新時代の共通言語であるデータと英語を実践教育で習得する/武蔵大学 社会学部 グローバル・データサイエンスコース

武蔵大学キャンパス

POINT
  • 1922年創設の旧制武蔵高等学校を起源とし、現在経済学部・人文学部・社会学部の3学部に8学科を擁する大学
  • 建学の三理想として、「東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物」「世界に雄飛するにたえる人物」「自ら調べ自ら考える力ある人物」の育成輩出を掲げる
  • グローバル教育の一環で2015年に経済学部でロンドン大学と武蔵大学とのパラレル・ディグリー・プログラム(PDP)を開設、2017年に人文学部でグローバル・スタディーズコース(GSC)、社会学部でグローバル・データサイエンスコース(GDS)を開設


武蔵大学(以下、武蔵大)は2017年に社会学部にグローバル・データサイエンスコース(以下、GDS)を設置した。その設置趣旨と開設から3年経過した現在の状況について、東京都練馬区にある江古田のキャンパスを訪ね、GDS主任の粉川一郎教授にお話をうかがった。

データ分析の目的設定から分析まで一連をプランニングできる人材を育成する

 GDS設置の目的は、「新時代の共通言語であるデータと英語を修得すること」である。そのための教育として、①徹底的に磨くデータサイエンス・スキル ②グローバルなコミュニケーション力 ③現場体験で鍛える実践力 の3つを挙げる。粉川教授は非営利組織の研究をテーマとしており、行政との付き合いも多い。その中で、「データ分析をしなければいけないというのがありきで、何のためにそれが必要なのか、手法としてデータが本当に適切かという検証が行われていなかったり、どこにデータがあるかを探して特定するプロセスが抜けていたりすることが非常に多い」と実感を述べる。行政であればEBPM(Evidence Based Policy Making)という呼称とイメージが先行し、データ処理部分にしか注意が向かない傾向がある。その前工程をきちんと手掛けられる人材が社会の中で枯渇している現状に対して、そこを補うには、社会学部のアプローチが非常に有効であるという。「本学部では、幅広い社会事象についてデータの収集法や分析法を学びます。こうした社会調査法や統計分析等の手法は、当然データサイエンスのアプローチにも有効です。基礎的な部分が共通していることは、GDS設計上も非常に役立ちました」と粉川教授は言う(図表1参照)。

図表1 GDSで養成するスキルと社会学部ならではのアプローチ

図表1 GDSで養成するスキルと社会学部ならではのアプローチ

グローバルとデータサイエンスは今後の社会を支える共通言語

 GDSという名称においてグローバルとデータサイエンスを掛け合わせているのは珍しいと感じたが、粉川教授は言う。「データは数字であり、世界のどこでも同じ価値のある共通言語です。ただし、実際のデータソースを見ると、数字のほかに様々な言語と絡み合っている。世の中のビジネスが世界に向けて開けている以上、現実的には英語と数字の組み合わせであることが大多数です。そうした意味で、データサイエンスで英語に触れるのは当然と言えます」。グローバル人材として英語を扱うのとは別の意味で、データを触るのであれば英語に通じるのは当然なのである。

 また、武蔵大は文系の大学なので、学生募集においてデータ≒数学を前に出すことにはリスクがあったという。文系の学生の中には、「数学」というだけで毛嫌いする学生もいるからだ。そのため、募集上はグローバル≒英語を強めに出した。カリキュラムにおいても、受験で英語力を鍛えた直後である1年次の6~7月に6週間のオーストラリア英語研修を実施し、「IELTSスコア5.5をクリアすること」を目標に英語力を磨く。異文化で英語漬けの毎日を送る中で世界に対する視野を広げて目的意識を育み、2年次以降に実践的なデータ分析を学んでいく。企画設計に必要となる視座獲得、視野拡大、問題意識醸成の後で具体的に手を動かすための分析手法を学ぶという順番だ(図表2)。

図表2 GDS教育の4年間の流れ

図表2 GDS教育の4年間の流れ

課題サイズを見極め、専門家とのインタープリターとなれる人材を育成する

 データサイエンスはまさに今が旬とも言える学問領域だ。社会学部との親和性以外に、その領域を選んだ根幹には、武蔵大の積年の課題意識がある。

 従前よりゼミ活動を中心とした教育を推進する武蔵大の卒業生に対する社会の評価は概ね高い。しかし、「真面目で大人しく与えられたタスクは着実にこなす」ものの、「自分から積極的に行動し課題発見をしにいくことが弱い傾向がある」という問題があった。粉川教授は言う。「予測不可能と言われるこれからの時代、やはり与えられたことを着実にこなす『いい子』だけではダメだ、そもそも問いを見出せるタイプも含め、学生に多様性が必要だというのが本学の課題意識でした」。多様なタイプが切磋琢磨するからこそ育まれるものがある。だからこそ、今までの武蔵大にはいない「尖った」人材が欲しい。キーワードは「主体性」であった。「自ら課題発見し、自ら行動し、自ら課題解決する人材を輩出したい。自分から『グローバル×データサイエンス』という未知の領域に飛び込んでくる学生には主体性が期待できる。そうした学生をより伸ばすために、実践重視でハードルも高い教育設計を行ったのが、GDSと言えます」。例えば、1年次で目標とされるIELTSスコア5.5は一般的に留学で目安とされる水準だ。まずはそこに達することで世界へのスタートラインに立つことになる。3年次には「GDS実践」科目で、自ら企画した内容で課題設定→主体的に行動→データ分析→アウトプットまで、一連の流れを体験する。どういう場を選ぶかは学生に委ねられる。国内外の企業インターンシップ、海外留学、国際ボランティア等、それまでの自分の課題意識と志向に沿って設計し、相手先に自分で交渉するという。「既定のカリキュラムや教員が指示する内容ではなく、自分で交渉し、ゼロからデータ分析が必要な領域を見定め、必要なデータを探し、手を動かすというのはなかなか難易度が高い。しかし、その分学生達の成長は著しいものがある」と粉川教授は満足そうだ。

少人数教育で学生の成長を引き出す

 データへの着眼点を武器にボーダーレスに課題を探し、方策を見出す中で培われた問題意識や主体性は、強烈な成功体験として学生に刻まれる。武器を整えてあげれば学生は動きだすのだ。「この教育を本学の中で広げたい気持ちはありますが、完全オーダーメイドプランとなるため、少人数にすることで一人ひとりのテーマを設定しやすく、支援もしやすい。現状では24名前後が限界です」(粉川教授)。こうした経験を経て、どんな場所に行ってもエビデンスベースのプランニングを自力でできるレベルを目指すという。どこまで分析可能かを見極め、必要に応じて専門家に渡すところまで判断できる人材だ。「課題サイズを見極め、専門家とのインタープリター(通訳)となれる人材育成を目指している」と粉川教授は言う。

 GDSに所属する方法も見ておきたい。入試において、AO入試「将来計画書方式(GDS)」、全学部統一グローバル型で合格、または個別学部併願3科目型(数学受験)で合格し、かつ数学・英語の得点について一定以上をクリアすると、入学後のGDS所属確約が得られる(2020年度入試現在)。ただし、そうした入学時点での確約のほかに、毎年3月に所属希望者向けのガイダンスがあり、志望理由等を記載したエントリーシートの提出と英語のプレースメントテストで選抜されるというケースもあるという。

企業連携の増加により学生の視界を拡げる

 開設から3年を経過し、今後の展望を聞くと、「企業連携を多彩にしていきたい」と粉川教授は意気込む。既に大手広告会社である株式会社ADKマーケティング・ソリューションズや日本ユニシスと学術交流協定を結び、毎年実施される「生活者総合調査」のデータ提供を受け、リアルマーケットの仮説検証・分析を行っている。こうした提携を増やし、リアルなデータを扱う機会を増やしていきたいという。企業連携は、学生が企業の現場でデータサイエンスがどう扱われるかを聞くことができる貴重な機会でもある。社会との接点を増やし、活用シーンに多く触れながら、自らの課題意識を高めていく。武蔵大が踏み出した新たな教育手法は、人文社会科学系の大学がデータサイエンス領域の教育を行ううえで1つの方策になるかもしれない。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/3/10)