「言葉は世界をつなぐ平和の礎」建学の理念を体現するグローバル・リベラルアーツ(GLA)学部/神田外語大学

神田外語大学キャンパス

POINT
  • 1987年に開学し、英語を中心とした言語領域の教育・研究を蓄積してきた外語大学
  • 「言葉は世界をつなぐ平和の礎」を建学の理念とする
  • 2021年にグローバル・リベラルアーツ(GLA)学部を設置し、独自カリキュラムで国際領域での活躍人材を育成する


神田外語大学(以下、神田外大)は2021年にグローバル・リベラルアーツ(GLA)学部を設置する。定員は60名。その趣旨と教育内容について、金口恭久副学長にお話を伺った。

長期的な生き残りのために、高い英語教育実績のその先へ

 神田外大はTHE世界大学ランキング日本版2020において総合36位(タイ)、私立大学で9位にランクインした。特に教育充実度で全国7位、国際性で18位と上位で、開学以来「高度な語学運用能力」と「グローバル社会で活躍するためのコミュニケーション能力」を身につけた人材を輩出してきた結果が評価されている。こうした実績を踏まえ、開学から30年の節目(2017年)を機に構想されたのがGLA学部である。

 「これまでは外国語学部1学部のみで、言語と文化に習熟した学生を育ててきました。英語を中心とした外国語教育で評価を得てはいますが、高等教育を取り巻く状況が年々厳しくなることを踏まえ、生き残りをかけた方策、人材育成の方向性を3年ほど議論してきました」と金口副学長は振り返る。検討の主体は金口副学長が室長を務める大学改革室だ。大学の将来を担う若手の教職員で構成された場で、定期的に将来構想に係る会議を開催。「これからの時代に必要な人材や教育の構想を教員と若手の職員を中心に議論し、それをどう具現化するかについては教員の尽力を得ながらGLA学部を創り上げてきた」と副学長は言う。新学部設置構想は神田外大の次世代人材育成を担うプロジェクトでもあるのだろう。その根幹は「神田外大の基盤を活かし、より高次の課題に取り組むこと」だ。GLAとはGlobal Liberal Artsの頭文字をとったもので、そのコンセプトは“Global Liberal Arts for Peace”、即ち「平和のためのグローバル教養」という意味である。コロナ禍における世界情勢のみならず、難民や移民、食糧問題や地球温暖化、環境破壊等、自国の利益観点ではなくグローバルな視野で捉えなければ解決の糸口すら見つからない課題は山積している。持続可能な社会、これからの人類の生存と平和的共生を見据えた時、その視界や力を持つ人材が未だ少ないことは、世界的な課題である。

 神田外大が取り組むのはその途方もないミッションに挑む人材育成だ。そして、それこそが建学の理念「言葉は世界をつなぐ平和の礎」を現代に具現化することになると考えている。

グローバルに軸足を置いた人材育成の方向性

 ここで、既設の外国語学部の育成人材との違いに触れておきたい。外国語学部のアドミッションポリシー(AP)には、「わが国の伝統と文化を究明し、諸外国の文化を理解し、国際社会の一員として世界に貢献し得る人材を育成」することを目的とするとある。どちらかというと自国と他国という視点、インターナショナルな軸足が強いと言えるだろう。一方でGLA学部のAPには、「高度な英語運用能力と多文化共生力を備え、わが国と世界の困難な課題に立ち向かい平和と繁栄の招来に主体的に貢献し得る人材を育成」することを目的とするとある。こちらはよりグローバルに軸足を置いていることが分かる。金口副学長は、「語学を活かすフィールドにおける異なる人材を育てる2学部ということ」としたうえで、「募集活動での反響を見ていると、外国語学部とは異なる指向の高校生がGLA学部に興味を持ってくれていると感じる」と続ける。従来は英語への興味関心が高い層が募集のメインターゲットだったが、GLA学部には設置趣旨であるグローバルイシュー、国際教養に関心が高い層がエリアを問わずリアクションしてきているという。奇しくもコロナ禍で募集の舞台がオンラインであることも奏功し、幅広い層からの支持を得たのであろう。

学びの原体験となる留学体験と3つの専門教育

 では、具体的なカリキュラムを見ていこう。特徴的なのは必修である2回の留学と、専門教育の3本柱だ。

 まず、1年次前期はグローバル・チャレンジ・タームという位置づけで(図1)、そこに含まれる留学は、「まず世界を自分の目で見て、異文化や課題を肌で感じ、本格的に学ぶ前に学びの方向性を見定め、学修意欲を喚起することに重きを置く。いわゆるギャップターム的な意味合いです」と副学長は言う。入学して2カ月後には「海外スタディ・ツアー」と称する3週間程度の留学に赴くのだが、その留学先が興味深い。

 まずバルト三国のリトアニアは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによって迫害された多くのユダヤ人に対し、ビザ(通称“命のビザ”)を発給して亡命を手助けした外交官杉原千畝氏で知られる国だ。ほかに深刻な貧困等の問題を抱える一方でIT大国であり、宗教風習等あらゆる点で日本と異なる大国インド、多民族国家であり、熱帯雨林開発で深刻な環境破壊に直面するボルネオ島を他国と領有するマレーシア、世界3大宗教の聖地であるエルサレム。いずれも、まさにグローバルイシューにおける最先端の現場だ。「まずは学生が成長のスタートラインに立てる場所であること。聞いた話で漠然と恐怖を覚えているようなテーマでも、現地で見聞きし、自分事化するなかで捉え方が磨かれていく。学生の安全を確保しながら最大限の体験価値を提供するのがわれわれの役目です」と副学長は言う。出発前には授業で行き先エリアの歴史や社会情勢等について学び、各自のスタディ・プランを策定したうえで留学に赴き、滞在中は提携大学で講義を受けたり、現地の大学生と交流したり、フィールドワーク等で活動する。現在は新型コロナウイルスの影響を見据え、オンラインで提供できるプログラム開発に取り組んでいるが、卒業までには必ず海外に行くことを想定しているという。


図1 グローバル・チャレンジ・ターム
図1 グローバル・チャレンジ・ターム

 帰国後はリフレクションを経て、後期から本格的なGLA専門教育に入る。GLA学部では図2に示すように、Humanities、Societies、Global Studiesの3つを専門教育に据える。Humanitiesはグローバル教養である歴史、宗教、思想等を包含した概念。Societiesは社会の動向や変化、DSやAIといった技術革新を学ぶ。そしてGlobal Studiesはその名が示す通り、国際政治経済である。学生は留学で感じたことや自分なりの視点を踏まえ、軸足を定めて深く学んでいく。オーダーメイドに近いプランニングとなるため、前後の接続・アドバイスを目的に、教職員でコーディネーターを配置する予定だという。

図2 専門教育の3本柱
図2 専門教育の3本柱

体験価値を「自分の問い」に昇華させるプロセス設計

 3年次後期には、ニューヨーク州立大学(SUNY:The State University of New York)への4カ月の長期留学がある。それまで学んできた専門教育のカリキュラムの一環として、現地の学生と共に自らのテーマについて学びを深めるのが目的となる。「学生の問題意識ごとにプランがあり、定員60名分、60通りの成長があるのが望むところです」と金口副学長は言う。各自の成長度合いを可視化する仕組み作りも同時検討中だ。現場に飛び込み、自分なりに気づき、問いを立て、それについて専門的に学び、教養として吸収し、自らの思考と融合させ、学びを基に仮説を立て、それを検証するために再び現場に赴く。こうしたサイクルを循環させることで、与えられた問いに与えられた方法で迫る人材ではなく、「自分で問いを立て、自分の頭で考える」人材へと変貌を遂げる。それこそが世界の次世代リーダーなのだとGLA学部は定義する。カリキュラムは段階を追って学び、社会実装するための体系化であり、まさに「自ら問いを立てる」のためのサイクルを愚直に突き詰めた教育展開だと言えよう。

 募集定員の60名は、こうしたきめ細かな教育を前提にした人数であり、何より防ぎたいのがミスマッチだ。入学後すぐ留学に出ることを見据え、一般選抜以外の入試では英語の出願要件として英検®2級以上の水準を課しており、一般選抜を含む全入試方式において面接を必須とした。「APの理解と、GLA学部に挑む目的意識をしっかり見たいと考えています」と金口副学長は言う。高校の探究活動のテーマ設定や活動状況、自分なりの問題意識等、明確な目的意識がある生徒に来てほしいという。高い水準要求は、教育への自信の表れでもある。GLA学部に学生が集い、世界に飛び出す日が待ち遠しい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/11/17)