日本の発展に不可欠な女性リーダー育成を担う世界水準の教育/津田塾大学 総合政策学部
- 日本における女子教育の先駆者である津田梅子により、1900年に創設された女子英学塾が起源の女子大学。3万3000人を超える卒業生、3172人の在学生を擁する
- 長らく学芸学部1学部体制で英語英文学科、国際関係学科、多文化・国際協力学科(2019年設置)、数学科、情報科学科を展開していたが、2017年に総合政策学部を開設
津田塾大学(以下、津田塾)は2017年4月に全国女子大初となる総合政策学部を設置した。設置から4年目を迎える状況をうかがうべく、東京都千駄ケ谷駅前のキャンパスを訪ね、萱野稔人学部長にお話をうかがった。
中期計画が目指す女性リーダーの育成
津田塾は2017年策定の中期計画「Tsuda Vision 2030」で、大学・教育・研究・同窓生・経営の5つについてビジョンを掲げた。その趣旨は「社会を牽引するリーダーシップを持つ女性の育成輩出」である。
2019年3月に「列国議会同盟」が公表したレポートによると、世界の女性国会議員比率の平均は1995年11.3%、2019年1月には24.3%まで向上したが、日本は10.2%と低い水準で、調査193カ国の中でも165位と下位。不名誉なことに、女性活躍という文脈において、日本は世界的に見ても底辺レベルと言える。そんな中で津田塾が掲げる「Tsuda Vision 2030」のモットーは「変革を担う、女性であること」。今まさに日本に不足していると言われる女性リーダーを育成するため、質の高い濃い教育を提供し、社会に開かれた研究を推進することを明言しているのだ。同年に設置した総合政策学部にも、当然こうした方向性を体現する役割が期待されていると言えよう。
カリキュラムの3つの柱⁻英語教育、ソーシャル・サイエンス、データ・サイエンス
総合政策学部のカリキュラムには図に示す通り、3つの柱がある。詳しく見ていこう。
まず、「英語教育」である。歴史的に英語教育に定評のある津田塾だが、総合政策学部の英語は3年次まで必修で、週4日、カリキュラムの約1/3を占める。「Content-based」と「Communication」に大別され、「Content-based」では課題解決に関する題材を英語で扱うもので、指定のトピックスについて多様なソースを読み込み、議論を重ね、最終的にはWritingの授業で自分の意見をまとめ、表現する。「Communication」ではプレゼンテーションを中心に人前で発言する力を身につける。多様なシーンを英語で対応できる人材となるために、活用を前提とした英語4技能を徹底的に鍛えるのである。
2つ目の柱は「ソーシャル・サイエンス」だ。社会における人間の行動を科学的・体系的に研究する学問分野で、社会学・政治学・経済学・法学・社会心理学・教育学・歴史学・文化人類学等、実証的・客観的な視点で社会の問題を捉えることを目的とする。「現代社会における課題の本質を捉えるには社会の仕組みを理解していなければなりません」と萱野氏は言う。そのため、まずは社会に必要なルールとしての法、社会を動かす政治や経済といった原理原則を理解する。社会現象の原因と結果を明確にし、その因果関係を検証することで科学性を担保する。その検証プロセスに必要なのが実験やデータ分析だ。
そこで、3つ目の柱として掲げるのが「データ・サイエンス」である。様々なデータを分析し、そこに社会での活用を前提とした付加価値を創出する学問分野だ。社会的な課題解決を掲げるうえで重要な技法である。数学をベースとするため、文系の学生は戸惑うことも多いようだが、「数値を以て検証を行うことの楽しさに目覚める学生も多い」(萱野氏)という。数を分析活用して課題解決に挑む方法は、高校までに経験がないという学生も多いが、社会では数的根拠なしには政策も経営も動かない。データ・サイエンスは、そうしたギャップを埋める学問でもある。
学び方はPBL(Project-based Learning)を基本とし、各年次で少人数セミナーが必修。理論と実践を繰り返し、自分なりのアウトプットを出すことを重視している。「理論のインプットだけではなく活用して感覚値を創ることが大事です」と萱野氏は言う。学んだ内容を実践活用するために、官公庁が集まる霞が関にも新宿のビジネス街にも近いキャンパスの立地を活かした学外連携が盛んだという。
見てきたように、総合政策学部のカリキュラムの中心にあるのは「社会課題」である。課題を解決するには、それを取り巻く社会を理解し、動かすために必要なアプローチを学び、チームで経験を重ねる必要がある。駅前の新しいキャンパスでは、夜遅くまでラウンジで学び合う学生の姿が見られるという。
図 総合政策学部の学び模式図
3年次のセミナー選択で所属する4領域で実践力を磨く
専門に特化する3年次以降は、選択するセミナーにより4つの課題領域(コース)のいずれかに所属する。大学案内によると、4つのコースの概要は以下の通りだ。
パブリック・ポリシー(公共政策)は、社会のルールを決める公共的な仕組みを学び、新たな制度設計の可能性を追求する領域。市民としての政治参加、企業による提言等も含んだ広い意味での「公共」を扱い、政治学・法学から社会生活の規範や制度を理解し、政策を客観的に分析・評価するためにデータ分析や政治学理論を修得する。
エコノミック・ポリシー(経済政策)は、資源や富の最適な分配や利用を考えることで経済課題にアプローチする領域で、経済学を通して利害関係の構図を理論的に捉え、現状をデータ分析し、事例等も用いながら課題解決策を立案する力を身につける。
ソーシャル・アーキテクチャ(社会情報)は、人や組織の「プラットフォーム」の集合として社会構造を捉え、それをどのように設計・構築するべきかという問いを通じて課題解決を図る領域。情報学的視点から人びとの活動をデータとして収集し、その現状分析をもとに、合理的な解決策を立案する。ICTを用いた課題解決手法が学生に人気だという。
ヒューマン・ディベロップメント(人間社会)は、貧困やジェンダーによる格差、異文化間の偏見等、グローバル社会における人権や個人の能力の発展を軸に課題を捉え、個人の能力を活かしやすい仕組みをどう作るか、社会科学の理論と技法を用いて思考を深める。
こうした実践的な学びは、当然大学としての魅力向上に直結する。特に探究を軸とした教育改革真っ只中の高校からすれば、この大学に行けばこれまでの自分の探究テーマやスタンスを維持追求できると考えるのではないだろうか。そうした追い風もあってか、総合政策学部と学芸学部の学内併願率は、2017年度31.7%→2018年度39.3%→2019年度40.5%と高まっているそうだ。これはどうしても津田塾に行きたいという人気の表れである。「地方からの受験生には、『津田塾に進学するなら東京に行ってもいい』と保護者に言われたという学生も多いです」と萱野氏は言う。
女子大の総合政策学部だからこそできる役目を全うする
総合政策を冠する学部を持つ大学は全国に数多あれど、女子大の設置は初である。女子大に総合政策学部がある意義とは何なのかと問うと、萱野氏は少し考えてこう話した。「当たり前ですが、女子しかいないということですね。女子に特化した教育ができる」。津田塾のリーダーシップ教育は「多様性の中で自らの役割を見出すことができる」「異なる意見も踏まえながら合意形成を図ることができる」等を目的とする。女性活躍を謳っているとはいえ、冒頭に挙げたように日本はまだまだ男女格差が大きい社会だ。だからこそ、「マイノリティである女性がどう活躍できるか、マイノリティ側から考え、リーダーシップを発揮できる人材を育成することは、日本の発展にとって非常に重要だと考えます」と萱野氏は言う。
萱野氏は続ける。「格差を乗り越えるには、普遍的な視座とスキルが必要です。日本国内で格差が大きいのであれば、世界水準の教育によってそれを乗り越えることができるはずです」。今後の世界に必要な技法を基礎カリキュラムの3つの柱として立て、学生同士が切磋琢磨できる環境を整え、専門領域で実践的な能力を磨く。今年完成年度を迎える総合政策学部。女子大ならではのカリキュラムで多くのリーダー人材が輩出されることを期待したい。
カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/1/27)