職業教育への適性を多面的に評価する「保育者適性型特別選抜入試」/鎌倉女子大学短期大学部

短大ならではの多面的評価を開発

 鎌倉女子大学は1943年に設立した京浜女子家政理学専門学校を起源に、1950年より京浜女子短期大学となり、1959年より京浜女子大学を設置。1989年校名を鎌倉女子大学に変更した。短大の歴史が長く、大学設置後も短期大学部を併設してきた。併設の短大を募集停止する大学もあるが、鎌倉女子は長く保育・教育分野での実績を持つ短期大学部(初等教育学科、専攻科)を、大学と別の役割を持つものとして併存させる道を選んだ。今回ご紹介する短期大学部の入試は、まさにその立ち位置の違いを体現したものである。その名も「保育者適性型特別選抜入試」。名前が示す通り、初等教育学科で目指す幼稚園教諭・保育士の適性をベースにした、新しい入学者選抜である。

 大学では2017年度入試からAO入試(高大接続重視型)を導入している。評価手法と配点を公表している全国でも稀有な例で、調査書、集団討論・プレゼンテーション、小論文・面接と多彩な審査方法で、受験生を多面的に評価する入試だ。それとほぼ同時並行で短大での高大接続の在り方を検討してきたという。

 入試・広報センター長の河村和宏氏は言う。「大学での多面的評価と短大のそれは同じであるはずがない。本学は短大教育に接続される新しい入学者選抜を設計したいと考えました。大学ではアカデミズムに接続されるべき学力の3要素評価を軸にしましたが、本学短大は乳幼児保育・初等教育に特化したカリキュラム。卒業後に大学の児童学部や教育学部に編入する学生も一定数いますが、やはり学生の様子も大学と短大では異なる。だからこそ、大学でうまくいったことをそのまま短大に流用展開するのではなく、独自の入試の設計が必要と考えました」。本来は入学後の教育に必要な素養を測るのが入学者選抜であることを考えれば、違う教育課程の入試は異なるのが道理というわけだ。

職業に臨む意欲・能力を職業適性と捉える

 今回の入試改革の特徴は主に2つだという。1つは職業適性を評価するという点、もう1つは他学や他入試との併願が可能である点である。それぞれ見ていこう。

 まず、職業適性を評価する点である。出願資格にその姿勢が顕著に現れているように思われる。具体的には、①卒業後、幼稚園教諭や保育士として就労することを希望する者、②高校では授業出席状況が良好で明るく前向きに活動した実績を有する者、③高校で積極的に学習に取り組み、かつ「保健体育」「芸術(音楽・美術・工芸・書道)」のいずれか1つの教科の評定平均が3.2以上の3点である。①は保育者としての目的意識、③は保育者にとっての基礎力に該当する教科の評価であるとして、特徴的なのは②であろう。河村氏は話す。「規則正しく規律正しく生活できること、決められた時間に決められたことをこなせることは、特に保育者にとって大切な適性です。専門性を身につける前に、きちんとした生活者であるかどうかを見るには、高校時代の出席状況を見るのが一番良いと判断しました」。

 そうした出願条件をクリアした受験生に課す選考プロセスは以下の通りである。

 まず出願時に「入学希望理由書」「調査書」を提出し、小論文と面接を経て評価を行う。もともと短期大学部で実施していたAO入試(自己推薦型)の審査方法である小論文と面接をそのまま使い、より多面的な要素になるよう「入学希望理由書」の内容を見直し、評価観点を加えた。

 各評価の配分は図に示した通り明快だ。「入学希望理由書」は面接資料にもなるが、予め提示された書式に600〜800文字程度の文章で自己PRが必要となる。小論文もそうだが、かなりの文章力が必要である。「保育現場では日々の連絡帳をはじめ、文章や会話での保護者とのコミュニケーションが非常に多いものです。子どもが好きなのは大前提ですが、それだけでは務まらないのが現実。入学時点で全てを持っている必要はありませんが、冷静に必要なスキルやスタンスを棚卸し、ある程度の能力やそれなりの課題をこなす意欲が必要なのは自明です」。だからこそ、高校までにどこまでその適性を見いだし伸ばしてきたのかを問うのだという。

 まとめると、鎌倉女子が「保育者適性」と決めた要素と評価方法・評価配分は図のようになるだろう。特に評価配分の大きい面接では、「学外実習に出せるか」という観点で受験生を評価していく。現場に即した感覚値を、エビデンスに即した評価に加えることで、よりマッチング度合の高い人財を獲得したいという。企業の採用に近い選抜制度と言えるだろう。

募集設計を健全化する総合型選抜

 次に、特徴2点目の「併願可」についてである。こうした入試は専願を想定しそうであるが、今回は他短大・四大との併願を可とすることでより学力の高い層を取り込める可能性を見据えた。「この入試は全入試の中で最も早くに開始します。併願にすることで、まずはチャレンジしたいという層の背中を押す意味合いも大きい」。

 なお、入学定員200名のうち、今回の入試に割り当てられた定員は3割を占める60名と、初年度にしては多い印象を受ける。その理由について河村氏は、「ベースとなるAO入試(自己推薦型)があったので、それを膨らませる形で設計しています」と言う。前述した選考プロセスも含め、AO入試(自己推薦型)の実績を継承しつつ、より多面的評価になるよう大学で成功したAO入試(高大接続重視型)の知見を活かし、短大教育の実態にフィットさせるかたちで誕生したのが今回の入試というわけだ。

 もともと短大の課題感で大きかったのは、募集設計上推薦入試に依存する状態になったことだったという。人が集まること自体は悪いことではないが、入試設計上は1つの方式に偏っているのはリスクである。しかし、短大入試の一般選抜で多く集めるのは現実的ではない。こうした状況を鑑み、河村氏は総合型選抜へのシフトは必須であると見ていたそうだ。

短期大学の教育を社会にメッセージする

 河村氏は話す。「入試は社会へのメッセージですから、本学が何を重視し何を評価するのか、今回で言えば何を適性と考えているのかを示して、それに合致した人に入学してほしいと思っています」。同時に今回の改革は短期大学教育と入学者選抜に一石を投じる意義も大きいであろう。とかく大学と専門学校の狭間で存在価値議論にさらされやすい短大で、他校種との差別化のため、短大ならではの総合型選抜への脱皮が必要なのであろう。

 学力の3要素をお題目として捉えず自校教育に当てはめた時、初めてその具体化ができるのではないか。この学校にとって思考力とは、判断力とは、表現力とは何を指すのか。その具体化はベースとなる教育から導き出されるはずである。職業教育であればより現場に即した因数分解になるであろう。そのうち何をどこまで入試時点で評価するのか。議論し認識を揃えていくプロセス設計や体制作りは当然だが、見据えているものが何なのかを明確にしなければ、検討が徒労に終わる可能性もある。その点、今回の事例は1つの形を提示しているように思われる。専門職校種等の職業教育議論も盛んな今、職業適性を総合型選抜に取り入れた意義は大きい。

(編集部 鹿島 梓)