高度な社会実装を目標に専門性を深め成果物を生み出す/千葉工業大学大学院 先進工学研究科 未来ロボティクス専攻

千葉工業大学キャンパス

POINT
  • 1942年創立の興亜工業大学を起源とし、「世界文化に技術で貢献する」を建学の理念に掲げ、2012年に70周年を迎えた工業大学
  • 津田沼・新習志野・東京スカイツリータウンの3カ所にキャンパスを構え、5学部17学科・5研究科15専攻の教育研究を展開
  • 2020年4月に大学院を改組し、創造工学研究科3専攻と先進工学研究科3専攻を整備
  • 「ロボット技術で未来の文化を創る」ミッションで2003年誕生した未来ロボット技術研究センター(fuRo)をはじめとする研究所を複数持ち、2017年12月に津田沼キャンパス内に「パナソニック・千葉工業大学産学連携センター」を設立する等、研究・社会実装が厚い大学として高い評価を受けている


千葉工業大学(以下、CIT)は2020年大学院工学研究科の改組で先進工学研究科(未来ロボティクス専攻・生命科学専攻・知能メディア工学専攻)を整備した。そのなかの未来ロボティクス専攻について、専攻長の菊池耕生教授にお話を伺った。

他分野融合や社会実装が前提のロボティクス分野を科学する

 本題に入る前に、そもそもロボティクスとはどういう学問なのか。まず、機械や電気といった各分野でロボットを作っていた時代がある。それらを統合したのがロボット工学であり、学部ではロボットの主たる構成要素である機械・電気・情報を概ね1/3ずつ配置したカリキュラムを組む。各分野の研究の1つだったロボットを、中心に置き直して体系化したものとも言える。ロボティクスはそれを越えた概念で、意匠デザイン等も含めた成果物としてのロボットの設計・製作、学際的に他分野と融合して社会実装することが前提の応用分野となる。「理論通りに組み上げるだけでなく、活用シーンにおいて実際にどう動くかまで責任を持つ」学問だ。大学院ではより高度で専門的な社会実装を研究する。

他分野展開の産学連携で社会実装力を高めるカリキュラム

 では、CIT未来ロボティクス領域の特徴は何か。菊池教授は4点を挙げる。

 まず、教員全員がロボティクスの専門家という点だ。これは2006年に工学部未来ロボティクス学科が開設した時からのコンセプトである。「異分野の専門家がロボティクスをやっていたりするケースが他大には多いですが、本学は全員この分野の専門家です」(菊池教授)。

 次に、「実践・完成までやることを重視する」という点がある。理論だけではなく、手を動かして作ってみて、アウトプットするところまでをやる。目的に応じた最適な活用になっているかの検証、製作工程の工夫等、完成形まで辿り着かなければ分からないことは多いという。

 次に、産学連携の多さがある。CITは、「ロボット技術で未来の文化を創る」ミッションで2003年誕生した未来ロボット技術研究センター(fuRo)をはじめとする研究所を複数持ち、2017年12月に津田沼キャンパス内に「パナソニック・千葉工業大学産学連携センター」を設立する等、研究・社会実装が厚い大学として学外でも高い評価を受けている。なお、パナソニックとは連携第一弾として、既にfuRoが開発した高速空間認識センサー「Scan SLAM」を搭載した次世代ロボット掃除機である新型「RULO」を開発し、販売を開始している。そのほかにもCITにはその専門部署として産官学連携センター及び協議会があり、学外との情報交流や連携、事業計画の立案等を行っている。

 最後に、ロボティクスのなかでも分野が広いことが挙げられる。現状、未来ロボティクス専攻として持つ研究分野は、ロボット工学分野の基盤である機械工学・電気工学・電子工学・情報工学といった幅広い知識体系に対応する以下の4つである。

  • 運動知能ロボティクス・・・ロボットが自然界のノイズの中で環境をどう認識し、どう動くかを設計・制御する
  • 知能創生ロボティクス・・・人との協調、サポートやリハビリテーション分野におけるロボティクスを研究する
  • 生体機能ロボティクス・・・スポーツ工学や医療における手術ロボ、動物の生体からロボティクスを研究する
    菊池教授はこの分野で、昆虫ロボットが専門である。
  • 感覚感性ロボティクス・・・音声認識、言語認識、画像処理等の内部センサーを軸にした研究を展開する

 既に医療系まで網羅した多展開を見せるが、「ロボティクスを掛け合わせることで世の中に新たな価値を提供できる分野をどんどん開発していきたい」と菊池教授は言う。

 CITでは学部で学んだ内容を高度専門化する躯体として大学院を整備しているが、現状の内部進学率は30%台。今年は41名が専攻に入学した。「内部進学の場合、学部3年生から研究室配属となるため、4年生での研究を大学院でも継続する場合が多いです」。そのほか、提携校や海外からの応募が各分野1割程度あるという。「COVID-19の感染拡大におけるテレワーク展開、インクルージョン社会を見据えた時の障がい者活躍等も、AIロボティクスによってかなり快適に実現可能になってきている。ロボットがアバターとなり作業者不在のなかでも遠隔操作で労働できる等、今後の社会の可能性を広げていける領域です」と菊池教授は言う(図参照)。


図 未来ロボティクス専攻のディプロマ・ポリシー
図 未来ロボティクス専攻のディプロマ・ポリシー


産業界での活躍フィールド拡大で必要とされる人材も変化

 ロボティクスの基盤となる機械工学はもともと歴史ある分野だが、ファクトリーオートメーション(FA)からディープラーニングへ、機械が自ら判断して動く時代へと、変化が著しい。さらに、COVID‐19の影響で、人が入らなくても全自動化された工場のライン等はこれまで以上に必要性が高くなる。「これまでは復興関係の需要が多かったですが、最近は建設業が多い。パワーアシスト系のみならず、今後はどの業種も自動化や労働力代替が進むでしょう」(菊池教授)。製造業の代表でもあった自動車業界でも、現在は自動運転やMaaS(Mobility as a Service)等のモビリティ革命に対応する人材が求められており、明らかに採用のドメインが変わってきている。現在は機械系人材よりもロボティクスや情報系人材のニーズが高いという。

 では、卒業生の進路実例から活躍フィールドを考察してみたい。

 まず、警備業で警備ロボットを製作する等、ロボットそのものを製作できる人材への期待は依然としてある。そのほかに、「ロボティクスをどう応用するか」という観点で、これまでに見ない分野への就職を決める学生もいる。ゲームキャラクターデザイン等の分野で、運動力学を専門的に研究した人材として期待されたり、自動運転の研究を買われた学生もいる。また、技術の社会実装に重きを置き、これまでにない革新創出を目的にベンチャーを立ち上げる学生も多いという。今多いのはドローン。こうした社会ニーズに裏打ちされた専門性が個人の付加価値を高め、成果物のクオリティも高める。確固たる専門性の確立が仕事を呼び、横断や統合、学際やイノベーションを呼ぶのだ。


写真:CITで製作を手掛けたロボット達

写真:CITで製作を手掛けたロボット達


必要なのは意欲と理論の集積にたじろがない精神力

 ロボティクスに必要な素養を問うと、菊池教授は2つあるという。まずは「意欲」だ。自分がどういうものを作りたいのか、を持っていることが大事であり、成果物から逆算して様々な知識習得や体系化の必要性を理解できることで、研究が深まる。

 そして、「折れない心」である。例えば自分が最終的に作りたいロボットがどうやって動くのかを調べると、物理の方程式があり、それを理解するには微分積分という基盤があり、つまり数学を学ぶ必要がある、といった具合に、ロボティクスは様々な理論の集合体である。「ロボットを作る」という単純な思考だと、多様な理論に通じ、組み合わせて新たな価値を創出していくという構造を理解するのに時間がかかるという。「成果物に至るまでの理論の多さにたじろがないことは大事な素養です」と菊池教授は言う。

 高校への出前授業ではロボットという成果物に対して、今学んでいる数学や物理がどうやってそこに結びつくのかを示すことで、基礎学問と応用設計の接続に興味関心が集まるという。目の前の計算と成果物とが、距離はあるが確かにつながっていると感じられる手応えが、生徒を未来の技術に惹きつける鍵とも言えそうだ。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/8/11)