看板入試「オータム・トライアウト」を軸にした2021入試設計/デジタルハリウッド大学

デジタルハリウッド大学イメージ画像

POINT
  • 2004年開学した日本初となる株式会社立のデジタルハリウッド大学院に続き、翌2005年に開学した大学
  • 1学部1学科でデジタルスキルと企画・コミュニケーションを領域横断的に学ぶカリキュラムを展開
  • 「Entertainment. It’s everything.」を方針に掲げ、「知を創造・表現し伝えることができる人間の特徴的な能力をさらに進歩させうる人材育成」を行う
  • 2019年度よりAO入試「サマー・トライアウト」をリニューアルし、デジタルコミュニケーション教育に必要な素養を選抜で見出すDHUらしい入試の在り方を模索中


デジタルハリウッド大学(以下、DHU)は2012年より「面接+講習」の二段階選抜の入試形態であるサマー・トライアウト(以下、サマトラ)を実施している。2020年より総合型選抜出願が9月15日以降というガイドラインに従ってオータム・トライアウト(以下、秋トラ)に変更したその趣旨について、入試広報グループの小勝健一マネージャーにお話を伺った。

入試もエンタテインメントにせよ!選抜でありながら受験生が楽しめる入試設計を

 まず、DHUの教育についてご紹介しておきたい。

 DHUはデジタルコミュニケーションを用いて新しい価値を創造することを軸足に、不確実で予測不能な未来を自分らしく生き抜く力を身につけることを掲げている。

 デジタルコンテンツ(3DCG/VFX、VR/AR、ゲーム、映像、グラフィック、Webデザイン、メディアアート、 プログラミング等)と企画・コミュニケーション(ビジネスプラン、マーケティング、広報PR等)を産業界の第一線で活躍する教員から幅広く学べる1学部1学科制を採用。グローバル人材を育成するために外国語の重点的な学習プログラムに加えて、世界40の国と地域からの学生が在籍する多様性に富むキャンパスを東京・御茶ノ水にて運営している。開学の経緯からして、社会で価値を創出するために社会人が学ぶことを教育の発端にしており、「経験がなくてもデジタルのプロになれる」カリキュラム設計と人材輩出には定評がある。

 DHUを語るうえで欠かせない方針が「Entertainment. It’s everything.」(すべてをエンタテインメントにせよ!)である。アドミッション・ポリシー(AP)にも明記されるこの方針は極めてDHUらしいと言えるだろう。「この精神に共感する人を国内外問わず広く受け入れたい。デジタルコミュニケーションはその方法論であって、マインドセットが一番大事と考えます。私の立場としても『入試もエンタテインメントにせよ!』を合言葉に、本学の方向性に沿っているかと常に問いかけながら仕事しています」と小勝氏は話す。

多面的・総合的評価を先行的に導入するデモンストレーションとして再設計されたサマトラ2019

 では、秋トラ2020の前提として、サマトラ2019の実績を確認しておきたい。

 冒頭で触れた通りサマトラとは、「面接+講習」の二段階選抜で行う総合型選抜(旧AO)だ。2012年から実施しており、早期に志望度の高い人材を獲得し、入学前教育で育てるスタイルである。入学後のリーダー候補となる学生が多く受験すること、入学定員においても大きなウェイトを占めることを念頭に、国が主導する2021年入学者選抜改革をにらみ、多面的・総合的評価を先行的に導入するデモとして仕立て直されたのがサマトラ2019だ。講習は2日間実施し、参加者は計80名、男女比はほぼ5:5であった。

 こうした経緯を、別の観点から小勝氏は「アナログハリウッドからの脱却」と称する。「本学は受験段階でのデジタルスキルの有無は問わないことを掲げています。しかしサマトラで例年行ってきたグループワークでもペンと紙を使うアナログ手法に終始しており、大学のコンセプトと乖離がある点は否めず、大学広報の視点からも入試改革を見据えたDHUらしい『攻め』の一手が欲しいと考えていました」。そこで手法をデジタルシフトした看板入試として再設計したというわけである。「学内で議論している際、『せっかく入試改革のタイミングであれこれ変えるのであれば、パブリシティが取れるようなやり方を模索しよう』という話になりました。本学らしいやり方を模索した結果、行きついたのがサマトラの改革だったのです」(小勝氏)。

 具体的には、アナログで実施していたプレゼンをデジタル代替する手段として、Adobe社がフリーで提供するグラフィックデザインアプリ『Adobe Spark Post』を活用。2019年5月にはAdobe社と共同プレスリリースを発表。7月には同社が毎年開催している「Adobe Education Forum 2019」にてデモンストレーションの機会を得た。『Adobe Spark Post』はデザイン初心者でも簡単にイメージビジュアルを制作できるグラフィックデザインアプリで、スマートフォンの操作ができれば高校生でも十分に使用できる。これを利用して制作したアウトプットを最終成果物とすることで、グループワークのプロセスの中にデジタルを組み込むことが可能となり、構想は一気に進んだという。

 選考プロセスは図1の通り。エントリー後に面接を実施し、「入学意欲」等を中心にフィルタリングをかけることで、志望度合いの高い学生を講習に参加させるフローとなっている。


図1 サマトラ2019の選考プロセス
図1 サマトラ2019の選考プロセス


自らの意思による積極的な行動力がカレッジレディネス

 DHUは、高校までの学業に加えて、APで以下の要素を評価の対象としている。

  • 自ら取り組んだ創造的な活動やその成果物
  • デジタルコンテンツに多く触れることで得た知見
  • 部活動のような他者との関わりのなかで得られた経験
  • 母国語以外の言語を積極的に活用しようとした経験

 この4点について、小勝氏はこう話す。「要は、置かれた場で自分なりにやろうとしたかどうかということです。主体性や行動力とも言えます。入学時のデジタルスキルは問いませんが、『自分がデジタルを身につけたらこういうことをやりたい』という意欲やビジョンは欲しい。目的意識や主体性がなく方法論としてデジタルを捉えてしまうと、本学の理念に合わない。また、本学は入学前に学科・コースを決める必要がなく、入学後に興味のある分野を選択しながら幅広く学べるのが特徴なので、どの分野のプロになりたいのかというイメージをある程度持っているほうが、有機的に学べる側面はあります」。DHUは産業界や実務家教員との接点が強く、学生がインスパイアされる仕掛けを多く配置している。そのため、そうした仕掛けに反応する学生なのかどうかが重要となるが、それは特定の集団にいるというよりは、個人の素質である。そのため、入試では「こういう経験をしてこういう気づきがあって、DHUで勉強したら将来こうなりたいと思っている」というストーリーを語れるかが肝となる。積極的に行動した様々な経験を自らの血肉にしていくスタンスがあるか。問われるのはそこである。

秋トラ2020はオンライン実施

 そして秋トラ2020である。サマトラ2019の手応えとして、「面接では見えなかった主体性等を見極めることができた」と小勝氏は振り返る。グループワークを教職員総出で採点するため、教職員のSD・FDという側面も担う場となった。参加者は事前に面接試験を通過しているためか、いずれもグループ崩壊することもなく議論も盛り上がったという。その一方、評価基準の精査、オペレーション上の様々なブラッシュアップ等は改善点として持ち越された。サマトラ2019は土台整備、秋トラ2020はさらにその精査という意味合いが強い。

 さらに、COVID‐19の感染拡大に伴う措置として、2020年度総合型選抜の面接試験を全面オンライン化するとともに、秋トラ2020のグループワークではメディアアートによるライブ演出等を手掛けるライゾマティクス社が提供するSDCP(Social Distancing Communication Platform、開発中)を採用予定だ。オンライン上でリアルに近い空間を再現し、ソーシャルな営みを実現する実験的なプラットフォームで、これにより選抜プロセス自体のデジタル化が可能となる見込みだ。

入試ごとに獲得人材を規定し全体としてDHUらしさを表現

 DHUは入試ごとのターゲットと評価比重、そのための評価方法が整理されている。入試全体像は図2の通り。似た名称の入試もそれぞれが獲得したい人材像が明確に規定されている。


図2 選抜区分と選抜内容概要
※クリックで画像拡大
図2 選抜区分と選抜内容概要


 なお、通常の総合型選抜と合計した定員が145名と入学定員の6割ほどだが、2005年開学当初から面接型の入試による入学者が約7割を占めるという。「本学の教育への適性は単純な学力だけでは測りづらい。夢に向かってどれだけ継続して努力できそうか、個人の興味関心がとても大事な分野なので、そこを真っ先に問いたい。となると、従来であれば面接、現在であればサマトラのような躯体が適しているのだと思います」と小勝氏は言う。そのうえで多様性確保の観点から、多様な入試でそれぞれの求める人材像を追求する。高校までの評価に加え、大学教育への適性やポテンシャルをどういう方策で見出せるか。そこに真摯に向き合う入試全体設計になっているのである。「入試すらエンタテインメントにするスタンスで、世間に対してDHUらしいと思われるものを作っていきたい」。小勝氏の表情は明るい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/8/11)