言語・国際フィールドのスペシャリストを育成する/立教大学 異文化コミュニケーション学部 5年一貫プログラム

POINT
  • 2008年学部設置。多様性の中でコミュニケーションを軸に課題解決できる人材を育成
  • 2016年に4つの領域を横断的に学びながら自らの専門性を深めるカリキュラムを開始
  • 言語や国際をフィールドにした専門職を幅広く育成
  • 2019年より学士・修士を一貫した5年プログラムを開始


 今や立教大学を代表する学部の1つでもある異文化コミュニケーション学部ができたのは2008年。学部開設から10年を経過し、新たな展開として2019年開設となるのが5年一貫プログラムである。池袋キャンパスを訪ね、浜崎桂子学部長に背景や設置趣旨をうかがった。

多様性の中で「ちがい」を受け止め問題解決に挑む

 「そもそも異文化コミュニケーション学とは、1970年代のアメリカで登場した学問です。ジェンダーやカルチャー、言語や年齢等、属性や背景の異なる人同士のコミュニケーションについて研究するもので、言わば多様性を科学する学問です」と浜崎学部長は話す。学部パンフレットには「ちがう未来へ動きだせ」「ちがう力を身につけろ」「ちがう意識を持て」等、人と人の「ちがい」を受け止め、その中で新たな価値を創出する趣旨の言葉がいくつも散りばめられている。学部では、「世界中のどこでもどんな人とでも、共に課題解決に向かえる人」という育成人材像のもと、2016年より4つの学問領域を横断的に学ぶカリキュラムを展開している。

4つの領域を多角的に学ぶ教育カリキュラム

 4つの学問領域とは、①言語研究関連科目群、②通訳翻訳研究関連科目群、③コミュニケーション研究関連科目群、④グローバル・スタディーズ研究関連科目群の4つ。①では言語そのものの理論的体系やメカニズムを学ぶほか、言葉によって表現される人間の諸活動を分析する。②は言語コミュニケーションの専門職である通訳・翻訳の在り様やプロセスを科学し、実際の職務も経験する。③では地域と国家の境界が急速に希薄化する現代社会において、融和・衝突・反発といった様々な現象が頻発する現実を見据え、そこに生じる課題にコミュニケーションの視点からアプローチし、分析する。④はグローバル化によって移動するあらゆる対象を主題として専門的な知識を獲得するほか、国際協力・国際開発について、紛争解決や開発教育等独自の視点で理解を深める。これら4領域をまずは横断的・複合的・多角的に学ぶのが学部の特徴だ。科目の設置は「理解する」と「介入する」という2つの柱に基づいて行われ、理論を身につけた後でそれを用いた課題解決を経験し、知識と実践が有機的に結びつくよう工夫がなされている。さらに、2年次秋学期の海外留学研修が全員必修。異文化の中に身を置くことで、「ちがい」を強く意識し他者の考え方を知るだけでなく、自国の文化や自分について深く考察する機会になるという。

 言語や国際のフィールドのスペシャリストを志す学生も多く、英語教員、日本語教員、通訳・翻訳者、国際機関職員といった専門職を目指す教育を行っている。加えて、日英両言語と高度な専門知識で問題対応ができる人材を育成するオールイングリッシュプログラムDLP(Dual Language Pathway)も設置している。

言語・国際のプロフェッショナリズム教育を極める

 今年は現カリキュラムを履修した卒業生が出るタイミング。そこで今後を見据えて全体を振り返ったところ、さらにこれまでの教育を進化させるニーズが出てきたという。「日本語教員、通訳・翻訳者、国際機関の専門職は、国家資格がないこともあり、日本ではあまりプロフェッショナルとみなされていませんが、国際的に見れば非常に専門性が高く、熟練が必要な領域です。だから修士以上が求められるのが国際水準。本学部で育成しているこうした専門職について、各領域を牽引できるような人材育成には、自らの論を立てられる専門研究領域を持ち、場合によっては政策提言までできるような人材が必要との観点から、5年かけて専門職を養成する新しいプログラムができたのです」(浜崎学部長)。

図 5年一貫プログラムの流れ

 プログラムの概観を図に示した。学生は1年次から通常のカリキュラムの傍ら、「通訳翻訳専門コース」「英語教育専門コース」「日本語教育専門コース」「国際協力専門コース」の4コースのどれかに所属し、専門教員の伴走のもと、個人のテーマに沿った教育を個別に設計していく。4年次より大学院の科目も履修していくため、3年次までにある程度の単位履修を完了しておく必要がある上、時間軸としては卒論を書きながら修論も見据えることになる。プログラムの趣旨からして、4年次の就職活動は行わない前提とはいえ、非常にタフなカリキュラムだ。そのため、入試ではプログラムに臨む目的意識と軸となる言語力をしっかり見極めるべく、日英両言語での面接が課される。特に、①「領域に興味を持ったきっかけ」を言語化できるか、②興味を持った後に自分ができる範囲で行動を起こしているか、の2つを注視しているという。プログラムのレディネスは高い目的意識と言語力というわけだ。なお、今回当該プログラム専用の教員追加採用は行っておらず、現状の教職員体制でさらなる教育の磨きこみを行うという。

 「学生自身が高い目的意識を持っていなければ到底クリアできないプログラムですし、学部としての体制を現実的に鑑みても、全体で5名程度の募集が限界です。しかし、本学部にとっての設置意義は極めて大きく、英語及び日本語教員、通訳・翻訳者、また国際系の職種の牽引人材を育成するという意味では、分野への貢献度も大きいはずです」。これまでの学部の教育展開と人材育成実績を基盤に、より高みを目指す教育開発へ。浜崎学部長の言葉は力強い。

編集部 鹿島 梓(2019/1/22)