという。なお、片山副学長の言う「研究」にも広げるべく、公共学部開設と同時に「共同参画研究所」も開設している。「共同参画研究所は、地域創造の担い手である中間組織(町会・自治会、NPO、企業、大学などの教育機関等)に関わる人々が、男女・社会的弱者と呼ばれる人々等あらゆる住民と共に新しい地域社会を創るという社会的包摂の認識を深めるため、社会的包摂に関する研究、具体的な課題解決に向けての取り組み、そして人材の育成等の取り組みを行うために設立しました。その研究成果によって、新たな学問領域の可能性を探り、教育に活かす工夫や地域貢献活動を推進していきたいと考えています」。

 公共学部の学修フィールドは、図表に見る通り、「スポーツと社会参加のコース(スポーツとマインドスポーツの2コース)」「地域と社会参加のコース」「公共とビジネスのコース」の4コースに分かれる。それぞれ個人の興味や卒業後の想定進路に沿った履修モデルコースで、2年次に希望コースを選択し、推奨科目を学修する仕組みだ。地方行政、産業、スポーツ、福祉、観光、文化、環境保全、ビジネス等、公共が包含する多様な学修領域が将来の選択肢を広げ、学生は自分の興味に即して軸足を決め、各自の方向性からこれからの時代を支える公共マインドを学ぶことができる。「公共フィールドでの課題解決の切り口や単位は様々ですし、個人が主体である以上行政主導のトップダウン式では物事は進みません。地域社会発展のためにはただ大きな公民館を建てて終わり、という話だけではない。ないものを創造するだけではなく、人・施設・産業を含め、既にそこにあるものをどう有効活用するかも含めた視点が必要です。ワークショップ、ソーシャルビジネスやシェアリングエコノミー等、個人が課題解決の主役になる時代。我々は豊かな地域社会で多様な人々が豊かな『楽しい人生』を創るための基盤設計や、支援の企画推進ができる経営人財を育成したい。新しい時代の課題に対して知を集約し、教育に落とし込んで次世代につなげるのは大学の使命です。大阪の商業にルーツを持つ大商大ならではの価値提供を、公共学部を通して実践できればと考えています」(片山副学長)。

編集部 鹿島梓(2018/10/22)